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光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

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(´・ω・`)インフルでダウンしてました…

今日から再開です

静かな朝の光が、外界の村エルネアを柔らかく包んでいた。


夜明けの霧がゆっくりと晴れていくその中で、ミナ――いや、今はもう“リュミエ”と呼ばれる少女は、

湖の岸に静かに立っていた。


風が頬を撫で、髪を揺らす。

その動きのひとつひとつが、昨日までとはまるで違う世界のように感じられた。


胸の光は穏やかに、まるで呼吸をしているかのように淡く輝いている。


(……私の中にあるこの光……もう、怖くない……

 痛くもない……

 ただ、あたたかくて……静かで……)


胸に手を当てた瞬間、かすかに脈動が返ってきた。


まるで、“ここにいる”と応えてくれているようだった。


背後から、聞き慣れた穏やかな声がした。


「ミナ――いや、リュミエ。

 もう……呼び方を変えた方がいいんですよね」


振り返ると、ライルが立っていた。


その表情はいつもより柔らかく、けれどどこか慎重でもある。


ミナ――リュミエは、少しだけ照れたように笑った。


「うん……

 あの精霊さんにそう呼ばれたの。

 “光をつなぐ者”――それが、私の本当の名前だって……」


ライルは小さく頷く。


「リュミエ……

 良い名です。あなたに、とても似合っている」


その言葉に胸が熱くなる。

“似合っている”――ただの称賛なのに、なぜだか涙が滲みそうだった。


(ライルさんが言うと……すごく、安心する……

 どんなに怖いことがあっても、この人が隣にいれば……)


けれど同時に、胸の奥に小さな不安が芽を出す。


(でも……これからどうすればいいんだろう……

 私は“つなぐ光”って言われたけど……

 それって、どうすればいいの……?)


そんな彼女の表情を察したのか、ライルは静かに続けた。


「外界核で何があったのか……

 あなたが“光の名”を授かったということ以外、私たちには何も見えませんでした。

 リュミエ……

 あの場所で、何があったのですか?」


リュミエは胸の前で指を組み、目を閉じた。


光の海、優しい声、そして自分の名前を告げた精霊の姿。

全てが昨日のことのように鮮明に思い出せる。


「……あの光は、“外界核”だった。

 この世界の心臓で、外界の魔素や命をすべて繋げている存在。

 私の胸の光は……その“欠片”だったんだって」


リーネが驚いたように息を呑んだ。


「……外界核の欠片……?

 それは……存在そのものが“奇跡”です……!」


ルアナも目を輝かせてリュミエへ詰め寄る。


「すごい!じゃあ、リュミエは外界と“おそろいの光”を持ってるんだね!」


ゼクスが腕を組み、真剣な表情で口を開く。


「つまり……あんたが光を使うたび、外界核が反応するってことか。

 下手に暴れれば世界がひっくり返るな」


リュミエは苦笑いを浮かべた。


「そんな大げさなことはできないよ。

 私はただ……“つなぐ光”なんだって。

 戦うためじゃなくて……

 人と人、世界と世界を“つなぐ”ためにある光」


ライルが小さく微笑む。


「――それが、リュミエの役割なのですね」


その声を聞いた瞬間、胸が強く鳴った。


リュミエはふと空を見上げる。


空は青く、雲は薄く、光は優しい。

昨日まで“逃げるために見る空”だったはずなのに、

今は“歩くために見上げる空”に変わっていた。


(外界に来てから……たくさんのことがあった。

 怖かった。痛かった。

 でも今は――

 ようやく、“ここにいていい”って思える……)


その時、大樹の枝がかすかに揺れ、葉が鳴った。


ルアナが顔を上げる。


「あ、聞こえる……!大樹が呼んでる!」


リュミエは胸の光に手を添えた。


(大樹が……?)


“リュミエ。

 目覚めたのなら、来なさい”


心に直接、声が響く。


ミナの瞳がわずかに震えた。


「……また、声が……

 大樹が……私を呼んでる」


ライルが頷く。


「行きましょう。

 この声が“導き”なら、無視はできません」


ルアナとゼクス、リーネも頷く。


一行は、再び大樹の根元へと向かう。


朝の光の中、リュミエの背に映る影は以前よりも強く、

そして確かに“勇者”のそれではなく、

“光を抱く者”の姿へと変わっていた。


大樹の根元は、朝の光を受けて柔らかな金色に輝いていた。


いつもと変わらないようで、しかしどこか違う――

そんな気配が、風と一緒に漂っている。


リュミエは胸に手を添えたまま、その巨大な幹を見上げた。


胸の光は静かに、しかしはっきりと脈を打っている。


(大樹さん……私を呼んでる……

 どうして……?

