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光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

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17

王都騎士団と魔術官たちが陣を整えたことで、

 森の静寂は完全に消え失せ、

 緊張の色だけが空気を染め上げていた。


 足元の草が震え、風が止まる。


 ――最初に動いたのは騎士団側だった。


 「前衛、前へ! 勇者接近禁止、半径十メートル!!」


 レオン隊長の鋭い指示が飛び、

 騎士たちは即座に盾を構えて半円陣を形成する。

 盾の表面に魔術符が浮かび、

 “対魔力防御”の強力な結界が張られた。


 ミナの光を封じるための布陣だった。


 ミナは胸を押さえ、ライルの背に身を寄せる。


 「ライルさん……あれ……私を封じるための……」

 「はい。あなたの力を“道具として扱うための結界”です」


 ミナは唇を噛みしめた。

 悲しさと怒りと恐怖が胸で渦巻き、手が震える。


 (私を……また縛ろうとしてる……

  どうして……どうして私の気持ちを見てくれないの……?)


 騎士たちは冷たい目で二人を囲んでいく。


◇◇◇


 一方で、ミナを包む光は静かに揺れていた。

 怒りではなく“否定される痛み”に反応する、弱い光。


 ライルはミナの手を握り、囁いた。


 「ミナ。

  怖がらなくていい。

  あなたの光は優しい……だからこそ、ちゃんと届く」


 ミナは涙をこらえながら頷く。


 「ライルさんが……いてくれるから……」


 光が少しだけ強く、温かくなる。


◇◇◇


 レオンが前へ進み出た。


 「勇者ミナ殿。

  あなたは王都の命令を拒否し、指揮系統を逸脱し、

  国家の統制を乱しつつある。

  自覚はおありか?」


 その言葉にミナの目が揺れた。


 「でも……私は……!」


 レオンは容赦なく続ける。


 「あなたの意思は関係ない。

  勇者は国家の所有物。

  あなたの感情が、戦略を左右してはならん」


 ミナは息を呑み、胸を押さえた。


 (私の……意思が、いらない……?

  私の気持ち……存在してはいけないの……?)


 胸が痛くなり、呼吸が浅くなる。


 その瞬間――

 ライルが一歩前に出て、レオンを真っ向から睨んだ。


 「勇者を物扱いする発言……撤回してください」


 レオンの目が怒りで燃える。


 「黙れ、影部の残党!

  貴様の言葉に価値はない!」


 「ミナは……“人間”です」


 「国家の駒だ!!」


 その瞬間、ミナの胸の光が跳ね上がった。


 ――バチッ!!


 光が弾け、草木が揺れる。


 レオンは後退し、騎士たちが一斉に剣を構える。


 「魔力暴走の兆候あり! 封印陣、展開準備!!」


 ミナは震える手で胸を押さえながら、涙を落とした。


 「ちがう……私、暴走なんかしてない……!

  私はただ……ただ、否定されるのが……怖いだけ……!」


 その光は怒りではない。

 泣きながら必死に訴える少女の“心の揺れ”だった。


 ライルはミナの肩を抱き寄せた。


 「ミナは暴走していません。

  この光は……“傷つけられた心の反応”です」


 ミナはライルの胸元を握り、震える声で言う。


 「ライルさん……苦しい……

  胸が、痛い……!」


 「大丈夫。あなたは悪くない」


 ミナは涙をこぼした。


◇◇◇


 だが、レオンは剣を構えたまま叫ぶ。


 「勇者の感情による魔力変動は危険だ!

  封鎖部隊、前へ!!」


 数名の魔術官が、光の鎖を生成する呪式を構える。


 ミナの顔が青ざめた。


 「ライルさん……あれ……私を……」

 「はい。あなたの自由を奪う鎖です」


 「いや……いやです……!

  そんなの……もう嫌……!!」


 ミナの光が大きく揺れた。


 レオンが叫ぶ。


 「勇者ミナ、確保!!」


 ――その瞬間だった。


◇◇◇


 ライルが地面を蹴った。


 速い。

 騎士たちの目が見開かれ、反応が一瞬遅れる。


 ライルはミナを抱え込むように守りながら、

迫る光の鎖を横へ跳躍してかわした。


 「っ!! 囲めッ!!」


 騎士たちが剣を向け、一斉に距離を詰める。


 ライルは目を細め、息を吐いた。


 「……ミナ。

  決して俺の手を離さないでください」


 ミナは涙を浮かべながら強く頷いた。


 「はい……! 絶対離しません……!」


 ライルはミナの手を握りしめ、静かに構えた。


 「どんな命令があろうと……

  あなたを傷つける者が敵なら、俺は――」


 その続きは言わない。

 だが、ミナには伝わった。


 (ライルさんは……私のために……

  王都と戦おうとしてる……!?)


