表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/46

28

外界の大樹に守られた夜が明け、村は柔らかな朝日に包まれていた。


光花は夜の輝きを閉じ、薄い露を纏って静かに揺れている。


ミナは大樹の根元に腰掛け、胸の光を撫でながら朝の風を吸い込んだ。


「……外界の朝って……気持ちいい……」


胸の光も柔らかく明滅し、昨夜の恐怖が嘘のように落ち着いている。


ライルが隣に座って、少しだけ微笑んだ。


「眠れましたか?」


ミナは小さく頷く。


「うん……大樹の中って、なんか……安心して眠れた。

 夢も……あったかかったよ」


ライルは胸に手を当てるミナを見て、穏やかな声で言った。


「ミナの光も……落ち着いていますね」


ミナはぱちりと瞬きをした。


「わかるの……?」


「ええ。

 昨日の光は“助けを求める”ように震えていましたが……

 今は……“ここにいたい”と穏やかに揺れています」


ミナは顔を赤くし、胸をそっと押さえた。


(ライルさん……そんなふうに……)


その時、ルアナが元気な声で走ってきた。


「ミナー!ライルー!朝ごはんできたよー!」


ゼクスも欠伸をしながらやってくる。


「外界の朝メシってやつも試してみるかー」


リーネは大樹に手を当てて魔素を読み取りながら言った。


「昨夜の大樹の反応……まだ少し余韻が残っています。

 ミナ様の光が……ここまで影響力を持つとは思いませんでした」


ミナは不安そうに胸を見下ろす。


「……影響しすぎ……だったりする……?」


ルアナが笑って手を振る。


「ちがうよ!

 大樹はね、“好きな人の光”じゃなきゃあんなに動かないんだよ?」


ミナは顔を真っ赤にした。


「す、好きって……!」


ライルは軽く咳払いをして話題を変える。


「黒鷲の隊員たちはどうなりましたか?」


ルアナは顎に手を当て、外を指差す。


「まだ村から離れたところで迷ってるみたい。

 大樹の結界が強すぎて、しばらくは近づけないよ」


ゼクスが満足げに笑う。


「なら安心だな。

 この村にいる限り、奴らは手も足も出ねぇってわけだ」


ミナは少しだけ息をつき、胸の光を見つめる。


(本当に……ここなら……大丈夫なんだ……

 こんな場所……あったんだ……)


その時、大樹の内部から風が吹いた。


ミナの胸の光がふわりと揺れ、

大樹の葉がかすかに揺れ響く。


ルアナが目を丸くする。


「……大樹がミナを呼んでる」


ミナは驚いて振り返る。


「えっ……また……?」


ライル、ゼクス、リーネも身構えたが、

大樹からは穏やかな風しか来ない。


リーネが静かに言った。


「昨夜のような“緊急”ではありません。

 これは……“伝えたいことがある”という反応です」


ミナは胸の光を押さえたまま、大樹の根元へ近づいた。


木肌に触れると、心に直接、声が触れた。


“ミナ”


ミナは小さく息を呑む。


(また……聞こえる……!)


“あなたの光は、この世界と繋がっている”


“あなたは……外界の子”


ミナの胸が強く脈打つ。


「外界の……子……?」


ライルと仲間たちは静かに見守っていた。


大樹の声は、さらに深くミナへ語りかける。


“あなたが持つ光は、王都のものではない”


“あなたが生きる場所は……ここ”


“境界を越えたのではない。

 本来の場所へ、戻っただけ”


ミナの瞳が揺れた。


(戻った……?

 わたしの……場所……?)


大樹の声は続く。


“光は自由であれ”


“そして――選びなさい”


ミナははっと顔を上げる。


「選ぶ……?」


ゼクスが眉をひそめる。


「選ぶ?何をだ?」


リーネが息を飲む。


「……もしかして……これからの“道”を……?」


ルアナがミナの手を握る。


「ミナ……大樹はね、自分の居場所を選べって言ってるんだよ」


ミナは胸に手を当て、深く息をした。


昨日、必死に逃げた王都。


その後に見た、外界の光。


この村の温かさ。


大樹の声。


ルアナの手の温もり。


そして――

ライルの支え。


ミナの光が、答えを探すように柔らかく揺れた。


(ここで……生きていいの……?選んでいいの……?怖い……でも……)


その時――

ミナの胸の光が、ひときわ強く輝いた。


大樹が揺れ、枝葉が光を返す。


ミナは胸に手を当てたまま、小さく呟いた。


「私……もう……逃げたくない……みんなと……この世界で……生きたい……」


ライルがそっとミナの肩に触れた。


「ミナ。それがあなたの“選ぶ道”なら……僕たちは、どこまでも支えます」


ミナの胸がまた光る。


その光は――決意の色だった。


ミナの胸の中で、光がゆっくりと脈打っていた。


その光は、昨夜の恐怖に揺れた弱々しい色とは違い、

まるで小さな心臓のように、

“生きる”と“願う”力を宿した確かな鼓動だった。


外界の大樹は、その光に呼応するように葉を揺らし、

枝の影が優しい揺れを描く。


ミナはぼんやりとその揺れを見つめながら、

胸の奥から込み上げてくる温かい感情に気づいていた。


(不思議……

 怖いことがあったばかりなのに……

 大樹のそばにいるだけで……心が落ち着く……

 どうしてだろう……)


胸の光が、まるで「ここにいて」と言うように揺れる。


ルアナはその変化を見て、目を輝かせた。


「ミナ……大樹が喜んでる……!

