表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/46

22

木造の扉をくぐった瞬間、

 ミナは外の冷たい空気とはまったく違う、

 ほんのりと温かい香りに包まれた。


 柔らかな草の匂い、

 薬草を刻んだような甘い香り、

 そして……どこか懐かしい温もり。


 「……ここ、なんだか……落ち着く……」


 ミナは無意識に胸を押さえた。

 胸の光が、安心するように淡く揺れる。


 広間はそんなに広いわけではない。

 古びた丸机と、手入れの行き届いた本棚がいくつも並び、

 奥には調合台と薬草の束が吊るされている。


 “隠れ家”というより、

 誰かの生活の匂いのする、静かな部屋。


◇◇◇


 リーネが軽くノックし、

 奥の扉へ声をかけた。


 「マスター。

  お連れしました」


 その声に、

 奥から柔らかな声が返ってきた。


 「入っておいで。

  勇者さまも……一緒なんだろう?」


 ミナは驚いてライルを見た。


 (声だけで……私のことを……?)


 ゼクスは慣れた様子で扉を開けた。


◇◇◇


 奥の部屋にいたのは――

 白いローブを纏った、長い黒髪の女性だった。


 年齢は二十代後半ほど。

 涼しげな目元には優しさが宿り、

 しかしその奥には、深い知識と経験が覗いている。


 ミナは思わず息を飲んだ。


 女性は微笑み、穏やかに会釈する。


 「ようこそ、ミナ・カミシロさん。

  私は《アトラ》――この隠れ家の管理者です」


 ミナは驚いて声を上げた。


 「ど、どうして……私の名前を……!?」


 アトラは首をゆっくりと傾ける。


 「だってあなたは……

  “召喚術式の中心にいた少女”でしょう?」


 ミナの胸が強く震えた。


 ライルとゼクスも身構える。


 リーネが沈んだ声で言う。


 「アトラ様は……王都とは別の“術式研究者”です。

  勇者召喚の術式を、ずっと独自に分析されていました」


 ミナは一歩前へ踏み出した。


 「……じゃあ……私のこと……

  本当の意味で……知ってるんですか……?」


 アトラはミナの目を真っ直ぐに見つめ、

 静かに座るように促した。


 「ええ。

  そして――あなたに伝えたいことがあるの」


◇◇◇


 ミナ、ライル、ゼクス、リーネの四人が席に着くと、

 アトラは深呼吸し、ゆっくりと語り始めた。


 「勇者召喚の術式――

  あれは“完全な術”ではありません」


 ミナは目を見開く。


 「え……完全じゃない……?」


 アトラは頷き、机に置いた石板を見せた。


 そこには複雑な魔法陣が描かれ、

 一部が不自然に欠けていた。


 「これが、本来の“完全体”。

  でも王都が使った術陣は……

  この中央部が“欠落”していたの」


 ミナは震える声を漏らす。


 「欠落……?

  でも私は……召喚されました……!」


 アトラは静かにミナの胸元――光へ視線を向けた。


 「欠落を埋めたのは――“あなた自身の光”。

  あなたが持つ、特異な“心の力”よ」


 ミナの胸が大きく脈打つ。


 ゼクスが目を細めた。


 「心の……力……?」


 アトラは頷き、さらに続ける。


 「普通、召喚術は魔力で行われるわ。

  けれど――あなたは魔力ではなく、

  “感情の共鳴”が術式を完成させた」


 ミナの心臓が強く跳ね、光が揺れた。


 「……私の……感情……?

  そんなもので……召喚が……?」


 アトラは優しい声で説明する。


 「あなたの世界で生きた日々、

  誰かを助けたいと思った心、

  苦しくても笑おうとした優しさ。

  その全部が……術式を導いたのよ」


 ミナの胸が熱くなる。


 (わたしの……気持ちが……

  この世界に呼んだ……?)


