22.荷物として運ばれて
今回は早めに投稿できました!
「それじゃあ、今後について話そうか。」
エリオの言葉に私たちは耳を傾ける。
「いろいろ考えたんだけど、やっぱりこの方法が一番だと思う......潜入するんだ。」
「「「......」」」
......せんにゅう?
いろいろ言いたいことはあるけれど、ひとまず聞こう。
「待っていても来ないなら、こちらから行くしかないだろう?だから潜入。」
「......危険だということはひとまず置いておきますが、どうやって向こうの場所を突き止めるのですか?身分を明かして協力は要請できませんから、商会に援助を求めることは期待できませ......まさか.......」
フレディーが途中で言葉を区切って、何かに気付いたようだ。
エリオがそれにうなずく。
「そのまさかだよ。この際不法侵入なんて言っていられないだろう?いつまでも問題は解決しないと思うし、ようは気づかれなければいいと思わない?たとえバレてもなんとかなるはずだ。」
フレディーが頭が痛いとばかりに額をおさえる。ディランは特に何も口を挟まなかった。
フレディーには悪いが、私はやれないこともないかと思う。私はルイスに習って一通り隠密行動もできるし、現在進行形で活動中だ。それに彼らの強さはこの目で見ている。話によるとなんの訓練も受けていない烏合の衆だという話で、単に人数が多いだけのようだ。たしかに被害は出ているが、馬車を守りながらの戦闘は人数で負けたらとても不利なのだ。だからやばい集団のように見えるが、守るものもなく、うまくいけば気づかれることもない......はずだ。
「もし本当にそれをやるとして、誰が実行するんだ?」
ディランが先を促した。
誰かが口を開く前に私が立候補する。というか、他に誰がやるというのだろう。フレディーは侍従だし、ディランは隠密行動には不向き、エリオは主なので論外。そして私は雇われの身で、もし失っても痛くはない人物なのだから。
「僕がやります。皆さんに比べたら小柄ですから、うまく隠れられるはずです。万が一見つかっても一人で対処できますから。」
「いや、俺も行くよ。セシルと2人で行こう。」
......はい?論外な人がなんてことを言っているんだろうか?
「エリオ、本気でおっしゃっているんですか?あなたは守られる人なのですよ?それなのに自ら敵地へ赴くとはどういうおつもりですか?.......というより、この案を実行することは決定ですか.......」
「諦めろ、お前だってエリオが言い出したら聞かないことぐらいわかっているはずだろう?」
「......ええ、そうでしたね。」
ディランの慰めになっていない慰めの言葉に、フレディーは遠い目をした。
......っていやいや、誰か止めないの!?
「ま、待ってください!私一人で大丈夫です!わざわざエリオ様が危険をおかさなくとも......」
「心配してくれるのはうれしいんだけど、俺は行くつもりだよ。ちょっと気がかりなこともあるし、何が起こっているかをこの目で見たいんだ。もともと無関係だったセシル一人に危険をおかしてもらうのも忍びないしね。」
そういってエリオは冗談ぽく笑った。
それにしても気がかりか。恐らくまだ私に言っていない何かがあるのかもしれない。とにかく今はエリオの案を完遂することに集中しよう。
「わかりました。一緒に行きましょう。」
———そして今、私たち4人はフレアの言っていた配達仲介店へやってきていた。いや、私とエリオは連れられてきた、という方が正しいかもしれない。
大きな荷物を積んだ荷車を引いたディランとフレディーが店に入ったことが、カランカラーンというドアベルの音でわかった。
「いらっしゃい。これはまたずいぶんと大きい荷ですな。どちらまでをご希望で?」
「シルコアーレまでです。急いでいるのですが、すぐに託せる馬車はありますか?」
「おお!運がいい人だ。ちょうどそっちに行く馬車があるんですよ。確か空きはあったはずですが、一応確認してくるので、お待ちくだされ。」
もちろん、このやり取りは私たちにとって茶番でしかない。あらかじめ下調べをして、そっち方面に向かう馬車が入ってきたらそれに合わせてここへ来る算段だった。
