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第33話 マメ的サービスな異世界グルメにチャレンジ

 宿屋を出発すると、おれたちは腹ごしらえに、以前行った大衆食堂に寄ることにした。

 

 人間の世界にはいろんなお店があって、散歩途中にヨダレが出てくることも二度や三度じゃなかったもんな。


 ただ食堂に入り壁に書かれたお品書きを見ると、よくわからんものばかりだ。

 こんな感じ。


【ブスクラゲの甘辛煮込み】

【オジャパ麺】

【肉やサイの炒め】

【ドロドロ魔液のかた焼きそば】


 ね? わけわからんでしょ? 


「どれも怪しいな、ブスクラゲってなんだよ? 人間そんなもの食ってたか?」とチャウ丸。 


 うーん、フュージョンしたジーコの脳に尋ねても、あずかり知らないみたいだな。

 肉を食べたいけど、あれはサイの炒め物と野菜炒めのどっちだ?

 豚骨ラーメン(バリカタ)とかテリヤキバーガーはないのかなって見まわしたが、それっぽいものはない。

 ジーコの大好物を、一度食ってみたかったんだけどなあ。

 

 ということで、興味本位でブスクラゲを頼んでみた。

 そして皿に盛られて出てきたのは、チャリのタイヤを刻んだみたいな、どす黒いかたまりだ。

 おぉ、なんかエグいな······


「味はけっこういけるぜ。これ食ってみな」


 ホントに?

 チャウ丸が頼んだ「オジャパ麺」なるものには、青いねり消しみたいなのが浮かんでいる。

 じゃあ、ひとくち――

 

 うん······醤油ベースで煮込んだブタ肉みたいな食感だな。

 むしろ村山家で出される残りメシくらいは、うまいかもしれん。

 こっちの世界のメシは薄味ばかりだと思っていたが、濃いめの味つけもあるんだな。


 太く切られたネギも入っていたが、イヌの頃は食べてなかったのでパス。

 まあヒトの姿になったから今はいけるかもしれんが、腹をくだしたくないからね。 


 じゃあおれもいっとくか――タイヤっぽいかたまりをほおばる。

 が、一瞬で舌が痺れた。


 オエッッ!

 なんだコレ······。


 むかし近所にチェーン展開する釣具屋があったが、そこのヘラブナの餌みたいな味がすんな。

 ジーコとドブ川に釣りに行ったとき、間違って食ったことがあるんだ。

 アレも最高にマズかったけど、それに匹敵する味だよ。


 おれは泣きそうになりながら店主に尋ねた。

「この材料なんですか?」


「どれも魔物のミイラですよ」

 ブッ! 

 はぁぁぁあ? ミイラだとぉお?

 行儀わるくも一気に吹き出してしまったよ。


「でもしっかり天日で乾燥させてますから」


 いやいやいや、そういう問題じゃないっしょ!

 

 見ると話をまったく聞いてなかったのか、チャウ丸がズルズルいってる。

「おお、いけるいける」


 うっそ?······ま、マジですかい······さすが鋼鉄の神経。

 けっきょくチャウ丸だけが完食し、店を出ることに(シャムりんは店にすら入らなかった)。


 歩いてるときも口の中が気持ちわるくて、井戸水でうがい。

 だってミイラですよ? 

 そんなもん食べちゃアカンでしょうよ。






 

 ヤメーメ城へ行くと、下駄箱のところでブラックスーツを着た補佐役ふたりが待っていた。


「まずはお連れしたいところがございますので」


 そしておれたちは補佐役の後ろをついていく。


 長身のコウモリ顔はいかにも無口で仕事をそつなくこなすタイプに見え、タヌキ顔はややぽっちゃりでとっつきやすそうな雰囲気だが(おれと同じイヌ科も関係あるのかな)、どちらもスーツはパシッときめている。


 以前ヒアリー夫人から聞いた話だと、この城では多くの者が働いてるみたいだし、キングの補佐をするくらいだから優秀なんだろう。

 これまでお世話になってきた同じ補佐役のウサ坊主の姿は、城では見かけていない。

 そこでチャウ丸が言った。


「せっかくお宝を拝もうってときに、なんか腹がいてえな」


「だいじょうぶ?」


「もしかすると、さっき食ったやつかも。人間のからだを手にしたはいいが、胃腸は前よりもやわになったかもしれんな」


 チャウ丸はおなかをすりすりしている。

 イヌの頃の野生児チャウ丸は、たしかに内臓強そうだもんね。


「はい胃腸薬」


「そんなの常備してるんだね」とおれ。


「女子は眉の置き方と携帯品のセンスで差がつくのよ」


 さすがは女子力の女王、シャムりん様には感服です。

 チャウ丸がゴクッと薬を飲み込んだところで、「こちらです」と補佐のコウモリ顔が言った。


 たどり着いたところには、「校長室」のプレートが下がっている。


 コウモリ顔がノックすると、「どうぞ」と声が届いてきたので部屋の中へ。


 そこはごくふつうの校長室――かと思いきや、なんかいろいろ気になるものもあるな。

 あとでゆっくり見させてもらおっと。


 部屋ではキングのヘルツさんとヒアリー夫人が待っていた。

 そしてコウモリ顔がお茶を運んできて、みんなでソファに座る。

 正面のキングが口を開いた。


「いよいよこの日を迎えましたね」


 うなずくおれたち。

 でも蔵の中を見せてもらうだけだし、それほど大げさなもんでもない気もするけど。


「じつはですね、わしも旅にご一緒しようと思いまして」


 ······旅?


「ようやく娘を探す決心がついたのですよ」と説明を添えるヒアリー夫人。


「どうやらわしも、君たちのがんばりに刺激されたみたいでの」

「顔の血色もよくなったわ」とほほえむ夫人。

 今日の夫人は流麗なラインの上品なベージュカラーのドレスという格好だ。


 キングのヤギ顔を見ても顔色の変化まではわからないが、ずっと一緒にいる夫人にはわかるのだろう。

 イヌをしていた頃、飼い主のジーコもおれの変化にはわりと敏感に気づくところがあったもんな。

 ああ見えて、おれに対してはわりとマメなところ(マメ的サービス)があるんだよね。


「その······娘さんは、蔵の中にいるのですか?」


 そんなはずがないよね、と思いながらも聞いてみた。


「まあ、そんなところです」と返事が戻ってきたからビックリだ。


 えっ、まさか蔵の中に閉じ込めてるってわけじゃないですよね? 

 でもそれだったら、探しに行くってのもヘンだし。


 ヘルツさんがこう言った。

「ヤメーメの蔵は神秘に満ちてます。そしてあなた方だけで入るのは、とても危険だと言えます。あなた方は我が国に活力を呼び戻してくれました。そのお礼といいますか、我が国が持つ秘密をあなた方に明かしたいと思っておるのです」


「秘密······」


 おれのつぶやきに、となりでチャウ丸がゴクリとつばを飲み込むのがわかった。


「ヤメーメ王国は聴覚を第一理念としてきました。聴くことこそ尊ぶべきもの。じっさいそのような進化もしてきたわけで、聴くことに関しては、どこよりも誇りを持っているつもりです」


 そしてヘルツさんは顔の向きを変えて言った。


「どうぞこちらへ」 


 なんか緊張感が高まってきたな。

 蔵の宝物(ほうもつ)を拝見する前に、ヤメーメ王国が持つ秘密に接近か······ 


 気持ちだって、たかぶらないはずがない。

 はてさて、どんな秘密に触れるのやらだ。 

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