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第37話 はけ口ドールを発動

桃の節句の満月も異世界で地底探索。

 「なんだか神秘的」


 シャムりんが言うように、地下の細い通路とはちがい、場の様子がまったく変わった。

 見上げたその場所の天井は、家具のイケ○の大型倉庫を思わせるほどに高い。


 こんな怪しげなところに来ちゃってだいじょうぶなの?

 まさか突然、魔物百匹ご登場とかないですよね?

 ここは異世界なんだし、いかにもダンジョンって雰囲気が強まってきたな。


 無言で歩いているとき、キングのヘルツさんが振り返って言った。


「いくらかあなた方の話は聞いておりますが、どうやら魔波に通じた力をお持ちのようで。おそらくはほかの地からこの場所へやって来た際に、それまでなじみのなかった魔波を取り込むことで、からだの中を通る無数の線路が切り替わり、魔力専用の特殊回路を確保したのでしょう。体内のこまやかな現象はブラックボックスゆえ断定はできませんが、これまでの研究などから、そうわたくしは推測しております」


 当然、ヤメーメ王国のトップは《出禁の書》に目を通しているだろう。

 そしていろんな魔術の知識も持っているはず。


「三銃士の噂ですが――」


 はたしてキングは、このことについてどのように考えているのか確認したくて振ってみた。


「ああ、はいはい、ありますな」


 場所が薄暗いこともあり、読み取りづらい表情だな。

 チャウ丸もここは黙っている。


「たしかに三銃士がマガハラ大陸の戦乱を鎮めました。ただそれで永遠の平和が約束されたわけはありません。現にいまも、さわりどころがわるければ、たちまち火花が散ることもありましょう。我々は過去の歴史の成功体験から学び、建設的によりよい世界を築く努力をするのみなのです」


 やはりキングはおれたちのことを三銃士だとは思ってないようだね。

 村の民は、戦国時代を鎮めたとされる三銃士がおれたちだと勘違いしているくらいだから、鎮圧後まだそれほど時が経ってないか、三銃士を含めこの大陸の者の寿命がとてつもなく長いかのどちらかだろうと思われる。


「ただマガハラ大陸はどこかの通路を通じて、人間界の残酷な歴史や紛争による悲壮、怨念の影響も受けておるようです。我々はヒトに憧れを持つが、人間界は悲壮にあふれておるとも聞いたことがある。そこはこの大陸とさほど変わらんのでしょう。だからこそ楽園を求めたくもなる」


 残酷な歴史や悲壮かぁ······。

 

 たとえば圧政に音楽を奪われたアジアの国とか、ジーコの脳もなんとなく覚えがあるらしい。

 人間界にろくでもない歴史があるのはたしかだもんね。


 ふと見ると、シャムりんがニボシを食べている。

 あれ? 

 たしか宿を出発したあと、持ってくるのを忘れたと嘆いていたような······。


「それ、どうしたの?」


「なんか召喚術が使えるようになったみたい。ほら、これで」

 

 その手には、おれがあげたお姫様人形がにぎられてある。


「えっ、そうなの!」


「両替所でも言われたとおり、この人形に魔波が宿ったみたいね。前に読んだヤメーメの本を参考にしながらテキトーにやってたら、なんか出来た」


「すご······」

 シャムさん、天才じゃん。

 ふつうそんなテキトーにやって魔術の新技とか扱えませんよ。

 

「まじか。だったらおいらの私物も取り寄せてくれよ」とチャウ丸。


「それが今のあたしの力だと、かなり限定的なものだけみたい。これだって宿に置いてたものだし。でもあの神様、やっぱりただ者じゃないわ」


 なるほどねえ。

 以前、聴神ききがみ様に魔感石を渡したときにパワーアップしたことで、術を身につけたってことなのかな。


 聴神様と会ったときに見たステータスではまだ表示されてなかったから、パワーが馴染むための時間差があったのかもしれない。


 もしかするとおれも召喚術を使えちゃったりして?

