【2-EX】ストーリーイベントの予感?
「――――ファルエンドが異世界人の召喚に成功しただと!?」
「はい。先ほど通知が届きました」
某所。異様に煌びやかな室内で大声を出す壮年の男性と、それに対応する初老の男がいた。
壮年の男性の身なりは良く、さながら王といった風貌と風格であるが、汚い言葉で初老の男性に声を荒げる。
「のろま共がッ! 欠かさず召喚は行っていたのだろうな!?」
「一分たりとも間隔を空ける事なく、行っておりました」
「ではなぜファルエンドに盗られる!? タイミングが悪かったなどという戯言は許さんぞ!」
「……神の思し召しとしか」
その言葉にイラだった壮年の男は、顔を真っ赤にして手元にあった酒の入ったグラスを、初老の男に投げ付けた。
グラスがあたった男性は酒まみれに、落ちたグラスは嫌な音と共に砕け散る。
「神だろうがなんだろうが許されるか! 俺の代に回ってきたチャンス、気が付いた時には他国に盗られていただと!?」
「…………」
「他の国より圧倒的に多くの召喚儀式を行っているのだぞ!? なぜだ? なぜこんな事になる!?」
「神の……そうですね、手違いがあったのでしょうか」
神の思し召し。再びそう言おうと思った初老の男性は、これ以上壮年の男の神経を逆なでしないようにと、そのように言い換えた。
思えばこれが始まりだったのか、この言い回しがいけなかったのか。
神の手違い、そんなものは存在しない。神に本当に手違いがあったのだとしても、それは神からの天啓として地に落ちる。
しかしそんなもの、この愚王が理解できるはずもなく。
「手違い……そうか手違いか。本来は我が国が受け取る予定の物を、手違いが起こって他国に渡ったと」
「いえ、それは……」
「本来なら我らの、いや我の物なのだ! ならば、返してもらわなくてはなるまいな」
「王よ、どうか冷静に。異世界人の強奪は世界法律で厳しく――――」
「――――黙れッ! 我が物を取り戻すだけであろう! 命令だ、異世界人を連れて来いッ!」
「……仰せのままに」
怒声を浴びせられても初老の男は表情を変えず、静かに王の私室から退室した。
王の部屋へと続く煌びやかな廊下を歩く初老の男。廊下を曲がり、王の部屋が見えなくなった所でやっと感情を顕わにした。
「ここまで愚王だとは。先代も先々代もそうだったが……事が起こらなければただの愚者で済んだのだ」
だが今代、事は起こってしまった。数百年ぶりに、異世界人がこの世界に召喚されたのだ。
この国は、元々弱小国であった。その小国に転機が訪れる、運よく異世界人を召喚する事に成功したのだ。
そして、その時に召喚された異世界人の力は凄まじく、恩恵を受けたその小国は瞬く間に発展していった。
俗に言う当たり召喚。この世界には何度も異世界人が召喚されているが、全ての異世界人がこの世界を発展させてきた訳ではない。
「これはこの国にとっての再転機。あの愚者一族の血を、なんとか排除できないものか……」
そして、その小国を発展させた異世界人を召喚する事に成功した一族。その一族が何代にも渡り国のトップとして君臨している。
問題はその一族が馬鹿ばかりだったという事。賢王もいたが、基本的にこの一族から輩出される者は欲に塗れた愚者ばかりであった。
その愚者達は召喚を国事とし、無駄な金と労力を大量につぎ込んできた。その結果、確かにこの国は他の国より召喚に成功はしているだろう。
だが全ての異世界人が恩恵を齎してくれる訳ではない。
異世界人に頼らず、自分達で国を発展させる事に注力していれば、この国は世界有数の大国になっていたはずなのに。
なまじ、初めての異世界人が齎した恩恵が大きすぎたのだ。異世界人の召喚に成功すれば国が、なにより己が豊かになる、愚者一族の頭にはそれしかない。
「さて、どうするか……」
