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第36話 マガハラ大陸の地底

今日はミニーマ○スの日だそうです。「32」の語呂みたいですね。

 地底はずいぶんひんやりしている。


 空気が澄んでいるように感じるのは、ほこりっぽい体育倉庫から下りてきたせいか。

 あたりは薄暗く、初夏の午前四時頃の明るさだ。

 こんな時間の感覚は、飼い主ジーコの脳によって養われたみたいだね。

 

 チャウ丸もシャムりんも無言で黙々と歩いている。

 こういうときこそ、ぺちゃくちゃしゃべっていきましょーよってところだけど、油断は禁物ってことだな。

 

 マガハラ大陸の地上のこともよくわかってないのに、地下ともなればもっとわけがわからん。

 テーマパークの地下に奇妙な生き物がいたことが思い出されるもんな。

 あんなのが突然出てきてもおかしくないっしょ。

 

 先頭を歩くのは、ヤギの雰囲気を持つヤメーメ国王のおじいちゃん。

 その足取りはわりと軽い。

 

 見た目ほど老いぼれているわけでもなさそうだ。

 ずっと控えていた娘さん探しに踏み出したくらいだから、気力だって今はじゅうぶんかもね。

 

 とはいえ、ほとんど手ぶらだから、無装備でチョモランマを登るようなものだ。

 もし何かあったらキングに守ってもらうっきゃない。

 というか、雲を(かす)みと逃げちゃいましょう。

 今のところは直線だし、たぶん梯子の位置もだいじょうぶだろう。

 

 そんなことを考えていたら、やがて下り坂に。

 

 おいおい、さらに下りていくのぉ?

 しかも地面がぬれてるじゃないか。

 ん? 水の音?

 

 そこでキングのヘルツさんが歩みをゆるめて言った。


「マガハラ大陸はですね、長い戦国時代以前は安定期がありました。その頃はしばらく交流があったもので、タンニシ王国から我々に百枚の銅鏡が贈られたといった文献も残っております。なによりヤメーメはその昔、港湾都市でしてね。交易が盛んでずいぶん発展しておったんです」


 ふーん、大昔は国同士、仲良くやってたんだね。


「海があるんですよね?」とシャムりん。


「ありました」


 ん?


「いつしか遮断されてしまったようです」


 海が遮断される? どゆこと?


 ヤメーメ王国は大陸の西側のいちばん端っこにあるらしいから、その先に海があるはずだが、その遮断された海がどんな状態なのか、さっぱりイメージがわかんな。

 できれば紙とペンで年表を作って整理したいところだが、やはり遮断されたのがいつ頃なのかもわからないのだろう。


「以前のヤメーメは海で戦い、豊かになったという経緯があります」とキング。


 日本も中世頃から海寇に乗り出して、略奪品を持ち帰ったことで都市生活が発展したのに似てるね。


「これまた、とある文献によるものですが、海が遮断されることになったのも、神具の力だとされています。遮断された先がどうなっておるかもわかりません。その後は海を通じた交易もできなくなり、徐々に国同士のやりとりも少なくなっていったようです。状況が変わるといろんな噂が立つものでしてね。海が遮断されたのは、やれタンニシの仕業だ、ガワヤナの呪いだと、それはもう流言飛語が飛び交っておったようです」


 まあ自分に不利益があれば、だれかを疑いたくなることもあるかもね。


「戦国時代を経たあとは小競り合いの歴史。戦国時代ほどではないものの、たびかさなるタンニシとの交戦は数えきれません。おそらくだれも数えてはおらんかったでしょう。基本的に我々は何かを遺すという意識が希薄なんですな。だから限られた文献や校長室に納めた品が代々引き継がれていることは、とても貴重なわけです」


「あなたが大陸に来た頃は······」


「ええ、バッチリ戦っておりましたよ。わしはこの国を任されることになり、やがて娘が消えてしもうた」


 ここまでの話から推測するに、キングは三百年の戦国時代が終わったあとの小競り合いの時代にやって来たのだろう。 

 以前、聴いた思念の声では、今なお各国同士、鎬を削っているみたいだし(「五国拮抗大戦」って言ってたっけ)、その中でキングはこの国へ来てトップとなり、娘さんがいなくなってからヤメーメはさらに衰退していった――。


