第39話 大陸に伝わる神具の秘刀
節気で啓蟄。冬眠の虫たちがようやくゴソゴソ活動。
超がつくほど巨大な岩が、とてつもない形相でにらみつけてくる。
何をそんなに怒っていらっしゃるんでしょうか? って顔だ。
いや、もともとこれがふつうで、怒っているように見えるだけなのかな。
たまにそんな人間いるもんね、いつも機嫌わるそうに見える顔。
でもやっぱり、この巨大な顔は恐ろしすぎるぜ。
有名な大仏をまもる守護者のようにかっぴらいた目が、ギッとにらみをきかせているんだ。
そこでキングのヘルツさんが言った。
「この斎蔵にヤメーメの神具が納められております」
おれたちは無言······ゴクリ。
「『祖師聴の秘刀』というものです。我々ヤメーメはこの鋼鉄の刀を祀ることによって護られてきました。今のヤメーメがあるのも、その神具があるからこそ。それはそれは極めて格式の高いものであります」
ソシチョウ······
ヘルツさんの話によると、大昔に勇者が竜の喉にその剣を突き刺して仕留めたときに、竜の鱗にあるとされる神秘の力が宿ったのだとか。
とにかく由緒ある品であることはまちがいない。
たとえヤメーメが衰退していても、護りの力は及んでいたわけか。
それほど神聖なものがすぐ近くにあるのかと思うと、なんだか厳かな気持ちになってくるよね。
灼熱から水で冷やすことで硬度をえる鋼鉄を作る技術が、この世界でも大昔からあったんだね。
「それで、どうやって入るんですか?」とチャウ丸。
「もちろん、こじあけるのです」
こじあける?
えっ、どこを?
言ってる意味がイマイチわかりませんぞ。
「しかるべき手段を用いれば、ひらかれることになります」
おれはあらためて斎蔵の壁を見る。
そこにあるのは、人間百人はゆうにひと飲みにできそうなくらい大きな口だ。
たしかアメリカに歴代大統領の顔を彫った巨大な岩があったはずだが、そんな大統領全員のマジギレ顔を50倍厳めしくした感じだ。
あー、こわっ······
口から入ったら、それこそ丸飲みにされて二度と出てこれないんじゃないですかね。
「ではどうぞ」
えっ? へっ?
「あけるべき者があけなければなりません」
それってつまり、おれたちのことを言っているのかな。
チャウ丸とシャムりんもキョトンだ。
「方法は決まっているんですか?」とおれが尋ねる。
「毎度、異なっておるんです」
Oh〜、ジーザス。
毎回変わるワンタイムパスワードみたいなことすか。
顔を見合わせるおれたち。
ただボーッと突っ立っていても何も起きそうもないし、キングも動くつもりもなさそうだ。
そこでチャウ丸が意を決めたのか、とつぜん踊りはじめた。
タコ踊りやら、ヨサコイみたいなのやら。
おっと、それってマツ○ンサンバ?
よっ、いいぞ!
どこからか篠笛の音色でも届いてきそうだね。
チャウ丸、すばらしい勇気だ、拍手を送りたいよ。
――が、ダメだ。
むしろ鬼の形相の岩が、さらに怒りを増幅させたんじゃないかな。
続いてシャムりんはお色気作戦。
フェロモンむき出しで腰を振るなまめかしい動きで、鬼の形相岩を誘惑。
うんうん、シャムりん、ステキだよ。
おれもつい心がふわりと蝶になりそうだもん。
――が、やはりビクともしない。
どうも岩というものは、燃えたぎるような性欲とは無縁らしいね。
シャムりんは首を横に振ってるが、ムリって合図だ。
そこでお鉢が回ってくるわけだ。
ビクともしない岩に対して、何をしろってんだよ?
と文句を言っても仕方がないので、ここはお約束の合い言葉で。
飼い主ジーコの脳に搭載されてある古今東西の合い言葉を引っぱりだして試してみる。
「ひらけ〜ゴマ!」
「なにそれ?」とチャウ丸。
「そういうのがあるの」と、ちょっと恥ずかしいおれ。
ほら、ペルシャ語圏のお話で、盗賊たちが洞窟の前で唱えるアレですよ。
定番、定番、だいじょうぶ、恥ずかしくない!
おれはめげずに続ける。
「山!」
シーン······
「やまっ!」
チャウ丸が横で「ん?」みたいな顔をしているのが気になるな。
そんな昨晩誰かが駅のホームで吐いたゲロを見るような目を向けないでね。
「うまくいけば〝川〟って返ってくる合い言葉なんだけどね」と言い訳っぽく説明。
古き良き日本の方々がやってた由緒あるもんですよ(じっさいのところは知らんけど)。
そのあとも、ジーコの脳を駆使して思いついたことをどんどん放つがダメ。
「スイヘーリーベーボクノフネッ!」と叫んだときには、じゅうぶん虚しくなっていた。
しかもこれって、合い言葉だっけ?
すっかり途方に暮れたおれたち。
チャウ丸も疲れ顔で、しまいには鬼の形相岩に背中でよりかかってしまった。
「そんなに怖い顔しないで、あけてチョーダイ、ダイエーホークス」
そしてコンコンと扉をノック。
するとゴゴゴゴゴッと、岩が音を立てはじめたではないか。
エッ、エッ、エッ············
とたんに岩から離れるチャウ丸は“まさかさっきので?”みたいな顔をしているが、おれだって同じ顔だよ。
「思いが通じたようですな」と口元をほころばせたキング。
鬼の形相岩の大きな口の真ん中から、左右にゴゴゴーッと扉がひらかれていく。
おれの心臓はドキドキ、バクバク、バックンチョだ。
「ああ、伝えるのを忘れておった」とキング。
なんですか? といっせいに顔を向ける。
「この斎蔵の中には、護り獣がおりましての」
護り獣?
昔の神話に出てくる地獄の番犬のケルベロスみたいなのですか?
おそらく「祖師聴の秘刀」とやらを護っている存在なんだろうけど、もしそんなのがいたらジ・エンド確定ですぞ。
「あぶなくはないですよね?」
「そのはずじゃが」
うーん、ふんわりしたお返事ですこと。
すでにそのときには、でっかい口の扉は人が通れるくらいまでひらいていた。
そしてピタリと止まった。
チャウ丸と目が合う。
〝行くか〟というサインに、おれはほんのちょびっとうなずく。
そしておれたちはいよいよ蔵の中へ入っていくのだった。
チャウ丸、ダンスの才能があるそうで。




