【2ー37】『ラストバトルを開始します』
「邪魔よッ! そこを……どけェェッ!!」
「な、なんだよコイツ!? さっきから動きが……!?」
「か、囲め! たった一人だぞ!? ビビってんじゃねぇ! さっさと殺せッ!」
「喋るなぁぁ! さっきから息が、臭いのよッ!!」
「また速くなったぞ!? どうなってやがんだ!?」
「くそったれがぁ! あんなガキ一人にッ――――ガハッ……!」
怒髪衝天。狂戦士のスキルギフトであるそれは、使用者の怒りの度合いによって戦闘能力が向上していく。
目に見える変化は、纏った赤いオーラの色が徐々に濃くなっていく事と、頭髪が天に向かって逆立っていく事。
さながら見た目はスーパー〇イヤ人である。(ご冥福をお祈りいたします)
「このクソブスがァ! 舐めてんじゃねぇぞ!」
「クソブスですって……?」
「お、おい! これ以上こいつを怒らせるんじゃねぇ! コイツは――――」
「――――アンタ鏡見た事あんの? この醜いブ男が……舐めてんのは、お前だろうがぁぁぁぁッ!!」
「「「「ウギャぁぁぁぁぁぁぁ」」」」
もはやヴェラを止められる者はいない。ヴェラが槍を一振りするだけで、なんとも呆気なく命が刈り取られていく。
二十人以上いた傭兵崩れ、残りはたったの数名。生きていられるのはあと僅かである。
「くそがッ! こんなにつえぇなんて聞いてねぇぞ!? 銀等級って話じゃなかったのかよ!?」
「こんなん金等級いじょ――――ケペっ」
また一人傭兵の数が減った。ヴェラの投合した槍に貫かれ、即座に絶命する。
もはや殺し合いではなく、一方的な虐殺である。
残った最後の傭兵は勝てない事を悟り、後ずさる。しかし逃げる事はヴェラが許さなかった。
「どこに行こうってのよ? まさか逃げるだなんて言わないでしょうね?」
「み、見逃してくれ、頼む! 俺達はただ雇われているだけなんだ! 命だけは……」
「……自分達が命を奪うのはよくて、奪われるのは嫌だって言うの? そんなの都合が良すぎるわ」
こいつらは恐らく元傭兵。それなら魔物にそんな命乞いが通じると思っているのか。
意志疎通が図れない魔物と人間では比べられるものではないが、行っている事は同じである。
殺し合い、命のやり取り、奪うか奪われるか。
刃を向けるという事は向けられるという事。命を奪うという事は奪われるという事だ。
「覚悟しなさい? 奪おうとしたのなら、奪われる覚悟くらいしなさいよッ!」
「クソがァァァッ!」
覚悟を決めたのか、傭兵崩れは決死の表情でヴェラへと迫る。
それをヴェラは真剣な表情で迎え撃つ。一切の油断なく、驕りなく、ただひたすら真剣に。
「はァァァァッ!」
「ガフッ……! くそ……が……!」
終戦。最後の一人が胸を貫かれ絶命した。
肩で息をするヴェラ。疲れからではなく、緊張から解放された事からきたものだった。
ヴェラ対傭兵崩れ二十人強の戦いは、こうして幕を閉じた。
――――
「ぐぅぅぅぅ……どうなってやがんだ!? なんで避けられる!?」
少し離れたこちらでは、コンラードとダヴィドが戦闘を行っていた。
しかし誰の目にも明らかである。戦いになっていない、それほどまでに両者の間には力に差があった。
「さ、殺害領域ッ!」
「またそれか。キリングテリトリーではなかったのか?」
「黙れッ! 俺はこれで、何人のもポリスを葬ってんだよ!」
「俺はジャッジだ。ポリスではない」
殺害領域を発動したダヴィドがコンラードへと再び迫る。
その領域にコンラードが足を踏み入れた瞬間、四方から殺意の刃がコンラードを襲う。
領域内では感覚などの五感や行動、攻撃など全てが相手の命を奪わんと鋭利化する。
しかし、簡単に言えば使用者の殺害能力を高める領域であるというだけ。使用者と敵対者の間に大きく力の差があれば脅威とはなりえない。
「くそッ! 当たりさえすれば……当たりさえっガァッ!?」
「右足の腱を切った。もう諦めろ」
「(なんだこいつ……なんでこんなに強い? 何人かのジャッジと戦った事はあるが、こいつはそいつらより圧倒的につえぇ!)」
ジャッジとの戦闘経験もあったダヴィドは、コンラードがジャッジと知った時も差ほど動揺はしなかった。
いつぞやのジャッジと同程度であれば、問題なく勝つ自信があったからだ。
その自信は、粉々に砕かれてしまっていた。
