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7.崩れ始めた平和

 数日前のとある一室にてーーー


 コンコンと音が鳴り、ソファーに体を預けていた男は、ゆっくりと目を開ける。


「旦那様、お手紙が届きました。」


 手紙を男に渡すと、すぐに去っていった。


 受け取って中をみると、自分の思った通りにことが運べていて、ニヤリと笑った。


「ふっ、これほどまでにうまくいくとはな......」


 あまりにも簡単にうまくいって、思わず笑いがこみあげてくる。


「フハハハハ!これでベネディクトも終わりだな!奴のせいでわしがどんなに恥をかかされ、プライドを気づつけられたことか......」


 思い出すだけでも腹立たしい。バンッと机を叩きつける。


「まあ、せいぜいあがくがいい......」


 ベネディクト王が必死に生きようともがき、自分に命乞いする様を想像して、男はもう一度大きく笑っていた。




 宿屋 紫翠の店内は客たちの楽しい声で溢れていた。ある人は淡々と食事をし、ある人は友人と酒を飲みと、非常にどこにでも見られるような普通の光景があった。

 しかし、それは本当に突然起こったーーー


 バンッと突然の大きな音に店内にいた客たちは私たちも含めて、一斉に静まり返り、扉に注目が集まった。

 そこには息を切らせた一人の男性がいた。


「た、大変だーーー!兵が、他国の兵が攻めてきやがった!もう王都内に入っていやがる!」


 その言葉に店内は悲鳴やら怒鳴り声やらが一気に響き渡った。


 これはまずいな......みんなパニックになっている......

 こんな状況だが私は落ち着いていた。


「セレネ!どうしましょう!?」

「セレネ様早く逃げましょう!!」


 だが、ロザリアとエリーナもパニック状態になりかけている。


 気は進まないが......いや、今やらなくてはならない。それが、王女の務めだ。

 改めて店内を見渡す。みんな落ち着いて!


「静まりなさい!!」


 その声に反応して一斉にこちらを向く。うん......静かになった。

 王家の紋章付きの短剣を取り出してみなに見えるように掲げる。


「私はフォルトゥーナ王国王女セレーネフィアです。敵兵に遭遇すれば殺されてしまう可能性が高いです。なので、急いで家に戻るか、この店にとどまるかを決めてください......わたくしは敵の元へ向かいます。」


 そう一気にまくしたてるように言った。

 そして、周りのみんなには、


「ルイスはわたくしとともに来なさい。ロザリアとエリーナは屋敷へ、ケイとロイドはあなたたちの主を守りなさい。」


 そう伝えた。


「「「「「承知しました。」」」」」


 五人は私を王女に対する返事をする。

 そうして出口はと向かう途中、一度振り返えると一人取り残され、目を丸くしているジョゼフをみて、「ごめんね。」とつぶやいた。今まで黙っていてごめんなさい、死なないでという意味を込めて。


「セレネ、どうかお気をつけて。」

「セレネ様、無事に帰ってきてくださいね。」


 2人の言葉を完全に守れるか、と問われればもちろん答えは否だ。だが、2人を安心させるべく、そして、自分自身への決意の証に、頷いた。


 また会おうと、店の前で視線を交え、それぞれの目的地へと足を走らせた。




 ロザリア、エリーナ、ケイ、ロイドと別れた私とルイスは、まっすぐに王都の外壁門を目指していた。

 先程までは落ち着いていたが、だんだんと焦りが大きくなっていた。


 ああ~もう!せっかくいい雰囲気だったのに......

 なんでこんな時に......いや、こんな時だからか。

 だけど情報操作はされていたはず......どこから情報が漏れた?


 思考の中に沈みかけていた時、平民街と商業街の間の内壁門が見えてくるといったところで敵兵に遭遇した。さっと両手に短剣をもつ。本当は短剣でなく双剣があればよかったのだが、あいにく持ち合わせていないから仕方がない。


 相手は約20人ほどか......

