四話
こんな文章しか書けない自分に嫌気が差します。
誰か書いて。
視点:アナ予備大尉
今日、私は銃殺隊の指揮を執ることとなった。
指名された時は驚いたが、卒業までもう少しなのでやっておかねば実際の戦場で引き金を引けなくなってしまうかも知れない。
それに、対象は憎き反乱軍。躊躇いなどしない。
しかし、銃殺隊の資料が送られてくると、階級を次々と繰り上げている優秀な少年であるが問題行動を最近起こした――私にしてみれば相手の方が悪いと思うのだが――ミール少年の名前があった。
今彼は8歳。遊び盛りだと言うのに黙々と勉学に励み、装甲過程も上位という神童。
だが名前が乗るのが早いと思う。8歳に銃殺は重いものがあるだろう。
だからミールくんの資料を取り寄せ、目を通してみれば色々と納得するものはあった。
名前を消すように教官へと掛け合おうと思ったのだが、エゴでしかないと思い直し、少年を呼び出すことにした。
そして、ノックの音。
「ミール・ソコロフ予備中尉、出頭いたしました」
まだきれいなソプラノボイスだと言うのに、出てくる言葉は機械のように無機質だ。
「入りなさい」
「失礼致します」
入室を促すと入ってきたのは銀髪に黒い目をした可愛い顔立ちの少年。ミール・ソコロフ。
チラチラと見ることはあったが、真正面から見るのは初めて。私の琴線にビンビンと触れて、今すぐにでも抱きしめて頬摺りしたい衝動に駆られる。
「予備大尉殿?」
いけない。衝動を抑えなくては。
「すまない。考え事をしていた。それで、要件だが。銃殺隊のことについてだ。貴君が編入されているのは知っているな?」
「はい。承知しております」
顔をピクリとも動かさない。
目はしっかりとこっちを見ていることからも動揺もしていないのだろう。
末恐ろしい、と感じてしまう私を律して口を開く。
「気がすすまないのならば辞退することもできるが。どうする」
その時、初めてミール君の表情が動く。
見て取れるのは明らかなる怒りの色。まさか軍人としての資質を疑われたと?
「辞退はいたしません。必ず参加致します」
「……なぜ、と聞いてもいいか」
「構いません。自分は未だ子供と言えども立派な帝国軍人であると自負しておりますゆえに」
鉄の意志。
そして目からは、もし勝手に外したら喉笛を噛みちぎる、とでも言いたげだ。
「それは、家族が殺されたからか?」
僅かに揺れる目を見て取った。
やはりそういうことなのだろうか。
家族を殺され、愛を失い復讐に燃える餓狼。
「失礼ながら貴君の経歴を見させてもらった」
「構いません。自分は、家族のためではなく愛する祖国のために銃を握ると決めたのです」
面接で家族のため、とも言っていたと書いてあったのだけれど。
本音を隠す隠れ蓑に国を使う。それが無性に悲しくて、原因の一人である私はいたたまれない気持ちと一緒にこうも決めた。
この子に愛を教えよう、と。
「そうか。疑って悪かった」
「いえ、構いません」
「そしてお願いがある。これは予備大尉としてではなく、第四皇女としてのお願いなのだが」
「……構いませんが」
怪訝な色が浮かぶその表情に、私は笑みを浮かべる。
第よん控除という名前を使うのは気がひけるのだが、こういうときには使わないと。
「素で話しても良いだろうか。貴君と友になりたいのだ」
「は、了解致しまし……なんと?」
「そうか、うなずいてくれるか――全く、軍人口調ってつかれるわ」
混乱で口をパクパクとさせているミール君に近づいて、目線にまで体を落とす。
うん、やっぱり私の琴線にビンビンと触れる。
「ね、笑ってみて?」
「は、は……はい?」
「笑うの。ほら」
ぎこちなく笑うミール君に心の中が熱くなっていくのを感じながら頬へと、両手を添える。
「もうちょっと自然に」
言うと、ぎこちなかった笑顔が、優しげな笑顔となって、それがまたすごく可愛くて、弄り倒してしまった私は悪くないと思う。
この子はひどく危うい。もしかしたら敵だけではなく味方すらあっさりと殺すような、そんな存在になってしまうのではないかと思うのだ。
だから、これからこの子を私の色の染めても良いかも知れない。皇国ではライトゲンジ計画、といったかしら。
視点:ミール
呼び出されたからこの前の演習場での出来事かと思えば、お友達になってください宣言だったので驚いた。
銃殺の件に関して言えば、トラップだろと疑ってかかっていたので絶対に参加するという意志を見せつけた。辞退してみろ、確実に出世街道から外される。
お友達宣言はまあ、第四皇女様のお願いを断れるわけないだろ! 面倒になりそうだから嫌ですとか言えないだろ! いいかげんにしろ!
