23.盗賊の根城
お待たせいたしました!
とある洞窟にて———
外とは違い、中に入ると日の光は当たらず、等間隔においてあるろうそくの光だけが唯一の光であった。まるで私たちの心の内を表したような空間だ。
ここに来る前は薄れていた、やるせない気持ちがこの洞窟の内部に進めば進むほど呼び起されてくる。前はこんな感じではなかったのに……
ここに来るのもずいぶん久しぶり。でもまさかこんな形で来ることになるなんて……
しばらく進むと、一段と明るい光が見えてきた。
「よう、フレア。久しぶりだな。」
「久しぶり、兄さん。元気そうでよかった。」
「お前もな。そっちは何ともなかったか?」
「うん、でも兄さんのほうこそ大変だったでしょう?」
フレアは心配そうに言った。
「大丈夫……と言いたいところだが、ちょっとまずいな。最初のうちは相手も油断していたから奇襲も通じたが、もうここらを通る馬車は俺たちの存在を知って、警戒度を上げている……正直もう限界だ。くそっ!」
そういって兄は壁をこぶしで叩いた。
「でも。やるしかない。聞いていると思うけど、今日また馬車が通るわ。荷もいっぱい積んであったから、しばらくはもつはず。でも、私たちのことは知っているみたいで見た感じもちろん警戒レベルは高かったわ。」
「まあそうだろうな……じゃあ、そろそろ行ってくる。」
「わかったわ、気を付けて。」
「ああ。」
そう言って、兄は周りにいた仲間たちと共に外へと向かった———
「盗賊だーーー!!」
その言葉に反応し、応戦……するのではなく、箱の中でじっと身を潜めていた。
キーンッ、キーンッと戦闘音や悲鳴が聞こえる中、私はとにかく気づかれないことだけに集中していた。けれど、もし万が一見つかったら……こんな狭い箱からでは反撃は難しく、すぐにやられてしまうだろう。手汗がにじむ手で、出会って間もないがすでに愛着の沸いた双剣を握る。
足音が近づいてきた。さあ、どうでる?
「ひとつ残らず持っていけ!時間がない!急げ!」
恐らく盗賊の一人であろう男がそう叫んでいるのが聞こえる。
そして、すぐ私たちの入っている箱が持ち上がる。
いきなりのことで驚いたが、物音を立てないように気を付ける。
キャアッ
よほどこの箱を持っていた人物は焦っていたのか、はたまた二人分の体重+カモフラージュの衣類の重量は重かったのか、一瞬ガクッと傾いた。
とにかく悲鳴だけは上げないように気を付けた。が、体勢だけは整えられず、とっさに何かに掴まろうと手をさまよわせる。
その瞬間、私の体はエリオの腕の中にいた。
えっ?えっ?いったい何が……
どうやらエリオは私の手を引いて自分の方に引き寄せたらしい。
こんな状況なのに、場違いな気持ちが駆け巡る。
な、なにを恥ずかしがっているの!?
私は男だ。男、男、男、男、男……
どのくらいたっただろうか。気づけば箱の揺れは収まり、辺りは静まっていた。
穴から見渡しても人がいる気配はない。
「さて、そろそろ出ようか。」
「はい、このまま中にいて出る機会を逃してもいけませんからね。」
ここから見えないところに見張りがいてもおかしくないので、今までで一番の注意を払って外へ出た。
ここは、どうやら倉庫のようだ。あの馬車から奪ったであろう品々も一緒にある。
とりあえず、エリオと二人でこの部屋の周りを確認し、人がいないことを確かめてから会話を再開した。
「ここは洞窟のようだね。地図がないと自分たちがどこにいるのかも把握できそうにないか。ここは二人で行動するのが得策かもね。」
「そうですね、今回はアジトへ来ることが第一の目標でしたから、このまま帰るだけで任務は達成です。」
「なら、帰り道を探しつつ、情報を集めながら帰るって感じでいいかな。」
方針が決まったので、さっそく潜入開始だ。
隠れる場所が少なかったら、倒していくことも視野に入れていたのだが、それだとリスクは高くなるし、ここへ改めてくるときに逃げられていては困るので、これは最終手段だった。ここは洞窟だから、隠れるところはないかと心配していたのだが、ところどころに小さなくぼみや脇道がたくさんあるタイプの洞窟だったようで、その心配はなさそうだ。
おっと、さっそくおでましか。
2人で顔を見合わせると、私はくぼみの陰に、エリオは向こうから死角になっている場所に身を潜める。
太陽の元の明るい大地の下であったのなら見つかっていたかもしれないが、ろうそくしかない薄暗い洞窟の中では十分隠れられた。
そのあとも何人かやり過ごす。周りに隠れる場所がないとき、エリオは一瞬焦り、こちらに、どうしよう、という焦った表情を向けてきた。私も一瞬ヒヤッとしたが、とっさに天井のくぼみに剣を引っ掛け、それにエリオと共になんとか天井にしがみついてやり過ごした。
この技はルイスからならった隠密行動の訓練時に教わったものだった。
ホント習っていてよかった……
何とかやり過ごし、大まかな洞窟内の地形は把握し、人数も把握できたのでもう戦果としては十分だろう。
私たちは一旦人気のないところに移動した。机やいすなどの家具は置いてあるが、こっちのほうは人が来ていなかったので、まだ安全なところだろう。
「さっきはありがとう。おかげで助かったよ。」
「いえ、それが僕の仕事ですから。」
「なんかこういうことに手慣れてる感がしたんだけど。助けるつもりで来たのに、助けられちゃったな。」
「……まだ、任務は終わっていません。戻るまで油断はできません。」
エリオの鋭い指摘に一瞬ドキッとした。エリオは普段は穏やかな好青年といった感じなのに、やはり貴族というべきか、鋭い目を持っている。これ以上聞いているのは精神的に攻撃を受ける気がしたので、話を逸らす。
「では、急ぎましょう。ここにいつ人が来るか……っ!」
急に人の気配を感じ、振り返ると一人の男がやってきたところだった。
油断していたっ!最後の最後にへまをするなんて!
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