裏舞台3 惹かれる心(2) sideエリオスティード
今回も裏舞台です。
あと二つにしようかと思ったのですが、切ると微妙なところで終わってしまうので、一つにまとめました。よって、普段より長くなっていますので、お楽しみに!
そして、ブックマーク、評価してくれた方々、ありがとうございます!少しづつ上がっていく総合評価を見てモチベーションがUPしています!
急な提案に最初こそ意図がつかめなかったが、これから先のことを考えると非常に理にかなっていることだとわかった。
俺たちだけではわからないことも、両親が旅商人だったというセシルならばいろいろと教えてくれるだろうし、セシルの戦力は貴重だ。こんなにも戦える人材が野に放たれていることを知られれば、必ず取り込もうとする輩が出てくるはずだ。
そうなるまえにこちらがセシルを抱え込む必要がある。後々厄介な存在になる可能性もあるのだ。
いや……もうすでに取り込まれているのかもしれない。それを見極めるためにも……セシルには悪いが……俺たちの監視下にいてもらわなくては――
セシルを協力者にしてからというもの、事がトントン拍子に進んでいった。
戦闘面でもそうだが、知識面でも、非の打ちどころがなかった。俺たちが小難しい政治要素の含んだ話をしていても、話を振らなければなにも言わないが、首をかしげる様子は見られなかった。言葉遣いや態度も申し分ない。
だからこそ……注意深くセシルを視ていたのだが……外と連絡を取る様子は一向に見られなかった。それどころか、日々セシルと過ごしていく中でセシルに対する好感度は上昇し続けていた。
調査を続けていく中、アジトに潜入するという危険を冒すことで、俺たちはついに事件解決への糸口をつかむことができたのだ。しかし……それは同時に背後には大きな黒幕がいることを暗示している。
――ここからの話はセシルにはまだ話せない……
国の威信にかかわることだ。いくらセシルが協力者だとしても、彼は俺の正式な側近ではない、ただの雇い主と雇い人の関係(……もちろんお給料は払ってるよ!)なのだ。
賢いセシルはもうわかっているのだろう。
「気にしないでください。僕には荷が重そうですから。」
そういってくれた。その言葉にはセシルの俺たちへの気遣いの心が込められている。
これ以上聞かせられない……なんて、君を信頼していないって言っているようなものじゃないか。仕方ないと割り切ってしまえばそれまでなのだが――
セシルが退出した後の室内では、俺たち三人の会話が繰り広げられていた。
「まず確かなことは、予想以上に大きな敵がいる、ということだろうね。」
「はい、おそらく公爵家以上の人物に違いないでしょう。」
「そうだろうね……ならやはり俺たちだけでは対抗できない。騎士団に連絡をとって協力してもらおう。」
騎士団は精鋭部隊だ。普通は王都から離れたこの地に来ることなどめったにないことだが、第一王子である俺ならば動かせる。父上も事情は把握しているはずなので恐らく問題ない。
「では、盗賊たちはどうしますか?彼らも被害者とはいえ、罪を犯しました。騎士団が到着次第引き渡すのが妥当かと思われますが?」
それは俺もずっと気がかりだった。短い間であるが彼らと話して、悪人ではないことは知っているし、むしろ進んでこんなことをするほどいい人だと思っている。
……だが、それはあくまで個人的な感情だ。王子として甘い選択をするわけにはいかない。それに、この件は国王の耳にも入っているから、もみ消すことはできない。
まだ捕えていない盗賊たちなら何とかなるかもしれないが、すでに捕らえられた二人はもう助けることはできないだろう。
「……フレアとチャドは引き渡す。だが、他の盗賊たちは返答次第による。もし彼らもこちらに刃を向けたのなら……その時は捕まえる。だが引いてくれるなら……見逃そうと思う。彼らも被害者だ。なるべく助けたい。」
「こちらの不手際で今回の事件が起こったのだから、陛下も考慮してくださるだろう。」
俺はディランの言葉にうなずいた。
「最後に――セシルのことはどのようにいたしましょう?」
そう――セシル。彼の立場は不安定だ。これまで一緒に過ごしてきて、すぐにこちら側へ取り込みたいほど優秀な人物だということははっきりしている。だが、身元がはっきりしないことが一番の難点だ。
本来ならばここまで俺たちをサポートした功績で褒章ものだ。ここでさよならなんてしたくないし、願わくばこれからもそばにいてほしい。……セシルはどう思っているのだろうか?普段から俺たちとは一線を画しているように振舞っているように感じていた。セシルは身分なんか気にしないようなところで自由に暮らしていたいのかもしれない。
答えの出ることのない問題を考える傍ら、城に伝えるべきことは考えがまとまっていた。
「セシルの活躍については包み隠さず伝えてくれ。功績を無にすることはしたくないし、然るべき褒美をセシルには授けたいんだ。」
細部まで話し、今までの報告と考察、協力を求める旨の手紙をしたためて送った。
返信を待つ傍ら、セシルには情報収集を頼み、俺たちは俺たちで動き出した。
その中でも一番苦労すると考えていたのは、”盗賊たちの説得”だった。もう一度アジトへやってきた俺たちは警戒しながらも堂々と正面切って中へ入った。
『フレアとチャドはこちらの手の中にある。だが君たちも被害者だ。2人は捕らえたが、もうこれ以上こちらも手出ししたくない。2人を捕らえた俺たちを恨む気持ちは察するが、ここは大人しく引いてくれないか?』
そう告げた俺だったが。本当に彼らが引いてくれるとは考えていなかった。だが、彼らはこちらの読みに反して、矛を収めた。もちろん視線の矢はこちらに刺さらんと向けられていたが。
これは良いこと――のはずだ。だが何だろう。妙に心に引っ掛かるものがある感じがしていた。
――何か企んでいるのか?
