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5.王都へ

 周りからお客を呼ぶ声が聞こえ、道を老若男女いろいろな人が歩き、人々の顔は笑顔で溢れている。そんな活気あふれる商業街を私達は歩いていた。


 エリーナと出会った日から数日たった今日、以前学園でロザリアと話していたように外へ出かけることになったので、新たな友達となったエリーナも誘い、それぞれの護衛も合わせて六人で歩いている。


 ところで、この集団はとても目立っている。なぜなら、学園の帰りに来ているため三人はメーティス王立学園(貴族の学園)の制服、一人は騎士の制服、他二名は明らかに使用人だと思わせる格好をしているのだから。


 私が王女だと思っている人はいないと思うが、それを抜きにしても目立っていた。


 ここ、商業街は貴族もいないわけではないのだが、普通は屋敷に呼んだり納品してもらうことが多く、ほとんど訪れる貴族はいない。いるとすれば、よほどすぐに手に入れたいものを買うときや平民に紛れてお忍びでうろうろすることが好きな人だけである。......そう、私のように。

 そんななかで明らかに貴族とわかる私たちは明らかに浮いている。

 というわけで、六人は満場一致で洋服店を目指していた。




「いらっしゃいま......せ。」


 店員さんが笑顔で振り返ったと思ったら、顔を引きつらせてしまった。

 やはり貴族だと思われると面倒ね......と思ってしまう。

 ここは平民向けのお店で貴族向けではない。お忍びで来る貴族もいなくはないが、こんなに堂々と来店する貴族はいないだろう。


 店員さんの明らかな態度に内心苦笑しながらも、代表して私が要件を言うことにした。


「いきなり大勢でおしかけてすみません。服を見せていただけますか?」

「は、はい。もちろん構いませんが当店には貴族様がお召になるようなものはありませんが......」

「ええ、いろいろなお店を見て回りたいのだけどこの服のままでいるわけにはいかないでしょう?」


 こういうと店員さんは事情を察したようにうなずいた。


「そういうことでしたか......わかりました。ご案内いたしましょうか?」

「いいえ、自由に見させてもらうわ。他の人にもわたくしたちのことは気にしないでもらえるように言ってもらってもいいかしら?」

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ。」


 先程からこちらをチラチラと気にする視線が向けられているが直になくなるだろう。


 そんなことより、と後のことは任せて私達は服を見に行くことにする。

 改めてお店の中を見てみると、色とりどりのデザイン、形と様々な洋服が並んでいる。内装もきれいなので、お金持ちとまではいかないがある程度金銭面に余裕のある人向けお店なのだろう。高すぎず安すぎない、始めてきたがここに来たのは正解だったと思う。......今後も贔屓にさせてもらおうかな。


 さて、気を取り直して服を選ぼう。......というわけで多様な洋服の中から気に入ったものを選んだ。


 私は黒糸で縁取りされたブラウスに黒いリボンと青とピンク色の花が刺繍された白のミモレ丈のスカート。ロザリアはフリルをあしらったブラウスに青の薄い生地を重ねたロング丈のスカート、エリーナはドレスタイプの服を選ぼうと思ったようだが私とロザリアに合わせて黄緑色のブラウスに白のミディ丈のスカート、という感じである。


 一方男性陣は特に飾りっ気のないシャツにパンツ、ベスト、ジャケットの組み合わせである。


 全員選び終わったところで会計をする。


「ありがとうございました。よろしければまたお越し下さい。」


 そう言って送り出してくれたお店を出る。

 これでもう視線を気にせずに済むだろう。


「これでやっと視線を気にせずに済むわね。」

「ほんとですね......さっきまでとは大違いですよ。」


 どうやら2人も同じことを思っていたらしい。


「そういえばどうして上下分けて買ったのですか?」


 新しく買った服を見ながら不思議そうな顔をしている。


 そんなエリーナをよそに私は、エリーナがこんなに普通に話してくれるなんて!......と出会ったばかりの頃のびくびくしていたエリーナを思い出して、そう思っていた。これを指摘するとエリーナが萎縮してしまうからと、表情にも出さないように気を付けていた。


「それはね、平民はあまりワンピースタイプのものを着ないからなのよ。」

「え?なぜですか?」

「服一つ買うのは結構高いから、あまり数多く服を買えないのよ。だから、同じ服を着ることが多いの。でも上下で違うものを買えば、組み合わせ次第でいろいろな服装になるでしょう?そうやっておしゃれを楽しむのよ。」

「なるほど......どうしてそんなにお詳しいのですか?」

「わたくしもはじめて聞きましたよ?」


 エリーナだけでなく、ロザリアも不思議そうにしているが、まあそれが普通だろう。


「わたくしは、たまに時々、ここへ来るの。その時に知ったのよ。」


 後ろで影のようについてきていたルイスが、たまに時々ですか......と呟く声が聞こえたけれど、気にしない。


「ここは国民の様子が直接みえるし、わたくしを知る人もいないから気楽に過ごせるのよ......2人にもこの自由を感じられる気持ちを味わって欲しくて、ここに行こうと提案したの。」

「そうだったのね......最初はここに興味本位できたけれど、この雰囲気を知れて、来てよかったわ。」

「わたくしもです。セレネ様に誘われたから来たようなものでしたが、来てみてよかったです。」


 2人の目に輝かしい光が灯っているのをみて私も嬉しくなった。


「2人とも、喜ぶのは早いわ。これからお店を見て回るのだから、本当の楽しさがわかるのはここからよ......ああ、そうそう。ここではなるべく言葉を崩して欲しいの。貴族だと知られてしまうと多分みんなよそよそしくなるわ。」

「わかりましたわ。ですが、崩して話したことなどないのでうまくできるかわかりませんが......」

「わたくしは大丈夫です。家では砕けた話し方をすることも多いので。」

「それで十分よ。困ったら後ろにいる護衛たちを頼ればいいと思うわ。」


 ちらっと後ろを見ながら勧める。


「とにかく、今日は遊びに来ているのだから難しく考えずに楽しみましょう......二人とも、どこか行きたいところはあって?」

「わたくしはアクセサリーや小物類が買えるようなところに行ってみたいですね。」

「わたくしは何かおいしいものを食べてみたいです。」


 ロザリアは雑貨店、エリーナはカフェや屋台といったところだろうか?なら......


「なら、わたくしがよく行くお店を紹介するわ。それでは行きましょうか。」


 私たちは会話に花を咲かせながら、目的地へと足を進めていった。

お読みいただきありがとうございました!

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