 胸が熱くなり、また光が震えた。


◇◇◇


 レオンが剣を高く掲げる。


 「影部元サポーター、ライル・グレイアード!!

  勇者誘拐犯として――“討伐対象”と認定する!!」


 ミナの心臓が止まりそうになった。


 「や、やめて……!!

  ライルさんを……殺すなんて……!!」


 「下がれ、勇者殿!

  あなたの安全のためだ!」


 「違う!!

  私の安全なんて……

  “ライルさんを守れない場所”にあるわけない!!」


 ミナの叫びに、レオンは苛立ちを隠さない。


 「勇者に情が移ったか……最悪だ!!」


 そして――

 騎士団が一斉に剣を構え前進した。


 森の空気が裂け、土が震え、

 ミナの胸の光が激しく明滅する。


 ライルはミナを背に庇い、左手に小型防御魔道具を構える。


 「ミナ……

  光を。あなたの光があれば、道は開けます」


 「ライルさん……はい……!」


 ミナの胸から光が溢れ始める。


 涙の中、それでも強く、温かく。


 その光が――

 二人を守る“盾”となるのか、

 それとも世界を揺るがす“始まり”となるのか。


 王都騎士団の剣が迫る。


 森に、金属音が走る。


王都騎士団の半円陣が迫り、剣の切っ先が森の薄明かりを反射しながらミナとライルを包囲していた。

 金属の擦れる音、魔術官たちの詠唱、土を踏みしめる重い足音。

 その全てが、二人へ向けられた“敵意”と“国家の意志”の形だった。


 ミナは震える手を胸に当て、ライルの背に隠れるように立つ。

 胸の奥の光が明滅し、息が苦しいほど強く脈動していた。


 (怖い……怖いけど……

  それでも、私は……ライルさんと離れたくない……!)


 ライルはミナの手を握りしめ、一歩だけ前へ出た。

 その背中には迷いがなく、覚悟だけが静かに宿っている。


 「ミナ。後ろにいてください」

 「……はい。でも……一緒にいます……!」


 ミナの声は震えていたが、その瞳は強い決意で輝いていた。


◇◇◇


 隊長レオンが剣を振り上げ、鋭く叫ぶ。


 「前衛部隊――進撃!!

  勇者は保護、ライル・グレイアードは拘束!!」


 騎士たちが一斉に踏み込み、地面から土煙が上がる。

 レオン隊は“殺さず捕縛”ではなく、

 **“抵抗するなら斬る”**構えだった。


 ライルは小型防御魔道具を展開しつつ、ミナの手を離さない。


 (剣技も魔術もない俺が……

  それでも守らないといけない。

  彼女の光を……否定させないために)


◇◇◇


 騎士の一人が前へ踏み込み、剣を横薙ぎに振るう。


 「伏せてください!!」


 ライルはミナの肩を抱いて身を屈め、

 ギリギリで剣を避けた。


 ザンッ!!

 背後の木の幹が大きく抉れる。


 ミナは息を呑む。


 (ライルさんが……殺される……!!)


 その瞬間、ミナの胸の光が強く脈動した。


 ミナは震える手を前に出し、叫ぶ。


 「やめてッ!!」


 ――光が広がった。


 優しく、しかし強い圧を持った波動が一帯に走り、

 突進していた騎士たちの動きが一瞬だけ止まる。


 「な……!? 脚が……!」


 レオンも驚き、後退した。


 「感情同調による魔力干渉……!

  勇者の光に、前衛の動きが阻害されている!」


 ミナは両手を胸に寄せ、涙を浮かべながら叫んだ。


 「私は……戦いたくなんて……ないのに……!

  どうしてみんな……分かってくれないの……!」


 その光は“怒り”ではなく“悲しみ”の色だった。

 だからこそ、騎士たちは攻撃を躊躇する。


◇◇◇


 だが――

 魔術官がその隙を逃さなかった。


 「勇者捕縛用・第二封印陣、発動!!」


 地面に魔術陣が広がり、青白い光の鎖が生成される。


 ライルは即座にミナを抱えて跳躍した。


 「くっ……!」


 鎖が地面を切り裂くように走り、

 二人の足元へ迫る。


 ミナは強くライルの服を掴み、涙混じりに叫ぶ。


 「ライルさん……っ!!

  あれ……また私を閉じ込める鎖です……!!」


 「分かっています!」


 ライルは防御魔道具を展開し、光の膜を張った。

 鎖が触れた瞬間――


 ――バチィィン!!


 激しい光が散った。


 防御膜は大きくひび割れ、ライルは歯を食いしばる。


 「っ……持たない……!」


 ミナがライルの腕を掴み、叫ぶ。


 「私の光……使ってください……!

