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光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

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外界の村エルネアは、黒鷲特務隊の侵入に強く反応し、大地と光花が生き物のように動き出していた。


ミナたちはルアナの先導で、大樹の裏手へと走り抜ける。


足元の根がまるで“道を作るように”動き、彼らを安全地帯へ導いていく。


ミナは胸を押さえながら息を切らす。


「はぁ……はぁ……胸が……熱い……!」


ライルが横でミナの背を支える。


「無理をしないでください。光が暴走しそうです……!」


ミナは涙目で首を振る。


「でも……守りたい……!村も……みんなも……!」


胸の光はミナの感情に呼応し、どんどん強く脈打っていく。


リーネが後ろを振り返り、魔素の流れを読む。


「黒鷲隊員たち……進めていません!大地が完全に行く手を塞いでいます!」


ゼクスが短剣を握りしめながら叫ぶ。


「なら一気に逃げ切るぞ!ミナ、持ちこたえろよ!」


村の奥には、巨大な大樹の根が絡み合い形成した洞窟のような空間があった。


ルアナが手を振る。


「ここだよ!大樹の“内側”なら安全なの!」


ミナたちはその空間へ駆け込み、大樹の影に身を寄せた。


大樹の内部は微かに光り、草と木でできた壁は柔らかく脈を打っているようだった。


ミナは驚きに目を見開く。


「ここ……生きてる……?」


ルアナが頷く。


「大樹はね……村全体を守る精霊なんだよ。ミナの光が大樹を呼んだの」


ミナの胸の光がふわりと揺れる。


(大樹が……私を……?)


その時だった。


外から黒鷲の怒号が響く。


「勇者ミナ・カミシロ!

 抵抗は無意味だ!

 これ以上の逃亡は――」


その声が途切れた。


轟音が響き、大地が揺れる。


ルアナが外の状況を見て、叫ぶ。


「大樹が……隊員たちを外側へ押し返してる!

 こんなの……初めて見た……!」


リーネが震える声で言う。


「ミナ様の光……外界においては“祝福”として扱われているのかもしれません……」


ゼクスが壁を叩きながらつぶやく。


「つまりここはミナのホームグラウンドってことか」


ミナは大樹の内部へ視線を向ける。


温かな光が、まるで彼女を包み込むように広がっていた。


(ここ……落ち着く……)


ミナの心が穏やかになっていくにつれ、胸の光も柔らかさを取り戻していく。


その時――

大樹の奥から、柔らかな声が響いた。


“怖がらないで。ここはあなたの居場所”


ミナははっとして胸を押さえる。


「……声が……」


ライルがそばへ寄り、心配そうに尋ねる。


「ミナ?どうしました?」


ミナはゆっくり首を振り、言葉を探すように口を開く。


「誰かに……話しかけられた気が……するの……」


リーネが息をのむ。


「まさか……大樹の精霊が……直接……?」


ゼクスが眉をひそめる。


「精霊って……喋るのか?」


ルアナは真剣な表情で言った。


「大樹は言葉じゃないの。心に直接届くの。

 ミナ……大樹はあなたを受け入れてるんだよ」


ミナの胸が再び熱くなる。


(受け入れられてる……?

 ここが……私の居場所……?)


外では、黒鷲隊員たちがじたばたと抵抗していた。


だが――

大地が足を絡めとり、木の根が彼らを押し返し、光花が精神を乱す光を放つ。


リーネが冷静に判断する。


「この状況では……黒鷲隊はこの村に近づけません。

 大樹がミナ様を“守る対象”と認識しています」


ライルはミナの肩にそっと触れる。


「ミナ。

 あなたは……ここでは“歓迎される存在”なんです」


ミナは涙をこぼした。


「ここ……苦しくない……

 息が……しやすい……

 王都では……ずっと……胸が重かったのに……」


ルアナがミナの手を握る。


「ミナ。あなたの光は、この大樹と似てるんだよ。

 だから呼ばれたの。

 だから守られてるの」


ミナは胸に手を当て、目を閉じた。


(ここにいても……いいの……?

 みんなと……ここで……生きていっても……?)


すると――

胸の奥で、また声が響く。


“あなたは、この世界に選ばれた子”


“光は自由であれ”


