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【2ー12】見習い職人キリール・シュクレイ






「うっわ……こりゃひでぇ」


 昨日の放置バトル戦闘会場に来ていた俺は、目の前の惨状を見て目を逸らしたくなっていた。


 夥しい数の死体の数、凄い異臭に淀んだ空気。この場に数分でも留まれば体のどこかに異常が出るに違いない。


「えっと……赤に白に青に緑、魔石の回収と素材の剥ぎ取りをお願い。終わったら死体を燃やしてくれる? 紫ちゃんは俺の護衛で」


 文句一つ言う事なく動き出す護衛達。こういう所はほんと便利なので助かる。


 なにより体が靄で構成されている為か、汚れてもすぐに綺麗になる優れもの。


 世に溢れる放置ゲームをリアル化したらこんな感じになるのかな? これからも後始末はちゃんとしなきゃと思った。


「さて俺は、その間にステータスポイントを……成長材も使っちまうか」


 インベントリにあった成長材、レアが一つにノーマルが二つ。これらを使用する事でレベルが17から22に上がった。


 これでステータスポイントが70、ギフトポイントが40となる。



【STp――――70】→【STp――――0】


【LV――――22】

【HP――――90】+20

【GP――――100】+25


【STR――――47】+5

【VIT――――35】+5

【AGI――――30】+15

【INT――――12】

【LUK――――10】



【GIp――――40】→【GIp――――15】


【護衛召喚Lv3】→【護衛召喚Lv4】



 やはりギフトポイントが足りない。


 護衛召喚を次のレベルに上げようとするとポイントが30必要なため、あと3レベルもアップしないといけないのか。


 さらに御者レベルや従馬召喚レベルなど、あげたいギフトが沢山ある。


 早く金を稼げるようになってショップからギフトポイントを購入だな。


 そうこうしている内に護衛達の回収作業が終わる。


 俺の初野営はこうして幕を閉じた訳だが、ほんと護衛がいなければ何も出来なかったな。




 ――――




「すみません、おはようございます。ヨルヤ・ゴノウエです」


 工房や商会に向かう前に、王城へとやってきた。


 もちろんログインボーナスを貰うためである。ゲームとは違ってリアルなので、ストーリー中だろうが関係なくボーナスをくれるのだ。


「ヨルヤ殿、おはようございます。昨日はお戻りにならなかったので?」

「えぇちょっと、ソロキャンプというものをやってみまして」


「お、お一人でですか!? 魔物もいるのに凄いですね、護衛もなしに……とすみません、こちらが本日の生活費になります」

「ありがとうございます!」


 文官さんからログインボーナスを貰った俺は、その次に昨日訪れた工房へと向かった。


 かなり素材を手に入れられたので、工賃だけでクッションなどを作ってもらえるはずである。


 これが出来上がればいよいよ定期馬車の本格始動だ。ワクワクせずにはいられなかった。




 ――――




「こんにちは~」


 少し早い時間だったが、入口は開いていたので工房の中へと入らせてもらう。


 店の奥からは金づちを打ち付ける音が聞こえてくるので、やっていないという事はないだろう。


 声を掛けて数秒後、やってきた男は昨日対応してくれた男とは別の男だった。


「なんだお前ら、こんな朝早くから何の用だ?」

「素材を持ってきたので、作って欲しいものがあるのですが」


 護衛に担がせていた魔物の羽や毛皮を店の台の上に置く。これだけあれば予備も含めて十分な数を確保できるだろう。


 問題は支払い額だ。10万まで出せるといった感じだろうか。



「ウルフの毛皮に……こりゃグリーンバードの羽か」

「これでクッションとブランケットを作って欲しいのですが」


「……この数をか? 7日はかかるぞ? それにいくら出せる?」

「全部を使わなくてもいいんで、10万で作れるだけお願いします」


 そう言うと、あからさまに落胆したような雰囲気を出した職人の男。


 10万という額が気に入らないのかもしれないが、客に見せていい顔じゃない。


 しかし十万以上は出せない。ヴェラへの支払いもあるし、他に必要なものが出てくるかもしれないのだ。


「10万かよ、期待して損したぜ……そうだ、おいキリールッ! 客だ! 降りて来いッ!」


