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光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

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光の湖は、まるで時間そのものが止まったかのような静寂に包まれていた。


湖面には風ひとつ吹かず、ただ淡い光が揺らぎ、水の上に星の瞬きを映し続けている。


ミナは湖のほとりで立ち尽くし、胸に手を当てた。


胸の光は、これまでにないほど強く脈動している。


(こんなの……初めて……

 胸が……強く、痛いくらいに……

 でも……怖くはない……

 どうして……?)


その脈動は痛みではなく、

“ここに来た意味を思い出せ”と促しているようだった。


ゼクスが湖面を覗き込み、眉をしかめる。


「まるで光を溜め込んでるみてぇだな……

 これ……本当に湖か?」


リーネは震える声で答える。


「湖ではありますが……外界核の魔力が水に溶けすぎて……

 もはや魔力そのものと言ってもいい状態です」


ルアナが小さく呟く。


「ミナ……あそこにいるの……きっとあなたを呼んでる存在だよ……」


ミナは胸の光を押さえ、湖中央に浮かぶ光の塊を見つめた。


(あれ……光が……私の胸と同じリズムで……

 どうして……?

 私はこの世界の人間じゃないのに……

 本当に……呼ばれてる……?)


湖の中心の光は、花の蕾のように見えるが、

ゆっくりと“呼吸”をしているようにも見える。


内側から伸びる光の脈が、湖全域へ広がり、

また戻ってくる――世界の心臓のように。


ライルはミナの横に立ち、そっと声をかけた。


「ミナ。

 あなたの胸の光は……あの光と同じ波を放っています。

 この反応は……偶然ではありません」


ミナは息を呑む。


「私の……光と……同じ……?」


リーネが補足する。


「外界核は、外界そのものの根源。

 光を持つ者は全員……外界核の影響下にあります。

 ですが……ミナ様ほど強く反応する例は前代未聞です」


ミナは湖のほとりに膝をつく。


心臓の鼓動と光の脈動が重なり、

身体の内側から引っ張られるような感覚が、波のように押し寄せてくる。


「はぁ……っ……

 なんで……こんな……」


ライルが肩を支える。


「無理をしないでください。

 反応が強すぎる……少し休んで――」


「違うの……

 苦しいわけじゃないの……!」


ミナは震える声で言う。


「近づくほど……胸が軽くなる……

 あそこに……触れたい……

 触れたら……何か……

 大事なものを思い出せる気がする……!」


光の道は湖の端で途切れている。


だが、湖面に小さな光の足場が、ぽつり、ぽつりと生まれ始めていた。


ゼクスが目を見張る。


「おい……湖の上に……道ができてるぞ」


リーネが魔素の流れを見て驚きの声をあげる。


「ミナ様の光に反応して……外界核が……道を作って……!?

 こんな現象……記録にも残っていません……!」


湖の上の光の足場は、まるでミナを迎え入れるための階段のように続いていく。


ミナの胸が強く明滅した。


(行かなきゃ……

 行ける……

 あの光が……私を知ってる……!)


ミナは震える足で立ち上がり、一歩、二歩と足を前へ出す。


ルアナが慌てて叫ぶ。


「ミナ!危ないよ!湖は魔力が強いよ!普通の人なら沈んじゃう!」


ミナは振り返って微笑んだ。


「大丈夫……

 あの光が……“来ていい”って言ってるの……

 わかるの……胸が……そう伝えてる……」


ライルがミナの手を取り、静かに言った。


「……行くのですね」


ミナは強く頷く。


「うん……行きたい……

 私……自分の光がどこから来たのか知りたい……

 ちゃんと向き合いたい……!」


その決意に呼応し、光の道がさらに伸びる。


湖の中心の光の蕾が、ミナの存在を確かめるように明滅する。


胸の光も応える。


まるで二つの光が再会を喜ぶように。


(あなたは……誰……?

 どうして私を呼ぶの……?

 私の光は……あなたと同じなの……?)


ミナの問いに、湖の光が震えて応えた。


“来なさい”

“思い出しなさい”

“光は……帰る場所を知っている”


ミナは深く息を吸い、光の道へ踏み出す。


足元の光がふわりと揺れ、落ちることなくミナを支えた。


ライルたちも後を追おうとしたが――

ミナを包む光が、優しく彼らを遮るように広がった。


リーネが声を失う。


「これは……“選ばれた者のみ”に許される領域……

 ミナ様しか……入れない……!」


ライルは拳を握りしめる。


「……ミナ。

 どうか……無事で……」


ミナは振り返り、微笑んだ。


「ありがとう……

 みんながいてくれたから……ここまで来れたよ……

 大丈夫だよ……行ってくる……!」


ミナは光の階段を進み、湖の中心へと歩いていく。


外界核の光が、閉じた蕾の形を揺らしながら、

まるでミナを“待ち続けた”かのように明滅していた。


胸の光は、同じリズムで脈動している。


ミナはその光へと手を伸ばした。


(教えて……

 私は……なんなの……?

 私の光は……どこから来たの……?

 どうして……私を選んだの……?)


ミナの指先が光の蕾に触れた瞬間――


外界深部に、眩い光が爆ぜた。


光が爆ぜた瞬間、ミナの視界は白一色に染まった。


眩しさはあるのに痛くはない。

むしろ、胸の奥に染み込むような優しい温度だけが満ちていく。


(……ここ……どこ……?