ミナの光が大きく優しく揺れ、

大樹の内部に温かな風が吹き抜けた。


その風は、ライルたちの頬も優しく撫でていく。


ゼクスが目を細める。


「なんだ……あったけぇな……」


リーネは深く息を吸う。


「大樹の魔素……ミナ様の光と完全に共鳴しています……」


外の怒号はいつの間にか消えていた。


黒鷲隊員たちは、もはや村の外に押し出され、光花に惑わされ、撤退を余儀なくされている。


ライルはミナを抱きしめるようにして言う。


「ミナ。

 あなたはここにいていい。

 この世界がそう言っている」


ミナの涙が静かにこぼれ落ちる。


「……嬉しい……

 本当に……嬉しい……」


彼女の光は、今日一番の柔らかい輝きを放っていた。


大樹の内部は、まるで温かな胎内のように静かで柔らかかった。


ミナは胸に手を当てたまま、ゆっくりと呼吸を整え、涙を拭った。


大樹の内側の壁に触れると、木でありながら生き物のように脈を打っている。


「……あったかい……」


ミナが呟くと、木の壁はふわりと光を返した。


まるで「わかっている」と言うように。


ライルはその光景を優しい目で見つめる。


「ミナ。

 大樹は……あなたを本当に受け入れているようです」


ミナは胸の前で指をぎゅっと握りしめ、首をふるふると振った。


「なんで……なんでこんなに……あったかいの……?

 私……こんなの……初めてで……」


リーネがそっと答える。


「外界は、“心”の状態によって反応が変わります。

 ミナ様の光が純粋で、守りたいという願いが強いから……

 大樹はそれに応えているのでしょう」


ゼクスは腕を組んで壁を見上げる。


「つまり……外界はミナにとって最強の味方ってわけだよな」


ミナは少し恥ずかしそうに目を伏せる。


「味方……こんなに……優しい世界があるなんて……」


ルアナはミナの手を握りながら言った。


「ね?外界は怖くないよ。

 ミナはここで守られてるし……

 私たち……友達でしょ?」


ミナは小さく頷き、心からの微笑みを見せた。


(友達……

 外界で……友達ができるなんて……

 夢みたい……)


だがその穏やかな時間は長く続かなかった。


外から再び、大地が震えるような低い音が響いた。


ミナはびくっとして胸を押さえる。


「ま、また来た……?」


リーネが魔素の流れを読む。


「いえ……黒鷲隊員の気配とは違います。

 これは……もっと自然の……大きな魔素……?」


ルアナが青ざめる。


「……もしかして……大樹が“本気”で動いてる……?」


ゼクスが怪訝な顔を向ける。


「どういう意味だ?」


ルアナは唇を震わせながら説明した。


「大樹が全力で動くのはね……“誰かを外敵から隠す時”だけ。

 でも……動きすぎると……

 本当の力が目覚めちゃうの……!」


ライルが眉をひそめる。


「本当の力……?」


ルアナは声を震わせる。


「大樹の本質は……“守護”じゃなくて……

“境界に干渉する精霊”なの……!」


ミナは息を呑む。


「境界……?」


ルアナが頷く。


「外界と王都の境界。

 世界と世界の境界。

 大樹は“境界の精霊”。

 だから……ミナを守るために……境界に触れようとしてる……!」


ミナの胸の光がぞくりと震える。


(境界……また……越えちゃう……?

 どこへ……?)


大樹が唸るように光を放ち、内部全体が揺れ始めた。


ミナは耐えきれず、膝をつく。


ライルが駆け寄り、ミナの肩を抱く。


「ミナ!!無理をしないで!!」


ミナは呼吸を乱しながら涙をこぼす。


「こわい……!

 でも……大樹が……守ってくれてる……

 それだけは……わかるの……!」


ミナの光がふわりと大樹へ向かって広がる。


それに呼応して、大樹の内部がいっそう明るくなる。


リーネが驚愕する。


「大樹の動き……ミナ様の光が“調整”している……?」


ゼクスも息を呑む。


「ミナが……大樹を制御してるのか……?」


ミナは震えながらも、壁に触れた。


すると――

大樹の光が柔らかくなった。


揺れも収まり、内部は静けさを取り戻していく。


ルアナが目を見開き、涙を浮かべた。


「ミナ……すごいよ……!

 大樹の力を……“落ち着かせた”……!」


ミナは戸惑いながら胸を押さえる。


「私……触っただけなのに……?」


ライルはミナの手を優しく包み込み、静かに言った。


「ミナの光は……この世界と同じ波。

 だから、ただ触れるだけで……世界が応えてくれるんです」


ミナの胸の光が、安堵のように揺れた。


(私……この世界に……必要とされてる……?

 ここでなら……生きていいの……?)


その時、大樹の奥から薄い光が集まり、花のように漂い始めた。


ミナの胸の光に呼応するように、柔らかい色を放つ。


ルアナが息を呑む。


「大樹の……“祝福の光”……!」


リーネが呟く。


「ミナ様の存在を……大樹が正式に認めた……ということです」


ゼクスが軽く笑う。


「じゃあミナはもう、外界の正式メンバーってわけだ」


ミナの胸に温かい涙が滲む。


「私……ここに……いてもいいの……?」


ライルはそっとミナの隣に膝をつき、真っ直ぐに言う。


「もちろんです。

 あなたは……この世界に選ばれた光。

 そして僕たちの大切な仲間です」


ミナの涙が一筋こぼれ、光の中で揺れた。


胸の光は――

これまでで一番、穏やかで、美しい強さを宿していた。

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