 ということでやり方を教わって試してみたが、これがうんともすんともだ。

 んだよ、やっぱダメじゃん。


「おかしいわね。人形に向かって欲しいものをじっと集中して念じれば、たまにうまくいくんだけど」


 たぶんヒヨッコのおれにはまだ無理ってことなんだろう。

 なんせ、ちっとも能力がアップしている気がしないからね。

 

 そこでヘルツさんが近づいてきて言った。


「それは聴魔術の〝()け口ドール〟じゃな。魔の捌け口となり、物を引き寄せる」

 

 ふーん、じっさいに存在する術なんだね。

 それを知ったシャムりんは、さらにお姫様人形が愛おしくなったのかギュッと抱く。


 しばらく歩くと水の音が近づいてきて、左側に細い水路が現れた。

 曲がりくねった水路に沿って、おれたちはさらに進んでいく。

 

 さっき海の話が出てたから、この水には塩分が混ざっているのかな。

 でもよくわからん水を舐めてみる勇気はないぜ。

 

 ん? あそこにあるのは石灰岩か。

 近づいてみると、加熱溶解された砂の跡もある。

 てことは――

 おれはヘルツさんの背中に声をかける。


「昔ここでガラスを作っていたんですか?」


「いかにも。よくわかりましたね。このあたりは青銅を作る原料となる銅や錫なんかも採れますよ」


 たしか人間界では紀元前一五○○年くらいに最初のガラス容器が誕生したんだったっけ。

 地底に文明の痕跡があるとはいえ、こっちの世界の文明の歴史はうまく想像できんな。


嗅商(きゅうしょう)王国は敵なのでしょうか?」と聞いてみた。


「わたしがこの地に来てからは、まあ軽くじゃれ合うことはあっても、あそこと本格的にやり合ったことはほとんどないですな。なんて言いますか、どっちつかずなところで、敵か味方かもわからんのです」


 たしかに町を訪ねることができるくらいだもんな。

 あっちの民から敵対の目を向けられたわけでもないし。

 

 それでも帰りの草原で香族の攻撃はハンパなかったけどね。

 あれはじゃれてる程度ではなかったぞ。

 けっきょくヤメーメから鍵を盗んだスメル元帥(げんすい)も、どれくらいワルモノなのかも、よーわからんし。


「ただ――」


 キングは少しだけ振り返る。


「以前、大量の資源が見つかるゴールドラッシュの時代がありましてね。嗅商王国は、我々が敵国と戦っていた頃に、どさくさにまぎれて資源を盗み、それを元手に町を発展させたという経緯があります。直接は手を出さないが、たくみに利益を得るあたりなんかは信用できんところがありますなあ。これまではなんとかうまくやってきましたが、いつ手のひらを返すかわからんわけです」


 まさに漁夫の利ねらいだったわけか、けしからんな。

 まったく気の抜けない相手だぜ。


「なにより、あそこの長はすこぶる鼻が利きましてのう。匂いで時代を先読みしておるんですな」


「嗅覚を重んじる国ですよね」


「ええ、匂いにはすこぶるうるさい。わしの足の裏のニオイも完璧に再現できるでしょうな。ふぉっふぉっ」


 おれたちは笑っていいのかどうやらといった感じだ。


 聴覚を重んじるヤメーメ王国と、嗅覚を重んじる嗅商王国ねえ。

 ひとつだけ言えるのは、どこの国も問題ありってことだな。


「おっ、見えてきましたな」 


 そこでキングが顔を先のほうへ向けた。


「なんですか、あれは?」


「噴出口ですな。まだ解明はされておらんのですが、地球との通路の一つだと考えられております。もちろん今はふさがってますので、中に入って地球を訪れることはできません」


 おいおいおいっ、なんじゃアレ?

 ここに来て、えげつないものが登場じゃないですか。 

 あんな巨人の鼻くそみたいなの、生まれて初めて見たぞ。

 

 ただ地球との通路というのは、かーなり気になるよね。


 おれたちは恐る恐る、でっかいサボテンにも見えるいびつなものに接近していった。

今宵は皆既月食でもありますね。

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