19.作戦開始?
何とか今日中に更新できました!
「暇だな〜」
「暇ですね。」
「暇だ......」
3人のどんよりした声に、御者席で馬を操っていた私は荷台のほうを振り返った。
「これだけいいカモを演じているのに何の反応もないなんて......私たちのことは知られてしまっているのしょうか?」
さすがに私も気の抜きすぎだとも言えず、困惑を滲ませて言った。
「今日で何日だったかな?」
「今日で5日目......ですね。」
「いい加減もう嫌になってきたんだけど。」
「そうですね......情報からして、数日ほど何も知らない愚かな商人を装っていれば、あちらの方からやってくると思っていたのですが......もう一度計画を見直す必要がありますね。」
「なら一旦、町に戻るか。」
ということで、ガルシェラルへと戻ってきた私たち一行。早速行動開始........を説明する前に、まず私たちは何をしているのか、説明しよう。
5日前のことーーー
コンコン、コンコン
う~ん、うるさいわね。
コンコン、コンコン
.............
コンコン、コンコン
.............
「セシル、起きてないの?」
あれ?この声は......
「えりお......さま?」
あぶなっ。”様”を付け忘れるところだったわ.......
それにしてもなんでこんな朝早くに部屋に来るのよ.......ってあ......そういえば、昨日確か朝一緒にご飯食べようって言ってたっけ?
「そろそろ俺たちは下の食堂に行くけど、セシルはどうする?まだ疲れがたまっているなら無理しなくていいんだけど......」
「申し訳ありません。すぐに参りますので、先に行っていてください。」
やばっ、急いで着替えなきゃ。
私はいつも、侍女たちに起こしてもらっていたから、自分で目覚めるのは苦手なのだ。こればっかりは意識的に変えることはできないので仕方ないと思うしかないか......
慌てて服を着替えて身だしなみを整え、一応武器も身に着けてから、急いで食堂へと向かう。急いでいても出る前に鏡で一度チェックしてしまうのはご愛敬であろう。
「お待たせいたしました......」
「おはよう、セシル。」
「おはよう、やっと来たか。」
「おはようございます。冷めないうちにどうぞ。」
エリオは親しみを込めて、ディランは少し呆れをにじませて、フレディーは穏やかに迎えてくれた。
3人はわざわざ私が来るのを待っていてくれた上に、私の分まで食事を準備してくれたようだ。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいとなり、謝るしかなかった。
「本当にご迷惑をお掛けして.......」
「そんなに気にしないで。さあ、食べようか。」
その声を合図に3人は食べ始めた。それを見届けてから私も食べ始める。アガートラーム王国の文化は知らないが、フォルトゥーナ王国では身分の高い人が食べてから、下の者が食べるということになっていたので、それにならったのだ。けれど、ディランとフレディーは言葉こそ崩しているものの一応の上下関係はあるはずなのだが、気にした様子はない。
公の場合でないからなのか、そもそもそんな文化はないのか......
なんて考えていると、エリオから話しかけられた。
「セシル、さっそく今日から行動を開始しようと思っているんだけど.......何か予定はあったかな?」
「いえ、大丈夫です。」
「ならよかった。じゃあ今日は......」
「お二人とも、手が止まっていますよ。先に食べてからお話いたしましょう。」
食べ終わった後、彼らから話を聞いた。
「俺たちは商人になろうと思う。」
「.......はい......?」
「と言っても本当に商人になるわけじゃないぞ。」
「盗賊たちをおびき寄せるために商人のふりをするだけです。」
「なるほど.......それなら今日は馬車や積み荷を調達して、フォルトゥーナの方へ行く......ということでしょうか?」
「話が早くて助かるよ。それじゃあ行こうか。」
ということで......
「いらっしゃいませー!商会の馬車として使うならこちらか、あちらの馬車が.......」
馬車を扱っている店に行き、
「.......長い距離となるようでしたらことらの馬がいいですよ!うちにいる馬の中でも足が強くて......」
馬を買い......
「これとか必要かな?」
「それはここで買うよりも、あちらの店の方が良かったです。あ、それはストックがありますので買わなくても大丈夫かと......」
雑貨店を巡った。
「これで一通りはそろったか?」
「十分でしょう、商品と見せかけるための砂を入れた木箱に、旅路の食料.......セシル、あなたの目から見て何かほかに必要なものはありますか?」
「いいえ、すぐにでも出発できるほどです。」
私もそこまで旅の準備品に詳しいわけではない。だから、アガートラーム王国に来るまでの経験に基づいたものであるが、その時に合った方がいいというものはすべてそろえた。
そう私が言うと、善は急げ、とすぐに出発することになった。
この光景.......見たことある......
いや、つい先日来た道なので、当たり前なのだが......
やっとの思いでここまで来たのに、またフォルトゥーナへ戻ることになるとは.......
「なんかわくわくしてきたな。冒険してるって感じで。」
「『悪夢の一夜』のせいで城は大忙しですからね......私たちにこんな任務が来るなんて、普段ならありえないことですよ。」
エリオのわくわくは私も分かる。
普段は常に周りに誰かいて、とても窮屈な生活。恐らくそれは彼らも同じこと。そこから抜け出して自由を謳歌できるというのは、監視の目(護衛)から逃れたようで何とも言えない解放感が味わえるのだ。
「皆様は、本来私のようなものが言葉を交わすことなどありえないほどのお方ですから。」
「そう、それだ!」
「ええと......何がでしょう?」
「もう少し楽に話してほしいんだけど。」
「ですが.......」
「わかっている!......確かに身分の差はあるけど......俺と友達になって欲しいんだ。」
とも、だち......
「家では俺は主、他の子息や令嬢とは腹の探り合い。本心で話せる人なんて、ここにいる2人を除いて他にいないんだよ。」
その気持ちも、もちろんわかる。
だけど、あんまり仲を深めるわけには......
そう思ったが、
「......わかりました、エリオ様。不敬罪で罰したりしないでくださいよ?」
そう軽く言うと、エリオは今までの綺麗な笑みではなく、少年のように無邪気な笑みを見せた。
「なら、俺たちにも楽に接してくれ。」
「私も同様でお願いしますね。」
「.......わかりました、ディラン様、フレディー様。」
というわけで、友達?...が増えた。
以前ならば素直に喜べたはずである。しかし.......今の私は彼らとの仲が深まるのに比例して、私の裏切り度が上がっていくようで、心の中は罪悪感でいっぱいであった。
この時から5日間シルコアーレとガルシェラルを往復することになる。
そして冒頭に戻るーーー
ありがとうございました。