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第10話 ヤメーメの民の意外な姿

立春です、が、さむい······


 服屋を出たチャウ丸は満足顔であたりを見渡し、「この村にジムやプロテインはないかなあ」と、すぐにでも筋肉増強に励みたい様子だ。


「うさぎ跳びでもやっときなさい」

 そう言うシャムりんは、ポーチから出したグロスでくちびるを整えている。

 シャムりんがどこから化粧品をゲットしてきてるのかも謎だ。

 猫の行動範囲はイヌとはまったく違うからね。


「カネも入ったことだし、作戦会議も兼ねてとりあえず飲みに行っか」

 太い腕をパンパン叩くチャウ丸。


「さんせー。おなかすいちゃったわ」

 シャムりんは無邪気に手を挙げ、そよ風で腰に巻いた豆しぼりの手ぬぐいがひらり。


 さてこの世界ではどんな食にありつけることやら――。


 おれは日本人の心とも言える味噌さえあれば満足できそうだけど、この国で大豆は栽培してんのかな。

 村山家の残りメシでは、ねこまんまがけっこう出てくるが、鰹節(かつおぶし)がのっててアレがなかなか美味なんだよね。

 たぶん人間界のメシで、ねこまんまが一番うまいんじゃないかな?


 ということで、よさげな食いもん屋を探すことにして村をブラブラ。


 ヤメーメは他国からの襲撃に怯えているという話もあったが、そのためか武器屋は何軒もある。

 チラッと覗くと、竹のナイフや棍棒など手作り感満載なものが置かれていた。

 自衛のつもりで買おうか迷ったが、まだ状況がわからないし、カネの無駄遣いになるのはよくないのでやめておいた。


 そんな道中で広場を通りかかった。 

 そこで目にしたのは、てんでんばらばらに過ごすヤメーメの民の姿。


 ん? なんかいろいろいるぞ。

 しかも······ちょ、ちょ、ウソだろ······?

「なんだあの格好は? ここはコスプレ村か?」

 

 チャウ丸も異様さに気づいたようだ。

 

 だって警察でしょ、パイロットでしょ······あっ、チャイナドレスも。

 アニメの美少女戦士や魔女風の宅急便少女、メガヒットの剣術漫画を筆頭に、有名ものアニメに寄せた格好がそこらじゅうにいるからね。

 しかもその全員の顔がケモノっぽいのだから、これがなかなかのインパクトだ。

 たぶんみんな、さっき行った服屋で仕入れたんだろう。 


 そのとき女子用のスクール水着を着たマッチョなケモノが(ダントツでヤバめだ)声をかけてきた。


「あんた、ずいぶんヒトっぽいな」

「でもイヌっぽくもあるな(野球帽の男)」

「どこから来たんだ?(ちょんまげの男)」

 

 答えないでいると、さらに三々五々と民が近づいてくるではないか。


「なんだい、歓迎されてるってわけかい」 


 チャウ丸は町を訪れた大統領よろしく手を振っている。

 歓迎というより、たんに珍しがられているだけだろう。

 彼らは人間っぽい姿には過敏に反応するみたいだからね。


 スズメの群れが議論しているかのような騒ぎの中、海賊漫画のキャラを彷彿させる格好の男が言った。


「まさかあなたたちは、伝説の三銃士とかではないよね?」


 ······ん、なんのことだ?


 彼らのざわつきから解釈すると、どうやらマガハラ大陸を危機から救った伝説的な存在がいるらしい。

 当然だが、おれたちがそんな立派な三銃士のはずがない。


 ということで、彼らがベタベタからだに触れてくるので、スタコラ退散することにした。


「いまのところ、ステキな王子様は見かけないわね」

「この調子だと、そんなもんは千年歩いても見つかりそうもないぜ。あーあ、どっかにお宝は落ちてねえかなあ」 


 チャウ丸が言って広場を通過したところで、通りの先に〈ミミの酒場〉という看板が見えた。


 右も左もわからん大陸を切り拓くためにも、とりあえず作戦会議だ。



 ◆◇◆◇



 我々は酒場に入りテーブル席へ。

「何にするね?」とカウンターの先からキツネ顔のマスター。

「なにがあんの?」

 マスターの背後の棚には、あらゆる種類の瓶が並んである。

 “九番搾り”と書かれた瓶もあるが、ビールの一種か。

 だとしたら、だいぶ(しぼ)りカスだな。


「なんでもあるが、ジュウカンシュがオススメさ」

「じゃあ、それ三つ」


 運ばれてきたのは、グラスに注がれたビールっぽいもの。

 ただ泡の色が、雪にまじった泥みたいで、なんかどす黒い。

 マスターが去ったあと、ジュウカンシュというビールもどきで乾杯。


「ひぃぃぃ、なんだこれ」

「でもきちんと冷えてるわね。味もまあまあ」

 バナナを煮詰めたような味だが、ひどくまずいわけではない。


「あれってコンセントだよな? 店に灯りもついてるし、電気が通ってるってことか」

 チャウ丸はズボンのポケットから充電器を取り出し、「まさか爆発しないよな」と言いながら、そのままスマホを充電。

「どお?」

「意外にいけた」


 そこでとなりのテーブルから濁声(だみごえ)が届いた。


獣魔気(じゅうまき)というものさ」


 いかにも大工って雰囲気のクマ顔の男だ。

 職業が人をつくるなんて聞くが、さもありなん、な感じがする。

 