 外界核のところで“名前”をもらったばかりなのに……

 まだ……何かあるの……?)


胸の奥から、温かい“応え”が返ってくる。


“来なさい”


その声は優しくて、逃げる必要はないと告げているようだった。


リュミエが一歩踏み出そうとしたそのとき――

ライルがそっと肩に手を置いた。


「リュミエ。

 怖くはありませんか?」


その問いかけに、胸が少し震えた。


(怖い……

 正直……すごく怖い……

 でも……)


リュミエは小さく首を振り、微笑もうとした。


「ううん……

 怖いけど……

 それ以上に“知りたい”の……

 この光が……私が……

 どんなふうに世界とつながってるのか……」


ライルはその瞳を見つめ、穏やかに頷く。


「わかりました。

 あなたが進むなら、私たちも隣にいます」


ゼクスが肩を回して笑う。


「まぁ、なんだ。ここまで来て今さら帰れねぇよな。

 大樹が呼ぶってんなら、行くしかねぇ。

 世界がミナ――いや、リュミエを求めてるんだ」


リュミエはその名前の変化に少し胸が熱くなる。


(リュミエ……

 まだ慣れないけど……

 こうやって呼ばれるたびに……

 私、本当にこの世界の一部なんだって思える……)


ルアナは手を握り、にっこり笑った。


「大丈夫だよ!

 リュミエの光は“優しい光”だから!

 大樹だってきっとそれが嬉しいんだよ!」


リーネは静かに付け加える。


「大樹が再び呼びかけるのは……

 あなたの光が“新たな段階”に入ったからかもしれません。

 それを確かめるためにも……行くべきでしょう」


リュミエは仲間たちに小さく頷き、深呼吸を一つ。


そして、大樹の根へ向かって歩き出した。



---


 大樹の根がゆっくりと動き、彼女を迎えるように道を開く。


まるで大樹そのものが意志を持ち、

リュミエを新たな場所へ誘っているかのようだった。


リュミエが根に触れた瞬間――

胸の光がふわりと広がる。


“リュミエ”


また心へ響く声。


以前よりも鮮明で、輪郭すら感じられるほど近い。


リュミエはそっと胸に手を置きながら答える。


「……はい……

 大樹さん……私、来ました……」


“あなたが光の名を受け取ったこと……

 私は深く喜んでいます”


その言葉に胸が温かくなる。


“しかし――

 光の名を持った者には使命がある”


リュミエは息を呑む。


(使命……?

 私に……?)


声は続く。


“心配しないでいい。

 あなたに戦いを強いるものではない”


リュミエの身体から緊張がほどけていく。


“あなたの光は“つなぐ光”。

 しかし、それを扱うためには……

 もう一つ知るべきことがある”


「知ること……?」


リュミエは小さく問い返す。


胸の光がリュミエの感情に呼応して揺れた。


“あなたがつなぐのは――

 人と世界だけではない”


リュミエの瞳が震える。


(人と世界だけじゃない……?

 じゃあ……何を……?)


大樹はその答えを、まるでそっと手渡すように告げた。


“あなたは、“光を持つ者同士”をつなぐ存在”


リュミエの胸が大きく跳ねる。


「光を……持つ者同士……?」


大樹の声は続く。


“この世界には、生まれながらに光を宿す者がいる。

 しかし、その光は孤独になりやすい。

 理解されず、恐れられ、離れ離れになることも多い”


リュミエは自分の過去を思い出す。


胸の光を隠して過ごした日々。

勇者として酷使され、光を“危険なもの”と扱われた日々。


(……同じなんだ……

 私だけじゃ……なかった……)


大樹は優しい声で続ける。


“あなたは本来、そうした“光たち”をつなげるための存在。

 彼らの孤独を照らし、未来へ導く……

 それが、リュミエに与えられた役目”


リュミエは胸に手を置き、涙がこぼれた。


「私……そんな大きなこと……できるかな……」


大樹は答える。


“できる。

 あなたはもう――光に選ばれたのだから”


