【2ー9】ゲームといえば素材集め
「(カスタマーサポート……おい運営さんよぉ!? 昨日、ログインボーナス貰えなかったんだけど!? 不手際じゃないのか!?)」
朝起きて早々、ログボの事を思い出した俺は運営に問い合わせを行っていた。
ほどなくして返信が届く。まったく、不手際なら詫びとして十連ガチャチケでも貰わないと腹の虫が治まらん。
【ストーリー進行中を確認致しました。ストーリー進行中はログインボーナスも含め、様々なイベントの進行が停止します】
「(ログボはイベントとは関係ないだろ!? だってログボはログインしてくれてありがとうっていう、運営からのプレゼントでしょ!?)」
【ログインボーナスもゲームイベントの一つとしてお届けしております。初心者応援ログインボーナスイベントでございます】
「(くっ……そうですか、分かりました)」
ストーリーが終わらないとログボが再開しない、七日目のガチャチケが遠のいた。
脇目も振らずにストーリーに注力しろという事なのか。恋愛イベントも発生しなくなってるし、本当にストーリーに関わるイベントしか発生しないのだな。
「(もう一つ聞きたいんだけど、俺のギフトレベルって努力とかで上がったりしますか?)」
【しません。全てゲーム化されているため、ギフトポイントを使用しなければレベルは上がりません】
身も蓋もない返信。俺がどんなに御者として経験を積もうが、御者レベルは上がらないと。
確かに昨日、ゴブリンを倒してレベルが上がったが俺は何もしていない。何もしていないのに、経験も努力もしていないのにレベルが上がったのだ。
バトルゲームに参加していたから。経験を得たのではなく、経験値と言う数字が俺に加算されレベルアップ。
どちらがいいんだろうな……なんて言ってみるが、どう考えてもゲーム化している俺の方が有利だろう。
「……なぁあの人、なんでさっきから変な動きしてんだ? 表情もコロコロ変わってるし、空中を凝視してるし」
「ほっとけって、なんか気味わりぃよ」
「なんか見えてんじゃねぇ? バス事故で殺しちまった俺らの幽霊とか」
「ギャハハハ! 俺らの幽霊って! じゃあ俺達は死んだのかよ……って死んだのか」
朝食を取りに行っていた学生たちが戻ってきたようだ。どうやらバッチリと俺の奇行を見られてしまったらしい。
まぁ、今更どう思われようがどうでもいい。ネチネチと嫌がらせでもされるなら考えるが、腫れ物に触らないように俺の事を避けてるし。
「なぁ俺聞いたんだけどさ、そろそろ第一王女様が帰って来るらしいぜ?」
「マジかよ!? エカテリーナさんもめっちゃ美人だし、絶対に美人だよな!」
「なんか剣姫って呼ばれるほど強いらしいぞ」
「剣姫とかすげ~。俺のこと弟子にしてくんねぇかな」
その後も学生たちのバカ騒ぎは続いた。どうにも今日は外に出て行く気配がないため、逆に俺から外に出る事とした。
ショップを眺めるルーティーンは行えなかったが、聞きたい事を概ね聞いた俺はチャットを終了させ、バドス商会へと向かった。
――――
「あ、すみません。私はそろそろ……」
そう言って、昨日と同じく商会から姿を消した母ヒュアーナ。
予定ではそろそろこちらも忙しくなるので、そっちの仕事ではなくこっちの仕事に手を貸して欲しいのだが。
仕方がないので、俺は再びフェルナと二人で本日の予定を決める。
「昨日の内に広告を作っておきました! 三十枚ほどですが」
有能な娘フェルナから広告を受け取る。
料金は昨日話し合った通り、他の商会より三割ほど安くなっている。手書きというのも味があっていい。
「じゃあフェルナにはこの広告の掲載を頼んでいい? 俺はちょっと馬車備品を見に行ってくるから」
「分かりました、任せて下さい!」
フェルナと別れた俺は、一先ず商業ギルドに向かって見る事に。
目的は馬車備品の購入だ。とはいっても所持金は15万ゴルドほど。
ヴェラへの支払いは今後もらえる日給を当てにすればいいが、必ず貰えるとも限らないんだよなぁ。
「よし、じゃあ行こうか二人とも」
「「――――」」
