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第26話 謎の思念とマガハラ大陸の歴史

明日から三連休ですね。自分は仕事ですが。

 ふたりに声をかけると、すぐに反応があった。


「いってぇなぁ」

「もうサイアク」


 心の底から同感だよ。

 このなんちゃってテーマパーク、即刻、ぶっ壊したほうがいいよ。

 少し様子を見てから、おれは自分が見た不思議な映像をふたりに説明。


「何を言っとるのかわからんな」

「タタロオ、頭を強く打ったのね、かわいそうに」


 そうじゃないんだ、ちがうんだ。

 でもおれの言語力では、あの時に見たものを正確に伝えるのはとうてい不可能だ。

 

 どうやらあの映像を見たのは、おれだけだったらしい。

 そして仕業はスメル元帥か――。

 だとしたら、とんでもない術の使い手ということになるな。

 あのときキツい臭いがしたから、おそらく鼻を通じておれの脳のスクリーンに映像を映し出したのだろう。

 ただこっちの世界の数式みたいなのは、さっぱりチンプンカンプンだったが。


 運よく芝生に落下したようでケガもなく、そばにあるのはカフェオレ色の池。


 ぼーっと池を眺めていたら、黒くてドロリとした何かが足元に近づいているのが見えた。


「げっ、なんだこれ!」

「生き物?」


 気色わるっ!

 と思ったときには足をつかまれ、池へと引きずり込まれていた。

 

 や、やべえっ――

 

 必死でつかまるものを探すが見つからない。

 足が水に浸かり、胴体、そして肩や首へ。

 おれはたまらず目をつぶり、息を止めた。

 

 グォボグォボ――。

 

 排水口の詰まりが解消したかのような音とともに、全身は池の中へ。


「呼吸できるわよ」と声が聞こえてきた。


 ゆっくり目を開けると、そばでシャムりんがニッコリしている。


 あれ? ここは水の中じゃないのか?


「この大陸、謎に包まれているもんね」

 たしかにわけがわからなすぎるな。


 そのままユラユラと地底へ向けて落ち、地面に着地。


「あっちみたいだ」と鼻を利かせるチャウ丸を先頭に、池の底の通路を歩いていく。

 

 とそこで、天井から弁柄色の長くてヌメヌメしたものが――。


「キャッ!」

「やべえ、走ろう!」


 なんか謎の生き物がウヨウヨいるぞ。

 しかも追っかけてきているじゃないか。

 

 ガサガサガサガサガサガサッ――。


 なんて気味のわるい音だ。


 走れ、走れ、走れ、走れ、走れ、走れ――。


 定規をあてたかのような一直線をおれたちは猛ダッシュだ。

 おれはイヌだった頃の爪のスパイクを意識し、地面を蹴りまくる。 


 すると前方にも、鈍色のデカい生き物。


 カエルとエビを足して割ったようにも見えるが、走っているから目の焦点がきちんと合わない。 


 たぶん東南アジアのジャングルにも、あんな薄気味わるい生物はおらんだろうな。 

 てか我々、大きな口に向かって走ってないすか?

 

 おれは落ちていた棒切れを拾い、振り降ろしながらとっさに叫んだ。


「ウポッサマンカコ!」


 おおっ、奇跡的に何か出た!


 しかも巨大エビガエルの化け物に命中してるじゃないか!


 アガアガアガッ。


 奇妙な声を出してあえいでいる化け物。


 立ち止まって見ると、その生物は硬そうな(うろこ)に覆われ、もしゃついた頭部の毛ときたら、百人のうち九十人が恥毛を連想しそうな感じだ。


 ただちっとも効いてない模様。

 ロブスターは内臓ごと脱皮するから理論上死なないというが、このエビっぽい化け物もまさかそのたぐいじゃないだろうな。

 おれの魔力が虚弱すぎるからか。 


 チャウ丸が銃をぶっ放すなか、シャムりんが叫んだ。


「セクシーバタフライX!」 


 次の瞬間にはエビガエルの魔物が吹っ飛んだ。

 

 すっげえ、シャムりん、まじ魔術っぽいじゃないすか。

 

 「猫の底力を軽く見ちゃダメよ」とシャムりんは白い歯をこぼす。


 古代エジプトではライオンのカラダを持つスフィンクス像しかり、ネコ科の動物は敬われてたもんね。

 

 チャウ丸が魔物の死を確認して風呂敷からマジックボックスを出し、手早く回収。

 カネになりそうなものは見逃さない貪欲さが頼もしく映るぜ。


「さあ、行くぞ!」とチャウ丸がさけび、さらに走るおれたち。 

「あのスルメ野郎、どこに行きやがったんだ?」


 もうスメルだかスルメだか、わからんようになってきたな。

 こうもドタバタに巻き込まれたのも、すべてはアイツのせいだ。

 とにかく鍵を取り戻さないと!


