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光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

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6

王都を発って五日。

 一行は北方の大河を越え、レニス地方の中心都市ハールトンへ辿り着いた。

 王国でも有数の交易都市。

 その街並みは賑やかで、通りを歩く商人たちの笑い声が絶えなかった。


 けれど、ライルは足を止めた。

 街の入口に建つ巨大な門に描かれた紋章。

 それは、勇者の姿を模した像だった。

 聖光を掲げ、民を救う少女の姿。

 だが、その顔立ちはミナそのものだった。


 「……これは、いったい」

 ミナが目を丸くした。

 「私、こんなのにされちゃってるんですか?」


 「おそらく、あなたの“奇跡”が王都から伝わった結果です」


 「でも、早すぎません?」


 「噂は、真実よりも速く旅をします」


 門をくぐると、さらに衝撃的な光景が待っていた。街の広場では、仮装した役者たちが演劇をしている。


 舞台の上には“勇者ミナ”と名乗る少女役の俳優が立ち、悪魔に扮した男を倒し、「神の声に導かれた」と叫んでいた。


 観客たちは喝采を上げ、銀貨を投げる。ミナはその様子を呆然と見つめた。


 「……なにこれ……」


 ライルが淡々と答える。


 「この街では、信仰が“見世物”です。神の言葉より、芝居のほうが儲かる」


 「ひどい……」


 子どもたちが木の棒を掲げ、勇者ごっこをしている。

 「悪い魔族をやっつけろー!」

 「ミナさまの光をくらえー!」

 無邪気な声。


 だが、その裏にある“利用”という現実が、ライルには見えていた。


 「彼らは信じていません。“勇者”を崇めることで、自分の生活を飾っているだけです」


 「信じるって、そういうことなんですか?」


 「時に、そうです」


◇◇◇


 二人は街の宿屋に入った。

 中は豪華で、壁には勇者の肖像画まで飾られている。

 宿の主人がにこやかに近づいてきた。


 「おや、旅のお二人さん。……って、あれ? 嬢ちゃん、その髪の色と目の色……」


 ミナは困ったように笑った。


 「え、えっと……ただの偶然です!」


 「まるで“勇者ミナ様”のようじゃないか! こりゃ縁起がいい!」


 その場で、主人は宿泊費を半額にした。


 「勇者様の加護を信じてるんでね! いやぁ、ありがたい!」


 「……なんか、複雑です」ミナが小声で言う。

 ライルは小さく笑って答えた。

 「信仰というのは、便利な道具です。誰もが“何か”を信じたい。その象徴が、今はあなたなんです」


 ミナは沈黙した。

 彼女の胸に浮かぶのは、あの村での子どもたちの笑顔。

 あれは確かに“救えた”瞬間だった。

 でも、いま目の前にあるのは金で飾られた虚像。


 「ねえ、ライルさん。これって、私が“誰かを助けたい”って思った気持ちまで、嘘にされてるみたいです」


 「嘘にされたのではなく、“飾られた”のです」


 「飾りって、そんなに大事なんですか?」


 「この国では、“本物”より“見栄え”が価値になることもある」


 ミナはしばらく何も言わず、ただ遠くを見ていた。

 その目は少しだけ寂しそうで…けれど、どこかに怒りも宿っていた。


◇◇◇


 翌朝、二人はハールトンの中心にある大聖堂へ向かう。その正面には“勇者ミナ像”が立っている人々がその足元に花を捧げ、祈りを捧げていた。


 祭壇の前で、神官が朗々と声を上げる。


 「勇者ミナは神の子である! 彼女は光の化身として現れた!」


 信者たちが口々に唱和する。


 ミナはその光景を見つめ、唇を噛んだ。

 「……私、こんなの望んでません」


 「分かっています」


 「なんで、こうなっちゃうんですか?」


 「人は、救われたいからです。たとえそれが“他人の作った救い”でも」


 ミナは拳を握った。

 祭壇の上の自分の像が、まるで別人のように見えた。

 その手には剣、背には光の輪。

 それは“人間”ではなく、“神話”としての勇者だった。


 「ねえ、ライルさん」


 「はい」


 「私、あの像を見てると怖いんです」


 「なぜです?」


 「“自分じゃなくなっていく”気がして。このままだと、本当に私が“勇者ミナ”になっちゃいそうで」


 ライルは彼女の肩にそっと手を置いた。

 「心配いりません。本物のあなたを知っている人間が、ここにいます」


 ミナは彼を見上げ、少しだけ笑った。

 「……ありがとう。なんか、安心します」


 その瞬間、鐘の音が鳴り響く。大聖堂の奥、神官たちの集まる部屋から、“異教徒取り締まり”の告知が読み上げられる。


 “神の名を騙り、奇跡を冒涜する者がいる。その者たちを捕らえ、裁きにかけよ。”