◇◇◇


 ライルが静かに問いかけた。


 「それでは……ミナは、

  勇者として選ばれたのではなく――

  “召喚された側に適応しただけ”ということですか?」


 アトラは小さく頷く。


 「そう。

  王都は“勇者らしい”人材を欲しがった。

  でも……本来召喚されたのは、

  “あなたという存在そのもの”」


 ミナの目が揺れた。


 「勇者らしく……とかじゃなくて……

  ただの……私……?」


 アトラは微笑む。


 「ええ。“ミナ・カミシロ”として呼ばれたのよ。

  だからあなたの光は――

  敵を撃つ力ではなく、

  “心を映す光”になった」


 ミナは胸を抱きしめるように押さえた。


 光が震え、涙がにじむ。


 「私……

  勇者に向いてないから……

  王都を困らせてると思ってた……」


 ライルはミナの手を包む。


 「そんなことはありません。

  ミナはミナのままでいいんです」


 ゼクスも腕を組みながら呟く。


 「むしろ王都のほうが間違えてるわ。

  本物の“勇者らしさ”は、あいつらには見えてねぇ」


 ミナの涙がこぼれた。


◇◇◇


 アトラは席を立ち、ミナの前へ膝をついた。


 「ミナ。

  あなたの力は、戦うためじゃなく……

  “未来を照らすため”に生まれた光よ」


 ミナの心が揺れる。


 胸の光が、涙に呼応するように強くなった。


 アトラはその光を見て、静かに言った。


 「そして――

  あなたを探していた人が、もうひとりいる」


 ミナは驚いて顔を上げた。


 「えっ……誰……?」


 アトラは微笑み、


 「すぐに会わせてあげる」


 と言った。


 扉の向こうで、

 誰かが静かに近づいてくる気配がした。


ミナの心臓が、

 誰かの気配に合わせるように脈を強く打ち始めた。


 胸の光も、涙を受けて淡く揺れる。


 その震える光の気配を感じ取ったかのように、

 隠れ家の奥の扉が、ゆっくりと音を立てて開いた。


 ミナは息を呑み、

 ライルは穏やかながらも警戒を解かず、

 ゼクスは腕を組んだまま視線を鋭く向けた。


 リーネは静かに扉の方へ目をやる。


 ――現れたのは、

 銀灰色の髪を持つ若い男性だった。


 年齢は二十代前半、

 柔らかい雰囲気を纏いながらも、

 目の奥に強い光を宿している。


 彼は扉の前で立ち止まり、

 ミナの胸の光を一目見ると、

 驚きと安堵が混じった息を漏らした。


 「……やっと……会えた……」


 ミナは思わず後ずさる。


 「だれ……ですか……?」


 男性は胸に手を当て、深く頭を下げた。


 「初めまして。

  僕は――シオン・アークレイ。

  “勇者召喚術式の補助設計者”だった者です」


 ミナの全身が震えた。


 「勇者……召喚の……?」


 シオンは顔を上げ、

 ミナの瞳をまっすぐに見つめる。


 「君を呼んでしまったことを……

  心から謝りたかった」


 その言葉に、

 ミナの胸の光が大きく揺れる。


◇◇◇


 ライルが一歩前に出た。


 「謝る……?

  あなたが……ミナを呼んだのですか?」


 シオンは首を振る。


 「正確には違う。

  僕は術式の“補助構築”を担当しただけだ。

  主術式の起動は別の者が行った。

  でも……君が来てしまったのは、

  僕が止められなかったからだ」


 ミナの胸が締めつけられる。


 (呼ばれた……

  やっぱり私……誰かの意思で……?)


 アトラが補足するように言う。


 「シオンは、召喚術の理不尽さを誰より理解していた。

  だからこそ……あなたに会いたかったのよ」


 シオンはミナの胸の光へ視線を落とした。


 「その光……

  君が自分の力で召喚陣を“完成させた印”だ」


 ミナは震える声で問う。


 「……私が……?

