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1.日常

本編スタートです!


改)セレーネフィア、ルウェリンレイ、ルイスの容姿の描写を追加しました。

 ――これは夢なのだろうか?


 そう思わずにはいられない光景が私の前に広がっている。


 体を切り裂かれて倒れている人ーーー


 あざをつくり、うずくまっている人ーーー


 死を覚悟してこちらへと向かってくる人ーーー


 私が剣をふるえばふるうほど、そんな状態の人は増えていく。


 相手を殺すことにもはや抵抗はなかった......

 殺らなければこちらが殺られるのだから......


 もはや痛みはおろか、肉を切り裂く感覚すらも感じている余裕はなくなってる。


 ここは地獄だ......

 ああ、いったいどうしてこんなことに......


 カキーーン―――ゴーン!


 キーーーン!




 ーーー

 ――――――

 ―――――――――




 カキーーン!  ガチャーン!


 青く澄んだ青空のもと、二人の剣士が剣を交えていた。一人は白菫色の髪をもち、紅の目をした少女。一人は漆黒の髪に、同じく漆黒の目をした青年。まだ寒さの残る中、二人はその寒さを微塵も感じさせないほど機敏に動いているーーー


「きゃあっ!」


 剣が宙を舞い、私は地面に倒れ込む。


「お怪我はありませんか!?」


 ルイスが申し訳ないような顔をして私のもとへ駆けよってきた。


「ええ、大丈夫よ。少し擦っただけよ。それにしても、まだまだルイスには敵わないわね。」


 そういいながら、ルイスが差し出した手を取り、立ち上がる。


「護衛騎士である俺が護衛対象に負けるわけにはいきませんからね。ですが、あなたは強くなっていますよ。そこらの騎士では相手にならないでしょう。」


 まあ、それは嬉しいのだけど......

 こういわれても晴れない表情を浮かべるしかなかった。


「そもそも、王女であるセレネがここまで武術を極める必要はないんですよ?俺たち騎士の立場がなくなってしまいます。」


 落とした剣を拾いながら、ため息をはくように言った。そんな様子を気に留めながらも私は訓練をやめる気はなかった。


「けれど、わたくしはみんなの役に立ちたいのよ。お飾りの王女では嫌なの。」

「お気持ちはわかりますが......」

「それに......もしわたくしが危険な目にあったら、()()助けてくれるでしょう?」


 信頼を寄せているとわかるまっすぐな目で見てると、ルイスはふっと口の端を上げ、恭しく礼をする。


「もちろんです......我が主。」


 2人で笑いあっているときに、誰かが近づいてくるのを感じた。振り返るとそこには侍女であるアリアナがいた。


「そろそろ身支度をするお時間ですので、お部屋に戻りましょう。」

「もうそんな時間でしたのね。わかったわ、では戻りましょう。」


 軽く身だしなみを整え終わってから、ルイスとアリアナを引き連れ、自室へと向かった。




 自室へ向かう途中、銀髪に瑠璃色の目をした人に合った。兄ルウェリンレイである。お兄様はフォルトゥーナ王国の次期国王であり、私の唯一の兄弟である。国王である父の執務を手伝うことができ、幼い頃から剣の指導を受けてきたお兄様は文武両道と呼ぶに相応しい人物である。私はとてもお兄様を尊敬しているのだ。


「セレネ、今日も訓練をしていたのか?」


 身軽な格好をし、爽やかな笑みを浮かべ、側近を従えながらこちらへやってくる。


「ごきげんよう、お兄様。ちょうど今終えたところなんですの。」


 私も笑みを浮かべ、カーテシーをして挨拶をする。


「昨日も訓練していたようだけど、礼儀作法や歴史の勉強とかは大丈夫なのか?淑女教育をおろそかにしてはいけないぞ?」

「問題ありませんわ。そちらもしっかりとこなしておりますので。」

「それならいいのだが......それと、怪我をしないようにな。」


 本当であれば剣を振り回すなんて危ないことはさせたくないというのがお兄様の本音なんだろう。しかし、妹がやりたいというのならやらせてあげたいという気持ちもあるらしい。


「わかっておりますわ。では、これから身支度をしに行ってまいりますね。また後ほどお会いしましょう。」

「ああ、わかった。ルイス、アリアナ、セレネのことを頼んだぞ。」


 呼ばれた二人は一礼して答える。お兄様はそれを見て去っていった。




 部屋に戻ると、すぐに身支度に入る。


 まず始めに汗を流し、疲れた体を癒す。

 そして、先ほどのような訓練服ではなく、ドレスに袖を通す。髪をおろし、メイクをし、飾りをつけたら、王女の姿に変わる。


 私の白菫色の髪に合う明るい赤のドレス。頭には王女にふさわしいティアラ。きらきらと輝く宝石をあしらったネックレスや指輪。これらがより一層美しさを際立たせている。


「今日もとてもお綺麗ですよ!」


 とアリアナが褒めてくれた。


 私贔屓がすぎるわね......


 いつもそんな風に褒めてくれるが私の容姿はそんなに優れていると思っていない。

 確かに婚約打診を受けることは多いが、身分のせいだろう。

 私は今17歳であり、もうすぐ成人する。結婚適齢期に差し掛かっており、王位継承権2位であるため、いずれ他国に嫁ぐか、降嫁する可能性が大きいのだ。そんな私を娶ろうとするのは当然だろう......


 と思っているのは、自分だけということに気づいていない......


「セレーネフィア様、お待ちになっている間こちらのクッキーをお召し上がりください。先ほど作ったものですわ。」

「まあ、ありがとう、アリアナ。いただくわ。」

「お口に合えばよろしいのですが......ルイス、あなたもどう?」


 三人で一つのテーブルを囲み、談笑しながら食べる。

 主従の関係を考えればこの光景は目を疑う光景であるが、この絵を見ることはさほど珍しくない。私たち三人は互いに子供のころからの付き合いで、幼馴染のようなもの。さすがに公式の場ではしっかりと主従としての振る舞いをしているが、私的な場であればそんなことは関係なく二人と接することにしている。


 実を言うと、二人といる時が一番落ち着くのよね......貴族との関わりはうわべだけで基本的に腹の探り合いって感じだもの。何を考えているのかわかったもんじゃないわ。

 それに比べて、二人とは心置きなく本音を言えるもの。多少の愚痴も聞いてくれるし......


 そんなことを考えながら、約束の時間になるまで会話を楽しんでいると、コンコンと控えめに扉を叩く音が聞こえた。

 アリアナが扉を開けると、お父様の侍従らしき男性が立っていた。


「失礼いたします、王女殿下。国王陛下より執務室へお越しいただくようにとの言付けを承りました。」

「わかったわ。では、お父様に今から伺う旨を伝えてくれる?」


 かしこまりました、と言って出ていくのを待ってから、身だしなみを軽く整えて外出の準備をする。

 そして、先ほどと同様にアリアナとルイスを連れて、国王の部屋へ向かった。

お読みいただきありがとうございます!

次回は明日更新予定です。

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