表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/46

24

眩い光がゆっくりと収まり、ミナはそっと目を開けた。


風が頬を撫でる。


草の匂いが胸いっぱいに広がる。


気温も空気も、さっきまでとはまるで違う。


ミナは思わず息をのんだ。


「ここ……どこ……?」


境界門を抜けたその先には、見たこともない広大な大地が広がっていた。


高く澄んだ空。


まるで絵具をそのまま落としたような青。


地平線に続く草原。


そして、巨大な岩柱がいくつもそびえ立ち、白い霧のようなものが穏やかに揺らめいている。


ライルはミナの隣に立ち、胸元の防御魔道具を整えながら言った。


「……ここが、“外の世界”」


ミナは言葉を失ったまま、草原の風を感じていた。


胸の光が、柔らかく震える。


(息が……しやすい……

 森や王都の空気より、ずっと……優しい……)


ゼクスは辺りを見回し、口元を緩めた。


「へぇ……思ったより悪くねぇな。もっと毒沼とか荒野かと思ってたぜ」


リーネは小さく笑いながらも、慎重に地面へ手を触れた。


「魔力の流れが違います。外の世界は、王都とは魔素の密度が異なる……どちらかといえば、“自然のまま”という印象です」


ミナは首をかしげる。


「自然……?」


リーネは頷き、説明する。


「王都は人の手で“魔力の流れ”を整えている場所です。だから魔法の発動が安定する。ですが……外の世界は、魔力がそのまま循環する。生き物も環境も、全てそこに合わせて変化しているということです」


ミナの胸の光が「ふわ」と広がる。


(自然の魔力……だから息をすると胸が軽いの……?)


アトラの言葉がよみがえる。


――外の世界には、あなたの光と“同じ波”をもつ大地がある。


ミナは胸を押さえ、少しだけ目を細めた。


「……不思議。怖くない……なぜだろう……?」


ライルは優しくミナを見る。


「ミナの光と、この世界が……おそらく相性が良いのでしょう」


ゼクスが腕を組む。


「つまりミナにとっては、こっちの世界の方が“自然”ってことか。そりゃ面倒見が増えるな」


ミナは「えっ」と小さな声を上げた。


「わ、私……ここで……普通に生きられるってこと……?」


ライルが微笑んだ。


「はい。むしろ、王都より……ずっと」


胸の光がゆっくりと揺れ、

ミナの目に少し涙が浮かぶ。


(よかった……ここなら……)


そんなミナの肩に、ゼクスがぽんと手を置く。


「感動してるとこ悪ぃが……油断は禁物だぜ」


ミナは慌てて姿勢を正す。


リーネが真剣な表情で付け足す。


「はい。外の世界は“王都より安全”ではありますが……王都より“危険”でもあります」


ミナは瞬きをした。


「え……両方……?」


ゼクスが笑みを浮かべる。


「要するに、“人間の常識”が通じねぇってことだ」


言葉の意味を理解しようとしたその時――

草原の奥で、低くうなるような風の音がした。


ミナはびくっとし、胸の光が反応して微かに脈打つ。


ゼクスが即座に短剣を構えた。


「来たな……!」


ライルはミナの前に立つ。


「ミナ、後ろへ!」


リーネは杖を握りしめ、風の揺れた方向へ集中する。


草原の影が揺れた。


巨大な影は地を這うように近づく。


ミナは恐怖に肩を震わせながらも、逃げ腰にならず胸の光を押さえた。


(ここは……王都じゃない……外の世界……!私……ここで最初の……)


影が速度を増す。


草が押し分けられ、空気が唸る。


ゼクスが叫んだ。


「構えろッ!!」


次の瞬間、草原から現れたのは――

王都で見た魔獣とは違う、

青い甲殻に覆われた四脚獣だった。


リーネが叫ぶ。


「“外界獣げっかいじゅう”……!ミナ様、決して一人で前に出てはいけません!!」


ミナの光が強く揺れた。


(こ、これが……外の世界……最初の敵……!)


外界獣が低い咆哮を上げる。


地面が震え、空気が裂ける。


ゼクスが短剣を構え、

ライルが防御魔道具を展開し、

リーネは術式を準備する。


ミナは胸を握り、震える声で呟いた。


「……でも……みんなと一緒なら……怖くない……!」


胸の光が強く脈動する。


その光が、戦いの始まりを告げるように草原の空気を揺らす。


外界獣げっかいじゅうが咆哮を上げた。


その声は空気を震わせ、草原の表面が揺れるほどの圧だった。


ミナは喉の奥がきゅっと締まり、自然とライルの背へ身を寄せる。


だが、逃げようとはしなかった。


胸の光が、恐怖より強い“別の感情”で脈打っている。


(怖い……でも……守られてばかりじゃ……もうやだ……!)