胸の光がやわらかく、しかし確信を持った輝きを返す。


(私……

 できるかな……

 でも……もしできるなら……

 誰かの未来をつなげるなら……)


リュミエは顔を上げ、強い意志を宿した表情で言った。


「……やってみたい……

 私にできること……全部……」


大樹の葉が大きく揺れ、祝福の風が吹き抜ける。


“では――行きなさい、リュミエ。

 あなたを必要とする光が、この外界のどこかで目覚め始めている”


リュミエは胸に手を当て、深く息を吸い込んだ。


「……うん……行きます……!」


外界の大樹の根元から少し離れた場所で、風が草原を撫でるように流れていた。


 村エルネアの空は青く澄み、薄い雲がゆっくりと流れていく。


 その下で、リュミエは胸に手を当てながら、遠くの地平線をじっと見つめていた。


(大樹さんは言ってた……この外界のどこかで、“光を持つ誰か”が目覚めつつあるって……)


(その光は、きっと……私と同じように、怖くて、不安で……でも、助けを求めてる……)


 胸の内側で、光が細かく震える。


 それは否定ではなく、静かな肯定の震えだった。


 リュミエは小さく息を吐く。


「……行かなきゃ……」


 かすれた声で呟いたとき、背後から軽い足音が近づいてきた。


 振り返る前に、もう誰なのか分かっている。


「リュミエ」


 名前を呼ぶ声は、穏やかで、どこか決意を含んでいた。


 振り返ると、ライルが立っていた。


 優しい眼差しでこちらを見つめ、その後ろにはゼクスとリーネ、そしてルアナも続いている。


 リュミエは胸に添えた手を少し強く握りしめた。


「……みんな」


 ライルが一歩近づき、短く問う。


「出発の準備はできていますか」


 その問いかけに、リュミエの胸が少しだけ跳ねた。


(“出発”……そうだ……これはもう、ただ流されているだけの旅じゃない……)


(ここからは……私が選んで、歩く道なんだ……)


 不安と期待が入り混じる中で、リュミエは小さく頷いた。


「うん……行きたい……行かなきゃって……胸の光がそう言ってるから」


 胸の内側で、光が静かに明滅する。


 ライルはその揺らぎを確かめるように見つめ、柔らかく微笑んだ。


「では行きましょう。“新たな光”を繋ぎに」


 その一言に、リュミエの胸の奥がじんわりと温かくなる。


(“繋ぎに”……そうだ……私の役目は、戦うことじゃない……)


(光を、心を、未来を……つなぐこと……)


 ゼクスが空を見上げて腕を回し、大げさに肩を鳴らした。


「にしても、“光持ち捜索の旅”か……名前だけ聞くと平和そうなのになぁ。どうせまた面倒ごとに巻き込まれるんだろうな」


 呆れたように言いつつ、その声にどこか楽しげな色が混じっている。


 リーネが冷静に言葉を重ねる。


「大樹の示した方向からすると、次の目的地は“風裂きの谷”の向こう、“白霧の街”付近と思われます。外界の中でも、少し特殊な場所です」


 ルアナが目を輝かせる。


「白霧の街!あそこね、霧が夜になると光るの!すっごく綺麗なんだよ!でもちょっと迷いやすいから、気をつけないと“ぐるぐる同じ所”を歩いちゃうんだけど」


 ゼクスが肩をすくめる。


「霧の街に迷子か。“光持ちを探しに来たら、自分たちが消えました”ってオチは勘弁な」


 その軽口に、リュミエは少しだけ笑ってしまう。


 笑える自分がいることが、なんだか嬉しかった。


(王都にいた頃の私は……笑うときでさえ、胸のどこかがずっと重くて……楽しいって思うたびに、光が邪魔をするんじゃないかって怖くて……)


(でも今は……胸の光が、楽しいことを否定しない……)


(むしろ一緒に笑ってくれてるみたい……)


