表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/40

3.学園(前)

お待たせいたしました!

それではどうぞ!

 両親と別れ、少し寂しく感じる中、私はドレスでも、訓練着でもなく、学園の制服に袖を通していた。


 フォルトゥーナ王国の貴族の子息や令嬢は、よほどの事情がない限り、メーティス王立学園に通うことが義務とされ、王族も例外なく通うことになる。


 基本的に10歳で入園し、17歳で卒業となる。

 ちなみに私は、17歳であり、もうすぐ卒業である。


 学園では、算術、歴史、語学などの座学や、護身術、社交技術を学ぶ。しかし、一番の目的は周りと交流をし、人脈を広げることである。


「いってらっしゃいませ、セレーネフィア様。」


 王宮で留守番となるアリアナが、見送りに来て言った。


「ええ、行ってくるわ。」


 2人に別れを告げ、馬車に乗り込む。


「セレネ、出発しますね。」


 ルイスの言葉に頷くと、馬車は出発する。


 ルイスは学園まで護衛することはないが、学園までの道中までついてくれるのだ。




 ***




 馬車の中で、授業の復習をしていると、揺れが止まった。


 しばらく待つと扉から光が差し込み、ルイスの姿が見えた。


「セレーネフィア王女殿下、学園に到着いたしました。」


 公の場であるため、堅苦しい態度を取るルイスに少し不満を覚えないでもなかったが、仕方ないな.....と思いながらルイスの手を取り、外へ出る。


「行ってらっしゃいませ、王女殿下。終わる頃にお迎えに上がります。」

「ありがとう。それでは行ってまいります。」


 馬車から離れ、学園の門をくぐると同じ制服を着た人がたくさん見えてくる。この学院の制服は下が男子は黒のズボン、女子はロング丈のスカートで上は白ベースのブレザーとシャツという組み合わせである。


 教室に入ると、多くの人がいた。

 ごきげんよう、と言って入ると皆も挨拶を返す。


「ごきげんよう、セレネ。」


 そう話しかけてきたのは、公爵令嬢であるロザリアだ。彼女は幼馴染であり、学園でもクラスメイトであるため、親友と言って良い人物である。


 私には身分が身分だけにそばにやってくる人はあまりいない。親にごまをするように言われた生徒や、願いを叶えてもらおうとする生徒など、王女という身分を目当てにやってくるのだ。

 そのなかで、私を1人の友達として見てくれるロザリアのような人は貴重な存在だった。


「ごきげんよう、ロザリー。聞きたいことがあるのだけど......エリーナ・ブリアーズ男爵令嬢をご存知?」


 お父様から頼まれたということもあり、ロザリアに聞いてみた。

 ロザリアは少し考えるそぶりを見せていたが、あらかじめ知っていたのかすぐに返答した。


「確かその方は、今日から学園にいらっしゃると聞いていますが?」

「そう、ここは慣れないと思うから、何かあれば手を差し伸べられるようにしたいの。ロザリーも見かけたら見守ってもらえないかしら?」

「もちろんですわ。何かあればお知らせしますね。」


 本当なら直接話に行きたいところだが、いきなり行っても困惑させてしまうことが目に見えていたので、遠くで見守る程度にとどめることにしたのだ。

 そうこうしているうちに、先生がやってきたのでいったん会話をとめて席に戻る。


「皆さん、ごきげんよう。それでは授業を始めていきたいと思います。

 今日は......」


 午前中は地理の授業であった。


「まずは、各国についておさらいしていきましょう......」


 我が国フォルトゥーナ王国は、君主制をとっており、王族、貴族、平民に身分が分かれている。他国よりも身分というものがはっきりしていて、それにより統制が取れているため平和が維持されている。数百年続く歴史ある国で自然豊かな国で、資源が豊富であり、大きな災害や飢饉もなく平和な国である。


 続いてアガートラーム帝国は、フォルトゥーナ王国と同様に君主制をとっており、皇族、貴族、平民に分かれている。フォルトゥーナ王国と違い、下克上という風潮があり実力主義な傾向がみられるため、争いが起こることが多い。そのせいか軍事力の強い国である。フォルトゥーナ王国が身分による統制というのなら、アガートラーム帝国は力による統制といえるだろう。


 最後にラウェルナ共和国は、昔は君主制をとっていたが共和制に変わった。身分制度はないが、大統領や議員、旧貴族が強い権力を持っている。共和制に変わって百年ほどたつが未だ身分制度の面影が残っている。権力争いが起こりやすく、不安定な国である。貿易が盛んにおこなわれており、特に製品の販売に力を入れている......


