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光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

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 分岐域を完全に抜けてから、半日ほどが経っていた。


 空は安定し、地形にも歪みはない。

 だが、誰もが理解していた。それは「安全」になったからではない。


 通過されたからだ。


 リュミエは歩きながら、胸に手を当てていた。


(……静か……)


(でも……何も起きていないわけじゃない……)


 眠っていた光は、まだ目覚めていない。

 それでも、完全な沈黙ではなく、微かな鼓動だけが返ってくる。


 深く、奥で。まるで次に使われる“理由”を待っているかのように。


 ライルは、隊列の少し前を歩いていた。


 視線は常に周囲へ。

 だが、その意識の一部は、確実に後ろへ向いている。


(分岐域で終わるなら)


(“回収者”はあそこで退かなかった)


 それは敗走ではなかった。判断による撤退。


 つまり条件が整っていないと判断されたということ。


 ゼクスが、ふと口を開いた。


「なあ」


「次に来るのはどんな連中だと思う?」


 その問いに、誰もすぐには答えなかった。


 リーネが、慎重に言葉を選ぶ。


「確実なのは無秩序な存在ではないということです。」


「観測し、測り、判断する」


「光そのものよりも“運用”を見ています」


 ルアナが、不安そうに眉を寄せる。


「つまり次は」


 リーネは、リュミエを見る。


「あなた個人ではなく、あなたたちが対象になる可能性が高い」


 その言葉に、空気がわずかに重くなった。


(私だけじゃなくて皆も)


 リュミエは、無意識にエアルの手を握る。


 エアルは何も言わず、ぎゅっと握り返した。


 ライルは、その様子を見て、静かに口を開く。


「それなら私の判断は間違っていなかった」


 ゼクスが、ちらりと彼を見る。


「盾になるってやつか」


「ええ」


 ライルは、淡々と続ける。


「光を使う者が前に立ち続ければ必ず消耗する」


「ならば光の使われ方を変える必要がある」


 リュミエは、歩みを止めた。


「ライルさん」


 彼は、振り返る。


 リュミエは、少しだけ迷ってから、言葉を選んだ。


「私次も前に立つと思う」


 それは宣言ではない。

 覚悟の確認だった。


「でも」


 視線を上げる。


「前に立つ“順番”は私一人じゃなくていい」


 ライルの目が、わずかに揺れた。


 そして静かに、頷く。


「それでいい」


 その瞬間。


 胸の奥で、眠っていた光がほんの一瞬、確かに応えた。


(光も聞いてた、私が独りじゃないって)


 エアルが、そっと口を開く。


「リュミエ」


「ぼく」


 言葉を探すように、一度息を吸う。


「またこわくなると思う。でも」


 小さな手が、リュミエの指を掴む。


「にげない」


 リュミエは、静かに微笑んだ。


「うん」


「それでいい」


 リーネが、地図を見ながら告げる。


「この先に中規模の街があります」


「分岐域を越えた者たちが、最初に辿り着く場所です」


 ゼクスが、鼻で笑う。


「歓迎されねぇ気もするな」


「可能性は高い」


 リーネは否定しない。


「“境界を越えた存在”は、どこでも注視されます」


 ライルはゆっくりと息を吸い、背負い袋の位置を直す。


 いつもと同じ重さ。

 だがそこに込められた意味は、確実に変わっていた。


 光をつなぐ者。


 光を守る者。


 そして光を使わせない判断をする者。


 ここでの終わりは、派手な戦いでも、明確な勝利でもない。


 だが確実に「次へ進む準備」が整いつつあった。


 遠くに、街影が見え始める。


 次に来るものは、影か、光か、あるいは――。


 それを決めるのは、もう“個人の力”ではない。



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