 足元……ない……

 でも、落ちる感じがしない……)


まるで空気の中ではなく、光そのものの中に浮かんでいるようだった。


ミナはそっと目を開く。


そこは湖でも森でもなく、

ただ限りなく広がる光の海だった。


色は白と金が混ざり合い、揺らめきながら漂っている。


ミナは胸を押さえ、小さく息を吸った。


胸の光が強く、しかし苦しくない程度に明滅している。


(すごい……

 胸がこんなに……静かに喜んでる……

 私……ここに来たかったんだ……)


足も地面もないはずなのに、

不思議と立っていられる。


“ようこそ”


声がした。


耳からではなく、心に直接響く声。


ミナはハッとして辺りを見回した。


声は柔らかく、どこか懐かしい響きを持っていた。


(この声……誰?

 大樹とは違う……もっと……近い……)


光の海の中心に、淡い金色が凝縮し始めた。


粒が集まり、輪郭が生まれ、

やがて“人の形”へと変わっていく。


ミナは息を呑む。


光の中に現れたのは――

人の姿をした“光の精霊”だった。


性別も年齢も判別できない。

だがその存在は、ミナにとって“恐怖”よりも“安心”を強く感じさせた。


なぜなら――

胸の光が“帰ってきた”ように震えたからだ。


ミナは思わず一歩踏み出す。


「あなたが……呼んでたの……?」


光の精霊はミナを見つめ、静かに頷いた。


“そう。

 あなたを呼んだのは私。

 正確には……あなたの光を通して、あなた自身がここへ来たのです”


ミナは胸を押さえる。


「わ、私の……光……?」


“あなたの胸に宿る光は……

 外界核である私の、欠片”


ミナは目を大きく見開いた。


(欠片……?

 じゃあ……私の光は……)


精霊は穏やかな声で続ける。


“あなたはこの世界の民ではありません。

 しかし……あなたの中の光は、この世界が授けたもの”


ミナの心が大きく揺れた。


(授けた……?

 私が……まだ向こうの世界にいた頃に……?

 どうして……?)


ミナは震える声で尋ねる。


「どうして……私なんですか……?

 どうして私に光を……?」


光の精霊はゆっくり近づき、ミナの胸へ手をかざした。


“あなたは“境界を越えられる素質”を持っていた。

 あなたの心は、閉じ込められた光ではなく

 “外へ開かれた光”だった”


ミナは息を呑む。


(外へ……開かれた光……

 そんなこと……考えたこともなかった……)


精霊は続ける。


“あなたは幼い頃から優しい心で他者に手を伸ばし、

 誰かを救うたびに光があなたの中に流れ込んでいった”


ミナは驚いて目を見開く。


「私……知らなかった……

 助けたいって思っただけで……

 そんな……」


“光は“与える者”へ流れます。

 あなたはそういう器だったのです”


ミナの胸の奥が温かくなり、涙が自然とこぼれる。


(知らなかった……

 ずっと私……普通の、どこにでもいる子だと思ってた……

 こんな……理由があったなんて……)


精霊はさらに言葉を続ける。


“王都の人間たちは、光の本質を恐れました。

 しかし外界はあなたを歓迎します。

 あなたに宿った光はもともと外界のもの……

 ここが、本来の居場所だから”


ミナは驚愕のあまり足が震えた。


(外界が……私の居場所……

 私……帰ってきた……の……?)


胸の光がやさしく肯定するように震えた。


精霊はミナへ手を差し伸べる。


“ミナ。

 あなたは光を持つ者。

 そしてこの世界の“未来”に選ばれた子”


ミナの心臓が大きく跳ねた。


(未来……?

 私が……?

 そんなの……無理……)


ミナは涙を浮かべながら首を振った。


「ちが……私は……

 勇者でも……救世主でも……ない……

 戦えないし……

 何もできない……!」


すると精霊は優しく微笑んだ。


“それで良いのです”


ミナは泣きそうな顔で精霊を見上げる。


“あなたは“戦うための光”ではありません。

 “つなぐ光”です”


ミナの呼吸が止まる。


(つなぐ……光……?)


精霊はミナの胸へ触れ、柔らかい金色の波紋を広げながら言った。


“あなたは、人と人、人と精霊、人と世界をつなぐ存在。

 あなたが誰かに寄り添う時、光は道をつくり、

 その者の未来を照らすでしょう”


ミナはその言葉が胸に刺さり、涙があふれた。


(私……そんなこと……できるの……?

 でも……もしできるなら……

 やってみたい……

 誰かの未来を照らせるなら……)


精霊は静かに告げる。


“あなたはもう、選びました。

 外界で生きるという決意こそが……

 あなたを“光の子”として完成させたのです”


ミナは胸を押さえ、震えながら言った。


「私……ここで生きたい……

 この光と……世界と……

 みんなと……

 一緒にいたい……」


精霊は満足そうに頷いた。


“ならば――受け取りなさい。

 あなたが本来持つべき“名”を”


ミナは目を見開く。


(……名……?

 私の……名前……?)


光の精霊はミナの胸へそっと触れた。


光が一気に溢れ、ミナの身体を包み込む。


“あなたは――”


“光をつなぐリュミエ


その名が心に刻まれた瞬間――

ミナの胸の光が、今までにない柔らかさと強さで輝いた。


ミナは涙をこぼしながら、その光を受け入れた。


(私が……

 この世界に……

 必要とされてる……)


やがて光が収まり、精霊はゆっくりと消え始めた。


“行きなさい、リュミエ。

 あなたを待つ人たちの元へ”


ミナは頷き、深く息を吸った。


光の海が消え、景色がゆっくりと色を取り戻していく。


ミナは湖の上に立っていた。


岸でライルたちが、心配そうに見つめている。


ミナは胸を押さえ、静かに、しかし確かな声で言った。


「――ただいま」

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