4.学園(後)
お待たせいたしました。
今回は後編となっております!
それではどうぞ!!
「もう、大丈夫です。ありがとうございました。」
そう言ったエリーナはどこかさっぱりした様子を見せていた。
「そう、落ち着いたようね。もうすぐ授業が始まるわ。もう戻りましょうか。」
「あ......そう、ですね。」
再び顔を曇らせたエリーナを見て、どううしようか......と考え、何か思いついたように言った。
「あなたは隣のクラスよね?ならわたくしたちのクラスにくるといいわ。」
「え......?そんなことできるのですか?......というより、あなた方はどちらの方なのでしょう?」
一生徒であるエリーナには考えもしない発言を簡単に言うセレーネフィアにエリーナは困惑した。それと同時に2人が誰なのかを把握していないことにも気づいた。
「あなた、この方を知らないの?」
ロザリアは自分ならまだしも、自国の王族の顔を知らない貴族がいるということにとても驚いたようだった。
「無理もないわ。ずっと屋敷にいたのでしょう?」
逆に私はそれを当然と考えていた。社交も何も一切行ってこなかったのだ。そんな彼女に顔を覚えることなど到底不可能だ。その言葉にロザリアは、そうかもそうか......と思い直す。
「では、改めて自己紹介をいたしましょう......わたくしはシーウェル公爵家令嬢のロザリア・シーウェルです。以後お見知りおきを。」
「え......」と固まったエリーナを気にしながらも流れに逆らえず私も続いた。
「わたくしはフォルトゥーナ王国王女セレーネフィア・フォルトゥーナです。これからも仲良くしてくださいね。」
今度は驚いて言葉も出ないようだ。心配になって「大丈夫?」と声をかけると、エリーナは突然跪いてしまった。
「申し訳ありません!王女殿下と公爵令嬢だと知らずにご無礼をいたました!どうかお許しください!!」
体を震わせ、色が白くなるほど手を握りしめて一気に言った。
そんなエリーナをみて、私とロザリアは困惑した表情を見せる。
「そんなに気にしないで。それよりも、身分なんて気にせずに仲良くしてもらえないかしら?」
「そうですわ。わたくしたちはそのようなこと、気にしませんから。」
2人の説得によりエリーナは恐る恐る顔を上げた。2人の表情を確認すると少し安堵した表情を見せた。エリーナに手を差し出したらまたこわばってしまったが。
「あ、ありがとうございます.......改めてまして、ブリアーズ男爵家令嬢のエリーナ・ブリアーズです。助けていただきありがとうございました。」
「ふふ、いいのよ。では、先生のところへ行きましょうか。」
エリーナは未だ事態が呑み込めずおろおろとしていたが、私とロザリーが手を引く形で校舎へと戻っていった。
校舎へ戻ると早速先生の所へと直行した。授業の前にやってきた私たちに少し驚いた様子を見せていたが、事情を説明すると納得したようなそぶりを見せていた。
「......なるほど。事情は理解しました。殿下の頼みとあらばそのようにさせていただきます。」
「ありがとうございます。事情の説明等はわたくしが引き受けますので、手続きの方のみをお願いいたします。」
「......というわけで皆さん、卒業までわずかな時間ですがエリーナさんと仲良くしてくださいね」
さっそく午後の授業の最初にエリーナの事情を説明していた。むろん、いじめられていたとは言わなかったが。けれどこれでいじめられたりすることはないだろう。私が自ら連れてきたのだから、王女の庇護下にある生徒に手を出す馬鹿な人はいないだろう。
皆が頷くのを見て、宜しい、と思いながら私は満足げに微笑んだ。
そして、授業に入る。午後の授業は剣術の授業である。
剣術といっても本格的なものではなく、護身術と言った方が良いかもしれない。万が一にも怪我をさせないように対人戦は行わず、藁人形を相手に剣の使い方を学ぶほど安全重視なのだ。
そういえば、エリーナは剣を握ったことがあるのだろうか......と考えているとちょうどエリーナが話しかけてきた。
「あ、あの、セレーネフィア王女殿下......」
「エリーナさん、わたくしのことはセレネでいいわ。」
「......ですが、わたくしのようなものが王女殿下を愛称で呼ぶなど......」
「.......わたくし、新しいお友達ができたと思ってとてもうれしかったのよ.....でも、そんなに他人行儀にされると......」
いかにも悲しそうな顔をつくり、声を沈ませて言って見せた。
「......うー、わかりました、セレネ様!いくら悲しまれてもこれが限界です!」
「まあ、うれしいわ!」
その瞬間今までの落ち込んだ表情を一変させて花が咲いたような笑顔を見せた。様付けは残ってしまっているけれど、まあいいかと思いながらもエリーナの手を取る。
「改めてよろしくね、エリーナ。」
「......!はい、セレネ様。あ、わたくしのことはリーナとお呼びください。親しい人からはそう呼ばれておりますので。」
「では、そう呼ばせてもらうわね、リーナ。」
周りから避けられ、独りぼっちだったエリーナだったが、こんなに笑顔を見せている。それが私にとってとてもうれしかった。これからもこの子の笑顔を見ていきたいと思うほどに。
「そういえば、リーナ。わたくしに何か用事があったのではなくて?」
「あ、そうでした!実はその、わたくし剣とか握ったことがなくて......先生や他の人に教えてもらおうと思ったのですが......」
エリーナが視線を向けた先を見てみるとみんな一生懸命に訓練していた。
確かにこれでは話しかけにくいな......
だからこそ、特に何もしていなかった私に声をかけたのだろう。
「大丈夫よ、わたくしが教えて差し上げるから。」
早速あなたの剣を借りに行きましょう、といって武器庫へ向かった。ここには剣や槍、短剣、弓、盾など学園で使う様々な武器がそろっている。学園の生徒は自由に借りることができるのだ。
剣が握ったことがないのなら......武器庫内のある一角を見る。
「短剣を使ってみましょうか。だいたいの令嬢たちは短剣を使っているの。軽いから扱いやすいし、持ち運びも簡単にできるのよ。」
短剣が並べてあるところへ向かい、エリーナに合いそうな剣を探してみる。重さやリーチ、グリップを比べ、最終的に2つの得物を手にして戻る。
「では剣を持ってみましょうか......ええ、そうよ......そう、それで振り下ろして......違うわ、突き刺すのではなくさっと切り裂く感じで......」
「はい.....こんな感じですか?......うっ、衝撃が......重い......」
そんなこんなで基本の形を教えて今日の授業は終わった。
「ありがとうございました。とても助かりました!」
「それならよかったわ。何か困ったことがあればいつでも言ってね。」
「リーナとお友達になれてよかったです。また会いましょう。」
ロザリアもいつの間にか仲良くなっていた。いつのまに、と思いつつ、仲を深めた私達3人はは別れた。
こうして、学園での1日は終わりを告げた。
お読みいただき、ありがとうございます!