  私、ライルさんを守りたい……!」


 ライルは振り向き、柔らかく首を振った。


 「いいえ。

  あなたは戦うために光を使う必要はない。

  ……俺が守ります」


 ミナの目から涙が零れる。


 (どうして……そんな優しい言い方をするの……!

  ライルさんは……何も悪くないのに……!)


◇◇◇


 レオンが再び剣を構える。


 「再突撃!!

  勇者は優先確保!

  抵抗するなら――容赦は不要!!」


 騎士たちが一斉に距離を詰める。


 その時――

 ミナの胸の光が、今までとは違う形で揺れた。


 怖くて、悲しくて、

 でもライルを失いたくなくて。


 手を伸ばす。


 「……いや……イヤ……

  ライルさんを……連れて行かないで……!!」


 光が溢れた。


 優しいけれど、強く、

 包み込むような圧を持つ光。


 ――ドンッ!!


 “攻撃”ではない。

 “強制排除”でもない。


 光は騎士たちの動きを止め、

 彼らの心を一瞬だけ静めた。


 騎士の一人が呟く。


 「な……なんだ……この……

  胸が……ざわつきが消える……?」


 魔術官が驚愕の声を上げる。


 「光祈……!?

  いや、違う……

  勇者の感情共鳴による“心鎮め”の光だ……!」


 ミナは涙をこぼしながら言った。


 「誰も……傷つけたくない……

  でも……ライルさんを奪われるのは……嫌……!!」


 ライルはその背中を見つめ、胸が熱くなる。


 (ミナ……

  あなたは……優しすぎる……)


◇◇◇


 しかしレオンは感情を排除するかのように叫ぶ。


 「甘い!!

  光に惑わされるな!!

  勇者の感情は国家を乱す!!

  捕らえろ!!」


 騎士たちは再び剣を構えた。


 ミナは涙を浮かべながら、ライルの手を握り、震えた声で言う。


 「ライルさん……

  私……どうしたら……」


 ライルはその手を握り返す。


 「ミナ。あなたは“守りたい”と願った。

  その光は……彼らを止める力になります」

 「で、でも……!」

 「安心してください。

  あなたは戦わなくていい。

  あとは――俺が、やります」


 ミナの胸が強く脈打つ。


 (ライルさんが……

  私のために――!!)


◇◇◇


 レオンが突撃態勢に入る。


 「一気に押し込め!!

  勇者の感情を鎮静化させろ!!」


 剣が振り下ろされる――

 ミナが息を呑む――

 ライルがミナを抱き寄せ、低く叫ぶ。


 「ミナ!!

  光を――“俺の後ろへ”!!」


 ミナは涙を拭い、両手を胸に寄せ、力いっぱい祈った。


 「守って……!

  私の大切な人を……!!」


 胸の光が、風を起こすほど強く溢れる。


 ――柔らかく、しかし絶対に揺るがない光壁となって。


 剣が光壁にぶつかる。


 ――ガキィィン!!


 金属音が響き、騎士たちが後退した。


 レオンが叫ぶ。


 「馬鹿な……防御魔術を使っていないのに、

  剣が……弾かれた……!?」


 ミナは震える声で答えた。


 「これは……攻撃じゃない……

  私の……大切な人を守るための……光……!」


 その言葉に、ライルは胸が熱くなった。


 (ミナ……

  あなたは、こんなにも……俺を……)


◇◇◇


 追撃を止められた騎士団。

 混乱する魔術官。

 森は騒然となる。


 レオンは歯を食いしばり、怒りの叫びを上げた。


 「勇者は国家の宝だ!!

  その力が制御不能となれば……災厄になる!!

  だからこそ、今ここで確保する!!」


 レオンは剣を大きく振り上げる。


 「総員――勇者と男を包囲しろ!!」


 ミナが叫んだ。


 「やめて!!

  私たちは……ただ自由に、生きたいだけなのに!!」


 光が揺れる。


 ライルはミナの手を取り、静かに言った。


 「ミナ……行きます。

  ここには、もう居られません」


 ミナは涙を拭き、強く頷いた。


 「……はいっ!!」


 ライルはミナを抱き寄せ、森の奥へ向けて叫んだ。


 「走れッ!!」


 二人は一斉に駆け出した。

 光が道を照らし、風が背中を押す。


 騎士団が叫びながら追いかける。


 剣の音、詠唱、足音――

 二人を追う国家の影は濃く、速い。


 それでも、ミナはライルの手を絶対に離さなかった。


 (逃げない……

  ライルさんを守る……

  私は……もう捕まらない……!!)


 光が二人の足元を優しく照らす。


 その光の先に、

 二人の未来を変える“新たな出会い”が待っていることを――

 まだ誰も知らなかった。



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