 その向かいでは頭にハチマキをしたシカ顔の男が、おれたちと同じものを飲んでいる。 

 そしておれの視線に気づいてこう言った。


「ケモノの汗からとったものさ」

「だから獣汗酒かよっっ!!」


 すぐにピンときたチャウ丸が叫んだ。

 シャムりんはいまにも吐き出しそうな表情だ。


「しっかり寝かせて清潔に扱われてあるから心配いらんよ」


 うーん、そういう問題でもないような······。


「どれもモサいわね」

 まわりを見回したシャムりんの小声が聞こえたのは、たぶんおれだけだろう。

 シャムさん、メンズアイドル級のイケメンなんて、そうそういませんよ。


「それで、この大陸のことだが――」

 チャウ丸は少し声のトーンを落とす。

「ほんとに海に沈んだ伝説の場所なのか。島国育ちだから大陸と言われてもピンとこねえな」

「猫は奈良時代に仏教の書物とともに中国から伝わったのよ。だからあたしは大陸慣れしてるの」


「あんたはちがう大陸から来たのかね? それと、モサくてわるかったね」


 そこで横からクマ顔の男が言った。

 どうやら小声の会話でも聞かれていたらしい。

 まさかシャムりんのグチまで拾われていたとは、よほど耳がいいのかもな。


「ここって、一度海に沈んで浮かび上がった伝説の大陸なの?」

 コソコソするのがめんどくさくなったとばかりに、チャウ丸が聞いた。


「ああ、そうさ。ただその現場を見たわけじゃないから、なんとも言えんがね。火山や大洪水によって沈んだとか、氷河期の最後に水深が上がったとか、いろんな噂がある」


 キングもここが大陸の端っこだと言ってたから、海があるわけだ。

 たしか隣接するのが嗅商(きゅうしょう)王国だったよね。 

 そういや村にはセメントで固めた建物も見かけたから、原料の珊瑚や貝殻などの石灰石がどこかにあるってことだもんな。

 そしておそらく、頭にハチマキのシカ顔は漁師なんだろう。


「海を渡っていったら、地球のどこかの大陸にたどり着くの?」と尋ねると、「知らねえ」とつっけんどんに返された。


「いつごろ大陸が浮上したのかもわからないらしいんだ」とキングから聞いた話をふたりに伝える。

「出来事を記録しないの?」

「クロマニョン人は日記をつけてたのかい?」とシカ顔の漁師。

 人間界の知識も存じ上げてるようだな。


 この国が衰退しているというキングから聞いた話を、失礼にならない程度にさらっと振ってみた。

 するとクマ顔の大工が口を開く。


「国がダメになったのは、キングの娘がさらわれた頃からだな」

「七人娘、全員がいなくなっちまったのさ」と漁師。


「えっ!」

 てっきり一人かと思ってた。


「それって、集団家出とかじゃないの?」とシャムりん。

「どうだかね。よその国にさらわれたんじゃねえのかな」

「手がかりとかないの?」

「それを探そうって気力さえないんだよ」

 クマ顔の大工が一気にグラスを傾けた。


 チャウ丸がおれを見る目には“こりゃ重症だな”と書かれてあるな。

 そういえばキングも、自分の娘を探すのをやめてしまったとか言ってたし、きっといろんな経緯(いきさつ)があったのだろう。


 七人娘を失った長老が治めるヤメーメ王国か······

 

 キングもつらいだろうな、なんだか胸が傷むぜ。

 まあこんな心の動きも、きっと人間のカラダならではなんだろう。

 

「ごゆっくり」と言ってふたりが席から去ったあと、チャウ丸が口を開く。


「話を聞いてると、こっちまでやる気がなくなっちまうな」

「キングからこの国を救ってほしいって言われたんだけど。それで娘さんを探しだしてほしいって」


 おれが告げると、チャウ丸がブッと酒を吹き出した。


「マジかよ。無理だろ?」


「でもそれって、何か見返りがあるんじゃないの?」

 シャムりんの言葉にチャウ丸が敏感に反応。


「城の財宝をくれるとか?」


 あの学校もどきの城に財宝があるとは思えんが、それは黙っておいた。


「娘を探しだせばキングも元気になり、国に活気が戻るんじゃないか?」

「でも手がかりはないでしょ」

 

 そこでチャウ丸が充電器を回収。

「どんな感じ?」

 スマホを覗き込んでニヤリ。

「ニセの電気のわりには、バッチリだな。ネットはつながらんが」

 シャムりんがポーチから出したハンカチで口をぬぐい、マウスウォッシュを――。


 と、そのときだ。

 外から耳をつんざく爆発音が届いた。


 ドーッッン!!!


「花火か?」


 そしておれは店を出て、ぶったまげることとなった。


「ま、まじかよ······」


 そこには胸をえぐられるほど凄絶(せいぜつ)な光景が広がっていたのだった。


イヌにお酒はよくないそうですが······


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