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光の欠片を宿す者【旧台:勇者様は今日も常識はずれ】  作者: 憂姫
理想と現実の間で

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洞窟の天井が軋むような音をたて、影の底全体に大きな振動が走った。


 ――ミシ……ミシミシ……!


 無数の光苔が落下し、青白い光が散乱する。

 まるで天上の星がひとつずつ落ちてくるように、淡く、儚く、空間が揺れ始めた。


 その“崩落”の中を、ライルは全力で駆けていた。


 「ミナ……! ミナぁぁぁぁ!!」


 声が枯れるほど叫び、血を流しながら走り続ける。


 ミナの姿を見つけた瞬間、胸が焼け付くほど熱くなった。


 (生きている……!そこに……いる……!)


 ミナも涙を流しながら走り出した。

 光が両手に溢れ、彼女を包むように揺れ動く。


 「ライルさぁん!!」


 二人の距離は数メートル。


 しかし――

 その間に“ガルデル”が立ちはだかった。


 黒い外套が舞い、男の周囲に青白い電流のような魔力が収束する。


 「ここは通さない」


 洞窟の揺れなど気にした様子もなく、その目はただ冷たく光るだけ。


 ミナはライルへ向かう足を止められず、叫んだ。


 「どいてッ!!」

 「勇者。君は“国家”に属するべきだ。その男に囚われてはならない」


 ガルデルの指先で魔術陣が浮かび上がる。


 ミナの胸に、恐怖と怒りが混じる。

 「囚われてなんか……いません!!私は……自分の意思で……!」


 ミナの言葉を遮るかのように、ガルデルの術式が一気に展開した。


 「――転移捕縛陣フェイズ・ロック


 足元に青い魔術陣が広がり、ミナの身体が光に引かれる。


 「やッ……いやあああ!!」


 その瞬間。


 「触るなあああああッ!!!」


 ライルの叫びが洞窟を震わせた。

 結界の光が矢のように飛び、捕縛陣を切り裂く。


 光が生き物のように捻じれ、ガルデルの魔術陣が弾け飛んだ。


 ミナはよろけながらも、転移から解放されて膝をつく。


 ガルデルが低く呟く。

 「……やはり、お前は厄介だな、ライル・グレイアード」


 ライルは荒い呼吸のまま、ミナへ向けて手を伸ばした。


 「ミナ……!」

 「ライルさん……!」


 二人の手が――ようやく触れた。


 その瞬間、ミナの光が花開くように揺れた。

 暖かく、柔らかい光。

 影の底を覆うほどの、強い輝き。


 ミナは涙を拭い、ほとんど震えながらライルの胸に飛び込んだ。


 「うわぁぁぁん……!ライルさん……っ……ずっと会いたかった……!!」


 ライルは震える手でミナの背を抱きしめた。


 「ミナ……ッ……無事で……本当に……よかった……!」


 その腕は力強く、温かい。

 ミナは声を震わせて答えた。


 「ライルさんが……迎えに来てくれるって……ずっと信じてました……!」


 「俺も……あなたなしでは生きていけない……」


 熱い涙が二人の間に落ちる。


 しかし――

 その幸福の一瞬はあまりにも短かった。


◇◇◇


 「感傷は終わりだ」


 ガルデルの声が響いた。


 洞窟の天井がさらにひび割れ、巨大な岩が落下してくる。


 「ミナ、下がれ!」

 「はいっ!」


 二人は一斉に飛び退き、岩は地面に叩きつけられる。


 轟音。

 粉塵。

 崩落が止まらない。


 ガルデルは崩れゆく空間の中でも、冷静に術式を組み立てていた。


 「貴様らはここで終わりだ。影部も、勇者も――不要」


 ライルの表情が鋭くなる。


 「ガルデル。あなたは……どこまで堕ちれば気が済むんだ」


 ガルデルの瞳に、微かに狂気が宿った。


 「世界のためだ。勇者は“扱われるべき力”。個人に任せるのは災厄だ」


 「それは違う!!!!」


 ミナが叫ぶと、光が彼女の身体から溢れた。


 「私は……誰かを守りたいから……この力を使うんです!!あなたたちみたいに……人を傷つけるためじゃない!!」


