【2ー34】なんとなく読めてきた……本当だよ
ビクス商会の者達から色々と話を聞いた俺達は、敷地内の端に建っていた物置小屋の前までやって来ていた。
おかしな話なのだが、この物置小屋だけはビクス商会ではなく、ブラク商会の者が使用しているらしいのだ。
契約の際、この物置小屋だけはブラク商会が使用するとの事で、立ち入りを禁じられたという。
そして賃貸契約だが、なんとブラク側から持ち込んだらしい。
賭博場を開きたいと思っていたビクス商会の元に、どこから聞いたのかブラク商会が物件を紹介してきたと。
普通は、借りたい者が不動産業者に物件を紹介してもらうのが一般的だろう。
もう色々と怪しさプンプンである。こんな小さな物置小屋にダヴィド達が潜伏しているとは思えないが、なにかしらの情報はあるのではないだろうか?
それにフェルナ達が監禁されている可能性がある。そう思った俺達は慎重に物置小屋の中に入り、中を確認してみたのだが。
「……なにもないな。本当に……なにもなくね?」
「物置小屋なのに物がない……怪し過ぎるわ」
中には全くと言っていいほどに物がなく、ガランとしていた。
情報になりそうなものも一切ない。こりゃどうしたものかと考えていると、ヴェラがある事に気が付いた。
「……待って。この小屋、おかしいわ」
「おかしいって、なにが?」
「外から見た小屋の大きさと合わない」
そう言いながらヴェラは壁際へと歩いて行く。
壁際まで行ったヴェラは何かを調べるように壁を触っていくと、何かに気が付いたのか動きを止めた。
やっぱりね……そう呟いたヴェラは壁をスライドさせる。それは壁の様に偽装された横引の扉だったのだ。
扉に先には、いかにもと言いたくなるような地下へ続く階段があった。
「隠し扉に隠し階段、いかにもだな……って言っちゃったよ」
「……表向きはビクス商会の賭博場。物件の紹介に立ち入り禁止の小屋。なんとなく、読めて来たわね」
「……うん、読めて来たな。そういう事だったのか」
「どこら辺が読めて来たなって顔なのよ? 本当に分かってんの?」
「今はどうでもいい事だ。先に行く」
コンラードに続いて、俺達も階段を下りてゆく。
手すりもあるし階段には絨毯のようなものも敷かれていた。更に壁には絵画が飾られているなど、とても悪者の本拠地といった雰囲気はない。
地下へと続く階段という不気味さを除けば、先ほどまでいたビクス商会と同じような印象を受ける。
誰かを迎え入れるように作られている、といえば伝わるだろうか?
そんな事を考えながら階段を下りていた時だった。階段の奥から、人の気配と同時に大きな声が聞こえてきたのだ。
「な、なんだ!? 叫び声……? よっしゃーーって聞こえなかったか?」
「……やっぱりね」
「な、なにがやっぱりなんだよ? あの声がなんだか分かんのか?」
「さぁね。どっかのギャンブル狂が、大当たりでもしたんじゃない?」
「……見れば分かる事だ。行くぞ」
階段を下り切った先にあった扉を、コンラードは躊躇なく開け放った。
俺はコンラードの背後から、恐る恐る扉の先を覗いてみる。
その先に見えた光景は異様……なんていう事はない。当たり前に目にする光景でもないが、至って普通の光景だった。
「ギャ、ギャンブル場……?」
先ほどビクス商会で見た光景と、同じような光景が目に飛び込んできた。
カードゲームに興じる者、コインを積み上げている者など、様々なギャンブルを楽しんでいる者の姿が見える。
「な、なんだよ。ここもビクス商会のカジノか……」
「いいえ違うわ、ここは……」
「ブラク商会の賭場だ」
コンラードが言い終わると同時に、一人の男が近づいてきた。
その者はコンラードの装いを見たからだろうか? 一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、すぐに引っ込めるとニヤニヤしながら近づいてきた。
「おやおや、世界警察の人間を招待した覚えはございませんねぇ。一応お聞きしますが、招待状はお持ちですか?」
「持っている訳がないだろう。遊びに来たのではない」
「ではどういったご用件で?」