 リュミエが胸にそっと手を当てると、光は確かに、柔らかく揺れていた。


 ライルが皆を見渡し、簡潔に確認を取る。


「では向かうのは“白霧の街”。目的は“大樹が示した、新たな光の所在の確認”。異論のある方は?」


 ゼクスが即座に片手を挙げる。


「異論はねぇけど、要望ならある。途中で飯はしっかり食わせろよ」


 リーネが呆れたように瞳を細めた。


「ゼクスさん……そこだけはぶれないんですね」


 ルアナは笑いながら手を挙げた。


「私は大賛成!白霧の街、大好き!あ、でもね、あそこ人の心が“少しだけ見えやすくなる”場所だから……リュミエ、ちょっとだけ疲れるかも」


 リュミエは首をかしげる。


「……人の心が、見えやすくなる……?」


 リーネが補足する。


「白霧の街周辺は、外界核の力が濃く残っている地点の一つです。その影響で、“心の形”が霧として浮かび上がることがあります。普通の人には何となくしかわかりませんが、“光持ち”には色濃く見える場合も」


 リュミエの胸が小さく震えた。


(心の形が……見える……?もしそんな場所で“光を持つ誰か”と出会ったら……)


(その人の不安や、孤独や、痛みまで――全部、見えてしまうのかもしれない……)


 想像しただけで、胸の奥にじわりと重さが広がる。


 自分が味わってきたものと重なる気配。


 それに向き合うのは、決して楽なことではない。


 それでも――胸の光は、逃げるように縮こまったりはしなかった。


 むしろ、“行こう”と言うように、脈を強くする。


 リュミエは自分の胸に視線を落とし、小さく笑った。


「大丈夫……怖いけど……その人の光に、ちゃんと触れてみたい……」


 ライルはその決意を見て、わずかに目を細めた。


「リュミエ。あなたは……本当に、強くなりましたね」


 その言葉に、リュミエの胸が熱くなる。


(“強くなった”……私、ずっと弱いままだと思ってた……勇者って呼ばれていても、中身はただ怖がっているだけで……)


(でも今は……少しだけ、本当に変われたのかな……)


 そう思った瞬間、胸の光が優しく揺れた。


 やがて一行は、大樹と村の人々に別れを告げ、外界の新たな道へと歩き出した。


 大樹の根元には、エルネアの長老と村人たちが立っている。


 長老は静かに目を閉じ、大樹に手を添えていた。


「光を抱く子よ。あなたはもう、この外界の一部です。行きなさい。あなたの光を必要とする者のもとへ」


 その声に背中を押されながら、リュミエは深く頭を下げた。


「……はい。行ってきます……!」


 村を離れ、草原へと踏み出した瞬間――胸の光が、ふと別の方向を指し示すように揺れた。


 リュミエは足を止め、ふり向く。


 そこには、遠くかすんだ空と地平線が見えるだけだった。


 けれど、胸の奥がざわりとする。


(……今の……なに……?誰かの“気配”……?白霧の街とは、違う方向……?)


 ほんの一瞬だった。


 次の脈動では、また白霧の街の方角へと感覚が戻っていく。


 リュミエは小さく眉を寄せた。


(もしかして、光を持つ人は一人だけじゃない……?世界のいろんな場所で……少しずつ、目を覚ましている……?)


 考えれば考えるほど、不安と同時に胸の高鳴りが大きくなる。


 ライルが横からそっと声をかけた。


「……何か、感じましたか」


 嘘をつく必要は、もうない。


 リュミエは小さく頷き、素直に言った。


「うん……今、一瞬だけ……違う方向に光が震えたの……まるで、“こっちにもいるよ”って教えてくれたみたいに……」


 ゼクスが小さく口笛を吹いた。


「へぇ……本格的に“光持ちレーダー”みてぇになってきたな」


 リーネは真剣な表情で言葉を重ねる。


「つまり、こういうことです。“光を持つ者”は、一人ではない。そして――それだけこの世界は、“悲鳴を上げている”のかもしれない」


 リュミエの胸が、きゅっと絞られる。


(悲鳴……そうだ……私だって、胸の光が暴れ出すとき、心の中でいつも誰かに助けを求めてた……“誰か……ここにいて”って……)


(今、どこかで、その声を上げている人がいるなら……)


 胸の光が、はっきりと強く明滅した。


 まるで、「聞こえたね」と囁いてくるように。


 リュミエは前を向き、大きく一歩を踏み出した。


「まずは……白霧の街へ。そこにいる“光”に、会いに行こう……」


 風が吹き、草原が道を拓くように揺れる。


 外界の空は高く広がり、その下を歩くリュミエの影は、確かに“ひとりの少女”でありながら――同時に“光をつなぐリュミエ”としての第一歩を、静かに踏みしめていた。

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