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第34話 マガハラ大陸の神具と残された予言

2月も今日でおしまいですね、早かった、、

 「どうぞこちらへ」 


 ヘルツさんは顔を壁のほうへ向けたので、おれたちも視線を追う。

 そこには豪華なガラスケースがあり、中にはいくつかの物が置かれてある。


 そばまで近づいてみてわかった。

 おお、なんかすげぇな。

 さまざまなヘッドホンだったり聴診器だったりが、まるで運動部が勝ち取ったトロフィーさながらに並んでて、飾り方にも誇らしさがにじみ出ている感があるもんな。


 そしてべつの壁一面には、いろんなタイプのスピーカー。

 どれも古そうに見えるが、やはり人間界の物を似せて作ったのか。


 しかも人間界で見かける作品のソフトが棚にずらり。

 そうか、コスプレ村の民が影響を受けたというソフトは、ここで管理されていたのか。


 キングは“これはわたしの宝です”みたいな表情で、超有名作品のパッケージをすりすり手でなでている。

 まあ、あの作品はジーコも好きみたいだけど。

 

 極めつけが、壁の上部に掛かった額縁だ。

 これってひと昔前だと、歴代校長の顔が入っているんじゃなかったっけ? 

 でも額にはいろんな動物の耳の写真が収められてある。

 

 いくら聴覚を重んじてるとはいえ、こんな校長室ってないよね?

 

 おれはイヌだったからじっさいの学校のつくりはわからんけど、ジーコの脳みそをもってしても、やはり異様に映る。


「これらの品は、先人が作ったものもあれば、集めてきたものもあります。これまでも、あなた方のような者がヤメーメに来ることがありましたからね。ヤメーメでは代々、この品を大切に扱ってきたわけです」


「ではこれが宝もつですか?」


「それはちがいます」とキングはきっぱり。


 部屋の空気がピンと張った。


「蔵の中に納めてあるわけですな。そして我々はこれからその場所へ向かうわけです」


 うーん、わかるようなわからんような。

 そもそも、旅ってなんだ?


 キングは神妙顔で口を開いた。


「ここマガハラ大陸には【四種の神具】というものが存在すると言われています」


 神具······。

 さらに空気が張りつめる。


「この大陸は長らく海の底に沈んでいたと言い伝えられてますが、大陸の出現に深くかかわっているのが、季節神と四種の神具だというわけです。遠い昔に神が大陸をお造りになったときに神具をもたらしたのかもしれないし、神具の力によって大陸が浮上したのかもしれない。ただ、わしがこの地にやって来たときには、すでに神具は存在しておった。その一つがヤメーメ王国に納められてきたわけですな」


「ほう」

 チャウ丸が声をこぼした。

 展示品を見ているシャムりんも動きが止まったので、さぞ目を輝かせていることだろう。

 おれだって心臓がコツコツ音を立ててるからね。

 

 季節神というのは、《出禁の書》にも載ってたよな。

 たしか秋のヤメーメは〝聴虎(フィパルプ)〟。


 たぶん民から崇められている半神半木の聴神様とはまた別なんだろう。

 日本の神道だったら、秋の神様といえば竜田姫だったっけ。

 そういったことに、まつわってたりするのかな。

 まあ季節神のことはとりあえず置いときますか。


「ほかの三つの神具はどこにあるのですか?」

 代表しておれが質問。

「それはまだわかっておらんです」

「もしその四つがそろったときは······」

「どうでっしゃろなあ」

 

 おどけた口調だったが、部屋にただよう緊張はそれほどゆるんでいない。


「それがわかれば話も早いのですが、いかんせん謎に包まれているゆえ、他国とのいざこざも生まれておるわけです」


 そこでチャウ丸が発言。

「おいらたちのことを信用してもいいんですか? ほら、もしかしたら嗅商(きゅうしょう)やタンニシの回し者かもしれないわけだし」


「ああ、その心配はあるまいね」とキングのヘルツさん。

 おれたちは次の言葉を待つ。


「耳を澄ませば、あなたたちがワルモノではないことくらいは、容易にわかるわけです」


「キングの耳はメガトン級よ」とヒアリー夫人が片目をつぶる。


「じつは根拠もありましてね」


 なんだなんだ?


「ここヤメーメには、古い予言が残されておりましてね。それはこういうものです。

【ある静謐の時、極めてヒト族に近き者の降臨により、大いなる救いと繁栄がもたらされよう】」


 部屋の空気が完璧に凍った。


 おれはまったく返す言葉が思いつかない。


 やっとのことでチャウ丸が沈黙の氷に亀裂を入れる。

「それがおいらたちだと?」


 そう言うと同時に、となりからプッ。


 ――あっ、チャウ丸


 もぉ、チャウさんよぉ〜、こんな場でさぁ。

 でもおなかの調子がわるいんだもんね······ってクッサ!


 世界一オナラが臭いミイデラゴミムシ級じゃないか(もちろん嗅いだことはないが)。

 何食ったらこんな臭いになるんだよ······あ、あの麺か。


 シャムりんはさっきから立ち上がってるし、たぶんおれしか気づいてないか······

 と思ってたら補佐のタヌキ顔がさりげなく窓を開けている。

 タヌキは嗅覚がすぐれているもんね。

 

 なんかさっきの緊張がいくぶんゆるんだな。

 あるいは、チャウ丸は場の空気を変えようとわざとやったのかな······それはないか。


 ほほえんだヘルツさんは、お茶をぐびっと飲み干してから言った。


「ということで、蔵へ向かうとしましょうか」


 そしておれたちは校長室をあとにしたのだった。


 おなかの調子を崩しているチャウ丸は、タヌキ顔の補佐の案内で厠へ。

 一行はキラキラ光る宝石を飾った古い廊下を歩いていく。


 神具? 予言?  

 なんか、すごいことになってきてません?

 どうも考えていた以上に、このヤメーメ王国もマガハラ大陸も、奥が深い場所だったみたいだ。

 

 小心者の飼い主ジーコの脳を共有したおれはすでにビビりまくり。

 でもやっぱり蔵の中は気になるし、神具がどんなものなのかも見てみたい。

 

 旅と言ってた意味はわからんが、こりゃとんでもないものが待っているんじゃないか。 

 

 ともあれ、キングが娘さんを探す決心がついたのは、きっといいことだな。

 おれたちがこっちの世界に来たのも、まったく無意味でもなかったわけだ。

 

 よーし、気合いを入れてマガハラ大陸の謎に迫るお化け屋敷に潜入だ!

いよいよ一同で出発です。

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