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裏舞台4 とある盗賊の冒険記 sideテッド

「よし、今日も大量だ!」

「これでひとまずは安心だな!」

「んじゃ、一杯やろうぜ!」


そんな仲間の声を聴きながら俺――テッドは、冷めた目で見ていた。


のんきな人たちだ。

いくら生活のためとはいえ、悪事を働いているという自覚はないのか。


そんな思いをいだいていたが、もちろんそんなことを言えるわけもなく、黙って彼らの後ろをついていくのみなのだが。


俺はついこの前まで、自警団に見習いとして所属していた。だが、食料や物資が足りなくなってしまったため、盗賊にジョブチェンジする羽目になってしまった。


見習いということもあり、情報があまり入ってこないから、この時の俺はあまり事態を理解していなかった。ならば、兄貴たち(見習いでない自警団員)についていけばいいだろうという考えのもと動いていた……そうしているうちに自分の流されやすい性格とも相まって、あれよあれよという間に”盗賊テッド”が出来上がってしまった。


そんな悶々とした日々がいつまで続くのだろう。

いつまでこんなことをしないといけないのか。


自警団から盗賊に成り下がった哀れな我が身を鑑みた。


……しかし、そんな日々はなんの前触れもなく唐突に終わりを迎えた。


「おい、チャドのやつを見なかったか?」


この仲間の声を境に。


「はあ?部屋にいるんじゃないのか?」

「いないから聞いてんだよ!」


この時はまだ『どこかへ出かけたのだろう』『すぐ帰ってくる』と俺も含めて楽観視していた。


けれど、そのまま時間が過ぎるといよいよそうもいっていられなくなった。


チャドは俺たちのリーダー的存在なのだ。傷ついた仲間がいれば自らが率先して助け、強面な顔とは裏腹の親しみのある言動、皆の心を一つにまとめるリーダーシップ。

それらが俺たちの道しるべなのだ。


さらに、彼の妹であるフレアさんまでもがいなくなったと聞いて事態の深刻さは増した。


捕まったのかもしれないと、牢に突撃しそうな仲間を必死に止めたり、目撃した人がいないか探すが進展なしというとき、あの女……いや、あのお方が現れたのだった。


兄貴たちに水を汲んで来いと言われ、川まで行った俺は、俺たちのアジトである洞窟の前に、見慣れない人が立っているのを見つけた。


「う~ん、このまま入っちゃってもいいのかな?潜入じゃなくて正面から乗り込むなんて初めてだから、よくわからないし……」


と、この時の人……セレーネフィアはつぶやいていたのだが、独り言のため、テッドのほうには何をつぶやいていたのかは知る由もなかった。


俺には困っている様子の姿だけが見えたので、警戒心を持ちながらもそっと近づいた。

なぜなら、その人は全身を黒い服に身を包み、まるで暗殺者のようないでたちだったからだ。それでも俺が近づいたのは、そんなわかりやすいところに本物の刺客がいるとは考えられなかったため。


だからこそ、そっと近づいたにもかかわらず、ある程度近くまで行ったところで、その人はゆっくりとこちらを振り返った。

そして、小さく首を傾げ、その拍子に唯一輝いている銀髪のような輝きが光った。


俺は、その動作可愛らしい仕草と、顔の半分はスカーフで隠しているものの目元から美人だと分かる容姿に思わず見とれてしまった。男の人かと思っていたけど、女の人だったのか……