「......今日はここまでにします。お疲れ様でした。」


 そんなことを学習し、午前の授業は終了した。




 昼休み、ロザリアと共に中庭で昼食をとっていた。この中庭は緑豊かで心が安らぐ場所であるため、2人のお気に入りの場所である。


「このケーキとても美味しいですね!」


 私が持ってきたケーキを食べると、花が咲いたように微笑んで言った。


「それならよかったわ。料理人に言ったらとても喜ぶと思うわ。」


 そう2人でお菓子やお茶を楽しんでいる時だった。


「返してください!!」


 穏やかな空気に似つかわしくない、空気を切り裂くような声が聞こえた。二人は会話をとめ、声の方に向かうと、そこには四人の令嬢がいた。一人を三人が囲んでおり、穏やかな様子ではなかった。


 それをみて、あれ?と私は思った。あの子は確かお父様が言っていたエリーナではないかと。


「ふん、あなたみたいな人には似合わないわ。それをわたくしがもらってあげるって言っているのだから、感謝しなさい。」

「そうよそうよ!私達は子爵家の令嬢よ。わたくしたちにそんな口を利くなんて失礼よ!」

「わたくしたちに謝りなさい!」


 お父様に面目ないなと思いながら、私はロザリアと顔を見合わせると、示し合わせたように動き出した。


「あら?あなたたち、何をしているのかしら?」

「わたくしたちも混ぜてくださらない?」


 子爵家の令嬢たちがパッと振り返ると、そこには微笑んでいる、ただし目が笑っていない、セレーネフィアとロザリアがいた。それを見て、三人は今まで浮かべていた笑みが一瞬にして青い顔へと変わり、一人は持っていたものを落とした。


「あ......あの......」

「三人とも顔色が優れないようですが......?」

「まあ!大変だわ。保健室へ言ったほうがよろしいのではなくて?」


 2人はわざとらしくそう発言して見せた。それを察知してか三人は更に顔色を悪くしてしまった。そのうちの一人が耐えきれなくなったのか、


「も、申し訳ありませんでした!」


 といって去っていく。他の二人も慌てて去っていく。

 今までのやり取りを見ていたエリーナは呆然としていた。


 ふう、と息を吐いて先程落としていったものを拾い、彼女に差し出す。


「これ、あなたのものではなくて?」


 そのことばに我に返ったのか、はっとして受け取る。


「あ、あの!あ、ありがとうございます!」


 私はその素直な言葉に表情を緩めた。


「あなたは確か、ブリアーズ男爵家のエリーナさんだったかしら?」

「は、はい!そうです......あの、わたくしをご存知なのですか?」


 私が自分のことを知っているということにエリーナは驚いた。今日はじめて学園に来たのだから当然だろう。


「名前だけは知っていたの。それよりもどうしてあんなことに?」

「え、っと、わたくしの髪が変だとか言ってる声が聞こえてきたり、注目されているのがわかって、その、びくびくしていたら、あの人達が来て......守ってあげるから、自分たちに従いなさいって言われて......」


 そこまで言われればある程度状況がわかってきた。要は自分より下の立場にいる人を手駒にして扱いたかったのだろう。よくある話だ。まだそんなことをしている人がいるなんて、と心の中でため息とをついた。


「拒否したら、あなたみたいな変な髪には似合わないって、髪飾りを奪ったの......お母様の形見で大切なお守りなの......ほんとなんで、なんでこんな髪なんだろう......不気味だよね、変だよね......」


 奪われた髪飾りを見つめ、誰に言うのでなく、自分に語りかけるように話した。その声は悲しそうであり、自分を自嘲しているように感じられた。


 そんなエリーナをみて、私は自分の気持ちを素直に伝えてみることにした。


「わたくしは好きよ、あなたのその髪…まるで雪のようだわ。とても綺麗で儚い…わたくしは少し羨ましいくらいです。」


 やさしい笑みを浮かべて私は言った。


 その言葉にハッと顔をあげ、私を見る。慈愛に満ちたセレーネフィアという存在はエリーナにとって女神のようにみえた。


 その瞬間、今まで溜め込んできた感情が爆発した。悲しみ、怒り、悔しさ......そんな感情が一気によぎり、潤んだ瞳から雫が落ちる。


 エリーナが落ち着くまで私は彼女を抱きしめていた。


お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