身動き出来ない雪うさぎ
公式企画「冬の童話祭2023」参加作品です
小学校低学年ぐらいまでの
お子様に向けた絵本をイメージしました。
絵心がなく絵をつけられませんでしたが
情景を想像しながら読んでいただければ幸いです
2023/01/02 歌川 詩季様より
狼とうさぎの絵をいただきました。
ありがとうございます。
まっしろなゆきの中にかくれるように
まっしろな雪うさぎがうもれていた
はだをさすようなつめたさの中で
ふるえることなく
赤いひとみはただ一点を見つめている
その先には小さな穴が空いていた
しろいゆきにぽつんとうかぶように
ほんの少しだけ見える黒いあなは
とてもとおくから見たとすると
まるでそれが雪うさぎのはなの先のように
見えたかもしれない
雪にうもれた雪うさぎは
それを自分のなかまだとでも思っているのか
ただひたすらにそのあなを見つめていた
その雪うさぎの少し後ろを
白と灰の毛につつまれた狼が通りすぎる
狼は少しの間立ち止まり
雪うさぎの方に顔をむけていた
雪うさぎはふるえることもなく
ただじっとしている
狼はふい、と
また前をむいてあるいていく
しんしんと雪がふりつづける
雪うさぎの上にも
雪がふりつもっていく
もう雪うさぎは
雪うさぎなのか
雪のかたまりなのか
それすらわからなくなっていた
しばらくして
雪うさぎの親子がやってきた
小さくとびはねるように
雪の中をすすんでいた子供の雪うさぎが
雪にうもれた雪うさぎに気付いた
ぴょこんぴょこんと近づくと
はなを当ててからだをすりよせる
すると、雪にうもれた雪うさぎは
ころんとよこにころがった
子供の雪うさぎはおどろいてとびはねる
何がおきたのか、と気になったのか
子供の雪うさぎがじっと動かない雪うさぎを見ていると
となりでそれをみていた
親の雪うさぎの耳がとつぜん、ぴんと立った
そして子供の雪うさぎの前をよこぎるように
いそいでとびはねていく
子供も親の動きに気づいて
その後ろについてとびはねていった
雪うさぎの親子がいなくなって
しばらくすると雪うさぎの親子がいた場所に
白と黄金の毛皮をきた
狐がすがたをあらわした
狐はその場でにおいをかぐようにすると
ころがっている雪うさぎに気づく
動くことのない雪うさぎを
すこしふしぎそうにしながら
雪うさぎのにおいをかぐと
とつぜん、そのくびにキバを立てた
雪うさぎはそれでも動かない
こわさで動くことができないのか
それとももう動くことが出来ないのか
けれど、狐は雪うさぎをかみころすことなく
むしろはき出すように立てたキバをはなした
そしてさっきここからにげた雪うさぎ達をおうように
その場からはしりさっていく
雪うさぎは動かない
ふるえることなく
からだはころがったままに
その赤いひとみは黒いあなを見つめている
そこにいるはずの大きな雪うさぎは
自分をたすけることなく
ただじっとしている
そんなことを思っているのだろうか
雪うさぎは動かない
その雪うさぎのくびを
ひょいと何かがくわえ上げた
さっきどこかにいったはずの狼だった
狼はじぶんのいえに雪うさぎをつれかえると
地めんに雪うさぎをそっとおいた
狼はからだをまるめてよこになると
雪うさぎをあたためるように
自分のおなかの上に乗せる
雪うさぎのぬくもりで気持ちよくなったのか
狼はそのまますぐに目をとじてねむりについた
ときどきさむさにわずかに身じろぎをすると
おなかの上の雪うさぎが動く
狼のいえのほら穴の外からは
雪あかりがほんのりさしこんでいた
ねむる狼の黒いはなを
雪うさぎは赤いひとみでじっと見つめていた
白い雪の中に浮かぶ黒いはなは
灰色の毛からとびでる黒いはなにかわった
つめたい雪の中で
ただそこにあるだけの黒いはなは
あたたかい毛の中で
体をあたためてくれる黒いはなにかわった
雪うさぎはふるえることもなく
その赤いひとみで
じっと黒いはなを見つめていた
雪あかりにてらされて
灰色のけなみにのびた雪うさぎのかげが
狼の黒いはなにかさなるように
動いたように見えた
白い雪はまだしんしんとふりつづいていた
人が息絶えた世界
生き物たちは過酷な時を生き延びている
そんな世界の中に忘れられたかのように置かれた
一匹の雪うさぎのぬいぐるみ
読み手の方に想像していただきたくて
色々なものを曖昧なままにしました
物語としては面白みに欠けるかもしれませんが
ぬいぐるみである雪うさぎはどうなったのか
雪うさぎを連れていった狼は何を思っていたのか
雪うさぎの子供は初めて触れた雪うさぎのぬいぐるみに
何を思ったのか
そういったことを想像しながら読んでいただけたなら
嬉しいです。
読んでいただきありがとうございます




