第四話 旅が終わる
5. 三日目(令和四年6月12日)
6月12日。
筆者は、アラームを午前5時にセットしていた。けど、起きた時には母はおらず、おそらく一番風呂を堪能しているのだろう。だから、備え付けのコーヒーメーカーでコーヒーを淹れ。
この「月夜のうさぎ」では、コーヒーメーカーはインスタントではなく、豆を(手挽きの)ミルでドリップするという形になっている。これが結構気に入っていて、だからガリゴリと豆を挽き、コーヒーを淹れていたら、案の定コーヒーの香りに惹かれた母が帰ってきた。
で、コーヒーを飲んだ後、出雲大社に早朝参拝。6年前に来たときは、車のカギはフロントのロビーに預けたのだけど、今回は早朝参拝は当たり前のことと認識され、だから車のカギは宿泊客管理。だからそのまま大社の駐車場に走り。そのまま早朝参拝。
早朝参拝のメリットを一口に言うと、「写真を撮っても、第三者の姿がフレームに入らない」。何しろ数えるほどの観光客と、日課の散歩ルートになっている地元の人を除いたら、誰もいないのだから。神様と一対一で向き合いたいと思ったら、この時間が一番だ。
ちなみに、お賽銭用に五円玉を50枚用意。紐で綴って、必要な時にいくらでも出せる用意を。なんせ相手は八百万。その社も、大社内に多くあるから、その分賽銭箱も多くあり(笑)。その全てに投じようと思ったら、五円玉の五枚や十枚じゃ全然足りないから。でも余裕があると、賽銭箱に五円玉を投じることも、また楽し。
戻ってから、また一風呂。そして朝食。
朝食もバイキングで、だから色々選んで。……ホテルのモーニング・バイキングで、納豆を食べなかったのは、もしかしたら今回が初めてかも(笑)。
そして、今回のプランでは「レイト・チェックアウト」を選択していたので、チェックアウト予定時間は11時。でも普段の旅行では、「朝食」⇒「撤収準備」⇒「チェックアウト」でかなり忙しない思いをしていたから、こういうのんびりした行程も、楽しいかも。
だから筆者は、改めて個室風呂に入浴。
「個室風呂」というと、カップル専用、或いは家族風呂、というイメージが強いけど、月夜のうさぎの個室風呂は、「予約不要・空いていたら入ってよし」というタイプ。実際に入ってみたら、単に個人サイズのお風呂。しかもコロナ対策でシャンプーもボディーソープも撤去されている為、客室のユニットバスと大差ないお風呂だった。
◇◆◇ ◆◇◆
11時チェックアウト、の予定だったけど、さすがに暇を持て余して10時30分チェックアウト。
天気は快晴、ちょっと風が強い。……昨日からこの天気だったら気持ち良かったろうけれど、しまなみ海道で天気が良かったら見どころが多過ぎてもっと疲れたかもしれない。
それはともかく、次に向かった先は松江の玉造温泉。別名「美肌の湯」。……いや、どこであれ温泉に浸かったら多くの女性の肌は美しくなるでしょう。「醜肌の湯」を謳い文句にしている温泉は寡聞にして知らないんだよ?、とは突っ込んではいけないようで。
まぁ宍道湖を望むその温泉は景色もよく、やっぱり快適で。でも湯温が高過ぎて、長湯する温泉じゃなかった。
そこから取って返して、出雲市駅まで。でもまっすぐ帰るのもつまらないので、往路が宍道湖の南岸を通ったので、復路は北岸を。
すると、ちょっと興味深い標識を見た。「一畑薬師入口」という交差点だった。
その標識、普通の人にとっては「だから何だ?」ってものなのですが。私にとってはちょっと興味深い駅名を連想した。だからそこに入ってみて。
興味深い駅名。それは、「一畑電鉄一畑口駅」。
拙作(『前略、親友殿~いつまでも、かわらずに~(n2396gb)』)の、あるエピソードの為に登場させた駅(第十一章第28話)だ。そこは、平面スイッチバックの駅。
平面スイッチバック。鉄道で、それを行う駅は他にもある。そもそもスイッチバックは基本、急勾配を登る為、進行方向を変える為、等の理由で行われる。初日に使った『サンライズ瀬戸』号も、琴平までの延伸運転の為、高松でスイッチバックを行う(だからこそ停車時間が30分超あるのだから)。
けれど、一畑電鉄一畑口駅のスイッチバックに関しては、事情が違う。
