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今回内容が思いつかず短いです(›´ω`‹ )
もっと内容を盛れるようになりたい
短い2話を昼夜で投稿します
北方行きの出発を翌日に控えた早朝。
王都セリオンの中心にそびえる白亜の聖堂は、まだ薄明の光に包まれていた。
その尖塔は雲を突き刺すほど高く、まるで天と地をつなぐ柱のようだ。
今日、勇者一行はここで“聖光の祝福”を受ける。
勇者に神の加護を授け、旅の無事を祈る――それが王国の伝統儀式であった。
ライルは早めに到着していた。
信者たちが祈りを捧げる中、白衣の神官が静かに通路を歩く。
香の匂いが鼻をくすぐり、光の差すステンドグラスが床に七色の影を描いていた。
だが、その神聖さの裏に、彼は微かな違和感を覚えていた。
――まるで“信仰”ではなく、“支配”の匂いだ。
◇◇◇
やがて、ミナが入ってきた。
純白の礼装に身を包み、髪には銀の飾り。
いつもの軽い口調も影を潜め、やや緊張した様子で辺りを見回している。
「わあ……きれい。まるで美術館みたい」
「勇者様、“美術館”とは?」
「えっと……綺麗な絵とか飾ってあるところです」
「なるほど。こちらでは祈りを飾る場所ですね」
ミナはステンドグラスを見上げ、光に手をかざした。
その仕草は無邪気で、けれど神官たちはどこか距離を取るように見ていた。
「……なんか、歓迎されてない気がします」
「勇者様が“神の外”から来た存在だからでしょう」
「外って、異世界ってことですか?」
「はい。彼らにとっては、あなたは“神の意図を乱す者”でもある」
ミナは小さく息をのんだ。
その言葉が意味するのは、祝福の裏にある“警戒”だった。
◇◇◇
間もなく、典礼が始まった。
祭壇に立つのは、教皇代理の高位神官エルマン。
白い法衣に金糸の刺繍。穏やかな微笑みを浮かべながらも、その眼光は鋭い。
「勇者ミナ殿。異界より来たりし光の子よ。
神の名において、汝に加護と指導を与えん」
荘厳な声が響く。
だが“指導”という言葉に、ライルは眉をひそめた。
ミナは静かに跪き、両手を組む。
神官たちが詠唱を始め、聖水が彼女の頭上に注がれた。
柔らかな光が溢れ、空気が震える。
祝福の儀は成功――のはずだった。
だが、次の瞬間。
「……っ!」
ミナの体から、淡い青の光が弾けた。
祭壇の上の聖水が一瞬にして蒸発し、空気が揺らぐ。
神官たちがざわめく。
「な、なんという……! 神の加護が拒絶を……?」
「勇者様が、拒まれた……?」
ミナは戸惑い、ライルが即座に前へ出た。
「落ち着け。魔力の反応だ。拒絶ではなく、共鳴している」
「共鳴……?」
彼は腰の道具袋から魔力測定器を取り出し、光の波を分析した。
「聖属性と異界系の魔力が干渉してる。……制御不能ではない」
エルマン神官の顔が歪む。
「勇者殿。あなたの力は確かに神より授けられたものか?」
「え? えっと……神様に会ったことはないですけど」
「では、あなたは“神の使い”ではないと?」
「わ、わかんないです。たぶん、違うと思います……」
会場が凍りついた。
信者たちがざわめき、何人かは十字を切る。
異界の勇者が、神の加護を否定した――そう受け取られたのだ。
ライルは前に出て、ミナを庇うように立った。
「誤解です。勇者様は信仰の対象を知らないだけ。信仰を否定したわけではありません」
「では、改めて信を問う。勇者殿、この地を導く神“セレス”を信じますか?」
ミナは黙り込んだ。
信じる――その言葉を、彼女は軽く使うことができなかった。
自分の世界では“神”は概念であって、信仰の対象ではない。
ここで下手に肯定すれば、嘘をつくことになる。
沈黙の数秒が、永遠のように長く感じられた。
やがてミナは小さく言った。
「……信じる、というより、感じたいです」
「感じる?」
「この世界の人たちが信じてるなら、その“想い”を知りたい。
神様が本当にいるのか、ちゃんと見てみたいんです」
エルマンの眉がわずかに動いた。
その表情には驚きと、どこか侮蔑にも似た色が混じっている。
「未熟な答えだ」
「未熟ですが、誠実でもあります」ライルがすかさず言った。
「嘘の信仰を口にするより、真実の探求を選ぶ。それが勇者様です」
神官はしばらく沈黙し、やがて冷ややかに言い放つ。
「……異界の者に神の道は遠い。
だが、王の命により加護の名目は与えよう。形式だけは整える」
形式だけ。
その言葉に込められた軽蔑を、ライルは聞き逃さなかった。
◇◇◇
儀式が終わり、教会を出た後。
ミナはうつむきながら歩いていた。
「……ごめんなさい。私、失敗しちゃいましたね」
「いいえ。あれは、あなたらしい答えでした」
「でも、神様を信じない勇者なんて、変ですよね」
「信じる対象が違うだけです。
あなたは人を信じている。それで十分でしょう」
ミナは顔を上げ、ライルを見た。
「……ライルさんは、信じてるんですか? 神様」
「昔は、信じていました」
「今は?」
「今は――目の前の現実だけです」
静かな風が二人の間を抜けた。
街の鐘が鳴り、午後の光が白い壁を照らす。
ミナが小さく笑った。
「……なんか、似てますね、私たち」
「どこがです?」
「信じるのが下手なところ」
ライルも、ほんの少しだけ笑った。
「そうかもしれませんね」
その笑いは短く、けれど温かかった。
信仰を失った世界で、二人だけが互いを“信じる”――
それがこの旅の、最初の“本当の加護”なのかもしれなかった。