実は送還していなかった黒髪エルフとピンク髭。あと数時間はもつだろうから、バドス商会に待機命令を出していたのだ。
ピンク髭はいいけど、黒髪エルフちゃんは固定したい。しかし問い合わせた結果それは不可能だと言われていた。
仕方がないので残りの数時間、いい思い出でも作ろうか。
さて、まず優先したいのはクッションだ。更にゴムのような素材があれば、車輪に被せて衝撃を軽減できるはず。
多少の出費は仕方ない。ここでケチッても良いことなんて何もないだろうから。
でもこういう金は普通、商会が負担するもんだよな……なんて事を思いながら商業ギルドへと向かった。
――――
「人が座る用のスライムクッションだぁ? そんな贅沢なもん、扱ってねぇよ」
商業ギルドからの紹介で訪れた工房で、スライムクッションが欲しいと伝えたらこの反応だ。
クッションが贅沢とは、この世界の人間は修行僧か何かなのだろうか。
「クッションといえば魔物や動物の羽を使うのが一般的だ、スライム素材のクッションは聞いた事ねぇぞ」
「魔物のクッションって、なんか嫌だな……」
どうやらクッション自体が贅沢品と言う訳ではなく、あくまでスライムクッションが贅沢品だと。
まぁスライム素材は色々な事に使われてるっぽいので、座布団にしてしまうのは勿体ないのかもしれない。
「高級品だと木綿を使う事があるが、スライムクッションはなぁ……」
「では羽を使ったクッションなら、いくらで作ってくれますか?」
クッションの他にブランケットや荷物を収納する箱など、思い付く限りの備品を伝えていく。
値段を確認していくと、ここは工房なので基本的に工賃が必要となるらしい。
素材持ち込みなら素材代は掛からない。素材がない場合は既製品を商店で購入するのと、あまり値段は変わらないっぽい。
そういう事なら素材を持ち込んでやろうか。魔物を倒して、羽を剥ぎ取ればいいんだろう?
工房主に魔物の情報を聞いた俺は、すぐさま魔物を狩りに街の外へ向かった。
――――
「――――」
「エルフちゃんお疲れさん! じゃあピンク、剥ぎ取りをお願い」
あれから数時間、魔物を狩りに狩って素材を集めていた。
鳥系や犬系の魔物を狩り、羽や毛皮を剥ぎ取っていく。これでクッションやブランケットが作れるだずだ。
「……そろそろ帰るか」
そろそろ護衛のタイムリミットだ。それに単純に飽きたし疲れてきた。
それなりに倒したがレベルアップはなし。素材はそれなりに集められたので、まぁいいだろう。
「こんだけあれば足りる……また魔物か、あれを最後にしよっか」
引き上げようと思っていた時、魔物の接近に気がついた。
何度も倒した犬型の魔物、確かグリーンウルフとかいう名前だったか。
『バトルシステムを選択して下さい』
【ターン制コマンドバトル――――選択可】
【リアルタイムアクションバトル――――選択可】
【タワーディフェンスバトル――――選択不可】
【カードバトル――――選択不可】
【放置バトル――――選択不可】
今日は何度も見たバトルシステム表示。ここまで多いと流石に面倒になってくる。
まぁ選択するだけなんだけど。俺は再びリアルタイムアクションバトルを選択……しようとして一つ思い付く。
「そういえば、放置バトルってなんで選択出来ないんだ?」
カードバトルが選択出来ないのは、単純にカードを所持していないからだろう。
タワーディフェンスは多分だけど、一定数以上の魔物が現れないと選択出来ないのだと思っている。
しかし放置バトルとは、放置ゲームの事だよな? 別に何の条件もいらないと思うのだが。
放置バトルとはその名の通り、放置していても勝手に戦闘を行ってくれるという事のはず。
ゲームにログインしなくても敵を倒して稼いでくれる、忙しい現代人にとっての神システムだ。
こういう素材集めとか経験値集めにはもってこいのシステムなのに。
「気になったら聞けばいいか」
リアルタイムアクションバトルを選択し、護衛にグリーンウルフの討伐及び素材の剥ぎ取りを命令する。
俺はその間にサポートセンターに連絡だ。
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