第29話 お城でヒアリー夫人登場
目的地に到着すると、チャウ丸がもの珍しげに見上げながら言った。
「城っていうか、ほとんど学校じゃないか」
まあだれが見ても、城には見えないだろうね。
進んでいくと、ぼけっとした門番がいかにもジ○ジ○立ちふうの姿で立っているのが見えた。
なんでポーズ決めてんだ?
無視したいが、彼の前を通らないわけにはいかない。
「どうもご苦労様です」
門番が声をかけてきた。
居眠りをしていた以前とはちがい、ずいぶんシャキッとしてるな。
おれたちが伝説の三銃士という噂を聞いているのか、簡単に通してくれた。
「あら、下駄箱まであるわ」とシャムりんはピンクのパンプスを脱ぐ。
おれもボロボロになったスニーカーをそろえてと。
ちなみにチャウ丸は万年裸足宣言を絶賛爆走中だ。
学校風の廊下を歩いても、前みたいに寝転がっている者はいなかった。
その代わりに見えるのは「外耳室」「内耳室」「中耳室」という見慣れないプレート。
中耳室? 中会議室みたいなことか?
無視して進み、階段をのぼって三階へ。
「城の中はずいぶん派手なのね。まぶしいくらい」
「これ、全部もらっていったら、地球でけっこういいカネになるんじゃないか?」
窓枠をおおったキラキラした石を見ながらチャウ丸。
やはり古ぼけた板の廊下に対し、天井のシャンデリアはあまりにミスマッチすぎるよね。
バランスもひったくれもないもん。
そして向かう先は六年三組の教室だ。
角を曲がると、前方からボワンとこぼれる明るい光。
「あそこね。ことさら派手な場所なのかしら」
教室を覗くと、キングは例のまばゆい玉座に以前とまったく同じ様子で座っていた。
まさかあれから一度も立ち上がってないってことはないよね?
「すっげぇ······」
さすがのチャウ丸も目を丸くしてるな。
そりゃ後光が射した半裸のヤギじいさんを見たら、だれだってぶったまげますって。
黒板にチョークで書かれた【天上天下 非リア独尊!】といったものも消されないままだ。
ただこの前とちがったのは、キングのそばにふたりの補佐がいたことだ。
どちらもブラックスーツを着ている。
ノッポのほうがコウモリ顔で、小柄なほうがタヌキ顔。
背筋をピンと伸ばし、いかにも仕事ができそうな雰囲気だ。
おれは頭をさげてからキングの前へ。
半裸のじいさんは、すべてわかったような表情でゆるりとうなずいたのだった。
◆◇◆◇
「鍵を取り返しました」
おれが差し出すと、老いたヤギ顔に笑みのしわが広がった。
「それはそれは。ご苦労さまでした」
鍵を受け取ったキングは、チャウ丸とシャムりんのほうを見る。
「あなた方も、よそからいらしたのですね」
「ええ」
「まさに」
ふたりは得意げな顔。
姿がほぼ人間なので、ひと目見ただけでわかるのだろう。
この反応からも、どうやらキングは我々のことを伝説の三銃士だとは思ってないみたいだな。
まあ、そっちのほうが落ち着いて対話できていいけどね。
「あの、お預かりしているこちらなのですが······」
キングから預かっていたマジックボックスを出した。
「ああ、それは大陸に伝わる魔道具じゃ。きっと旅の役に立つであろうと思ったでの」
やはり魔の力を宿した品だったみたいだ。
「お聞き及びになっているかもしれませんが――」
おれは嗅商の蛮族との抗争について話し、そのときに自分が発動した技のことを伝えた。
するとキングは言った。
「能力が開発されておりましたか。今後の旅のためにも、その道具は当分、あなた方が持っているほうがよろしいでしょう」
なにかと便利だったので、そう言ってもらえるとありがたい。
そこでチャウ丸が口を開く。
「鍵を取り返したら、蔵の中を見せてもらえるんですよね?」
「そういうお話でしたか――。であれば、そうするとしましょう」
キングがそう答えたところで、扉のほうからチャリンと音がした。
見ると、きれいなブルーのロングドレスを着たヤギ風のおばあさんが立っていた。
「わしの妻ですよ。みんなはヒアリー夫人と呼んでおります」
おれたちは頭をさげる。
彼女もゆるやかにお辞儀をし、耳にさがった大きなピアスが揺れた。
「すてきなヒアリングじゃろう」
ふーん、そういう名前なんですね。
「聴覚を重んじるヤメーメにふさわしく、あなたたちの耳もよさそうね」とヒアリー夫人。
「おいらはどちらかと言うと、鼻のほうかな」とチャウ丸。
「彼の嗅覚で盗人を追跡したんです」
「そうだったのですね。仮にも蔵を襲われたら、わたくしたちはたいへん困ることになってました」とヒアリー夫人。
「彼らを蔵へ案内しようと思うてね」
「いいと思いますわ。この方々がヤメーメを危機から守ってくださったのですから」
そのあと、コウモリ顔の補佐が持ってきたお茶でしばし団らん。
ヒアリー夫人はカップを口に運びながら質問し、おれたちが答える。
ずいぶん上品な身のこなしだ。
こう言ってはなんだが、半裸のおじいさんの奥さんとはとても思えんな。
夫人との会話の中で、ヤメーメ王国は昔からライ麦の栽培が豊富で、音楽を通じた伝統芸能もあるのだと知った。
なんでもこの城には、様々な学問を研究する学者さんもいるのだとか。
おそらくそういった方々が《出禁の書》の制作や管理に携わっているんだろうね。
ヤメーメの名産は獣汗酒だけだと思ってたから勉強になりました。
シャムりんが夫人と女子談義をしている間(「どこの紅を使っているのですか?」)、おれはヤメーメのテーマパークで見た謎の映像のことをキングに尋ねた。
キングはしばし黙り込んだあとに言った。
「それはおそらくスメル元帥の嗅思念じゃろう」
ん? なんじゃそりゃ?
キングの説明によると、嗅思念とは嗅覚エネルギーで声や映像を創り出す嗅魔術で、魔嗅士の中でも限られた者だけが扱えるものらしい。
そんなスペシャルな魔術を使えるってことは、やはりスメル元帥の能力は生半可ではなさそうだな。
たしかに今思い返しても、あの映像はいろんな意味でぶっ飛んでたもんな。
そこで半裸のヘルツさんが言った。
「わたくしどものほうでもいくつか準備がありますから、蔵へ向かうのは明日としましょう」
まあ無礼にもアポなしの訪問だったし、さっそくってわけにはいかんよね。
おれたちは楽しみを明日に残して、城をあとにしたわけだ。
ご質問にありましたが、ジジ立ちではないです。