ゼクスが短剣を構え、外界獣へ低く唸る。


「外界獣は王都の魔獣よりタフだぞ……!油断すんなよ!」


リーネが素早く術式を組み上げながら言う。


青甲獣せいこうじゅう……防御力が非常に高い個体です。弱点は“動き出しの瞬間”だけ!」


ミナは息を呑んだ。


「動き出す瞬間……?」


ライルはミナを守るように庇いながら、短く説明する。


「走り出す瞬間、脚の付け根がわずかに露出する。そこが唯一の弱点」


ゼクスはニヤッと笑い、短剣を軽く回した。


「じゃあ、動いた瞬間にぶっ刺す……ってわけだ。得意分野だな」


青甲獣の四つの目がぎょろりと動き、ミナへと向いた。


その瞬間、獣毛の逆立つような悪寒がミナの背を走る。


(わたし……狙われてる……!)


胸の光が反応し、ふわりと広がった。


青甲獣が低い姿勢へ移行する。


リーネが叫ぶ。


「ミナ様!光を抑えてください!狙われます!!」


ミナは胸を押さえ、震えながらも首を横に振る。


「……でも……私も……みんなと一緒に……!」


青甲獣が足を踏みしめた。


空気が圧縮されるような感覚。


ゼクスが叫ぶ。


「来るぞッ!!」


外界獣が地を裂く勢いで突進してきた。


轟音とともに草が吹き飛び、四脚が大地を叩く。


ミナは叫び声をあげそうになりながらも、震えた声で呟いた。


「た、助けて……でも……私も……!」


胸の光が熱を帯びる。


ぱあっと広がり、半透明の光膜がミナの前に生まれた。


それは“盾”のように前へ広がる。


ライルが驚く。


「ミナ……!これは……!」


光の膜が揺れ、外界獣の突進を受け止めた。


「ぐっ……!」


激しい衝撃が光の膜に打ちつけられる。


ミナは膝をつきそうになりながらも、必死に耐える。


「みんなを……守る……!」


胸の光が脈打つ。


外界獣が押し返せず、足を滑らせた。


ゼクスが叫ぶ。


「今だっ!!」


外界獣がバランスを崩した瞬間、ゼクスは地を蹴り影のように跳び込む。


脚の付け根、甲殻の隙間――

そのわずかな弱点へ、短剣が突き刺さる。


「おらぁッ!!」


外界獣が苦鳴をあげ、地面へ転がり倒れた。


リーネが追撃の魔法を放つ。


「《風裂・三連》!!」


鋭い風の刃が甲殻の隙間を打ち、外界獣の体を地面へ縫い止める。


ミナは光の盾が消えるのを感じ、肩で息をしながら呟いた。


「はぁ……はぁ……

 わ、私……できた……?」


ライルがすぐにミナの肩を支える。


「ミナ……すごいです。あなたの光が、僕たちを守った……!」


ミナは胸に手を当て、驚いたように光を見る。


「これ……私の……盾……?」


リーネが感嘆の声を上げる。


「勇者の光で“防御の具現化”……王都の記録にありません。ミナ様の力はやはり……“心の形”に応じて変化する……!」


ゼクスは短剣を拭いながら呟く。


「つまりミナは……守りたいって気持ちだけで、盾を出せるってことか。便利すぎるだろ……」


ミナは照れながら俯く。


「で、でも……守りたいって思ったら……勝手に光が……!」


ライルは優しく微笑んだ。


「それがミナの力なんです。

 戦うためじゃなく……守るための光」


ミナの胸がじんわりと温かくなり、光が柔らかく明滅する。


(守れた……

 私……初めて……誰かを守れた……!)


涙がにじむ。


ゼクスが頭をポンと叩く。


「よくやったじゃねぇか、勇者。これなら外の世界でもやっていける」


ミナは涙を拭き、小さく笑った。


「……はい……!

 みんなと一緒なら……!」


草原の風が心地よく吹き抜ける。


外界獣が倒れた地点から、淡い光の粒が空へ昇っていく。


リーネが不思議そうに呟く。


「……これは、“外界獣”特有の消散現象……倒されると、魔素に戻る……?」


ライルがミナの手を取りながら言う。


「外の世界には、まだまだ知らないことが多いですね」


ゼクスが前方を指差す。


「さて……最初の洗礼は済んだな。

 ここからが本番だ。外の世界はもっと広いぞ」


ミナは胸の光をそっと押さえ、

草原の向こうに見える遠い地平線を見つめた。


「行きましょう。

 みんなで……もっと先へ!」


胸の光が大きく明滅し、

新しい旅路を照らすように輝いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