ちなみに、配達をしてくれる馬車だが、これは配達専用というものではない。商人であったり、旅人であったり、馬車を所有する人が、引き受けてくれるものである。移動をしながら、それと同時にお金も稼げるということで副業としてやっている人も多いと聞く。サイラスたちもやっていた。届け先は町の役所にでも一括して届ければ完了となるため、楽であるというのも人気の理由の一つだ。
配達仲介店はそんな人たちと私たち客を、文字通り仲介してくれるお店である。
「大丈夫そうです。大きいので心配しましたが問題ないでしょう。もうすぐ予定の時間になるのでそろそろでしょう........と、きましたな。」
店主について2人が店の裏側に行くと、ちょうど到着したようだ。
店主が他の客の配達物を渡し、ディランも持っていた大きな箱をフレディーと2人がかりで入れた。
「ご無事で。」
フレディーが他の人には聞こえないほど、ごく小さな声で箱に向かっていった。特に返事を待つでもなく、何事もなかったように2人は帰っていた。
それからすぐに、大きな箱、いや、私とエリオを乗せた馬車が出発した。
門のところで一時停止したが、すぐに出発した。基本的にどこかに入るときには念入りな検査が行われるのだが、出るときはちらっと馬車を見渡すだけなので楽なものだ。まあ、万が一蓋をあけられてもカモフラージュをしてあるので大丈夫なのだが。
どうやら気づかれずに済んだようだ。
そっと息を吐いていると、トントンと軽く肩を叩かれた。外に気を取られて、すっかりエリオのことを失念していた私は思わずビクッとなってしまった。私が驚いたことに気付いたのか、申し訳なさそうな顔をして小さな声で話しかけてきた。
「もう大丈夫そうだね。最初は緊張したけど。」
頷いて答えた。
あとは我慢勝負だろう。これから何をして暇をつぶそうか、と考えてふとエリオの方をみた。
そういえば、今私たちは狭い空間に二人っきりという対外的にみてとても噂の種になりそうな状況だということに気が付いた。
しかも異性と.......未だかつてこんなに近くで過ごしたことはない。
はたから見た私たちを脳内で描いて、頬に熱が集まっていくのを感じた。
落ち着け私!私は男なのだ。男、男、男、男、男......エリオは友達、友達、友達、友達、友達、......そういえば私自然に『友達』という言葉を使ってしまった。一時的な関係だと思っていたのに......エリオが友達だなんていうから......って、今はそんなこと考えている場合じゃ......
と、考えたところでエリオから再び肩を叩かれ、またしてもビクッとなってしまった。
「こっちは大丈夫そう。セシルの方はどう?」
何の話だ、と一瞬思ったがすぐに周りの様子についてだとわかり、私も急いで確認した。
実はこの木箱、いろいろ細工がしてある。
1つ目はいたるところに目立たないような小さな穴があることである。そこから周りを確認できるようになっている。
2つ目は外に出るための穴が側面についていることだ。ここから外に出られるようになっている。なぜ上から普通に出ないのかというと、ここに3つ目の仕掛けがあるからだ。
それは先ほど言ったカモフラージュである。この箱は二重底になっていて、上部にカモフラージュとして衣類を敷き詰め、下部が私たちのいるところになっているのだ。この仕掛けは私が発案者だ。覚えているだろうか。ステラが私に隠れろといった箱を。あの目に悪い箱。今回は不本意ながら、その案を使わせてもらった。が、普通の服だ。そこを間違えないように。
私の報告を受け、気づかれないようにそっと隠し扉を使って外に出た。
やはりここは荷馬車となっているようで、小さい声でならば多少会話していても大丈夫そうだ。
ずっと中にいるのは気が狂いそうだったので、出られてよかった。
「エリオ様、お疲れではないですか?」
「心配いらないよ。冒険をしてるって感じでちょっと楽しいくらい。」
エリオも大丈夫そうだ。
それから問題なく進み、停止しそうになると戻って、出発と同時に出たりとを繰り返し、ついにその時が来た。
「盗賊だーーー!!」
私とエリオは視線を交わし、力強く頷いた。
お読みいただきありがとうございました。