 何かブツブと呟いたと思ったら、急に店の奥に向かって大声を出した男。


 その直後、ドタバタと喧しい音をさせた誰かが向かって来る。


 やって来たのは若い男性だった。学生たちとそう変わらない年齢の、なんと言うか中性的な見た目をした人だった。


「お、客さん……ですか? 僕に?」

「あぁお前に客だ、後は任せた」


 そういって柄の悪い男は店の奥へと引っ込んで行った。


 残された若い男はキョロキョロと辺りを見渡したり、俺の顔をチラチラと見てきたりと落ち着きがない。


 この人が俺の担当というか、俺の依頼を受けてくれるのだろうか? 今の所、大丈夫なのかという感想しか出てこないが。



「あの……すみませんお客様。あちらでお話を聞いてもいいでしょうか……?」

「あぁ、はい」


 キリールと呼ばれていた男の後ろを付いて行く。紫ちゃんだけを連れて、残りは店前に待機させた。


 流石に五人も無表情がいたら怖いだろうからな。



「えと……キ、キリール・シュクレイと申します。見習い職人です……」

「……ヨルヤ・ゴノウエです。よろしくお願いします」


 見習いをあてがわれるとは、どうやら俺は稼げない客と判断されたようだ。


 あまり質の悪い物を作られたら困るのだが、本当に大丈夫なのだろうか?


「その、チラッと聞こえていたんですが……クッションとブランケットでしたか?」

「えぇそうです。工賃は10万以内で、作れるだけお願いします」


「は、はい……ではその、素材を見せてもらいますね」


 するとさっきまでオドオドしていたキリールの表情が変わった。


 真剣な表情で素材を手に取り確認している様は、とても見習いとは思えない。


 しかしそんなパッと見で分かるのだろうか? 俺には全て同じ素材に見えるのだが。



「グリーンウルフとブルーウルフの毛皮、羽は全てフロウバードのものですね」

「フロウバード……グリーンバードではなくてですか?」


「似ていますがこれはフロウバードの羽ですよ。ほらここ、少しだけ白っぽいでしょう?」

「へぇ、パッと見じゃ分かりませんね」


 確かにジッと見てみれば、僅かに羽の付け根が白っぽくなっているのが分かる。


 ジッと見なければ分からないほどの事だが、キリールの確認速度は速かったと思うし、最初に対応してくれた男はグリーンバードだと言っていた。


 一気にこのキリールという職人の評価が上がった瞬間だった。



「いくつかダメになっている素材もありますが、この数ならそうですね……三日もあれば大丈夫かと」

「三日……?」


 おいおい、さっきの男は7日とか言っていたぞ。


 それに10万という額は伝えているはずなのに、キリールは全てを加工すると言っているのか?


「……全ての素材を使うのですか? 10万で?」

「あっす、すみません! 高いですかね? ではその……8万ではどうでしょうか?」


「いやそうじゃなくて、10万でこの全てを加工してくれるのですか?」

「は、はい。加工料は職人によって違いますので……」


 腕のいい職人と悪い職人が作った物が同じ値段にはならない。それは分かるが、この数を三日で加工すると言ったキリールの腕が悪いだろうか?


 一週間もかかるとか言っていたあの男の方がよっぽど悪い気がするのだが。


 もちろん速度だけを重視できないが、半分以下の時間で作るとキリールは言ったのだ。



「す、すみません……それで、僕が担当で本当によろしいのでしょうか……? その……実は初めてのお客様でして……」

「俺が?」


「はい、すみません……ですので実績はないです……」


 あの目利きの良さに加工スピード。体は細く顔は中性的なのに手が異様にゴツイ。


 見習いとして頑張ってきたのだろう。実績がないと言ってはいたが、俺にはとてもキリールの腕が悪いとは思えない。


「キリールさん、あなたにお願いします。10万で」

「あっ……あ、ありがとうございますっ! 頑張ります!」


 やっと歳相応の笑顔を見せてくれたキリール。


 そこからどんな形のクッションにするのか、どんな柄のブランケットにするのかを話し合った。


 歳がそれほど離れていなかった俺とキリールはすぐに意気投合する。


 このキリールとの出会いは俺の御者人生にとって非常に幸運なものになる事を、この時の俺はまだ知らない。


お読み頂き、ありがとうございます

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