【2ー7】召喚とかはぽいけどなんか違うんだよなぁ
「ねぇあなた、その髭は剃った方がよくない?」
「――――」
「似合ってないわ。そもそもその色、染めてるの?」
「――――」
黙々とゴブリンの死体から魔石を回収する護衛のピンク髭と、青銅級パーティーでシーカーを務めているというツァリ。
イケメン好きなのか、ツァリはピンク髭の近くを離れず話しかけ続ける。全く反応しないので少し可哀そうになってきた。
「うぇ……気持ちわる」
「黙って手を動かせ」
顔を引きつらせながらゴブリンを解体し、魔石を取り出しているのは魔術師のテト。その横で汚れる事を気にせず頑張っているのが重戦士のチャドラ。
予想通り大盾は逃げる時に捨てたらしい。魔術師のテトも逃げる際に杖を失っており、中々に損害は大きかったようだ。
「なぁエルフさん、名前はなんて言うんだ?」
「――――」
「その黒髪も綺麗だぜ? なぁ今度食事にでも行かないか?」
「――――」
馬車の中で腹に包帯を巻いている、リーダーの剣士タゴナ。辺りの警戒を任せていたエルフちゃんをさっきから口説いているが、結果はご覧の有様だ。
怪我人なんだから大人しくしとけってのに。動けるなら魔石の回収を手伝って欲しいもんだ。
「タゴナさん、うちの子を口説かないでもらえます?」
「そんな事を言わないでくれよ。こんな綺麗なエルフは初めて見たんだ」
その後もタゴナはめげずに口説くが、どれほど頑張ってもエルフちゃんが靡く事はないだろう。
俺はタゴナ達の元を離れ、実は興味があった人物に話しかけた。
「テトさん。魔術師って話ですけど、まさか魔法が使えるんですか?」
「そりゃまぁ、魔術師なんだから使えますよ。今は杖を失ったので初級魔法くらいしか使えませんけど」
「見せてもらう事はできますか? 魔法に興味があるんです」
「えぇ? 別に特別なものでもないでしょう? まぁいいですけど……――――水よ、ウォーター」
そうテトが言うと、手の平から急に水が溢れ出した。思っていたのとは少し違うが、無から有が生まれる瞬間を目の当たりにしてしまった。
魔法か……こりゃファンタジーだ。使ってみたい、凄く使ってみたい。
しかし水よウォーターって同じ意味じゃん? 水よ水って。ダサいし英語は南部訛りじゃなかったんか。
「魔法を使えるようになるギフトってなんですか?」
そのギフトを教えてもらって取得しようと思う。魔法が存在する世界に来たら誰もが使いたくなるだろうし、色々と便利そうだ。
我が炎よ、敵を撃て! ファイアーボール! とか恥ずかしげもなく言ってみたい。
しかしテトの口から出た言葉は意外なものだった。
「魔法の使用にギフトは関係ありませんよ? 間接的に関わってはきますが」
「え……? そうなんですか?」
「ギフトは神から頂くものでしょう? 魔法は人が生み出した奇跡ですので」
深く話を聞くと、神からギフトを授かったから魔法が使えるようになる訳ではなく、あくまで魔法は人が作り出した力だという。
魔法の威力を高めたり、発動までの時間を短縮したり、少ない魔力で魔法を行使できるようになるなど、そういった意味でのギフトはあるらしいが。
「この世界の動植物には全てに魔力が備わっていますが、それを変換して魔法とするには才能と知識が必要なんです」
「才能と知識ですか……たぶん俺にはないですね」
「どうしても魔法を使いたいのなら、マジックスクロールを購入するという手もありますよ? 結構な値段ですけどね」
マジックスクロールを購入すれば誰でも魔法が使えるらしいが、それなりな値段という事もあって使用している人は少ないっぽい。
そもそもそれはなんか違うんだよなぁ。自分の力で、自分が詠唱して、自分で発動させたいんだよ。
まぁ護衛召喚とか従馬召喚とかは魔法みたいなものだけど、やっぱなんか違うんだよぁ。
魔術師というジョブギフトを取得すれば才能面はクリアーかもしれないが、知識となるとお手上げである。