 あの制服は確か......いや、今は気にしている暇はないか。

 とにかく、相手もこっちに気づいているし、囲まれたら厄介なので突っ込む。


 ルイスと視線を交わして、私は右側、ルイスは左側へと剣を走らせる。


 一番近くにいた兵に勢いよく右手の短剣を振り下ろした。相手の刀をはじき返し、左手の短剣で相手の脇腹をザッと切りつける。そのまま右回りに回転して、回し蹴りを叩きこむ。続いて左から迫ってきた兵の斬撃を交わし、両手で腕を切りつける。背後から気配を感じ、とっさに腕を切られてうずくまっている兵を跳び箱のように跳び、体勢を整えてから、片方の短剣を投擲する。胸に刺さった短剣に悶絶している隙に短剣を回収する。ドバッと大量に血が出て、返り血でせっかく買った服が血まみれに......

 と、次だ。


 あと五人ほど倒し、あと一人となった敵に攻撃を仕掛けようとしたが、突然その男は倒れた。


「アリアナ!」


 倒したのはアリアナだった。実は彼女は、私の侍女というだけでなく、護衛でもある。普段は侍女としてのみ働いているので、戦えると知っている人はあまりいないのではないだろうか?もし知ったとしても忘れている人が多いはずだ。私も忘れかけていた......


「セレーネフィア様、ご無事ですか!?」


 殺した敵など眼中にないかのようにこちらへ駆け寄ってくる。


「どうしてここに!?......みんなは、お兄様はご無事!?城のみんなは!?」

「......王宮の騎士はもう壊滅状態です。おそらく、動ける人はほとんどいないかと......」


 なんですって!?


 アリアナから聞かされた話はにわかには信じられないものだった。

 日が沈む前までは特にいつもと変わったところはなかったらしい。

 だが、事態は突然急変した。


「使用人から貴族関係なく、急にたくさんの人が倒れ始めたのです。最初は数人程度でしたが、次から次へと倒れていきました。」


 ほんの初めは片手で数えられるほどの人数だったらしい。症状は高熱だけだったため、風邪だと判断したらしい。が、時間がたつごとに増えていく患者の数を見て、異変に気付いた。


 だが、そのころにはもう手遅れだった。城のほとんどの人が高熱を出し、動くことができなくなっていた。医師や、騎士も、だ。


「先程の敵兵を見たところ、あれはアガートラームの兵でした。こんないいタイミングで攻めてくるはずがありません。おそらく、今回の事件は計画されたものなのでしょう。」

「なら、どうしてアリアナは無事なの?王宮にいたのなら、アリアナも体調を崩してしまうのではないかしら?」

「わたくしの推測ですが、高熱の原因は毒です。それを井戸の中にでも入れられてしまったのでしょう。おそらく、昼頃の前後にでも。わたくしは、朝に水を汲んで飲んでいましたし、食べ物もあらかじめ作っていたものを頂きましたから。」


 なるほど、確かにそれなら王宮に住んでいる私やルイスがなんともないことにも納得がいく。だが、城がそんな状態になっているのなら、三国会議に向かったお父様やお母様は......

 最悪の事態になっているのなら、もう、この国は......


「この国はもう、おしまいかしら......」


 この国を守る兵士は、三種類に分かれている。

 一つ目は私兵団。これは各貴族が己の領地を守るために設置されている兵である。

 二つ目は衛兵団。これは主に王都の警備をする兵である。

 そして、三つ目は騎士団。主に王宮内警備をしている。城下で衛兵だけでは対応できない事件が発生した時には城下でも活動する兵である。


 騎士団は王城警備をしているだけあり、エリートが集まっている。そんな彼らが機能していないとなると......衛兵だけでは無理だろう。ここまで兵が入り込んでいるのが証拠だ。


「セレネ......」

「セレーネフィア様......」


 2人もおそろく私と同じ結論が出ているのだろう。さて、これからどうしようか......


 その時、ドタバタドタバタと足音が聞こえてきた。方向からしてアガートラーム兵だろう。


「ここでおとなしくしていても仕方ないわ。ここで迎え撃つ!」

「「......お供いたします。」」


 2人は何か言いたげな表情だったが、私の意志を尊重してくれた。


 .......私は王女。この命尽きるまで、全力で戦う!




お読みいただき、ありがとうございました!

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