第17話 マガハラ大陸の魔術講座
今宵は五輪よりもラノベでしょ。
解体屋を離れるとチャウ丸が言った。
「こんなことなら、わざわざあっちのガラクタを売らないでもいいな。これで食っていこうぜ。なんせおいらたちは、最強戦士だからな」
たしかに持ち運びの労力を考えると、何度も地球を往復するのは大変だもんね。
でもほんとに困ったら、そんな労力にケチをつけず、せっせと運ぶっきゃない。
万が一の時に稼げる手段を確保してあるというのは、いくらか気持ちもラクになるもんだ。
そこでシャムりんが言った。
「あれから村の人が持ってた本を借りて勉強したんだけど、この世界の魔術にはおもに五感を基にした攻撃術と治癒術と召喚術があるみたい。
魔術はおもに自前のものか、物質に宿ってるものを引き出して扱うかのどちらか。もしこの前あたしたちが使ったのが魔術であれば、おそらく自前のものということになるわね。
昔はせっせと魔法陣を描いて力を発動させることもあったみたいだけど、最近はほとんどが詠唱か無詠唱みたい。といっても、使える人はかなり限られているだろうけど」
「じゃあおいらは攻撃術ってことか。犬銃もあきらかに魔の力が宿ってるのが感覚でなんとなくわかるんだよな。で、人間がやってるゲームみたいに数値のレベルアップとかあんのかな?」
「さあ、どうかしら。本物の三銃士に会ったら聞いてみたいところね。魔術とひとくちに言ってもその用途や目的はさまざまで、以前は、攻撃術を使える者は魔物の討伐部隊としてエイヤッて戦い、治癒術の使い手は聖女が多く、王室の管轄に入って救急部隊で活動もしてたらしいわ。回復術が使える保健室の先生みたいなことかしら。そして召喚術者は兵站部隊で戦の勝敗を左右する補給を支えていたらしいけど、今のヤメーメはそんな国の状態ではないみたいね。
三百年続いた戦国時代の頃は、術者が騎士団や各国の貴族の領内に配置された傭兵団に加わることもあったけど、そもそも魔術を扱える者は純粋にその道一筋で浮気をせず技を探究するタイプが多いので、伯爵や公爵から厚遇で招請されても断って独自の道を切り拓いていったみたい。もしかすると伝説の三銃士も、そんな我が道ゆく勇者が戦闘を重ねることで能力をどんどん磨き、戦国時代を鎮圧するまでになったのかもしれないわね」
ふーん、シャムりんはいろいろ勉強しててエラいなあ。
聖女や魔法陣といった言葉も、ラノベを読み込んでるジーコの脳で理解することができる。
ただそういったものが存在する世界にまぎれ込むなんて、ほんとに小説みたいなことが起こることもあるんだなと、あらためて驚きだ。
とにかく三銃士の噂が広まるまでも、悠久の紆余曲折があったというわけか。
おれがあのとき発揮したのも、魔術の部類に入るのかな。
でもそれってたぶん、素人ゴルファーがドライバー振ったらたまたま一発でグリーンにのったみたいなもんだろう。
どう考えてもまぐれショットとしか思えない。
さっきの解体屋の主人の話から推測すると、魔物はもともといた生き物が凶暴化していったり、生態系から逸脱した進化を遂げたものと思われる。
あの主人はやたら、この魔物は魔波の浸透性が高いとか、魔波の湿地帯を活動拠点にしてたのだろうとか言ってたから、進化する過程でこの世界にある魔波を形成材料にしていったのかもしれない。
ニュアンスから判断すると、魔波は窒素や酸素みたいにそこらじゅうにあるというより、工場から排出された硫黄酸化物のように限られた場所にあるものなんだろう。
となればおれらは、あの犬小屋を通じてこっちの世界に来て、さらに魔波に触れたことで技を身につけたと考えることもできる。
真相は定かではないが、あながち的外れな推測でもないだろう。
さっきのがまぐれだったにせよ、おれたちは特殊能力が開発されてるみたいだから、磨いていけばおれの能力もさらに上がり、新たな技を身につけていったり――。
おお、なんだか先行きが明るくなってきたかも?
こうなってくると、ますますこっちの世界が楽しくなるな。
チャウ丸もシャムりんも、民からチヤホヤされて前の暮らしより断然いいって感じだもんな。
おれもこんな刺激を知ってしまった以上、平凡な飼い犬暮らしにゃ戻れんよ。
まあジーコとのフュージョンなんだし、片足はあっちに置いとくけどね。
あらためて自分の姿を見ても、やっぱ人間のからだ、ステキだわあ。
とくにこの膝小僧がええやないの、ねえ?
宿の前にたどり着いたところで、遠くから走ってくる者がいた。
「タタロオさ〜ん」
あーはいはい、あの人ね。
近づいてきたのは、イタチ顔の服屋だ。
ただチェーンを垂らしたゴリゴリのヘビメタ風ファッションは強烈だ。
ショップの店員さんがオシャレなのはわかるけど······。
「いやあ、タタロオさん、嗅商王国の蛮族を追い払ってくださり、感謝してますよ」
「おいっ、気安く言うんじゃないぞ。この方は、かの伝説のエンペラー珍念様だぞっ!」
「はっ!!」
服屋の主人の顔色が熟れたアボカドみたいに変わっていく。
どうやら例の噂は彼のもとには届いてなかったらしい。
「であれば、今後は珍念様とお呼びさせていただきます」
「い、いや、これまでどおりでいいよ······」
すぐに切り返しておかないとね。
そもそもエンペラー珍念じゃないし、どうも照れが入ってチャウ丸みたいに成り切れないんだよね。
こういうのって、三つ子の魂百までじゃないけど、育ちによる性格なんだろうね。
「こちらをどうぞ。戦闘で何かとお疲れでしょうから」
服屋が差し出したのは、柔らかくてあたたか〜い手ぬぐい。
気を遣ってくれたんだね、あんがとさん。(ゴシゴシ)
「村が守られた記念に、こんなものをつくってみました」
そこで服屋がバッと広げたティーシャツには、デカデカとおれの顔が印刷されてある。
「ちょ、ちょ、それなに???」
やめてくれよ、すんげえ恥ずかしいんですけど。
「あなたは聴神様にも並ぶ村の救い主です。これからは民のみんながこのシャツを着て、タタロオさんを追悼しようと思っているわけです」
「まだ死んでねーし!」
「あれ? 水筒でしたっけ。推敲だったかな」
人間の世界に憧れる民は、完璧な言葉の理解までは及んでないみたいだ。
生きてる相手に向かって追悼とは、まったく失礼な。
まあ、わる気はなかったんだろうからべつにいいけどさ。
ティーシャツの生産は即刻中止にしたほうがいいよと提案していると、今度はブタ顔の男が近づいてきた。
ただ、こっちはなにやら深刻そうで、いましがた三本ばかり抜歯してきたばかりみたいな顔だ。
そんな青ざめ顔をこっちに向けて言った。
「三銃士様、助けてください! 村が危機を迎えているのです!」
おいおいおい、次はなんだってんだよ?
さっき戦ったばっかだし、魔物退治はまた今度にしてくださいな。
でもどうやら彼らはおれたちを休ませてはくれないらしい、とほほ······。
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