第18話 大事なものを失くしてしまった······
残業で時間に追われましたが更新です。
せっかく魔物を成敗したってのに、さらなる問題を運んできたと思われる。
「やばいことになった······」
さっきからグフグフ鼻息荒くして、大粒の汗を垂らすブタ顔の男。
「おいおい、顔色わるいぞ?」と口をひん曲げるチャウ丸。
でもブタ顔の男はさらに表情を暗くするばかりで、くちびるはよもぎ色だ。
そうなると尋ねないわけにもいかんよね。
「どうしたんですか?」
すると男はこの世の終わりみたいな口調でこう言った。
「カギを······鍵をなくしてしまったんです」
「なんの鍵?」とチャウ丸。
「蔵です」と半泣き声をもらす。
「べつにいいっしょ?」
「ぜんぜんよくない! ヤメーメが滅びるかもしんねえ」
ほろびる? オイオイ、なんだよそれ、物騒な······。
そこで、話を聞いていたリーゼント頭の農家がラクダ顔を向けた。
「クラさん、そりゃほんとかよ」かなり強い口調だ。
「そんなに大事なものなの?」とおれ。
「ああ、ヤメーメの宝物をおさめた蔵だからね」と顔をしかめた漁師。
そこでチャウ丸の目が研磨後のCDばりにキラリと輝いた。
「宝もつって、なあに?」
いかにもチャウ丸はうまい話を嗅ぎつけた顔だな。
でもそれには答えず、漁師がブタ顔に尋ねた。
「どっかに落っことした?」
「たぶん襲撃のときに盗まれた」と声をしぼり出すブタ顔。
「じゃあ、まずはそこまで案内してくれよ」
チャウ丸がそう言ったところで、おれたちはよくわからないまま出発した。
道中、ブタ顔の男は、ヤメーメの蔵の鍵を管理する蔵守を担っていることがわかった。
蔵はよほど大事なものみたいだから、この国の金庫みたいなことか。
そんなものが国にあるとわかれば、そりゃチャウ丸だって反応するよね。
ただパニクった蔵守は険しい山道をどんどん進んで行くんだから、こっちはヘトヘトだ。
勾配のきつい坂はあるわ、道は泥だらけで歩きにくいわで、足が棒になりそうだったよ。
急斜面の段々畑を横目に通過してようやくたどり着いたところは、日本昔話なんかに出てきそうな古い民家。
「なくしたときのこと、覚えてないの?」
「夜中、敵の物音を感知して飛び起き必死で逃げたけど、気づいたときにはなくなってました。とても大事なものなので、ずっと身につけていたのですが」
蔵守はそう言って自分の鼻に触れた。
ふーん、常に肌身離さず、鼻ピアス(セプタムっていうんだっけ?)みたいにぶら下げてたんだね。
そんな大事なものをなくすってことは、よほど慌てて逃げてどっかにぶつけたのか。
ということで、さっそくみんなで調べはじめた。
でも家の中を探したり、外の草や木枝をかき分けても見つからない。
チャウ丸にいたっては、ハンガーとごみの掃除機を改造してつくったダウジングで探しているが、効果のほどは謎だ。
「その風呂敷、かなり物が入るんだね?」とチャウ丸の肩からさがった袋に目をやった。
猫型戦士の四次元ポケットかってくらい、いつもいろんな物が出てくるからね。
「ああ、これも伸縮性抜群の改造品さ。うまく工夫すればチャリンコだって入るぜ。こっちの世界に来たことで、おいらの風呂敷にも特殊な力が加わったみたいなんだ」
マジかよ、そんなことがあるんだな。
まあおれたちだって特殊な力を得たわけだし、あの穴を通過したときに所持品に思わぬ変化が起こったとしても不思議ではないか。
こりゃ、にっちもさっちもいかんな、と思ったそのとき、家裏のほうから「あっ!」と鍛冶屋の声が届いた。
鍛冶屋はヒヒ顔で、もつれた電線みたいな髪型をしている。
「あったか?」と駆け寄るおれたち。
「そういうわけじゃないんだけど」
「なんだよ。期待させんなよ」
「でもほら、ここ······」
鍛冶屋が示すところにみんなが近寄る。
そこには、ぬかるみに残された足跡。
それは牛乳の中のカブトムシくらいによく目立っている。
「この場所はふだんだれも近づかないことになっている」と蔵守。
となると、襲撃の時のものということか。
「ここは墓場だもんね」と知った様子の大工。
「そうなの?」
それ、早く言ってよぉ。
急にこの場所がおどろおどろしくなってきたぜ。
なんでも木材を大事に使うヤメーメでは、死体は火葬せずに埋めるとのこと。
今も埋まってるのかと思うとゾッとするけど、限られた資源を大事にする姿勢はすばらしいね。
たしかに昔の人も、死体は火葬では薪が足りないから埋められたって言うもんね。
蔵守の話によると、マガハラ大陸の土に還った死者の力は魔波を生みやすいらしく、その魔波を基にしたエネルギーを利用して建物周辺に結界を張っていたのだとか。
これほどくっきり足跡が残ったのも、結界の影響を受けたからだろうとのこと。
結界て······ファンタジーじゃん。
あらためて自分が異世界にいることを実感するな。
「で、この足跡から何がわかるの?」
「耳を澄まして、嗅ぐんですよ」
足跡を発見した鍛冶屋がそう言うや、民は目を閉じて黙り込み、みんなで耳をピクピク動かしだした。
足跡から何が聴こえるってんだ?
そして民は目を開け、クンクンとあたりを嗅ぐ。
「なんか匂いません?」と鍛冶屋に言われ、おれも試してみる。
本来こういうのは得意なはずだが、ジーコの鼻炎体質を引き継いだのか、おれはとくに何も感じ取れない。
イヌのおれなんかより、クマやブタのほうが鼻が利くっていうもんな。
まあ異世界に一つだけの花じゃないが、鼻の能力もべつにナンバーワンでなくてもいいんだが。
するとチャウ丸が言った。
「ふむふむ、こりゃ白檀の匂いだな」
さすがは鼻のいいチャウ丸だな。
イヌは匂いの記憶も鋭いっていうもんね。
ただ、見ると蔵守の顔がどんどん険しくなっていく。
そして神妙顔で声をもらした。
「ビャクダン······ということは······まさか······元帥――」
「スメル元帥······とでもいうのか······いや······そんなことがあってはならん······」
「スメル元帥?」おれはおうむ返しになる。
「地も涙もない嗅商王国の恐ろしき悪魔と言われている存在です」
な、なんだよ、それ······。
緊張をはらんだ深い沈黙の中、蔵守が口を開く。
「いずれにせよ、鍵は嗅商王国に流れていったってことか――」
「すぐにでも嗅商へ探しに行かないと!」
久しぶりにキムチをたべましたが、アレおいしいですね。




