第19話 チャウ丸、お宝欲しさに交渉
ラノベと音楽に救われる昨今です。
おれたちは村の広場に戻った。
ただそのときも蔵守の表情はずっと沈んだままだ。
そして地獄の底から運んできたかのような深いため息(はぁぁ――)。
「元気だしなよ?」と声をかける。
見てるだけで、かわいそうになってくるからね。
おれはこういうの見ると、なーんかほっとけないんだよね······。
「この国に鍵は一つしかない。その一つを俺が管理していたんだ」
蔵守は相変わらず落ち込んだ口調だ。
うーむ······励ましてあげたいけど、言葉がないな。
なんでも大事な鍵の管理を一任されていたのは、すぐれた聴覚をキングから認められ、あつい信頼を得ていたからとのこと。
門番が居眠りしてるようなセキュリティ皆無のあの城や、老齢のキングが鍵を持ってるよりは安全だと判断してのことだろう。
おそらくここにはボタン一つで駆けつけてくれる警備会社はないだろうから、最善策はもっとも管理に相応しい能力を持った人材に頼ることになる。
それがこの蔵守だったということか。
蔵守がこんな辺鄙な山奥に住んでるのも、昔の武将が標高のある山の尾根から起伏を利用して敵の侵攻を防ぐために連郭式の山城を築いたように、敵が来ても難攻する場所をあえて選んだのだろう。
そして古い民家はカモフラージュか。
まさかこんな古ぼけた家に大事な蔵の鍵があるとは、だれも思わないだろうからね。
それでも今回は、建物周辺に施していた厳重なセキュリティを突破されて攻め込まれたわけだ。
蔵守は自慢の聴覚で敵の襲撃にいち早く気づいたまではよかったが、俊敏さに欠けたといったところか。
過去に今回のような鍵を狙った襲撃はなかったとのことで、多少の油断もあったのかもしれない。
だとしたら自分の不注意を責めることになるわけで立つ瀬もなく、ショックも大きいだろうな。
「あっちの嗅覚は尋常じゃないんだ。嗅魔術の使い手もわんさかいる」とネズミ顔の地理士が鼻をクンクンするしぐさ。
「きゅうまじゅつ?」
「魔術の嗅覚版みたいなことでしょうか。聴覚を重んじる我々ヤメーメは、おもに周波数、波長、振幅、速度などによる音波のエネルギーを有効利用しますが、嗅商の魔嗅士は化学分子と魔波をブレンドさせてエネルギーを発動するのです」
なんだかむずかしいが、要するに耳のいいヤメーメの民に対し、嗅商王国の民は鼻が利くわけね。
どうやらマガハラ大陸においては、五感が重要な概念要素になっているようだ。
「とにかく鍵を探さないと、すこぶるマズい」蔵守はうなだれながらつぶやく。
「それにしても、蔵の中のことが気になるねえ」
チャウ丸があごに手をやる。
宝もつのことが頭から離れてないらしい。
まあ、ヤメーメ王国がどんな宝を隠し持ってるのかはたしかに気になるよね。
音を抜き取ったかのような静寂のあと、蔵守がこう言った。
「ほかの国が求めているものがあるのさ」
「それってなんだい?」
「キングならまだしも、俺の口からは言えねえ」
「ふーん」
············
······
チャウ丸は考えを巡らせる顔になってから口にする。
「もしその鍵をおいらたちが見つけてきたら、中を見せてもらってもいいかい?」
蔵守はゆるりと顔を上げた。
「ああ、キングさえ許すのであれば、いくらでも蔵の中を見せまっしょ」
「オッケー、じゃあ探してきてやるよ」
おいおい、いくら宝が気になるからって、そんなに安請け合いしてだいじょうぶかよ。
チャウ丸はすっかり気持ちを決めた顔でこう続ける。
「ところで、ここにはずいぶん人間界の情報が流れ込んでるみたいだが、なんでそんなに詳しいんだい?」
「以前、マガハラ大陸に来た者が運び込んだそうです。俺たちが見よう見まねで偽造した物もたくさんありますが」とクマ顔の大工。
村で見かけた信号機や電話ボックスのことも思い出される。
「そいつはその後どうなったの?」とチャウ丸が尋ねたが、それは誰も知らないらしい。
なんでも以前、地球の作品のソフトが流れ込んできたとのことで、だからこの村にコスプレの格好が多いのだとか。