  でも……そんなつもりじゃ……」


 シオンは優しく首を振る。


 「わかってる。

  でもね、術式には“呼ばれる側の心”が宿ることもあるんだ。

  本来なら呼ばれないはずの世界の人間が……

  自分の光で召喚を成立させてしまった」


 ミナは息を呑んだ。


 (私の……光が……?

  本当に……そんなことが……?)


 胸の光が、返事をするように揺れた。


◇◇◇


 ゼクスが腕を組んだまま言う。


 「難しい話はいい。

  お前の目的はなんだ。

  ミナに何をしにきた?」


 シオンは真剣な瞳で言った。


 「ミナを守りたい。

  それが僕の……“罪滅ぼし”だ」


 ミナは困惑した表情で首を横に振る。


 「そんな……

  呼ばれたのは……私のせいなのに……」


 「違う!!」


 シオンの声が、隠れ家に響く。

 ミナは驚き、ライルも眉を寄せる。


 シオンは震える声で続けた。


 「君は悪くない。

  君の光は……誰かを助けたいって願いで溢れていた。

  そんな優しい光を……

  世界が、王都が……利用したんだ」


 ミナの目から涙がこぼれた。


 (利用……

  私……そんなつもりじゃなかったのに……)


 ライルがミナの手を取る。


 「ミナ。あなたは何も間違っていません」


 ミナはこくりと頷き、涙を拭う。


◇◇◇


 シオンはゆっくりと深呼吸した。


 「ミナ・カミシロ。

  君に伝えたいことがもう一つある」


 ミナは涙を拭きながら顔を上げる。


 「……な、なんですか……?」


 シオンはそっと手を差し出し、

 ミナへだけ聞こえるほどの静かな声で告げた。


 「――君の光には、

  “未来を選ぶ鍵”が宿っている」


 ミナは息を飲んだ。


 「未来……を……?


  私の……光に……?」


 シオンは目を細め、

 どこか寂しそうな微笑みを浮かべた。


 「王都はその鍵を欲しがっている。

  だから……君を取り戻そうと必死だ」


 ゼクスが舌打ちする。


 「やっぱりか……ただの勇者召喚じゃねぇと思ったぜ」


 アトラが頷く。


 「ミナ。

  あなたの光は、ただの“勇者の魔力”じゃない。

  もっと深い……“世界の理を揺らす力”。

  だからこそ――狙われる」


 ミナは震える声で呟いた。


 「そんな……

  私……ただの高校生なのに……」


 ライルはミナの前へ立ち、はっきりと言った。


 「ミナはミナです。

  特別だから守るのではありません。

  あなたが……ミナだから守るんです」


 ミナの胸の光が大きく揺れた。


 (ライルさん……)


◇◇◇


 シオンはそんな二人を見て、

 穏やかに微笑む。


 「……君が誰と進みたいのか。

  その選択は、誰にも奪えない」


 ミナは涙を拭き、

 胸に両手を当てて小さく頷く。


 (私……

  もう逃げるだけじゃなくて……

  “選びたい”……)


◇◇◇


 アトラがゆっくりと席を立った。


 「今日はここで休んでいって。

  明日から……あなたたちは

  “新しい道”を進むことになる」


 ゼクスが言う。


 「新しい道……?」


 アトラは頷いた。


 「ええ。

  黒鷲から逃れるだけでは……

  本当の意味で自由になれない。

  だから――」


 アトラはミナへ微笑む。


 「あなたの光が導く“外の世界”へ行くの」


 ミナは胸を押さえた。


 (外の……世界……?)


 ライルは小さく息を呑んだ。


 ゼクスも真剣な目になる。


 リーネはそっとミナの肩へ手を置き、静かに言う。


 「勇者さま。

  あなたの旅は、ここから本当の意味で始まります」


 ミナの胸の光が――

 不安でも恐怖でもなく、

 “決意”の色を帯びて揺れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