 なおも迫り来る得体も知れない生き物たち。

 ったく、気色わるすぎんだろ! 

 すでに肺が盛大にパンクしそうなんですけど。

 でも止まるわけにはいかん。

 だって捕まったらヌメヌメしたものに囲まれて、ナメクジみたいに溶けそうなんだもん。

 

 いたっ!

 スメル元帥と思われる黒い影が、まさに岩のすき間へ抜けているところだ。

 ただそのすき間は、開閉式になっていて、どんどん閉まっている。

 おれは転びそうになりながらダイブし、その間に滑り込んだ。



§§(ツツー) §§§(ツツツー) §§‡§‡‡§§∝§(ツツ・・・・ツ)!!】


 うっ、まただ――


 痛ッテェェ······。

 こめかみを突き刺す臭いのナイフと、名状しがたい空気のうねり――

 

 今度も映像か············いや、声だ――。


 そこで吹きすさぶ声の嵐――

 

『沈み浮かびし、この陸の有り様を、太古より見守る季節神。

 

 春の嗅竜(ボアレザ)

 夏の味雀(デスプル)

 秋の聴虎(フィパルプ)

 冬の視鳳(イングロ)

 

 季節神によって生物に五感が生まれ、大陸の感覚は研ぎ澄まされた』


(季節神······?)


『領土が分かれて国が興り、所有をめぐり剥き出しとなった支配欲、醜欲はやがて魔波となり、五感に通じた魔族が回収し、大陸中にばらまくはマガハラ歴一万年前のこと。

 大陸に蔓延した魔波は生物の進化を促し、人間に憧れる生物どもは、新たな遺伝子回路の獲得によって、独自の進化体系を疾走しエルフ、ドワーフ、リュタン(小獣)ヨトゥン(巨獣)など多種の変異が誕生す。魔物のガラパゴス時代を迎え、魔族の傘下となって大陸を魔の色で染める』


(争いによる欲望が魔波を生み出した······?)


『長き大陸のカオスを経た一千年前。嗅商王国にて嗅魔王(マンソン)は公爵、伯爵を爵位もろとも焼き払い、五感魔族における最上位に君臨す。

 嗅魔王は二万のダークDNAを黄土に放ち、大陸土壌の魔波含有率が60パーセント上昇する。それに伴い魔術開発が黄金期を迎える。これ、嗅商族による魔の統治時代である』


(嗅商王国の嗅魔王が大陸を統治したと······?)


『数百年に及ぶ嗅魔王の統治において、五感季節の法により五魔羅(フィフネイチャー)が解き放たれる。

 

【聴海 嗅嵐 味炎 視雹 触雷】

 

 生物の五感と季節神の融合により大陸は姿を変え、抗う民による三百年の戦乱の時代へ』


(五感と季節神の融合············)


『〜そして〜

 憎悪と反逆により乱れた大陸の亀裂は、熾烈な衝突を呼び起こす。


 嗅春の国、嗅商

 味夏の国、タンニシ

 聴秋の国、ヤメーメ

 視冬の国、ガワヤナ


 なかんずく、謎なる触の国――


 それ、五感拮抗大戦のはじまりであり、今なお渦中にあると言えよう』


(今も······そうなのか······)


『伝説と化した大陸が次に沈みし時を前に 

 新たなる英雄は栄光に酔いしれるであろう。


 ウヌは声が聴ける者。

 ウヌはつまらぬ雑種にあらず。誉れよ』


 そして幽霊船のごとく(ほの)かにぼわんと浮かぶ何か――


 震える心臓の弁と呼応しながら、やがて形を成して薄闇に並んだもの――


【11 7 641 19 53 37 5 113 67 43 71 2 997············】


 グリーンの光を放つ数字の羅列············


 素数だ――


 つまり素数は、全世界の共通語?

 あるいは何かの符丁?


 目に見えない数万本の髪の毛にからだを縛られるかの息苦しさ――


 そこでドンッ!


 視界に光が広がるや、見えた岩のすき間が閉まり、間一髪で抜けることができた。


 そして目に飛び込んできたのは――揺れる鍵!


 おれは思いっきり腕を伸ばした――


 ガクンッ!


 床が抜けた。

 落とし穴か! 

 からだが暗闇を落下する感覚だけがわかる。


 アアーー······アアー······ァァー······

 ··················

 ············

 ······

 ドボンッ!


 どうやら渓流くだりに戻ったようで、水の流れは穏やかだ。

 そこでテーマパークの看板が見えた。


 おれたちはびしょびしょになりながら岸にあがり、なんとか生還することができた。


 スメル元帥の気配は、もうどこにもない。


 でもだいじょうぶ、この手にしっかりと鍵が握られているから。


スマートウォッチの影響で右手に時計をつける人が増えたのだとか。左手だと改札抜けづらいから。

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