わしを見つけた坊様の話7
本作品は個人Vtuber飴雨あづさに関する2次創作である。
飴雨あづさは2次創作について全面的に許可しており、本作品においても投稿することを承認いただいている。
#あづさくひん
寺に戻り、すぐに除霊に取りかかった。弟弟子たちも手伝ってくれて、子供の中から怪異を除くことは簡単だった。
「このバカ者がッ!!」
朝になって帰ってきたじじいに盛大に殴られた俺は背中から倒れ込み、頬の痛みに歯を食いしばる。
「勝手をして子供に怪異を取り憑かせ、挙げ句に原因となった怪異を取り逃がすとは、なんたることかっ!!」
じじいの叱責は最もで、視界の端で寝る子供を危険に晒し、怪異の浄霊浄化を失敗した俺に反論の余地はない。
「あいつに取り憑いたやつは、あいつの母親か?」
「その子が母と呼んだのなら、そうだったのだろう」
じじいは子供の横に座り、額に手を当てる。怪異は除霊できても、取り憑かれた負担が大きかったのか高熱を出していた。正直、子供の体力が持つかわからない。
「自分の子供に取り憑くかよ。親父はどこ行ったかもわからねえ」
「バカ者。我が子を苦しめたい親がいるわけないだろう」
俺が愚痴るように呟いた言葉に、じじいは反論する。
「ああ? 現にこうして子供は――――」
「怪異っていうのは、自分が死んでるとは気づかないんだ。自分が生きている者にその気がなくても悪影響を与えると気づかないんだ。教えただろう」
俺の言葉を遮るじじいの言葉に、俺はぐうの音も出せない。確かに教わった、だから対話をするのだと。怪異に「あんたは死んだ」と伝えるのだと。
「この子のお母さんも、自分がそんな存在だとわかればこの子に近付かなかっただろう」
それはじじいの希望だろう。もしかしたら本当にクソみたいな母親で、子供を呪うようなやつだったかもしれない。
「……いや、それはないか」
子供に取り憑くときの怪異の動作は、我が子を抱きしめるものだった。あの動きはとても優しく、とても希望的な雰囲気だった。こういう感覚を俺たちは大事にしているからこそわかる。あれは子を想う母だった。
「普段からろくに食べていなかったのだろう。体力が落ちている」
やせ細った姿を見れば飯が足りていなかったのはわかる。わかっていた。
「……言っておくが、お前のせいだけじゃない。この子に目を向けるべき大人全員のせいだ」
じじいは、今度は憔悴した俺を励ますようにそんなことを言う。子供に目を向けるべき大人がどれほどいたかは知らないが、そのうちのひとりが俺ということに間違いはないだろうに。
「知り合いの医者がもうすぐ来る。迎えに行くからお前はこの子についておれ」
その医者は何度も寺に来ているから、じじいがわざわざ迎えに行く必要はない。俺に気を使ったのだろう。じじいが去ったあとに子供の横に座り、その額に手を置く。
「……お坊さま?」
「気が付いたか?」
消え入るような声で「うん」と小さく答える子供は、うっすらと開いた目で俺を見つめる。
「あまり無理するな、いまは休め」
「うん……お坊さま。私ね。……お坊さまの、煙草は嫌いじゃ……ない、かも」
「……あんたの前じゃ吸ってないだろ?」
「ううん……。服から、してた」
「もういい、しゃべるな」
「おしゃべり……大事なこと、だから……」
「元気になったらたくさんすればいいさ」
「――――ありがと……お坊さま、だい、す…………」
無理やり口角を上げた子供の笑顔に、自分の不出来を痛感する。その言葉を最後に目を閉じ、もう目覚めることはなかった。
後に聞いた話では親父も遺体で発見され、死因は轢き逃げ事故だったという。その手には誕生日ケーキがあり、おそらくは子供の誕生日だったのだろう。
仕事に終われ、家事もろくにできない父親だった、とはじじいが近所から聞いた話だ。正直、虐待を疑ってすらいた。
きちんと子供と対話をしていればその辺ももっと早く知ることができたのかもしれないな。
ああ、それと、子供と親父の葬式は俺が経をあげた。子供の名前をこのときに初めて知ったことを、じじいにまた殴られた。
おしゃべりってのは、そんだけ大事なことなんだ。