「あれ?君は……」


女はそこで言葉を区切ると、何やら思案していたようだった。

アジトの洞窟を指さし、俺に視線を向けると、問うてきた。


「君も、盗賊の仲間?」


その声には少し咎めるような、ピリピリとした声色だった。


何とも言えない凄みを感じ、俺は一泊遅れてから返事を返した。


「……だったらなんだ。それに……」


お前は誰だ……

そう続けようとしたのだが、女の声によって遮られてしまう。


「チャドとフレア、2人を知っている?」

「……!」


俺は思ってもみなかった名前を出されたことで、大きく目を見開いた。


「……知っているみたいね。2人がどこにいるか……知ってる?」


ふるふると首を横に振って、返事をする。

その時、女の声がなんとなく寂しさを帯びた気がして、顔を見るが、ふと視線をそらしていった。


「2人はね……牢にいるの……」


極まりが悪そうにそう言った。


「……はあっ!?」


俺は言葉の意味を理解するなり、この森全体に声が響くのではないかというくらいの声をあげた。


急に声を荒げた俺に驚いたのか、女はビクッとしていたが、それに構わず、俺は女との距離を縮めた。


「なんだよそれ!?どうしてそんなところに二人がいるんだよ!?」


怒鳴り散らす俺を突き放すでもなく、女は静かに俺を見ていた。


俺だって何で捕まっているかなんてわかっている。この人に八つ当たりしたって意味がないってことも。


でも、どうして俺たちがこんな目にあっているのか、どうして盗賊なんていう犯罪者にならなければいけなのか、どうして俺たちが理不尽な目に合わないといけないのか……


誰かにぶちまけずにはいられなかった。


はあ、はあ、と息を荒げ、さらに詳しく問い詰めようとしたとき、洞窟の方から仲間たちがやってくるのを感じた。

どうやら俺たちの声を聞きつけてやってきたらしい。


「どうしたーー!ってなんだ!?」


やってくるなり、彼らはこの事態を飲み込めずにいた。


普段は大人しい、内気な少年が、どこから見たって怪しい人に突っかかっているのだから。


すると、女は俺のそばから離れ、仲間の方へ行った。


俺にしたような話に加えて、さらに詳しく女は話した。

要約するとこうだった。


まず、行方不明中のチャドとフレアはガルシェラルの牢にいること。

次に、女は彼らを救出しようとしていること。

そして、俺たちにも協力してほしいということ。


俺たちは当然困惑した。

もちろん救出するという提案は俺たちにとっても有益だ。


しかし、女は素顔を明かそうとせず、名前だって言わなかった。要するに怪しすぎるのだ。


女はそれも承知しているのだろう。だから、協力とはいっても実際に動くのは女で、2人を救出した後の逃走用馬車を率いて安全なところで待機していてほしいと、付け加えた。


確かにそれなら乗ってもいいのかもしれない……

だが、万が一見つかったら……


そんな思いが皆の中で生まれているのだろう。

俺だってそうだ……けど……


『おいおい、大丈夫か?お前はまだ子供なんだから無理すんな。』

『よくやったな!テッド!』

『あ~、もう何やってんだ。貸してみろ。』


いつだってチャドの兄貴は俺を心配してくれた。


いつも迷惑をかけてきたんだ!こんなときこそ、俺が、助けないと!


「お、俺がやるっ!」


勇気を振り絞って声を張った。

い、言っちゃった……


全員の視線が集まる中、俺は必死に訴えた。


しーーん、と静まる中最初に言葉を発したのは、チャドと仲のいい人だった。


「なら、俺も付き合おう。お前みたいなひよっこが行くって言ってんだ。ここで大人の俺が行かなきゃだめだろ。」


そう茶化すように、しかし頼もしい声に、俺は安堵した。


なぜか、そのあと続々と立候補者が出てきたのだが、そんなに大人数で行っても仕方がないので、最終的に、最初に立候補した俺たち二人に決まった。


「……二人は恵まれていますね……」


女がそんな声をつぶやいた気がした。


「では、また連絡します。」


と、背を向けて歩いていたが、途中で振り返り、


「あ、そうそう。恐らく誰かがまた訪ねてくるので、彼らを刺激しないようにしてください。変に警戒されては困りますから。」


といった。そして、今度こそ去っていった。




数日後、女の言った通り、本当に見知らぬ男がやってきた。


言われた通り恭順を示したが、うまくこちらの計画を悟らせずにできただろうか?


様々な不安を抱えながらやってきた当日。連絡をもらった俺たちは、予定通り馬車を待機させていた。

ここまでは予定通り。

むしろ、連絡にあった通り警備が手薄になっていて、思っていたよりも簡単にガルシェラルの町までやってこれた。


音が鳴るたびにびくびくし、手は震え、平生を保つのが精いっぱいだった。


隣を見るに、一緒に来た仲間も同じ気持ちらしい。



ついにやってきた――


銀色に輝く髪をなびかせながら、あとに続く二人を導いてやってきた。


チャドの兄貴は俺たちに気が付くと、何でここにいると言わんばかりに驚きを示し、声を出さないの!とフレアさんに頭を叩かれている様子に、不安だった心は落ち着きを取り戻した。


2人とも元気そうだ!よかった……


再会を喜ぶ間もなく、馬車に押し込まれる。


早く行きなさいと、初めて見せる微笑みと共に言われ、俺はそのまぶしさに目を細めた。


走る馬車から見た最後の女の姿は、銀色に輝く髪のみならず、すべてを飲み込むような闇夜の色をした服でさえも、月灯りに照らされて、とても神秘的な光景だった――


「それにしても、あの人は誰だったんだろうね。」


名前も知らない女性に助けられたのだから当然の流れだろう。


「強くて、綺麗で、賢くて……なんて、あの銀髪の女の人はすごい人ですよね……」


半ばつぶやくようにして言ったそれをチャドの兄貴が目ざとく拾った。


「お、惚れちまったのか~?」

「そ、そんなわけないでしょう!?単純に尊敬しているだけで……」


最後の方はごにょごにょとしてしまう。

俺の様子にフレアさんが、ふふっと笑い、あ。そういえば……と続ける。


「あの人の髪、銀髪じゃなくて白菫色よ。わずかに紫色が入っていた気がするから。珍しいよね。」


白菫色……?


この言葉を聞いた俺は、なざか王都で衛兵団に所属していたじいちゃんの声がよみがえった――


『じいちゃんはね、小さな王女殿下にお会いしたことがあるのじゃがのう……白菫色の髪を持った可愛らしいお方じゃった。幼いながらに優秀な方で、武芸までたしなまれていたわい。小さな手でわしらのことまで気にかけてくださったのう……テッドも、そんな立派な人になるのじゃよ。』


そういって笑っていた。


白菫色の髪を持ち、武芸まで出来て、お優しい方…………”生死も行方も不明”の王女殿下……


まさか、まさか……



……まさ、か、ね――



一度抱いた疑念はなかなか晴れない。


もしかしたら……かもしれない……


そうであってほしい。


その思いが出てしまったのだろう――




――――白月の剣姫(はくげつのけんき)――――




無意識につぶやいたこの言葉が、まさか彼女の名称になるなんて思わなかった。


……この言葉を聞いた三人が面白がって広めたのが原因だったとさ――






次回第三章に入ります!

もしかしたら、次の更新は二週間後になるかもしれません!


それでは、

Merry Christmas!!

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