 その光は“治癒”でも“攻撃”でもない。

 “意志そのもの”の光。


 ガルデルは眉をひそめた。


 「……やはり勇者は危険だ。その感情が力を増幅させる」


 ライルがミナを庇いながら言う。


 「危険なのは……あなたたちの“支配欲”だ」


 ガルデルの表情がわずかに歪む。


 「ライル・グレイアード。貴様だけは……絶対に許さん」


 その目には、明確な殺意が宿っていた。


◇◇◇


 ――その時だった。


 洞窟の奥から、足音が響く。


 規則正しい足音。

 冷えた気配。


 「……あれは……!」


 ライルの表情が険しくなる。


 ミナは息を呑む。


 暗闇の奥から現れたのは――


 灰影部隊の“新型封鎖兵シールトルーパー”。


 全員が黒い仮面をつけ、

 胸に蒼いコアのような光を宿している。

 精神封鎖に加え、魔力制御のための補助具が装着されている。


 ガルデルが冷たく笑った。


 「影の底に眠っていた“封鎖兵”。感情を排し、指示にのみ従う最強の兵士たちだ」


 ライルは絶句した。


 「馬鹿な……!封鎖兵は禁忌の計画だったはずだ……!!」


 「禁忌? ああ、そうとも言う」

 ガルデルは淡々と答える。


 「だが――国家は、いつだって禁忌を踏み越えてきた」


 灰影封鎖兵が一斉にミナへ向けて槍を構える。


 ミナは足がすくんだ。


 (こんな……数……!?ライルさんひとりじゃ……!)


 だが、ライルはミナの手を握り締めた。


 「ミナ……俺を信じてください」

 「信じます……!ずっと……信じてます!!」


 その瞬間――

 二人を中心に、光が渦を巻いた。


 洞窟全体が揺れ、

 崩落が加速し、

 残された時間はわずか。


 それでも――

 二人は決して離れない。


 光と影の戦いが、いま始まる。


◇◇◇


 影の底が、完全に目を覚ましたかのように揺れていた。


 天井から巨大な岩が崩れ落ち、

 床のあちこちに亀裂が走る。


 洞窟を照らす光苔がどんどん剥がれ、

 青白い光は薄れ始めていた。


 その混乱の中心に、

 ミナとライルは並んで立っていた。


 敵は――灰影封鎖兵シールトルーパー 十数名。


 その身体は鎧のように黒光りし、

 胸部に埋め込まれた蒼い魔核が脈打っている。

 まるで、生きた魔道兵器。


 ガルデルが冷笑する。


 「こいつらは感情を持たない。

  恐怖も、痛みも、迷いもない。

  そして――勇者を捕えるために造られた」


 ミナは震えた。

 だが、逃げるという選択肢はもうない。


 ライルが一歩前へ出る。


 「……ミナを渡すつもりはありません」

 「渡させないさ。強制的に“奪う”のだからな」


 ガルデルの合図とともに、封鎖兵たちが動き出した。


◇◇◇


 最初の一体が突進してくる。

 その速度は、普通の兵士では《目で追えない》ほどだ。


 ミナが息を飲む間もなく――


 「来るぞッ!!」


 ライルがミナを抱き寄せ、反転しながら結界を重ねる。


 「《偏光結界・重ね張り》!!」


 光の盾が二重に展開し、

 封鎖兵の槍が火花を散らして跳ね返った。


 しかし……

 衝撃が強すぎて、ライルが膝をつく。


 「ライルさん!」

 「大丈夫……まだいけます」


 額から汗が流れ、

 背中の傷がさらに開いて血がにじむ。


 ミナの心が張り裂けそうになる。


 (ライルさん……もう限界なのに……

  私を守るために……全部受けてる……)


 封鎖兵が次々と迫る。


 ――ドドドドッ!!


 岩壁を蹴り、天井から落ち、四方から襲いかかってくる。


 ライルは結界を展開し続けた。

 だが、結界は少しずつひび割れ、

 限界が近づいていた。


 ミナは震える手でライルの肩に触れた。


 「……ライルさん、もう無理しないで……」

 「無理じゃありません。

  あなたを守れるなら……どれだけ傷ついても構わない」


 ミナの目から涙が流れる。


 (どうして……

  どうしてこの人は……)