 ミナの光と、大樹の温度が同じになってるんだよ!」


ミナは驚きに胸を押さえる。


その形は、まるで心臓を抱くように、そっと包む形になってしまう。


リーネが静かに言う。


「この力の同調……外界の民でもめったに見ません。

 ミナ様の光……本当に“外界の子”として扱われ始めています」


ゼクスは大樹に寄りかかりながら、肩で笑う。


「つまりここはミナのホーム。

 俺たちもそのおこぼれで守ってもらえてる……ってわけだな」


ミナはその言葉に、胸がじんわりと熱くなる。


(守られてる……

 私が……?

 外界に……?

 こんなの……ありえないのに……

 でも……嬉しい……)


気づけば、頬が少し熱くなっていた。


そして――

ライルがそっとミナの隣に膝をついた。


その動作は静かで、派手でもないのに、

ミナの心に一番強く、優しく触れた。


「ミナ。

 あなたが選んだ場所なら……僕たちはどこにでも行きます」


ミナは息を呑んだ。


胸の奥で、光が跳ねるように揺れる。


(……そんなふうに言われたら……

 怖かった気持ちが、全部……溶けちゃう……)


目の奥が熱くなり、視界が潤む。


「……ライルさんが……いてくれるなら……

 私……もっと強くなれる……

 そう思えるの……」


言ってしまった瞬間、

一気に顔が熱くなった。


(わ、私……何言ってるの……!?

 でも……本当にそう思ったから……

 嘘じゃない……

 あ……恥ずかしい……)


ライルは優しく微笑んだ。


その微笑みは、ミナが初めて王都で見た冷たい人々の笑顔とは違い、

本物の温度を持つ微笑みだった。


ゼクスが茶化すように咳払いをした。


「うぃーっす。朝から甘い空気だなー。

 俺たちもいるの忘れんなよ?」


ミナは赤面し、視線をそらす。


「ち、違っ……!違うの……!」


ルアナが笑いながらミナの手を握った。


「ミナ。決めたなら……大樹に“言葉”で伝えなきゃだめだよ。

 心だけじゃなくて……言葉で伝えた時、大樹は本当に動くの」


ミナの心が大きく揺れた。


(言葉で……

 ちゃんと……?

 そんなこと……できるかな……

 でも……大樹は待ってくれてる……)


ミナはゆっくりと大樹に向き直った。


光が胸の奥から上り、喉の奥が熱くなる。


大樹の幹に手が触れた瞬間――

“ミナ”

心に声が流れ込んだ。


ミナの背中がびくりと震える。


(また……聞こえた……

 大樹……)


声は風のようであり、光のようであり、

優しいのに、底が見えないほど深かった。


“あなたの光は、この世界と繋がっている”

“あなたは……外界の子”


ミナの瞳が揺れる。


(外界の……子……?

 私……そんな……)


“選びなさい”

その一言が、胸に重く染み込んだ。


ミナは深く息を吸い、ゆっくり吐き出した。


肩が震え、膝が少しだけ力を失いそうになる。


(選ぶ……

 逃げるか……ここで生きるか……

 私が……選ぶ……)


怖かった。


でも――

それ以上に、今の光景を失いたくなかった。


ミナは大樹へ向かって、一歩前へ出る。


心の奥の震えを押し殺し、必死に言葉を搾り出した。


「大樹さん……ありがとう……

 私……この場所が好き……

 胸が苦しくなくて……

 光が……ここだと自由で……

 誰も怖がらなくて……

 優しくて……

 あったかくて……

 生きてていいって……

 そう思えるの……」


声が震える。


涙がこぼれそうになる。


でも――止めなかった。


「だから……私……

 ここで生きたい……!

 逃げるだけじゃなくて……

 みんなと一緒に……外界で……歩きたい……!」


その瞬間――

大樹が光で満たされた。


ミナは息を飲んだまま動けない。


光の粒が彼女の周りへ降り注ぎ、

頬に触れるたびに温かさが広がる。


ルアナが叫ぶ。


「すごい……!大樹が……ミナを“迎えてる”!!」


リーネは感動に震えていた。


「ここまで強い祝福は……外界の歴史でも珍しい……

 ミナ様は……外界そのものに認められたのです……!」


ゼクスは腕を組み、満足げに言う。


「よっしゃ。これでミナは正式に外界の子だな。

 もう王都の連中なんか怖くねぇ」


ミナの胸の光がさらに強く揺れ、

その中に“嬉しい”という感情が形になるように震えた。


(ここが……

 本当に……私の……居場所……)


ライルがそっとミナの肩へ触れた。


「ミナ。

 本当に……よく言えましたね。

 あなたの決意、僕たちも受け取りました」


ミナは涙をこぼしながら微笑む。


「うん……ありがとう……!


 私……怖かったけど……

 でも……みんながいて……

 外界が受け止めてくれて……

 大樹さんが背中を押してくれて……

 だから……言えたの……!」


その時――

大樹の奥に光の道が生まれた。


まるで精霊たちが踊るように揺れ、

遠くの外界深部まで続く“旅の入口”が現れていた。


リーネが息を呑む。


「大樹が……次の道を示している……

 ミナ様に……“進め”と言っているのです……!」


ゼクスが笑い、拳を鳴らす。


「なら行くしかねぇだろ。

 外界の奥なんて、わくわくしてくるな」


ルアナはミナの手を握り、瞳を輝かせる。


「ミナ!一緒にいこ!

 外界にはね……もっとすごい場所がいっぱいあるんだよ!」


ミナの胸にある光が応えるように跳ねた。


(行きたい……外界の先を……見てみたい……

 この光と……みんなと……)


ミナは大きく頷いた。


「うん……行こう……!

 私の光が行けって言ってるんだもん……!」


ライルは穏やかな笑みを浮かべたまま、

ミナの背にそっと手を添えた。


「では……ミナの選んだ未来へ。

 僕たちみんなで」


ミナの胸の光は――

決意と始まりの輝きをその形に宿し、

優しく、力強く、光り続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