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雨色の煙草  作者: りた
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わしを見つけた坊様の話4

本作品は個人Vtuber飴雨あづさに関する2次創作である。

飴雨あづさは2次創作について全面的に許可しており、本作品においても投稿することを承認いただいている。


#あづさくひん

 起床は6時。相変わらず雨は激しく降っているが、僧侶のやることは変わらない。弟弟子たちはもう少し早く起きて寺を隅から掃除し、食事を作る。住職は6時ころに起きたら本堂で勤めを果たす。俺はというと、いつもは開門して庭の掃除から始めるが、きょうはじじいがいないため代わりに本堂へ向かう。

 本堂を掃除し、仏飯を供え、花と水を変える。最後に読経を上げ、朝の務めを終える。本堂から出ようとすると、弟弟子が子供を連れて縁にいた。

「おい、濡れるぞ?」

 風も弱くない。建具もない縁に、こんな雨の日にずっと待っていたなんてことはねえよな?

「この子がどうしても見ていたいというので……」

 子供は不思議そうな顔で仏像様を見ている。興味があるならじじいが帰ってきてから、お説教でもしてもらった方が良いかもな。

「ほら、飯食うぞ」

 子供の頭をわしゃわしゃと撫でて、離れへと戻ることにする。本堂と離れは渡り廊下もないため傘をささないといけない。

「あれ、なにしてたの?」

「読経か? 仏様と対話してたんだよ」

「対話?」

「おしゃべりだな」

「ずっとお坊さまだけしゃべってたのに、変なの」

「ここの住職様はね、対話をとても大事にしてるんだよ。ただ言葉にするだけがお話じゃなくて、動きや表情でもお話しができるんだ。だからさっきのも、一人で話してるように見えるけど、仏様とおしゃべりしているんだ」

 弟弟子が諭すよう説明するが、やはり分からないのかいまいちな反応をしている。

 まあ、また今度教えてやるとしよう。


 小食を済ませ、1日の予定を確認する。昼までは仕事があるが、午後は時間が空きそうだ。明日になればじじいは帰ってくるが、怪異の場合は早めに調査をした方がいいだろう。

「この時間に外出しても問題ないか?」

「えー……。そうですね、大丈夫です」

「おう、なら……あんたの家に行って怪異を確認しに行くぞ」

「口裂け女の……じゃなくて、あいつのこと調べにいくの?」

 昨日の話を覚えていたようで、口裂け女と呼ぶのを訂正する。

「おう、そのまま退治できたらしてやるかね」

 子供はすごく嬉しそうに何度も頷く。泣かれると面倒だが、こうして元気に笑っていると存外悪くないかもしれないな。


 少し話は脱線するが、怪異というものは、都市伝説として語られるから実現するという考えがある。

 どういうことかというと、例えば口裂け女が存在し、実際に子供に危害を加えたから噂が広まるというのが普通の流れだろう。

 この考え方はその逆で、子供を襲う口が裂けた女がいるという噂が先行し、その結果として本当に口裂け女が生まれるという流れではないか、というものだ。

 噂には恐怖や好奇、畏怖や期待など、人間のさまざまな感情が乗る。そういった強い思想によって怪異が形を成すのだ。

 人が噂をすると怪異が生まれる。

 口裂け女という都市伝説には弱点もあればそれを克服した噂まで、地域によっても多々の噂があるが、問題はどれが正解なのかということだ。

 噂によって怪異が実現するならば、凶悪な噂を持つの怪異は凶悪な事件を起こす。

 そう、人を殺すと噂すれば本当に人が死ぬのだ。

 だから、俺は子供に「怪異のことを口裂け女と呼ぶな」と言った。子供を狙っているかもしれない怪異が本当に存在するのなら、さまざまな噂を持つ有名な都市伝説に結びつけてしまうと対策がしずらくなるからだ。これから対峙する怪異がそんな面倒なやつになるととんでもない。なるべくめんどくさくないやつであると信じよう。


 そんな考えをしていたというのに、子供と約束をしたというのに、午後は急遽仕事が入ってしまった。慌ただしく対応したあとにヘソを曲げた子供に謝ったのは18時過ぎだった。神道だと逢魔が時と言って怪異が活発になる時間でもある。きょうは諦めて出掛けるなら明日にした方がいいだろう。

「約束したのに、嘘つき!」

「ああ、約束を破ってすまない。だが、これから行くのは危険だ」

 すでに靴を履いて庭で地団駄を踏む子供を諭すが、退治すると言ったことが嬉しかったのかすぐにでも俺を連れていきたい様子だ。

「危険ってなに!」

「暗くなると怪異が出やすいんだよ」

「出てきてくれないと退治できないもん!」

 いや、そうかもしれないが、わざわざ遭遇しに行く必要はないだろうに。

「早く靴履いて!」

「はあ、明日にするぞ。あと、雨降ってんだから傘させ、風邪引くぞ」

 子供は「もういい!」と叫ぶと門の方へ走る。おいおい、まさかひとりで帰るわけじゃねえよな?

「怖くなって戻ってくるか?」

 いや、敷地から出た時点で襲われるかもしれない。仕方ねえ、追いかけるか。

 慌てて傘を持ちサンダルを履いて門を出ると、遠くに子供の姿を見つける。俺が追ってきたことに気付くと、嬉しそうに笑って真反対に走り始めやがった。

「おいこら!」

 怪異とか以前にちゃんと前見て歩く……走らねえと普通にあぶねえ。事故にあったら洒落にならないので全力で追いかけることにする。ああ、くそ。サンダルで走らせるなよ。


 子供はすぐに捕まえることはできた。できたが、そこはすでにこの子供の家の前だった。

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