 喉の奥に熱い感情がこみ上げる。


◇◇◇


 ガルデルの声が冷たく響く。


 「補佐官ライル。

  お前の“罪”がここで清算される時だ」


 レンの言葉と同じ“罪”という言葉。

 影部の任務の失敗。

 救えなかった誰か。


 ミナはライルの震える背中を見た。


 「罪……なんて……」

 「ミナ。今は戦闘に集中してください」

 「でも……!」


 ミナは拳を握りしめ、

 ライルの背中へ額を押し付けた。


 「ライルさん。

  あなたは……悪くなんかない」


 ライルの動きが一瞬止まる。

 胸の奥に、熱いものが流れた。


 ミナは続けた。


 「だって……あなたは……

  私をこんなに守ってくれて……

  いつだって、優しくて……」


 封鎖兵が槍を振り下ろす。

 ライルは結界を強引に起動し、跳ね返す。


 しかしその間もミナの声が届く。


 「誰かを救えなかったこと……

  それは“罪”じゃない……!」


 「ミナ……」


 「守りたい人を守れなかった時……

  その痛みを知ってる人だから……

  私は――あなたの側にいたいんです……!」


 涙混じりの声。


 その言葉が、ライルの胸に深く刺さった。


◇◇◇


 突然、足元の大地がさらに崩れた。


 ――ズドォォォン!!


 影の底の中心が大きく裂け、

 封鎖兵たちは一斉に包囲の配置を変える。


 ガルデルが叫ぶ。


 「封鎖兵、第二陣!

  勇者を囲め!」


 ミナの身体が怯えて後退した瞬間、

 ライルがミナを抱き寄せて耳元で囁いた。


 「ミナ……聞いてください」

 「……?」


 ライルはミナを見つめ、

 その手を強く握る。


 「あなたの言葉で……

  俺はもう、逃げないと決めました」


 ミナの瞳が揺れる。


 「影部の罪も……仲間を救えなかった後悔も……

  全部抱えて……

  あなたを守り抜く」


 その瞬間、封鎖兵が突っ込んできた。


 ライルはミナの手を握ったまま叫ぶ。


 「ミナ……!

  俺に力を貸してください!!」


 胸の奥で、ミナの光が爆発する。


 「はいッ!!

  ぜんぶ……捧げます!!」


 ミナの身体から巨大な光が放たれた。


 ――ボウッッ!!


 光が渦巻き、ライルと融合するように流れ込む。


 ライルの結界が一気に広がり、

 封鎖兵たちを弾き飛ばした。


 ガルデルが驚愕の声を上げる。


 「な……に……!?

  勇者の光が……補佐官に……!?」


 ミナの光とライルの結界――

 それはまるで“ひとつの力”になった。


◇◇◇


 封鎖兵が再び立ち上がる。

 しかし、以前ほど冷静ではない。


 ガルデルが叫ぶ。


 「封鎖兵!!

  連携攻撃、第一波――!!」


 槍が光を纏い、一斉に振り下ろされる。


 しかし――

 ライルは微笑んだ。


 「ミナ。手を……」

 「はい……!」


 二人の手が重なり、

 光と結界がひとつに融合する。


 ライルが叫ぶ。


 「――《光底結界ホーリーフェイス》!!」


 眩しい光が球状に広がり、

 封鎖兵の攻撃を完全に打ち砕く。


 封鎖兵たちは後方に吹き飛ばされ、

 胸の魔核が軋む。


 ミナは涙を流しながら叫んだ。


 「ライルさん!!

  これ……すごい……!」


 「ええ……あなたの光が……

  俺の力を“強くしている”……」


 ミナの胸が熱くなる。


 (私の光が……ライルさんの力になってる……

  一緒に……戦えてる……)


◇◇◇


 ガルデルが奥歯を噛み締めて叫ぶ。


 「封鎖兵第三陣!!

  勇者を包囲しろ!!」


 しかし――

 洞窟はもう限界だった。


 ――グラァァァァァ!!!


 天井が崩れ、巨大な岩が落ち始める。


 ミナは思わずライルの腕にしがみつく。


 「ライルさん!!

  このままじゃ……!!」

 「ええ……ここはもう……持たない」


 ガルデルも封鎖兵も、崩落に巻き込まれ始める。


 ライルはミナの手を握り、

 決意の目で言った。


 「ミナ――

  二人で……“ここから出る”」


 ミナも頷いた。


 「はい……!

  二人で……絶対に……!」


 光が強く脈動する。


 崩落する影の底。

 落ちる岩。

 迫る封鎖兵。


 その中で、

 二人の光だけが――暗闇を切り裂き、

 出口へ向かって走り出す。


 ミナとライルの影は、

 崩れゆく影部の歴史を背にしながら、

 一つの未来を選ぶために重なっていく。


 「絶対に守る」

 「絶対に離れない」


 その誓いを胸に――

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