第40話 宝が眠る斎蔵へ
おれたちは順番に、岩に開いたすき間へ踏み入れていく。
ほんとにあの巨人岩の口からカラダの中に入って行ってる気分だよ。
斎蔵に踏み入れた瞬間から、空気の質感が変わったのがわかった。
深閑とした蔵の中は冷ややかで神聖な感じがする。
おお、すでに怖ぇぇ。
あたりを見渡そうにも、暗くてほとんど見えない。
外からわずかに入る光をたよりに、ゆっくりと歩みを進めていく。
いまにも暗闇の中からワッと何かが飛びかかってきそうだ。
こんなところで魔物に出くわしたら一巻の終わりだよ。
「で、どうするんだったっけ?」とチャウ丸。
「その神具の刀を持ち出すの?」
「まさか」とおれ。
さすがにそんな大切な神具を運び出すわけではないだろう。
ん? じゃあ、なんのために入っているんだ?
どうやらキングは、肝心なことを伝え忘れるウッカリ屋さんみたいだね。
それでもとりあえ前進。
聴こえる音といえば、わずかに響くおれたちの足音だけ。
カサッ、カサッ、カサッ、カサッ······ガサガサガサガサガサガサ!
「エッ、なに?」
「あきらかに何かいるよね?」
でも暗くて何も見えない······
吠えたくなるほど怖すぎるんですけど。
とにかくチャチャッと終わらせて戻ろうよ。
すると――
「おい、なんかあるぞ」
たしかに先のほうに、黄緑色の淡い光がぼわんと浮かんでいる。
おれたちは慎重な足取りで光のほうへ。
その光は壁ぎわから放たれていた。
そして古代の棺の蓋を思わせる石の台座の上に横たわる細長いもの······
刀だ――
まちがいない!
あれが「祖師聴の秘刀」と呼ばれる神具なのだろう。
淡い光に包まれた刀が放つ圧倒的なオーラに、おれは完全に気圧されている。
どんな原理であんな光が生まれるんだ?
見ているだけで、胸を押されているような感じさえするぜ。
「どうする?」
チャウ丸の声が不思議な響き方をする。
ここでは空気振動も、ほかとは原理がちがうのかもしれない。
「ちょっとだけ触ってみる?」
「そんな大切なものを、じかで?」とシャムりん。
「いちおう、こんなものを持ってきた」と風呂敷をさぐるチャウ丸。
おぉ、ビニール手袋! しかも三枚も!
「百均のやつだけどな」
もちろんおれは百均とやらに行ったことはないが、ジーコの脳によるとさまざまな品が安く売られていて、そうとう便利らしいね。
ジーコのママも百均好きだという話を聞いたことあるし。
というわけで、みんなでビニール手袋を装着してと。
「でもだいじょうぶかな?」
「いいっしょ」
チャウ丸から手を伸ばす。
マジか、ホントにいっちゃいますか。
ただチャウ丸は指先でチョンと触れるだけ。
だよね、やっぱりなんかおそれ多いもんね。
じゃあ、わたくしも――
指先でチョン。
シャムりんは暖をとるように両手をかざすしぐさ。
「なんか、あたたかいわ」
「ほんとに?」
マネしてみると、たしかに日だまりみたいなあたたかさがある。
「持ち帰る?」と冗談口調のチャウ丸に「それはやめよう」とおれは即答。
だってさ、こんな薄暗い場所でよからぬことが起こったらシャレにならないじゃない?
キョロキョロとあたりを見まわすチャウ丸は、〝ほかにもお宝ねーかなあ〟の様子だ。
「おっ、なんかあるぞ!」
そう叫んだチャウ丸が地面にしゃがみこんだとき――
グヴウウウゥゥゥゥッ――
どこからともなく、不気味なうめき声が薄闇の中で轟き、おれの心臓は一瞬にして凍りつく。
その声は地獄の底から絞り出したかのような響きだ。
ほらほらほらほら、来たよ、来たよ!
きっとアレだよ!
首が四つも五つもある冥土の番犬とかだって!
「たぶん怒ってるよね」
「出よう!」
ビビリ番長のおれは即刻、ふたりに提案。
さらにグヴウウゥッと声が重く太くなってきた。
これまでいろんなイヌの威嚇声を聞いてきたが、こんな声を出す生物をおれは知らんね。
〝ここに長く滞在することは許さんぞ〟といった意志をしっかりと読み取れるもん。
たぶんキングが言っていた護り獣なのだろう。
そして神具を護るために、おれたちを威嚇しているのだ。
あたりが暗いのがせめてもの救いか。
だってそんなもの、ぜったい目にしたくはないからね。
「ねえ、タタロオ、豊胸ってどこでできるの?」
???······エッ?
シャムさん、なんで今?
突拍子もない問いかけで頭の糸が絡まり、そのおかげか恐怖心がほんの少しだけやわらいだかもしれない。
シャムりんだって、かなり動揺してるのだろう。
「あれはなんだ!」
見ると壁のほうで揺れ動く巨大な影。
「まさか大巨人の子どもじゃないよね?」
ああ――そっちの線もあり得るのか。
なんにせよ、あの不吉な声からもおれたちを歓迎していることはないだろう。
「こりゃヤベえな、急いだほうがいいぞ!」
······だよね? かーなりヤバめだよね。
おれたちは阿吽の呼吸でその場を立ち去り、暗闇の中をそそくさと出口へ向かった。
神具に近づいたことで怒ってはいるかもしれないけど、けっして邪悪な存在ではないはず。
どうか、そうであってくださいな。
パニクっているせいか何度も壁に肘があたり、互いにからだをぶつけてよろけながらも、とにかく小走り。
ようやく前方に出口が見えてきた。
そこでゴゴゴッとふたたび岩の音。
扉はどんどん閉まっていく。
チャウ丸が抜けた、シャムりんも抜けた。
そしておれもすき間から抜けようとしたとき――
ギュッ!
何かにつかまれた。
や、やばい、蔵に引きずりこまれる!
おれは足に力を入れ、気合いで扉のすき間へ。
つかんでいるものを、思いっきり振り払った。
ギリギリのところで扉が閉まり、なんとか外に出ることができた。
でもまだ腕をつかまれた奇妙な感覚が残っている。
おれは地面にへたりこむことしかできない。
「だいじょうぶ? 顔が真っ青よ」とシャムりんの心配する声。
心臓がバクバクと音をたて、そのまま口からポロリと出てきそうなほどだ。
ハアハアと息だって切れている。
「なんか匂わないか?」
おれは息を整えながら、鼻を利かせる。
クンクンクン――
そのとき、わずかな汗臭さや焦げ臭さの中に、おれはその匂いを見つけた。
ビャクダンの香りだ!
ということは――
全身にサーッと鳥肌が走るのがわかった。