「ダヴィド・イシルスを出せ。ここにいる事は分かっている」
そうコンラードが言うと、男の表情から薄ら笑いが消えた。
目で何かを周りの者達に合図すると、瞬く間にフロア中が騒がしくなる。
「お客様、申し訳ございませんが本日の遊戯はここまでです」
「はぁ!? ふざけんなよ! いま良いとこだってのに!」
「世界警察の調査が入ります。立ち会われますか?」
「せ、世界警察……」
客であろう者達がコンラードの姿を確認すると、みんな慌てたように会場を出て行った。
もしここが違法なギャンブル場であれば、遊んでいた者達も処罰の対象になる気がするが、コンラードは出て行く客たちに見向きもしない。
ただ一点を見つめている。目の前の男ではなく店の奥、薄暗くてよく見えない通路の先をジッと見つめていた。
「ダヴィド・イシルスなんて知りませんね」
「奴を匿うと言うのなら、貴様らも連行するぞ」
「我々が匿っているという証拠があるのですか?」
「証拠? そんなものは必要ない。俺はここにいると確信した、それが全てだ。邪魔をすると言うのなら……」
お前それでも審判者かよ? そう言いたくなった瞬間に、コンラードは男の事をまるで羽虫でも払うかのように殴り飛ばした。
殴り飛ばされた男はギャンブル卓に激突し、カードを撒き散らせる。ピクリとも動かなくなった男を見て、なんてヤベぇ奴なんだと再認識する。
お前それでも警察官かよ? 問答無用で殴り飛ばすとか……いやそれよりも、ただ腕を払っただけであそこまで人が吹き飛ぶとか化け物かよ。
「おいおい、なんの騒ぎ……おぉ、まさかもう辿り着いたのか? やるじゃねぇかよ御者」
コンラードがジッと見ていた通路の奥から、この前バドス商会にやってきたヤクザが姿を現した。
やっと見つけた。そしてその言葉から、やはり商会の金を盗みフェルナ達を攫ったのがコイツ等だと確信する。
その男の隣には、ダヴィド・イシルスの姿もあった。
「ダヴィド・イシルスだな?」
「なんで世界警察がいやがんだ? 制服に二白線ってこたぁジャッジかよ、面倒だな」
「ベスパイア帝国皇女誘拐未遂事件の容疑者として、捕縛する」
「誘拐未遂……? うわっははは! いつの話をしてやがんだよ! 今まで何をしていたんだ? 無能なゴミどもがよォ!?」
大きな声を出しコンラードを威圧するダヴィドだが、コンラードの表情は変わらず意にも介していないようだ。
圧倒的な強者感。これで弱かったら面白いのだが、コンラードの雰囲気にギャグ要素はない。
しかし簡単に自分が誘拐未遂事件に関わっていたと認めやがった。よほど逃げ切れる自信があるのか、ただの馬鹿なのかは知らんが。
「雑魚は任せる。俺はダヴィドを捕縛する」
「お、おう! 任せとけ!」
「任せとけって、戦うのはあたしでしょうよ……」
コンラードはダヴィドの元へゆっくりと歩いて行く。それを確認したヴェラは槍を構え、俺は護衛を一体追加して二体とする。
フロアにいた者達に加え、奥からゾロゾロと人相の悪い男達が流れ込んでくる。その数は優に二十を超えていた。
「……ヴェラ。多くね? 大丈夫?」
「雑魚が何人いたところで雑魚は雑魚よ。あなたは隙を見て、あの先に進みなさい」
「分かった、護衛は置いて行く。俺はあと二体召喚出来るし」
「問題ないと思うけど……分かったわ、預かる」
新たに召喚された女性の槍使いも含め、ヴェラの指示に従うようにと命令を出す。
俺はヴェラの言う通り、隙を見て見せの奥に向かう。ヤクザの姿が見えなくなったので、恐らく奥に向かったと思うのだが。
となれば俺の、このストーリーのラスボスはヤクザと言う訳か。
『バトルシステムを選択してください』
【ターン制コマンドバトル――――選択不可】
【リアルタイムアクションバトル――――選択可】
【タワーディフェンスバトル――――選択不可】
【カードバトル――――選択不可】
【放置バトル――――選択不可】
ヤクザを倒して終話だ、ハッピーエンドを迎えてやるぜ。
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