本来、一畑口駅を起点として、その北方に向けて線路があったのだという。けれど、太平洋戦争中の軍事物資不足の為、線路に使う鉄の供出を求められ。だから駅の北側の路線を廃線にして、レールを物資として供出したのだそうだ。
そもそも需要が少ないけれどなければ困る住民密着のローカル線。その結果、出雲市駅側と宍道湖温泉側で方向が変わってしまったものの、駅舎を移動させることの方がコストがかかり。
結果、平面スイッチバックという形で、現在までもその駅が存続することになったのだとか。
その駅を、外側から観察し、撮り鉄宜しくあっちこっちの角度から撮影して。こういう、知識でしか知らなかった場所を現地取材出来るのも、旅の楽しみ。
それからまた、レンタカーを走らせて。
出雲市駅に到着したのは、14時半頃。そして『サンライズ出雲』の出発は、18時53分。まだ4時間以上時間が有る。
だから、まずはレンタカーを返却(出雲市駅前店に乗り捨て)して、それから南口にある「らんぷの湯」を利用する。
この、らんぷの湯。これも先述のエピソードに関連して現地を調べた時に見つけた、温泉銭湯だ。けど。
出雲大社観光で、「出雲市駅周辺で、銭湯はあるか?」というネット掲示板の問いには「無い。手頃なネカフェを探せ」という回答があったことを考えると、ここ数年のうちに開業した温泉銭湯なんだろう。けど駅チカで、ゆっくり入れる(入浴時間制限のない)温泉。しかも『サンライズ出雲』が到着する時間が9時58分で、らんぷの湯の開店が10時、と考えると、出雲訪問客にとって都合のいい時間、ともいえる。
さて、らんぷの湯で温まり(時間を潰し)、駅構内に入り。今度こそサンライズのシャワー券を取得しようと3号車の乗車口から列に入り。順番は二番目だったので今度こそ券を購入出来。
もし余裕があればもう一度列に並び直して母の分をもう一枚、と思ったのだが、既に順番待ちは20人以上。シャワー券は、貯水量の関係から20枚限定なのだそうだ。そして母は「朝から温泉に入り続けているから、今更シャワー券に興味はない」とのことだったので、二枚目は諦めて。そう、上り線も、発車前に券は売り切れる勢いだった。
ちなみに、倉敷駅を出たあたりでシャワールームを利用したけど。「身体を濡らす為」と「身体と髪に着いた石鹸を洗い流す為」だけであれば、シャワーは2分あれば事足りた。身体を温める為に湯を浴びたい、と思っても、浴槽が無いので1分で飽きる。結局、6分間のシャワータイムを持て余し、時間を残した上でシャワータイムを終わらせることになったのだった。
そして自室に戻り、スキットルに詰めたウィスキーをちびりちびりと。旅に出ると、むしろ酒量が減る。そして朝夕測っている血圧を確認すると、金曜の夕方から(普段は高血圧傾向なのに)正常値に戻り、旅行中は一度も異常値に達しなかった。本当に、素直にストレスに連動していたことがわかる。
◇◆◇ ◆◇◆
上りの『サンライズ出雲』は、踏切トラブル等の影響で多少の遅れは出ていたけれど、東京到着は定刻通り6月13日7時08分。そして自宅の最寄り駅に着いたのは、8時45分(混雑の為5分遅延)。……スケジュール的には、このまま月曜(平日)の就業に(多少遅刻するけど)間に合う、ということだ。
けど、さすがに体力的に追いつかない。だから今日はお休みで。
母の透析スケジュールは、月水金の、午後14時から17時。それを前提に、金曜日の17時30分スタート、月曜日の午前中に帰還、というスケジュールの旅。
当然介護(送迎担当)の筆者の負担は壮絶なものがあるけれど、不可能な旅程ではないことが確認された。ただ、現地で「歩く」ことの母の足に掛かる負担が意外にあったことも確認。その一方で、障碍者でありながら車椅子を調達することは嫌がる母のことを考えると、旅のプランも考える必要があり。
「制限がある方が、モノ作りは燃える」とは、誰の言葉だっただろう? この条件下で、母が喜ぶ旅を設計するのは、楽しいことなのかもしれない。
(3,372文字:2022/06/14初稿 2022/06/14投稿予約 2022/06/18 14:00掲載予定)