 つまり昔はともかく、最近の時代の王は世襲制ではないのかもしれんな。

 そしてこのおじいさんのキングもまた、聴神様と同様、人間界の寿命の常識では考えないほうがいいのかなと。


「娘さんたちは、どのようにして姿を消すことになったのでしょうか」


「それもよくわかっておらんのです。あるとき、いっせいに姿を消してそれっきり。何者かにさらわれたのか、何が起こったのやら······。待てど暮らせど娘たちは戻ってこず、あのときばかりは頭の中が真っ白になってしまったもんです」


 そりゃそうだよね。

 ふつうの親だったら、子どもが急に姿を見せなくなったら気が気じゃないだろう。

 

 しかも七人同時なのだから、そのときの嘆きの深さはとても想像できない。

 もちろん今もヘルツさんは大きな嘆きを抱えているわけだが。


「ヤメーメは“眠りの国”と揶揄されることもありまして、それはもう情けない姿になってしもうたわけです。そんなときにあなた方が来てくださった。そしてじっさいに流れも変わりつつあります。もし娘を探しだすことができれば、ヤメーメは古き良き時代の姿を取り戻すかもしれません」


 キングはわずかな希望にすがるように言った。


 そういえばおれたちは神具を見に行っているわけだが、キングは娘さん探しも目的としているんだもんね。


 だからこそ、旅って言ってたわけか。


 今さらながら整理してみると、だんだん不安になってきたな。


「タンニシ王国は、嗅商(きゅうしょう)王国みたいに隣接しているんですか?」


「それが、タンニシはどこにあるかわからんのです」


 ヒェッ、そんなおおざっぱな感じなんすか?

 あっでも、たしかに以前地理士からもらった地図にはどこにも書いてなかったもんな。

 

 たぶんヤメーメ王国の者はだれも、マガハラ大陸の全貌がわかってないのだろう。

 昔は海を通じた交流もあったとか言ってたし、必ずしもヤメーメの東側の大陸内にあるとは限らないのかも。 


「神具がある場所は、もちろんおわかりなんですよね?」


 あまりに不安になったので聞いてみた。


「たぶん。ああ、おそらく」


 なんとも頼りない返事っすね。


「神具のほかに、お宝みたいなものはないんですかねえ?」と話の方向を変えるチャウ丸。 


「何をもってして宝とするかはわかりませんが、マガハラ大陸には高価なカカオの山がわんさか眠っているとも言われております。ゴールデンカカオは、一粒でヤメー百枚の価値があるとかないとか」


「ほお」

「すてき」


 ようやくふたりから明るい声が届いた。

 カカオってチョコの原料のやつだよね?

 よって、金箔チョコレートとか?

 たしかにそういった浪漫でもないと、こんな薄気味のわるい場所を歩けないよね。


「なによりどの国も、人間界とのルートを探しております。だれもが人間に憧れてますから」


 おれたちは無言。


 ほんとはキングには地球に通じる犬小屋の話をしたいところだが、過酷な環境を渡り歩いてきたチャウ丸が黙っている以上、やはり今は話さないほうがよさそうだよね。

 

 地底ではそこらじゅうにゴツゴツした岩が見える。

 おっ、あれは玄武岩だな。

 てことは、この世界のどこかにマグマがあるってことか。

 

「七人の娘さんの手がかりは、あるものなんですか?」と聞いてみた。


「いいや、それもさっぱりです。姿を消したときはさまざまな調査がなされたものですが、我々が知れたのはとても限られたことのみでした。ただ神具がらみではなかろうかという推測は立っております。というのも、神具を納める場所から消えたとされてますからね」


「つまり娘さんも、この場所を歩いていったわけですね」


「いかにも。こうやって歩いておると、彼女たちの気配をうっすらと感じるような気がするもんです」


 切実な声が地下の通路に響くなか、おれたちはさらに前進。

 なんか話を聞けば聞くほど、不安になってくるなあ。


 と言っても、おれたちの命は、ほとんどキングに預けてしまったようなもの。

 ここは自分をだますつもりでキングを信じるしかない。


 そこで視界がパッと開かれ、雰囲気が一気に変わった。

 キングの様子からも、どうやら蔵は近いみたいだね。

 ほんとは城の裏とかにあるとばかり思ってたんだけど。

 まーいっか。


 できれば怖い思いなんてせずに終えたいところだが、キングは旅とか言ってたしさ。

 やっぱ、そう簡単にいかないよね。


 とにかくまずはお宝を拝見してからだな。


イヌの語源は、飼い主のところに「いぬる(帰る)」からとのこと(他諸説あり)。

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