2.三国会議
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到着すると、国王の側近であるクライドが出迎えてくれた。
クライドはお父様の侍従であり、護衛でもある。お父様が一番信頼を寄せている側近であるため、セレーネフィアもクライドを頼りにしているのだ。
「いらっしゃいませ。セレーネフィア王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく。」
綺麗に一礼して言った。
「お出迎えありがとう、クライド。お父様やお母様、お兄様はもう来ているのかしら?」
「はい、皆様お見えになっております。」
「そう、それでは入りましょうか。」
そういうとクライドは、「かしこまりました。」といって、取り次ぎ、「どうぞお入りください。」と、私に入室を促す。
「ああ、こちらへ来なさい。」
入室すると、三人が迎えてくれた。
長方形のテーブルの奥にお父様とが母であり王妃のフローレンシアが座り、お兄様がお父様の隣に座っている。
三人に向けてカーテシーをして挨拶の言葉を口にする。
「お父様、お母様、お兄様、ごきげんよう。セレーネフィア・フォルトゥーナ、お呼びと伺い、参りました。」
「うむ、よく来たな。」
「会えてうれしいわ。」
「さっきぶりだ、セレネ。」
順にお父様、お母様、お兄様の発言である。
私はお母様の隣、お兄様の正面に座る。
クライドが私に紅茶を出し、退室する。部屋に家族四人だけになったところで、
「さて、全員揃ったところで会議を始めよう。」
挨拶はそこそこに、お父様は穏やかな雰囲気を国王に相応しい威厳のある声に変えて言った。それに応じて皆も気持ちを切り替える。
「今日の議題は、近々行われる三国会議についてだ。」
三国会議とはその名の通り、三国の代表が集まって話し合う場である。
通常の会議は外務大臣や外交官が赴くのが通常であるが、3年に一度行われる三国会議では国の主が自ら参加するのである。
参加国は、我が国フォルトゥーナ王国、アガートラーム王国、ラウェルナ共和国。
それぞれの国から君主夫妻とその側近、護衛の騎士が向かうことになっている。
昔国王は手紙や人を介してのみの連絡を行っていたが、ある時大きな食い違いが発生したために混乱を真似いたことがあるという。それを防ぐため、危険はあるものの実際に会い、意思疎通をする場を設けたとか。
「ラウェルナから開催を促す手紙が届いた。三週間後に行うそうだ。」
「例年よりも早いですね。」
お兄様が不思議そうにいった。
そう、いつもならば寒さが引いて、暑くなる前に行われたいたのだけれど......
「ラウェルナの大統領が交代するそうだ。大方その前に三国会議を行いたいのだろう......あれは権力に固執するタイプ男だからな。」
ラウェルナのトップを「あれ」と言っていいのかな?と思ったが、お兄様まで「なるほど、確かにあれならやりそうだ.....」と言っているところを見ると、よっぽどの人物なのだろう。
「まあ、そういうわけだ。三国会議の情報は機密事項ということを忘れずにしてもらいたい。特に今回は、日程が早まっている。漏らすようなことがないように。」
三国会議の情報は機密事項にあたる。そのため、位が高く、かつ、信頼されている人にしか知らされていない。
両陛下が不在など知られれば、よからぬことを考える輩が出てくる可能性があるからである。
それから、とお父様はどこか緊張した面持ちで私とお兄様をみて言葉を続ける。
「レイとセレネ。2人には我々が留守になる間、城のことを頼むぞ。」
「わかっています、父上。今までもやり抜いてきました。今回もきっと大丈夫です。」
「お兄様のいう通りです。何かあれば臣下たちを頼りますし......わたくしもお兄様をお助けしますわ。」
もう子供ではないのだからと、声をあげる私をお兄様はほほえましいような笑みを向けてくる。
そんな二人の様子を見て、少しは安心したのかお父様の表情がゆるんだ。
「頼もしいな......もう私たちの子は立派に成長したようだ。なあ、フローレンシア。」
「ええ、本当に......」
今まで静観していたお母様も微笑んで言った。
「2人とも、心配いらないと思いますが、何かあればすぐに連絡をくださいね?」
無理はしないように、と笑みの裏で語っている。
お兄様と顔を見合わせて、もちろんです、といえばお父様もお母様もどこか満足げな表情だった。
その後は旅路や日程を確認したりして終了した。
退室していくお母様とお兄様に続き私も退室しようと挨拶をしようとしたところであったが、セレネ、少し話がある、と父に声をかけられた。
「何でしょうか、お父様。」
「エリーナ嬢のことは知っているか?」
「エリーナさんというと、ブリアーズ男爵家のご令嬢のことですね。」
エリーナは昔から体が弱く、部屋から出れないほど悪い状態が続いている......ということになっている。まったくの嘘というわけでもないが......
エリーナの髪は突然変異と言われていて、老人のように真っ白な髪をしているのだ。
そのうえ、エリーナが生まれてすぐに母親がなくなったことで、『呪われた子』なんて陰では言われていたりする。
「ああ、そうだ。今までずっと部屋にこもっていたが、卒業間近ということもあり学園に来ると言っていたから気にかけてやってくれないか?」
「もちろんです。お任せくださいな。」
そう言って部屋をあとにした。
いよいよ一時の別れの時がやってきた。旅装束に身を包んだ国王夫妻と、見送りにきた大勢の人が集まっている。
開催地は三国の国境の間に位置する砦であり、片道一週間ほどかかる。そのため、帰国するのは約一ヶ月後となる。
「それでは行ってくる。留守を任せたぞ。」
「何かあったらすぐに知らせてくださいね。」
両親が少し心配そうに言った。
「お任せください、父上、母上。城のことは我々に任せて、お二人は三国会議に集中してください。」
「わたくしもお兄様に協力いたしますので、ご安心ください。」
二人は両親を安心させるように、柔らかい表情を浮かべて言った。
「そうだな、二人を信じよう。では、そろそろ行くとしよう。」
「ええ、2人とも留守を任せます。」
いつまでも別れを惜しんでいるわけにはいかない。
私たちはお互いに視線をかわした。
そして、二人は馬車に乗り込んだ。
ゆっくりと馬車は進んでいく。
いつもより冷たく感じられる風が吹く中、二人を乗せた馬車が去っていった。
ーーーこのときは誰も知るよしがなかった。二人をみる最後の時になるとは......
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