 ミナの顔が強張った。


 「……嘘の信仰で、また誰かが罰せられるんですか?」


 「ええ。そして、これが“信仰のビジネス”の裏側です」


 ライルはその紙を握りしめ、静かに言った。


 「この町には、“神のふりをする人間”が多すぎる」


◇◇◇


昼下がりのハールトンは、陽光が眩しいほどに賑わっていた。

 広場の露店には色鮮やかな布が並び、人々は祭りのように笑っていた。

 だが、その笑顔の裏で、見えない歪みが広がっている。


 「……“異教徒狩り”が始まったそうです」


 通りを歩きながら、ライルは低く呟いた。


 「昨日の布告を聞いた人たちが、次々と“異端者”を告発しています。ほとんどが無実の貧民です」


 ミナの足が止まる。


 「それって……ただの、言いがかりじゃないですか」


 「この町では、“神の名”が金になるんです。告発すれば、報奨金が出る」


 風が吹き抜け、どこかで鐘が鳴る。その音がまるで、祈りではなく“取引”の合図のように聞こえた。


 「……許せない」


 ミナの拳が震える。


 「助けを求めてる人を罰して、それを“信仰”だなんて」


 「怒りは正しい。けれど、感情だけでは潰せません」


 「それでも、何かしなきゃ」


 ライルはしばらく黙り込み、そして静かに頷いた。


 「分かりました。……ただし、やり方を考えましょう」


◇◇◇


 二人が向かったのは、町の外れにある古い倉庫街。そこでは“信仰グッズ”の生産と称し、奴隷が働かされているという噂があった。


 「ここが、“神聖商会”の倉庫です」


 「勇者ミナの肖像を使ったお守りや護符を作ってるって聞きました」


 扉の隙間から中を覗くと、薄暗い中で十数人の人影が見える。女子供関係なくぼろ布のような服を着せられ、木型に銀粉を塗り続けている。


 「……まさか、“奇跡の護符”をこんな場所で」


 「はい。“勇者の加護”を売るために、勇者の名が使われています」


 ミナの唇が震えた。


 「そんなの、私のせいじゃないのに……私の名前で苦しんでる人がいるなんて」


 「誰のせいでもありません。ただ、誰かが“信仰”を金に変えただけです」


 その瞬間、倉庫の奥から怒声が響いた。


 「おい、サボるな! その護符は明日までに百枚だ!」


 中年の監督官が鞭を振るう。子どもが転び、粉をこぼした。男の鞭が振り下ろされる


 「やめて!」


 声が響いた。

 ミナが走り出て、男の腕を掴む。


 「子どもにそんなことしないで!」


 「なんだ貴様! 許可なく入るな!」


 監督官の手がミナを突き飛ばそうとした瞬間、イルの手がそれを止めた。


 「暴力は不要です」

 「誰だ、お前は!」

 「王命で派遣された勇者一行の補佐官です」


 男の顔が青ざめる。

 「ゆ、勇者一行……? まさか……!」

 「まさか、ですよ」


ライルの声が冷たい。


 「この状況を王に報告すれば、あなたの首は飛ぶ」


 ミナは子どもに駆け寄り、膝をついた。

 「大丈夫? 痛くない?」

 少年は怯えながらも、小さく頷いた。

 「……ありがとう、お姉ちゃん」


 その言葉に、ミナの胸が熱くなった。

 “誰かを救いたい”

 あの夜、ライルに誓った気持ちが、再び心の奥で燃え上がる。


◇◇◇


 その夜。

 広場では“勇者祭”が開かれていた。

 市民が松明を掲げ、歌い、祈り、偽物の奇跡を喜んでいる。教会の神官が壇上で叫んだ。


 「勇者ミナの光は我らを導く! 祈りを捧げよ!」


 その声に混じって、奴隷の子どもたちの影が見えた。

 彼らは解放されたものの、家も金もない。

 “救われた”という実感も持てないまま、広場の片隅にうずくまっている。


 ミナは彼らの姿を見て、拳を握った。

 「……このままじゃ、何も変わらない」

 「どうするつもりですか」ライルが問う。

 「“本物”を見せます。嘘の奇跡じゃなく、私の光を――この町の人たちに」


 「……また、命を削る危険があります」


 「分かってます。でも、今はそれしかない」


 ミナが広場の壇上に上がると、人々のざわめきが止んだ。


 「え? 本物の……?」

 「勇者ミナ様だ!」


 神官たちが慌てて動き出すが、

 ミナはそれを振り返らず、両手を広げた。


 「みんな、聞いてください!」

 「勇者ミナが、直接話してるぞ!」

 「神の啓示か!?」


 ミナの声が広場を満たす。

 「私は神の声なんて聞いていません!助けたのは、私の意思です!この光は、神様の力なんかじゃない!“人の想い”の力です!」


 ざわめきが広がる。

 神官の一人が怒鳴った。


 「異端だ! 勇者を名乗る偽物だ!」

 「偽物なら、確かめてください!」


 ミナが手を掲げる。

 掌から、白い光が生まれた。

 それは穏やかで、温かく、誰の命も奪わない。

 倒れていた子どもたちの体が光に包まれ、傷が癒えていく。


 「……あったかい」

 「体が……軽くなった!」


 群衆の中から歓声が上がる。

 偽りの祈りが、ほんの一瞬、真実に変わった。


 ミナは微笑みながら言った。

 「神が救うんじゃない。“人が人を救う”それが、本当の奇跡です!」


 ライルはその光景を見ながら、心の奥で静かに誓った。


 この少女こそ、本物の“勇者”だ。嘘にまみれたこの世界で、唯一“真実を信じる者”。


◇◇◇


 祭りの終わった夜、宿屋の部屋。

 ミナはベッドに横たわっていた。

 体は疲れ切っていたが、その表情には満足の笑みがあった。


 「……少し、やりすぎましたね」

 「はい。でも、みんなの顔が見られてよかったです」

 「あなたが光を放った瞬間、誰もが“本当”を見た。それで十分です」


 ミナは目を閉じながら、小さく呟いた。

 「ねえ、ライルさん。私、もし神様が本当にいるなら、その人に“あなたを見習ってほしい”って言いたいです」


 ライルは苦笑し、灯を落とした。

 「……それは、光栄ですね」


 外ではまだ、遠くの鐘が鳴っている。それはもう“商売の音”ではなく、ほんの少しだけ“祈りの音”に戻っていた。


38~40℃を行ったり来たりで1日22時間睡眠みたいな生活してました…

薬飲んでも38℃下回らないのほんとにきつかったヨ

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