「投降しろ。それとも、手足を斬り落とされたいか?」
「……そうか。てめぇ、エクスキューションだな!? ジャッジがこんな強いはずがねぇ!」
「執行者は、お前のような小物の事で動く事はない」
「小物……小物だと!? ふざけやがって……! キリングテリ――――」
「――――それはもう飽いた」
コンラードが右腕を振るうと、ダヴィドの左手の指の全てがボタリと地に落ちた。
もの凄い激痛に叫び声を上げながら、ダヴィドは必死に止血をしようと動き出す。
指のなくなった手では大剣は振るえない。足の腱も切られているので逃げる事も叶わない。
「ガァァァッ! クソッ! クソがァァッ!」
「ダヴィド・イシルス。お前をベスパイア帝国皇女誘拐未遂事件の犯人として、捕縛する」
そう言って、ダヴィドの意識を刈り取ったコンラード。
即座に捕縛用の魔道具でダヴィドを拘束し、ダヴィドの代わりに止血を施した。
コンラードには傷どころか息切れの一つもない。
まさに圧倒的と言っていいほどの戦いは、こうして幕を閉じた。
――――
「いけ勇者! そこだッ! 頑張れ勇者!」
魔王と切り結ぶ勇者、それを応援する御者。
初めは勇者のために隙を作ろうと考えていたのだが、とてもではないが介入できるレベルの戦闘ではなかった。
下手に介入すれば勇者が困るだろう。命令を出しているとは言え、護衛の最優先は俺の命を護ること。
俺があの戦闘に介入し、危険が迫れば身を挺してでも勇者は俺を護るだろう。
「頑張れ勇者ッ! 負けんなぁぁッ!」
「さっきからうるせぇな! 気が散るだろうが!」
「うるせぇッ! 民の応援は勇者を強くするんだよ! さっさとくたばれ魔王!」
どうやら用心棒の気を散らせる効果はあったようだ。
しかし客観的に戦闘を見た時、押されているのは勇者だろう。
致命的な攻撃は受けていないが、何度か用心棒の刃が勇者に届いていた。
「情けねぇなぁ御者? 意気込んだ割にお前は他人頼み、観戦しているだけかよ?」
「い、痛い所を……あの護衛は俺のスキルギフトだ! 俺の力のようなもんなんだよ!」
嘘は言ってはいないが、見た目的にはヤクザの言った通りである。
俺のギフトであり俺のステータスを基準とした、言わば写し身ではあるのだが。
「(すまねぇ……! でもお前しか頼れないんだ! 頼む、何としてでも勝ってくれ……! 頑張れッ!)」
「――――……」
……気のせいだろうか? 一瞬、勇者と目が合ったような。
どんなに話し掛けても、どんなに触れても護衛が反応を示す事は一切なかった。
表情は変わらない、声も発してない。でも今、確かにこっちを見たような。
「ったく気持ちの悪い野郎だな。少しは表情を変えて見せろよッ!」
「――――」
「へへ……馬鹿な奴だ。自分から突っ込んで来るとはよ」
「ゆ、勇者ぁぁぁぁ!?」
勇者に俺の想いが伝わったと思った否や、用心棒の剣が勇者の腹を貫いた。
護衛の強みは感情がないこと。恐怖心などないため、捨て身のような行動で相手に迫る事ができる。
今回もそれを狙ったのだろうか? しかしどことなく、動きが不自然だったような。
「腹を貫かれても無表情かよ? ほんっと気持ちがわりぃ……ん?」
「――――」
「な、なんだてめぇ!? 放しやがれ!」
腹を貫かれたまま、勇者は用心棒の腕を掴んで引き寄せた。
剣はより深く刺さるが、お構いなしに勇者は用心棒を引き寄せ、自身の体に密着させた。
そして次の瞬間、右手に持っていた光の剣で、自分の体ごと用心棒を貫いた。
「ガッハァ……て、てめぇ……自分ごと……!?」
「――――」
「さ、最後まで……気持ちのわりぃ……やつ……――――」
「――――」
用心棒が事切れると同時に、勇者も靄となって消えていった。
捨て身の攻撃は何度も見た事があったが、自分を犠牲にする事を前提とした行動は初めて見た。
あの時俺を見たのは、覚悟を決めたといった目だったのか、護れなくなる事に対する謝罪の目だったのか。
自分を犠牲にして他人を護る、まさに勇者であった。
「ありがとうよ、勇者様。俺も気張らないとな」
「…………」
再び二人きりとなった部屋で、俺はヤクザの事を睨み付ける。
やはりラスボスはこいつだった。
こいつを倒して、ハッピーエンディングだ!
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