――彼らの結束はそんなにも脆いものなのか?
………………
…………
……
考えても答えは出るはずもなく、胸にしこりを抱えたまま、アジトを出た――
フレディーから王都より返信が来たと伝えられたのは、およそ二週間後のことだった。
そこには依頼していた騎士団の要請受諾、犯人であると思わしき人物の情報などが書かれていた。
「騎士団は問題なくこちらに到着するそうです。秘密裏にことを進めているため少し到着は遅れているようですが。そして犯人ですが……予想していた通りエンベズル・ワーヘイツ代官であろうとのことです。証拠などはまだありませんが、怪しい動きがみられたとあります。」
ここまではまあ想定内だった。問題は……
「”セシルという少年が本当に間者でないか、彼を試してほしい”……か。2人はどう思う?」
都合よく俺たちと行動を共にしているセシルがどうしても怪しいことこの上ないらしい。もちろん俺たちだって初めはそう思っていたので否定派難しい……が、俺にはどうしてもセシルがそんな人物だと思えなかった。
「私としては個人としては信頼しております……ですが、身元が不明である以上心を許すことはできません。」
「俺もフレディーと同感だな。だが、あいつからはエリオを害そうという感じは見られなかったから、少なくとも俺たちに敵意はないと踏んでいる。」
2人とも気持ちは俺と同じらしい。いずれにせよ、セシルが潔白であることを証明する必要があることには変わりない。
俺は決断した。
「セシルには証拠を盗りに行ってもらおう。」
いくらあの代官が怪しいからと言って証拠がなければ捕まえられない。だから、一番要となってくるのは証拠の確保だ。普通なら間者の容疑がかかっているセシルにそんな重要な役目を与えることはしない。けれど、俺はセシルを信じる方を選んだ。フレアを助ける正義感あふれる行動、盗賊たちを憐れむ目、俺たちに見せてくれる笑顔、これらが偽物だとは思えなかった。
それだけではない。この任務には高い技能が必要だ。気づかれても、証拠が見つからなくても、任務は失敗だ。すなわちそれは、間者であろうとなかろうと、容疑は深まるのだ。これは一種の賭けだ。俺にとっても、セシルにとっても。
……俺はただ、信じるのみ――
それはセシルも承知しているのだろう、いつになく真剣な様子で任務を請け負ってくれた。
セシルが忍び込んでいる一方、俺たちは騎士たちと合流した。
「殿下、ご命令に従いはせ参じました。ご無事で何よりです。」
「ああ、ここまで来てくれたこと、礼を言う。ここではそんなに畏まる必要はない。」
王城にいるときのようなきっちりした態度は目立ちすぎるので、騎士たちに楽にするよう言い、俺たちもセシルの後を追った。
見つからないよう隠れながら、屋敷が見える位置に待機し、セシルがやってくるのを待った。
緊迫した状況に心臓がバクバクと音を鳴らす。一秒一秒がとても長く感じられる中、ついにことが動いた。
急にバタバタと中から音がするようになり、何が起こったのかと、意識を屋敷の方へ集中させる。
――そっちにいったぞーー!
――侵入者だーーっ!
――逃がすな――!
耳を澄まさずとも聞こえてくる怒鳴り声に、セシルの存在が見つかってしまったことを悟る。
まずい……セシルッ!
「殿下、作戦は失敗のようです!証拠が消される前に我々も乗り込みましょうっ!!」
そう告げてくる騎士にすぐにでも駆け出したい衝動を抑え、
「このまま屋敷に迎えっ!乗り込むぞ!」
そう告げてから駆け出し、屋敷が目の前に迫った、――その時だった。
パリーーーンッ
上からガラスの割れる音が聞こえ、はっ、と上を見上げると…………
――セシルが落ちている――
そう認識する前に、俺は一目散に、セシルを受け止めるべく向かった。
衝撃に備えて、ぐっと力を腕に込めるが、受け止められた体は俺の想像よりもずっと、軽かった。
だが、今はそれよりもセシルを受け止められたことへの安心感でいっぱいで到底他のことを考えている余裕はなかった。
……よかった――
今はその安心感に浸っていた――
セシルたちを見送り、屋敷の私兵団から話を聞いた俺たちは、エンベズル・ワーヘイツが殺されたと聞かされた。その部屋にセシルもいたということを聞いて。あのように追われていたことにも納得した。
だが、当然俺たちも、セシルが証拠を持ち帰ったからと言って、犯人が殺されてしまったからには、セシルのこと怪しむはずだった。しかし、セシルから直接は聞いていないものの、彼が必死に俺に託したものや、部屋の状態からたいていのことを察することができた。
「これはめずらしい……まだ存在していたなんて。」
「殿下、それは何でしょうか?」
「マンチニールといって、燃やすと危険な有毒ガスを発生させるものだ。今は生産が禁止されているから、無くなったものと思っていたけど……」
「なんと!?ならばあの少年には悪いことをいたしましたな……殿下の部下とは知らなかったとはいえ、大変申し訳ございませんでした。」
手元に目を向けていた俺は、その言葉を発した私兵団の団長に目を向けた。
仕方のないことは分かっているが、どうしても非難の目を向けずにはいられなかった。
「仕方ないさ。私の命令とはいえ、セシルが犯罪まがいの行動をしたのは確かなのだから。」
もちろん言葉にはおくびにも出さない。
でも……と俺は思った。
――これで、セシルの疑惑は晴れた……
お読みいただきありがとうございました。
次回からは本編に戻ります!




