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34.出てきたのは

大変遅くなりました!


 しばらくは自分の失態に落ち込んでいたが、頭が悪いと思われるよりはマシだろうと、気持ちに区切りをつけた。


 しかもあんなにも受験生がいるのだ。

 わざわざ一人の受験生の点数なんて誰が気にするだろうか。


 一度そう思うと、なんだか本当にそう思ってきた。なんだか不思議な気分。


 気にしない気にしないと唱えていると、心も軽くなった気が気がする。


 それから私はさっさと帰ることにした。

 まあ、帰ると言ってももう王宮には泊まらず、合格発表までの時間、王都内の宿泊まれるようにした。


 いろいろ準備があるからね。それに、騎士として入団したら量に泊まることができるので、そのあとは寮に入るつもりだ。


 本当は女だとばれたらまずいので、宿からの通いにしたかった。

 しかし、宿の料金もずっと払い続けるのは、お金がもったいない。


 比べて寮に入れば無料だという。


 また聞いたところによると、寮に入らない人はよほどの大貴族ぐらいだということで、早々に宿生活は諦めざるを得なかった。


 とにかく今は王宮から宿のある平民街へ行こうと、王宮の中でも平民たちが出入りをする裏門へと向かった。


 乗合馬車というものはここにはないが、親切な人はついでに乗せてくれるのだとか。

 王宮に来ている人はみんな気さくな人たちですから、と教えてくれたのは平民出身のミアだ。


「お使いを頼まれたときに、私も良く乗せてもらうんですよ。」


 ってね。


 どれか乗せてくれる馬車はないかな~と、あちこちを見渡していると、一台の馬車が目に留まった。


 親切そうな御者だった、というわけではない。


 ここにその馬車があるのが不自然に見えたからだ。


 ……綺麗すぎる気がしたのだ。ここにあるにしては。


 いや、もちろん、どこぞの王子様が乗っているのかと言わんばかりの豪華絢爛なものだとか、


 なんてことではなく、単純にシンプルなもので、一見するとどこにでもありそうな普通の馬車なのだが……


 まるで、外見は普通の馬車であろうと主張し、一方で見えないところは腕の良い職人が完璧に作り上げたような、そんな感じ。


 ――まあ仮にそうだとしても私には関係ないけど。


 面倒ごとはもうごめんだと思い、そっと通り過ぎ――


 カチャッ……なんで開くの!?って……


「え、エリオ様?」

「やあ、二週間ぶりかな?」


 その馬車から出てきたのは、馬車の地味さと不似合いな、崇高さが滲み出ているエリオスティードであった――




「ど、どうしてこちらに……?」

「今日は入団試験の日だっただろう?ちょうど俺の仕事も一区切りついたから、気分転換に()()()出掛けようと思ってね。」


 完全に不意を突かれた形で現れたエリオスティードに目を白黒している私を、いたずらが成功した子供のような眼差しでエリオスティードは見ていた。


 私はもう一度馬車に目をやり、そしてエリオスティードの服に目をやり、もしかしてと思った。


「まさか、これから町へ行くおつもりですか……?」

「そうそう。もしかして、何かこの後予定があった……?」


 正解というように頷いたが、この後用事があったのだろうかと思ったようで、慌てて聞いてきた。


「いえ、そういうわけではないのですが……ディラン様とフレディー様は一緒でないのですか?」

「ああ……二人は仕事をしているよ。あ、でもちゃんと二人には許可を取ってあるから大丈夫だ。」


 ええーっ。

 あっさりと許可を出している二人に驚いた。


 本当にこのまま二人で出かけることになってしまうのだろうか……?


 ――って、ああそうか!

 私としたことが勘違いしていたのね!


「失礼しました。お二人を待ってから行くということですね?」

「いや。2人でと言っただろう?」

「では、他の騎士の方とか、侍女や侍従の方をお連れになるという――」


 ――ことでしょうか?


 そう続けようとしたが、すれ違う会話に痺れを切らしたのか、私の言葉をエリオスティードが遮って言った。


「いやいや!だから俺とセシルだけで行くんだ。」

「えぇっ?」


 確かに自覚はある……この王子様から目をかけてもらっていることを……


 そして……私もエリオスティードと過ごし時間を、悪くはないと思っている自分がいることも


 けれど、それは『セシル』であるからこそ許されている。

 心の奥底に眠っている『セレーネフィア』がこれ以上深入りするのは危険だと訴えかけ来る。


 ――ただ、こうして今日アガートラーム王国の騎士団入団試験を受け(ほぼ内定済み)、一応もうアガートラーム王国の一員となっている以上、彼らの不況を買ってしまうのもよくないというのも事実で……


「それは……嬉しいお誘いですが、護衛はつけませんと……さすがにダメではないですか?」


 2人じゃなくて、他の人も誘ってしまえばまだいいかと思い、説得を試みる。


「護衛ならいるだろう?俺一人で出かけるわけじゃあないんだから。」

「……まさか、僕のことを言っています?」

「だって、セシルはもう騎士と言っても過言ではないだろう?もう入団試験受けたわけだからね。」

「まだ受かったというわけでは……」

「ここだけの話なんだけど、セシルの合格は決まったんだ。この国の入団試験は実技が重視されていてね。多少頭が悪くとも、腕のいいものは採用される。ちょうどセシルが筆記試験を受けてるときかな……実技試験担当の試験官に聞いてきたんだけど、間違いなく合格だってさ。」


 だから、騎士を連れていることに変わりはないんだよね、と『今日はいい天気だね』とでもいうような調子で言った。

 それに、とさらに言葉をつづけた。


「今までも散々二人で出かけてきただろう?」

「しかしそれは、王子殿下だと知らなかったからで……」

「俺の剣の腕前を知っているだろう?セシルを守るぐらい俺にだってできる。」

「それでは立場が逆です!僕が、エリオ様を、お守りいたしますからっ!」

「なら何も問題はないよ。さあ、この問答をしている時間が惜しい。早く行こう!」


 私の腕をつかみ、エリオスティードは私を馬車に引き入れた。

 驚く間もなく、馬車はすぐに王宮外へと向かった。


 馬車に乗った私は思った――私もよくルイスだけを連れて町へ行ったなと――



 人のことをとやかく言えないと気づいて、私と似た行動をするエリオスティードに何も言えないセシルであった……







お読みいただきありがとうございました。


次回の更新も遅れると思います...ですが、きちんと更新はしていきたいと思いますので、気長にお待ちいただければ幸いです。



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