【2ー1】夢への道のりは遠く……
→【はい】
『ストーリー【バドス商会の夢】を開始します』
少し迷ったが、懇願するバドス親子に断りを入れる事が出来ずにストーリーを開始した。
エカテリーナのエルフ酒クエストに間に合わなくなるかもしれないが、致し方ない。
彼女には優秀なメイドさんもいた事だし、なにより王家の人間だし何とかなるのではないだろうか。
もちろん諦めた訳ではない。バドス商会のイベントを早々に終わらせる事が出来れば何も問題ないだろう。
「とは言っても、前途多難……」
俺が力を貸すと宣言すると大喜びした親子は、未だに机の向こう側で抱き合って涙を流している。
涙を流すのが早すぎる。第一関門をクリアーしただけで、まだ何も成せていない。
一先ず俺はバドス商会の現状況と、御者を雇ったはいいがどういうプランがあるのかを尋ねてみた。
「「…………」」
「……え? 嘘でしょ、ノープラン?」
今度どうしていくのかを聞くと黙る二人。涙は引っ込み、何かを期待するかのような目で俺の事を見つめてきた。
俺は雇われ御者なのだが。会社の経営方針を一従業員に任せるなんてダメだろうが。
「はぁ……えぇと、まず確認なんですが、あの馬車は使っていいんですよね?」
仕方がないので俺が主導権を握る事に。相手が美人親子という事もあるが、どうにもあの目を見ると守ってやりたくなる。
しかしこいつら、本当にどうするつもりだったんだか。
「えぇもちろんです。あの馬車を使って下さい」
「では馬車の問題はクリアーとして、御者は俺が務めますし、馬も俺が準備します。最大で……五頭までは準備できますね」
「ご、五頭も馬がいるんですか!?」
「いると言うか呼ぶと言うか……」
現在の俺のGPは最大で50。従馬召喚は10GPなので五頭まで呼び出せる。
まぁ馬車のサイズ的に中型車のようなので、五頭も呼び出す必要はないだろう。護衛を召喚するGPも確保しておきたいし。
「あの馬車のサイズであれば、お客を満員に乗せても二頭か三頭で十分かと思います」
「なら問題ないですね。馬車問題はクリアーとして、次はどのような馬車として走らせるかですが……」
例えばこの街中を走る路線馬車。恐らく一番需要があるのがこの路線馬車だろう。
一先ずはこの路線馬車を運行させつつ商会を安定化に持って行こうと考えたのだが、そう上手くはいかないようだ。
「路線馬車を運行するにはその国の商業ギルドに運行許可を貰わないといけないのですが、借金のせいで許可が出るかどうか……」
「……ちなみに借金っていくらですか?」
「え~と、500万くらいだったかなぁ?」
「なんで曖昧なんだよ、ちょっと楽しそうだし」
商業ギルドからの借金なので、真っ当な金貸しだそうだが……全く払えずに少しずつ借金の額が膨らんでいったらしい。
「というか親父さんってギャンブルに勝ったんですよね? 賞金はどうしたんですか?」
「受取人死亡で賞金は没収されました……」
「え? そんなんあります? ちゃんと弁護士に……って、いないのかな」
なんだかその辺りはきな臭いが、現状はどうしようもないらしい。
ともあれ商業ギルドの許可が必要となる路線馬車が難しいとなると、他の形態の馬車で金を稼がなくてはならない。
確かカールが言っていた、今の馬車には路線馬車の他に別の街へ向かう定期馬車と、急いでいる人用の高速馬車とかが一般的だと。
「定期や高速馬車はどうなんです? 商業ギルドの許可は必要なんですか?」
「それらは街の外を走りますので、拠点地のギルドに商売登録は必要ですが許可はいりません。もちろん、儲けがでれば納税は必要ですが」
「では運行できるのは街の外を走らせる馬車だけって事ですね」
「しかしそれらの馬車は基本的に護衛の雇用が必須となりますので、護衛料が……」
「護衛なら……なんとかならなくもないですが」
計算してみよう。従馬を二頭召喚すると残りのGPは30。その状態で呼び出せる護衛は二人。
素人考えだが三人は欲しい。馬車の側面、そして後方に一人の計三人。そうなると今の俺ではGPが足りない。
レベルを上げるか、それともGPの回復材なんて物がショップに売っていればなんとかなるかもしれないが。
「護衛がいないのは論外ですが、それなりに実力のある護衛でなければ客は来ないかと……」
「う~ん、それなりの実力って言われても比べられないんだよな……」
今の俺の護衛の強さ、それがどれほどのものなのか分からない。
俺から見れば凄く優秀な護衛なのだが、外に出て問題なくやっていけるかのお墨付きがない。
戦闘は一度経験したが、いかんせんゴブリンとスライムだし、下手したら最弱コンビだ。
お墨付きをもらうにはどうすれば……誰かと模擬戦でもやってもらうか?
「ともあれ、外馬車でないとダメなんですから、その線で考えていきましょう」
「はい」
「護衛の方はなんとかしますので、二人は集客をお願いします。とりあえず広告のようなものを作ってもらえますか?」
「分かりました」
ある程度の道筋を決めて、その日は商会を後にした。
まず俺のやる事は護衛の力量を確かめる事、そして護衛の数を増やす方法を考える事だ。
ふと思った模擬戦だが、案外いい思い付きだと思った俺は商会を出て真っすぐに傭兵ギルドへと向かった。
俺の護衛との模擬戦を行ってくれる人を探すのだ。魔物と戦い慣れているという傭兵に外でもやっていけるとのお墨付きをもらえれば、護衛の実力問題は解決する。
なんて事を考え、馬に乗って傭兵ギルドへと向かっていた時、それは起こった。
「ちょっとアンタ! あたしへの指名依頼だしてないみたいじゃない! なんで出さないのよ!?」
怒姫ヴェラ・ルーシー、またの名をマイヒロイン、またの名を銀二等級冒険者の登場であった。
あ、こいつでいいかも。
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