魔法の行使をほぼ諦めた俺はテトに礼を言い、魔石回収を行っている者達を横目にステータス操作をし始めた。
【LV――――15】
【HP――――70】
【GP――――75】+15
【STR――――42】
【VIT――――30】
【AGI――――15】+5
【INT――――12】
【LUK――――10】
先ほど上がった2レベル分のポイント、20ステータスポイントを割り振った。これで護衛が五体も呼べる。
現在のギフトポイントは20。護衛召喚をレベル4にするには25ポイント必要なので、一先ず従馬召喚のレベルを上げておく事にした。
【GIp――――20】→【GIp――――5】
【従馬召喚Lv1】→【従馬召喚Lv2】
従馬の場合、レベルが上がるとどのようになるのか想像がつかないが、勝手に馬車運行にプラス効果となるだろうと思っている。
しかしこりゃ、ギフトポイント足りないな。
ショップから購入する事も視野に入れなくてはならないかもしれない。それほどまでにレベルアップしたいギフトが多すぎる。
他の者は努力によってレベルが上がっていくらしいが、俺にはその気配がない。代わりにこのようなシステムなので文句はないが。
「はぁ……もっと欲しいなぁ」
「十分だろ? これだけの小魔石があれば、それなりの額だぞ?」
「いやこっちの話なんで、作業を続けて下さい」
「…………」
お前もやれよ、とでも言いたげな目をしたチャドラは作業を再開した。
助けられた手前、強く言う事ができないのだろう。俺は何もしていないが、エルフちゃんとイケメンは俺の護衛だと伝えているので、雇い主の俺が一番上なのだ。
その後、俺はエルフちゃんを眺めながら作業が終わるのを待った。もちろんタゴナがウザいので見えない場所に移動してからだ。
――――
「よし、集め終わったぞ」
数十体にも及ぶゴブリンから魔石を取り出し終えた。
魔石はどんな生命体も宿している魔力の結晶のような物らしい。
もちろん人間の体の中にも作られるらしく、道徳を無視して人間の死体から取り出す奴もいるそうだ。
魔力が大量にあり、かつ長く生きたものほど魔力が濃い大きな魔石を有しているらしい。それを聞いた時は真珠みたいなもんかと思った。
「じゃあ帰りましょうか? 乗っていくんですか?」
「頼めるだろうか? もうヘトヘトなのだ」
「……いいですけど、体を洗ってから乗って下さいよ? 臭いっス」
「…………」
ゴブリンの解体によって汚れた衣服、異臭を放つ体に汚い手。
申し訳ないがそんな奴らを大事な馬車に乗せたくない。それに借りものだしな、この馬車。
テトが魔法で水を出し、それを使って体を綺麗にしていくチャドラとテト。ツァリは女性なので流石に馬車の影に移動したようだ。
俺はその間に二頭の従馬を召喚する。現れた茶毛の馬と黒毛の馬に護衛の二人を乗せ、出発の準備を整えた。
「……なんか馬、増えてねえか?」
「まぁそういう事もあるでしょう。そろそろ出発しますよ? いいですか?」
タゴナの問いに適当に答え、体を綺麗にし終わった三人が乗車したのを確認した俺は馬車を走らせ始めた。
馬に乗った護衛の二人もちゃんと付いて来ている。いやしかし、馬に乗ってもピンク髭が強烈すぎてなんかカッコよくない。
「……なんかこの馬車、速くねえか?」
「確かに……それなのに揺れが少ない」
「あまり馬車には乗らないけど、これはいいわね」
「いい感じです、これ寝れてしまいそうですよね」
彼らの言う通り、俺もなんだか来た時より速くなったような気がしていた。それなのに馬車の揺れは軽減されたような気もする。
もしそうだとしたら、従馬召喚のレベル上昇しか思いつかない。馬の性能によって馬車の動きも変わるのだろうか?
まぁ深くは考えまい、好印象を持たれているのならそれでいいのだ。
今のレベルの最高速がどれくらいなのか気になったが、本気で馬車が壊れそうなので自重して、馬車を王都へと走らせた。
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