13.色あせたシルコアーレ
お待たせいたしました!
まもなくシルコアーレにつく、というところまで来たところで町がいつもと様子が違うことが目に見えてわかった。
私は事情が分かっているのでそこまでの驚きがなかったが、ヘルメーシア商会のみんなや傭兵たちは怪訝な表情を浮かべていたので、おそらくフォルトゥーナ王国が侵略されたという情報はないのだろう。ここに到着するまでの話題にも一切出てきていないので間違いない。
そんな中で私一人だけが平然としているのもおかしいので、周りに合わせて私もそれなりに表情を合わせていた。
門についたとき、はっきりと違和感が感じられた。なにせ......兵士がアガートラームの兵になっているのだ。ここはフォルトゥーナ王国であるのに。
ああ......やはり、ここはもろに影響を受けているのね。
先ほども言ったようにここはアガートラーム王国に一番近い町だ。アガートラームが拠点にするにはうってつけの場所だろう。
「おいっ!どうしてここにアガートラーム王国の兵がいるんだ!?」
おそらくみんなが思っているであろうことを代表した形でサイラスが門番をしている兵に、殴りかかるような勢いで詰め寄った。
それもそのはず。こんなところに他国の兵がいるなんて知られれば戦争になるのは目に見えているのだから......まあ、もう終わってしまったけど。
そんなサイラスと馬車の方へと鋭い視線を向け、ヘルメーシア商会の紋章を認めると、途端に視線を緩めた。
「......ああ、君たちはヘルメーシア商会の者だな?」
「そうだがいったいこれは......」
「ここは......いや、この国はすでに我が国アガートラーム王国とラウェルナ共和国のものとなったのだ。」
「は?」
さっきまでの勢いはどこへ行ってしまったのか、打って変わって処理落ちしたパソコンのようになってしまった。
他のみんなも、何言ってんだこいつ、みたいな顔をしている。
一方私も今の言葉のある部分に引っ掛かりを覚えていた。
ラウェルナ共和国、と門番は言った。アガートラーム王国だけでなく、だ。
襲ってきたのは私が見た限りだがアガートラーム王国だけのはず。なぜそこにラウェルナ共和国の名前が入っているのだろうか?
ここで尋ねるわけにもいかないので何も言わなかったが、思考の中へ沈んでいた。
そんな状況を見て、何も知らないことを悟ったのか、詳しいことを話し始めた。私の疑問については解消されなかったが。
それを聞いた彼らは、一歩間違えば戦いに巻き込まれたであろうことに恐怖したのか、現実逃避しているのか、誰一人として口を開かなかった。
「......まあ、そういうことだ。お前たちは我が国の者だから、何も心配しなくていい。」
そういって私たちの馬車は他の馬車のように厳重なチェックを受けることなく、さっと通してもらうことができた。フォルトゥーナの人間としては非常に居心地が悪い。
が、そう思っているのは私だけではないようで周りのフォルトゥーナ王国の民に冷たい視線を浴びせられていたヘルメーシア商会のみんなも複雑な心境のようで、重い空気が漂っていた。
その空気を変えるべく近くにいたステラに話しかけてみる。
「ス、ステラさん、ヘルメーシア商会って結構有名なんですか?」
「え?ええ、この商会は主に衣類を扱っているのだけど、王宮や有力貴族にも卸していたりするのよ。自慢になるかもしれないけど、アガートラーム王国では1,2を争うと思うわ。」
「そうだったんですか!?すごいですね!」
「そうなんだよ!こっちの国で僕たちの商会を知らない人なんていないんじゃない?......」
ふりではなく、本当にすごいと思った。王女だった私が身に着けていたドレスを思い返してみても超一級品のものしかなかった。
そんな服を貴族ならまだしも王宮にまで収めることができているとなると、扱っている商品はなかなかの品質のものに違いない。
重い空気を変えようとして話していたが思わぬことろで感心してしているとさっきの門番さんに紹介された宿屋に到着した。ここはこの町一番の規模を誇り、アガートラーム兵が多く滞在しているらしい。
逆上した町人に襲われないようにという配慮らしいが、私にとっては敵に囲まれているような状況で、気が抜けない状況になっているのだが。
そんな感じなので部屋についたときには思わす、ぐったりしてしまった。同室のサイラスとウェズも似たように心境なのか、私と同じような様子だった。
ちなみに部屋割りだが、私とサイラスとウェズで一部屋、ステラは唯一の女性(私は今は男なのだ......)だが夫婦だからということでガイアと一部屋、傭兵たちで二部屋、という形となっている。
旅の疲れも出始めているので、夕飯を軽く取った後は各自やることを終えてそうそうに就寝した。
私も着替えはないのでそのまま寝るつもりだったが、さすがに毎日湯あみをしていた身としては体を拭きたかったがまさかここでするわけにもいかず、そのまま寝た.......ふりをして、二人が寝るのを待っていた。
だが案の定、二人も疲れから早く眠ってくれたのでありがたかった。
湯を使うことはできないので、冷たいが水で我慢する。
ふう、これでさっぱりした!