初老の男性は考え込む。全てはこの国の未来のため、この国の民のために。
問題は色々ある。目下一番の問題は、あの愚王から甘い蜜を与えられている者達の行動だ。
愚王の行動に一切の疑義を抱かずに動くだろう。初老の男の行動が遅く、いつになっても異世界人を連れてこないという事になれば、その者達に命令を下すはず。
その者達は強引に異世界人の拉致に動くだろう。その行動が他国や世界警察に見咎められれば、この国は終わる。
そのなる前に動かなくては……そう決意を決めた表情で、初老の男は静かに動き出した。
――――
「――――報告は以上です」
さらに某所。とある場所で数人の男女が卓を囲み、秘書官のような恰好をした者からの報告を聞いていた。
数人とはいったが数は十以上。それだけの者が座れる卓は、立場に上も下もないという考えから採用された大円卓であった。
「ファルエンドか」
「北に位置する大国だな」
「帝国や商業国、それにかの国に渡るよりマシでしょう」
話し合われていたのはこちらも、異世界人の召喚について。
ヨルヤ達を召喚した国、ファルエンド王国から召喚成功の通知が届き、即座に会議を行っていた。
「ファルエンドであれば大丈夫ではないか?」
「そうであるな。そもそも秘匿し独占するつもりなら、通知など寄こさないだろう」
「とは言っても観察は必要だ。”大災害”を忘れたのか?」
雰囲気はよくないが、ギスギスしているといった感じではない。
みな何かを腹の内に抱え込んでいそうな感じはするが、彼らは一つの組織である。
その組織とは世界警察。自ら法を制定し、取り締まりを行う世界最大の権力組織。
だが彼らは一応、世界の安寧を目的に活動している。
「ファルエンドは有数の大国だ。介入は容易くないぞ」
「かの国は王家主導で召喚が行われていたはずです」
「王家に守られているという事か……」
異世界人を観察とは言ってはいるが、行いたい事は異世界人の監視、または手駒化である。
世界警察は過去の異世界人が作った組織。彼らもまた、異世界人が齎す知識や技術を欲している。
魔道具などをほぼ独占できているのは、世界警察が異世界人を囲ったという事実があるからである。
有能な異世界人を誘致し、世界警察の所属とさせる。そこで異世界の知識や技術を知り、魔道具などととして完成させている。
問題はその技術が、一切外部には流出しないという事。全てではないが、世界警察で生み出された技術のほとんどは世界警察が独占している。
「王家となれば……王族か」
「確かあの国には、四人の王位継承者がいたはず」
「四人とは言うが、次王は長男か次男であろう」
「……どちらが容易い?」
「長男であろう。次男は傑物だ」
「では長男、継承権第一位を順当に押し上げるか」
数人の男女が恐ろしい事を話しだす。
話している内容は大国の次のトップに力を貸し、王とするという政治的な話ではある。
だがその実、王となった者を裏から操ろうという恐ろしい計画の話であった。
王家に守られている異世界人。その王家のトップの人間を懐柔できれば、なんとも簡単に異世界人を手にする事ができる。
だがやはり世界警察も、一枚岩ではなかった。
「そのような事をして許されると思っているのか?」
「越権行為だ。貴公らは何を言っている?」
「異世界人の恩恵は、世界のために使用されるべきです」
「技術の独占は過去の話。今後はそうするべきではない」
現在の世界警察のやり方に異を唱える者も内部に大勢いる。しかしそれは少数派、大多数はそうではなかった。
自分達を神の代行者だと考えている者は多い。さらに様々な利点や権利を享受しているのだ、それを手放すのは難しい。
「一先ずは観察で留めるべきだ」
「そうだな、まだ召喚されて間もない」
「だが時が来れば……」
「あぁ、全ては神の思し召しだ」
ヨルヤが王位継承権争いに巻き込まれるのは、時間の問題?