たぶん誰かが持ち込んだか流れ込んだデッキで、獣魔気の力でソフトを再生して観たのかもしれない。
それほど古くない作品のコスプレを見かけたのも、向こうとは時間の進み方がだいぶ違うからなんだろう。
時間性そのものが、だいぶ入り組んでいるとも考えられる。
大陸に来た者ねえ······。
以前キングも似たようなことを言ってたけど、それって人間だったりするのかな。
いずれにせよ、おれたちが地球からこの大陸に来た第一号ではない感じはするな。
そこでチャウ丸が口を開く。
「つまりどこかに、地球とこの大陸が通じるルートがあるってわけだね?」
おっと、バッターの内角をえぐるシュートばりに踏み込んだ質問だな。
「そういうことです。そのルートさえ確保できれば、もっと人間界に近づけるのですが」
そして漁師はチャウ丸の目をじっと見る。
「大陸中を旅されてきたあなた方は、何か知りませんか?」
「さあ、わからないなあ」とすっとぼけるチャウ丸。
まさか犬小屋から来たなんて、言えるわけがないもんね。
ここは断じて口にチャックだ。
もし彼らが地球へ通じる犬小屋のことを知り、何かのはずみで地球へ戻る出口がふさがれでもしたら、それこそサイアク。
宿屋の物置の穴のことを隠し通せば、バレることもないだろう。
と言っても、おれは何かを隠匿するのが得意じゃないし、すぐ顔に出ちゃうんだけどね。
おれたちはみんなと別れ、まさに地球への秘密の抜け道がある宿に戻った。
「お帰りなさい」
宿の入り口で、カンポさんの娘のリナがキュートな笑みで迎えてくれた。
最近は戦闘やらなんやらでずっとバタバタだったし、リナの笑顔を見ると癒されるな。
「外の様子はだいじょうぶでしたか?」と宿の主人のカンポさんが声をかけてきた。
たぶん村が蛮族に攻められたことを心配しているのだろう。
「ああ、ちょちょいのちょいさ」とチャウ丸が二の腕を持ち上げてポーズ。
リナはおれのほうを見てニコリ。
宿屋のふたりが無事だったのはなによりだ。
ふたりの様子からも、たぶんまだ三銃士の噂もここには届いてないのだろう。
まあそのほうが気楽でいいけどね。
階段をのぼり部屋に入ると、チャウ丸が垂涎顔で言った。
「とにかく鍵を見つけだせば、蔵の中を拝見できるってわけだ。とんだお宝を拝めるかもしれないぞ」
「ステキな王子様が眠ってたりして」
そんなはずないでしょうにと思ったが、おれも知らないから何とも言えない。
シャムりんはあくまで宝よりも甘い恋をお求めらしい。
「ただ嗅商王国って、ヤバいんじゃないの?」とおれ。
「いずれにせよ、案内役はいたほうがいいだろう。明日にでも民に相談して、手配してもらおう」
たしかに村の外を知り尽くした者の案内がなければ、嗅商王国へ向かうのはどう考えても無謀だもんな。
そして金の延べ棒を枕にして寝るチャウ丸。
世界広しといえ、延べ棒を枕に使うのはチャウ丸くらいだろう。
日本人の感覚では、硬い枕なんてあり得ないもんね。
そういや「石に枕し―――(忘れた)」という明治時代の超有名作家の名の由来にもなってる中国の古い故事があったような。
石のマクラて、ヤバ······。
うろ覚えだが意味はたしか、屁理屈を言って自分の誤りを認めない、みたいことだったっけ。
ガンガン勉強サボって言い訳するジーコにピッタリだな。
まあおれもサボるの大好きだけど。
明日はいよいよヤメーメの外へ出ることになるのか。
ヤメーメのお宝をおさめた蔵の鍵ねえ······。
果たしてどんな世界が待っていることやらだ。
なんだか遠足の前日みたいな気分だな――
って、これはジーコの記憶に基づいたものなんだろう。
今は学校が嫌いでも、たぶん小学生の頃は遠足が好きだったのかもな。
遠足って、好きなおかしとかいろいろ持っていけるんでしょ?
そら子どもだったらテンションあがるわな。
おれだって未知なる大陸に想いを馳せるたびに、好奇心は沸騰中だ。
ただこれも怖いもの見たさなだけで、ほんとはけっこう不安もあるんだけどね。
夜の帳もおりてきたし、ひと眠りするか。
また遠足いきたいなぁ