少し動いたせいか、体はまだ眠れそうな状態ではなかった。
ので、危ないし、休んだ方がいいと思って、最初は行くつもりではなかったが、情報収集のため、国民のため、町へと向かうことにした。
外は暗闇が広がり、兵がうろうろと循環している中でも闇に紛れて活動しやすい......というような状態を考えていたのだが......
カンパーイー!
......その時俺は剣を抜き、ザクッと......
んだと、コラァ!
あちらこちらから聞こえてくる喧噪と光に、めまいを覚えずにはいられなかった。
そんなことをしている人の大半は、アガートラーム王国の兵服をまとった男たちだ。
いくらフォルトゥーナ王国が落ちたとはいえ、ここまで堕落していていいのだろうか?
我が国を軽く見ているとしか思えない、神経を逆なでするような行為に、殺気が漏れそうになり慌ててひっこめる。
まあとにかくこれを利用しない手はないだろう。どんちゃん騒ぎに紛れて酔っぱらった男たちから情報を搾り取ってやろうじゃないか。
手ごろな店を選んで、その中で酔っぱらっていて、かつ、話の通じそうなグループの近くを陣取る。
酒場に来たのに何も頼まないわけにはいかないと思ったので、近くに来た従業員らしき男性に適当に注文する。
「水とスープを......」
「お前......水を飲む気か!?酒場で?」
お酒は飲めないのでとりあえず、水をお願いしようとしたら、案の定横の男が絡んできた。
「ああ、何か問題が?」
ここで丁寧にしゃべっては目立ちすぎるので、丁寧さは捨てる。
「ここは酒を飲むところだぞ?恥ずかしくねえのか、あぁ?」
「ふっ、そうやって酔っぱらっている方が恥ずかしいと思うが......見ているこっちが恥ずかしい。」
「......。あははははは!!」
そう鼻で笑ってやると、周りで聞いていた男たちが一瞬の沈黙の後に、一斉に笑い出した。
話していた男を除いて。まあ、その男は他の男とは対照的に怒りで震えていたが。
はて?おもしろいことを言ったつもりはないのだけど?
笑いが引いてきたのか、周りでこちらを見ていた男が話しかけてくる。
「はーーっ、笑った笑った。確かに坊主の言う通りだなっ。」
「なっ!兄貴!」
「お前は酔いすぎだっ。」
といって、ぽかっと殴った。
これが、兵士、ねえ。
「あなたたちはこんなところでゆっくりしていていいのか?」
「いいんだよ。もうフォルトゥーナはもう落ちたんだからな!」
「......どういうこと?」
情報を得るため、ないも知らないふりをする。
「フォルトゥーナ国王は死んだんだ!王妃も一緒にな!それに、王女と王子は行方不明ときた!王族がいない王国なんてもう終わったも同然だからな!」
「......」
ぐっ、と手を握りしめる。
あぁ、そうか......
覚悟はしていた、けれど......
感情は追いつかない。
そんな私に気付かない男は続けて話し出した。
「あっけなく落ちたんだと。後続の俺たちの出番がなくなるくらいにな!大国フォルトゥーナ王国に進軍するって聞いたときにはビビったが、正直拍子抜けだなっ!」
一方的に、楽しそうに、話し続ける男の話を聞き続けていると、我を忘れてここにいる兵たちを皆殺しにしてしまいそうだった。
そんなことをしでかす前に......
「おいっ!どこいくんだよ!?」
後ろで何か言っているがさっさと立ち去ろう。
私は一粒のしずくを残して、内心は荒れているが、静かに立ち去った。
お読みいただきありがとうございました。