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【勇者様は今日も常識はずれ】ー荷物持ちの俺は心臓が持たないー  作者: 憂姫
理想と現実の間で

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5/21

2

今回内容が思いつかず短いです(›´ω`‹ )

もっと内容を盛れるようになりたい

短い2話を昼夜で投稿します

北方行きの出発を翌日に控えた早朝。

 王都セリオンの中心にそびえる白亜の聖堂は、まだ薄明の光に包まれていた。

 その尖塔は雲を突き刺すほど高く、まるで天と地をつなぐ柱のようだ。


 今日、勇者一行はここで“聖光の祝福”を受ける。

 勇者に神の加護を授け、旅の無事を祈る――それが王国の伝統儀式であった。


 ライルは早めに到着していた。

 信者たちが祈りを捧げる中、白衣の神官が静かに通路を歩く。

 香の匂いが鼻をくすぐり、光の差すステンドグラスが床に七色の影を描いていた。


 だが、その神聖さの裏に、彼は微かな違和感を覚えていた。

 ――まるで“信仰”ではなく、“支配”の匂いだ。


◇◇◇


 やがて、ミナが入ってきた。

 純白の礼装に身を包み、髪には銀の飾り。

 いつもの軽い口調も影を潜め、やや緊張した様子で辺りを見回している。


 「わあ……きれい。まるで美術館みたい」

 「勇者様、“美術館”とは?」

 「えっと……綺麗な絵とか飾ってあるところです」

 「なるほど。こちらでは祈りを飾る場所ですね」


 ミナはステンドグラスを見上げ、光に手をかざした。

 その仕草は無邪気で、けれど神官たちはどこか距離を取るように見ていた。


 「……なんか、歓迎されてない気がします」

 「勇者様が“神の外”から来た存在だからでしょう」

 「外って、異世界ってことですか?」

 「はい。彼らにとっては、あなたは“神の意図を乱す者”でもある」


 ミナは小さく息をのんだ。

 その言葉が意味するのは、祝福の裏にある“警戒”だった。


◇◇◇


 間もなく、典礼が始まった。

 祭壇に立つのは、教皇代理の高位神官エルマン。

 白い法衣に金糸の刺繍。穏やかな微笑みを浮かべながらも、その眼光は鋭い。


 「勇者ミナ殿。異界より来たりし光の子よ。

  神の名において、汝に加護と指導を与えん」


 荘厳な声が響く。

 だが“指導”という言葉に、ライルは眉をひそめた。


 ミナは静かに跪き、両手を組む。

 神官たちが詠唱を始め、聖水が彼女の頭上に注がれた。

 柔らかな光が溢れ、空気が震える。

 祝福の儀は成功――のはずだった。


 だが、次の瞬間。


 「……っ!」

 ミナの体から、淡い青の光が弾けた。

 祭壇の上の聖水が一瞬にして蒸発し、空気が揺らぐ。


 神官たちがざわめく。

 「な、なんという……! 神の加護が拒絶を……?」

 「勇者様が、拒まれた……?」


 ミナは戸惑い、ライルが即座に前へ出た。

 「落ち着け。魔力の反応だ。拒絶ではなく、共鳴している」

 「共鳴……?」


 彼は腰の道具袋から魔力測定器を取り出し、光の波を分析した。

 「聖属性と異界系の魔力が干渉してる。……制御不能ではない」


 エルマン神官の顔が歪む。

 「勇者殿。あなたの力は確かに神より授けられたものか?」

 「え? えっと……神様に会ったことはないですけど」

 「では、あなたは“神の使い”ではないと?」

 「わ、わかんないです。たぶん、違うと思います……」


 会場が凍りついた。

 信者たちがざわめき、何人かは十字を切る。

 異界の勇者が、神の加護を否定した――そう受け取られたのだ。


 ライルは前に出て、ミナを庇うように立った。

 「誤解です。勇者様は信仰の対象を知らないだけ。信仰を否定したわけではありません」

 「では、改めて信を問う。勇者殿、この地を導く神“セレス”を信じますか?」


 ミナは黙り込んだ。

 信じる――その言葉を、彼女は軽く使うことができなかった。

 自分の世界では“神”は概念であって、信仰の対象ではない。

 ここで下手に肯定すれば、嘘をつくことになる。


 沈黙の数秒が、永遠のように長く感じられた。


 やがてミナは小さく言った。

 「……信じる、というより、感じたいです」

 「感じる?」

 「この世界の人たちが信じてるなら、その“想い”を知りたい。

  神様が本当にいるのか、ちゃんと見てみたいんです」


 エルマンの眉がわずかに動いた。

 その表情には驚きと、どこか侮蔑にも似た色が混じっている。

 「未熟な答えだ」

 「未熟ですが、誠実でもあります」ライルがすかさず言った。

 「嘘の信仰を口にするより、真実の探求を選ぶ。それが勇者様です」


 神官はしばらく沈黙し、やがて冷ややかに言い放つ。

 「……異界の者に神の道は遠い。

  だが、王の命により加護の名目は与えよう。形式だけは整える」


 形式だけ。

 その言葉に込められた軽蔑を、ライルは聞き逃さなかった。


◇◇◇


 儀式が終わり、教会を出た後。

 ミナはうつむきながら歩いていた。

 「……ごめんなさい。私、失敗しちゃいましたね」

 「いいえ。あれは、あなたらしい答えでした」

 「でも、神様を信じない勇者なんて、変ですよね」

 「信じる対象が違うだけです。

  あなたは人を信じている。それで十分でしょう」


 ミナは顔を上げ、ライルを見た。

 「……ライルさんは、信じてるんですか? 神様」

 「昔は、信じていました」

 「今は?」

 「今は――目の前の現実だけです」


 静かな風が二人の間を抜けた。

 街の鐘が鳴り、午後の光が白い壁を照らす。


 ミナが小さく笑った。

 「……なんか、似てますね、私たち」

 「どこがです?」

 「信じるのが下手なところ」


 ライルも、ほんの少しだけ笑った。

 「そうかもしれませんね」


 その笑いは短く、けれど温かかった。

 信仰を失った世界で、二人だけが互いを“信じる”――

 それがこの旅の、最初の“本当の加護”なのかもしれなかった。

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