そして銃殺の日。
連れられてくる奴らを見ながら、さっさと終わらせようと誓う。
こんな面倒事はさっさと終わらせるに限る。
話を変えるが戦争をして負ける要因というのは、国内情勢が大きな起因となる。
それの大きな一例を上げるとすればベトナム戦争。
北ベトナム側、強いて言えばソビエトの工作もあって合衆国では反戦運動が勃発。それによってアメリカは撤退することになる。
まあ、あの戦争はなるべくしてなったというところが大きいが。
その他にも第二次世界大戦下でのポーランド。ソ連から侵攻された際に、打ち合わせでもしていたかのような反乱もあった。
なくても結局の所支配されていただろうが。
ともかく、反乱分子というのは戦争においては大きな敗因となる。
なので早いうちに潰しておいたほうが良いに越したことはない。ソ連のヒゲが良い例だ。まあ、あれは行き過ぎだが。
俺は銃殺隊の指揮ではなく撃つ側に回っている。
指揮を取っているのはアナ予備大尉殿だ。
「最期に言いたいことはあるか」
今日天に召されるのは南部で未だ頑張っている共産主義者。それに味方した貴族に私兵の敗残兵。
全く、共産主義というのはいつの時代も害悪としか言いようがない。真の共産主義を実現するならば人間が全員ロボットのようにならなければならない。
土台無理な話に惹かれたバカ者共だ。
「貴様! 第四皇女ではないか! それが子供をも洗脳し人殺しをさせるとは。恥を知れ!」
「無辜の民を殺し回った貴様らが言うと説得力が違うな」
「予備中尉」
おっと、つい口が出てしまった。
だが恥を知るのは貴様らだ。
革命の名の下、市民の家族を盾に兵を集め、断れば公開処刑に強姦。
それを正当化する危険思想。ただの蛮族。いや、それ以下だろう。
例える言葉が見つからないほどに下劣。
「そこの子供! 皇帝や政府に騙されるな! 奴らは君たちから搾取することしか考えていない!」
従順になる土台を作ったのは貴様らなんだがな?
その土台なくしても共産主義者などにはならんが。
「それで終わりか? では、さようなら」
躊躇いなく、引き金を引いた。
:予備二等兵
「ようこそ兵器量産学校へ! ここに入った貴様らは今日から無価値な蛆虫だ! いや! ウジ虫のほうが価値があるかもしれんな!」
まさか、冗談だろうと思った。
今まさに俺達に罵詈雑言の限りを尽くしているのは俺達よりも遥かに年下な少年であったから。
当然、言われている罵詈雑言も子供から放たれていると思えば微笑ましいものであったが、鬼気迫るものもあったので他の大半の奴らはイライラとしていた。
だがまあ、入学式を終えたあとは、この学校なりの歓迎の仕方なのだろうと笑っていたがそこまで。
次の日に、ゆっくりとしていた俺達は対戦車兵の鎧を身に着けたソコロフ予備大尉によって眠りから叩き起こされた。45ミリ砲の爆音によって。
穴が空いて風通しとともに日光の入りも良くなった隊舎には驚いてベッドから転げ落ちているものが大半だ。
「今日の集合は何時だと言っていた! 5分前で寝ていられるとは早着替えにでも自信があるのか!? ならば結構! 今から5分後にはすべての装備を身に着け整列しろ! ここで!」
できるわけがない。
そう言い放った負けん気が強い男は、45ミリ砲を捨てた予備大尉に迫られ、鋼鉄の手で頭を捕まれもがく。
「口からクソ垂れる前に同士をつけろこの粗チンが! そのタマ切り取ってグズでのろまな家系を根絶やしにしてやろうか!」
痛みに耐えかねた男が気絶したのが分かると、ゴミでも放るかのようにそこらに投げ捨て、驚きで未だ動けないでいる俺達に向き直った。
「なにをしているそびえ立つクソ共! 早着替えに自信があるんじゃなかったのか! 早く着替えろ! その粗チンも含め10分後までに練兵場まで集まれ! 遅れたら分かっているだろうな!」
文字通りのアイアンクローなぞくらいたくもない。
それはみんなの共通認識か、黙って素早く、必死になって着替え、起きない同期の服を脱がせさっさと着替えさせて運んだ。
それからは地獄のような訓練の数々。
崖をロープで登りきったと思えばもう一度。何キロも走らされたかと思えば、同期が暴言を吐いてしまい、俺達が吐くまで走らされ。反抗しようとした輩にはアイアンクローで気絶させて俺達に運ばせる。連帯責任だと。
「俺は貴様らが有能であろうと無能であろうと男であろうと女であろうと差別はしない! なぜなら貴様らは等しくウジ虫であるからだ! 分かったか!」
『はい同士殿!』
そんな鬼のように厳しい予備中尉に歯向かったらどうなる?
俺達に地獄が待っている。
それを理解できない馬鹿が予備中尉殿に今日も歯向かい連帯責任と一緒に厳しい訓練が追加される。
嫌なくらいに平等だ。馬鹿と同じ扱いをされるのだから。
こっちからしてみれば溜まったものじゃない。
もし、演習場で耐えかねた馬鹿がペイント弾をわざと予備中尉にあてたら?
そんな物は分かりきっている。
「おーれたち蛆虫だいぐんだーん!」
学校の円周や市街を恥ずかしい歌を大声で歌いながら最後の一人が魔力切れ寸前。いや、気絶するまで走らされ続ける。
予備中尉とそれに逆らうクソバカに神の制裁を!