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お待たせいたしました!続きをどうぞ!
「僕の両親は旅商人をしていて、いろいろなところを転々として過ごしていました。ですが、ある日突然男たち(兵士たち)が襲ってきたのです。旅商人(王族)をしているとこういうことも多々あるので、さっきみなさんを助けた時に見せたように自衛(の域ではない)は多少できるのですが......人数が多く、とてもかないませんでした。なので、両親や兄(ではなく側近)
は僕を逃がしてくれましたが、その際離れ離れになってしまいました。それからは追いかけてくる人から逃げて今ここにいるというわけです。ですので、今家族が生きているのか、もうなくなってしまったのかわかりません......あの傷はその時に負ったものです。」
あらかじめ考えていた生い立ちを一気に言った。
嘘ではあるが、あながち間違いではないことを言ったのでそれなりに信憑性はあると思う。変に設定を作ってもそのうちぼろが出てしまうと思ったのでできるだけ真実に近いことを言うことにしたのだった。
そのかいあってか、皆一様に同情心というか、そういった感情を浮かべていた。
「そうだったの......つらいことを聞いてしまったわね。」
「.......なるほど。最初にフードを取りたがらなかったのは追手に居場所がばれないようにするためか......」
「はい、どこで誰が見ているかわかりませんから。それに......」
「それに?」
「......その、僕を突き出してしまう可能性もありましたので。」
気まずげにいうと、周りも何とも言えない空気になった。
「ああ~、まあ俺たちも気が張ってたしな。セシルがいない間にお前について話し合ってたし。」
「お気になさらず......それで、僕の話を聞いて、僕をどうしますか?」
いよいよ一番重要なことを聞く。おそらくここが私にとっても彼らにとっても運命の分かれ道となるだろう。
「僕は連れていきたい!」
「私もよ!この子を一人では放り出せないわ!」
真っ先にウェズとステラが言った。
「俺は......正直迷っている。サイラス、リーダーはお前だ。最終決定はお前がしろ。」
と、ガイアはリーダーのサイラスに任せた。
......というかサイラスさんがリーダーだったんだ。てっきりガイアさんだと思ってた。
私が思わぬところで驚いているうちにサイラスは結論を出したようだ。
「そうだな.....よし!セシル、お前さえよければ俺たちについてこい!」
「......いいんですか?」
「ああ、セシルは命の恩人だ。借りは返さないとな。それに、お前は一人で逃げ延びてきたわけだし、また襲われても返り討ちにできるだろ?......まあ、俺がセシルを見捨てたくないって気持ちも大きいがな。」
......絶対最後の言葉が本音だよね?
「いやいや、ちゃんとデメリットも踏まえているからな!」
「そう、ですか。ありがとうございます。ご迷惑をおかけすると思いますが、これからよろしくお願いします。」
よかった......これで目的が果たせる......
別にアガートラーム相手に復讐しようとは考えていない。
ただ......首謀者だけは......
許さない
私の目的はただ一つ......どんな手段を使ってでも必ず、そいつを見つけ出して......
剣の錆にしてやる!
その瞬間を想像して、ニヤリと笑みがこぼれてしまったが、すぐにニコリとした表情で隠したーーー
話は終わり、他のみんなは明日に備えてもう眠りについている。私も先ほどの幌馬車で眠りにつこうと思ったが、さっきまでぐっすりだったせいか、なかなか眠る気にはならなかった。
今はボーッと空に浮かぶ月を眺めていた。
胸元を探り、金属のチェーンを引っ張り出してそれについているものを月の前にかざす。
お父様、お母様、お兄様、ルイス、アリアナ、みんな......一歩先に進めそうです。みんながどこにいるかわかりませんが、それぞれの場所で見守っていてください......
このネックレスは両親から私が生まれてすぐにいただいたもの。
唯一......私が王女だったと、証明するものでもある。
フォルトゥーナ王家では、代々自分の子供にネックレスを送るという風習が受け継がれている。高価な宝石がつけて見せびらかすとか、そういう目的ではない。例えるなら身分証のようなもので、私たちは家族なのだと視覚的に証明するものなのだ。
初代フォルトゥーナ国王が自分の子供に渡したことが始まりとなり、以来ずっとそれが続いているとか。
これは王族が身に着けるだけあって貴重なもので、一見クリスタルの板のように見えるが、その中に光石が入っており、こうして光にかざすと文字が浮かび上がってくるのだ。
ちなみに私のものは『フォルトゥーナ王国王女 セレーネフィア』とはいっている。
光を当てなければ当然この文字は見えず、ただのクリスタルのネックレスだと思わせられるので、他の人に見られても問題はないはずだ。
本当は王女だと気づかれる可能性のあるものはすべて捨ててしまおうと思った。事実王家の紋章の入ったハンカチやペンなどは森に捨ててきた。
だが、これだけは手放すことはできなかった。これは私が私であるために必要なものだ。これもなくなったら、私は私でなくなる、そんな気がしたのだ。
普段は胸元にいれておけば大丈夫だろう。
私は寂しさを紛らわすように、そのネックレスをしまった胸に手を当てて目を閉じたーーー
いよいよ出発の時が来た。今いるこの森からアガートラーム王国まではおそらく5日ほどだろう。
その間ずっと彼らと一緒なのだから、私のことを知られないようにしなければならない。
外は追手を、内では会話や言動とあらゆる場面で警戒しなければならない。
改めて考えてみると、結構ハードな気がしてきた......
そう思って、顔を顰めていると、荷物を詰めていたウェズがやってきた。
「セシルー!そろそろ出発だってさ。早く馬車に行こう!」
あたりを見渡すとみんな準備完了といった風であと私たちが乗り込めばすぐにでも出発できるような様子だった。
これは申し訳ないわ。
「すみません。お待たしてしまって。」
「おう気にすんな......それじゃ、出発!!」
リーダーであるサイラスが号令をかけるとゆっくりと進み始めた。
馬車の中は基本的に暇な状態なので、必然的に思考にふけってしまう。
この商団は荷馬車と私たちが乗っている幌馬車があり、その周りを傭兵たちが囲んでいる形をとっている。もし敵が来たら傭兵たちが知らせてくれるだろうから、一緒に戦って、応戦することになるだろう。けれど、相手の人数が多すぎたら......精鋭だったら.......といろいろ考えてしまう。
と、そんな私を見てサイラスが声をかけてきた。
「セシル、心配すんな。今はお前ひとりじゃない。俺たちがついているんだからな。」
「......ありがとうございます。」
「黙っているから、暗い思考に陥るんだ。次の町について話さないか?」
今日着く予定の町はシルコアーレらしい。この町はフォルトゥーナ王国とアガートラーム王国の国境門がある場所に一番近い町となっていて、他国の品が多く集まることで栄えている、と王女教育の中で教えられたことを思い出した。
「今日はこの町の宿に泊まる予定だ。そのあとは村はあるが宿はないだろうから野宿することになるだろう。」
基本的に村というとは旅人のような人を止めるようながあるわけではない。頼み込めば誰かの家に泊めてもらえるかもしれないが、それは相手に迷惑だ。だから、昨夜のようにテントを張って過ごすことになるらしい。
「だから、今日はゆっくりと休めると思うわ。セシル君はまだ傷が癒えていないのだから、しっかり休まないとね。」
「そうですね。」
そのあとも、会話にあふれ、空がオレンジ色に変わったときには目の前にシルコアーレが迫っていたーーー
おそらく次回くらいか次々回でフォルトゥーナ王国からアガートラーム王国へと舞台が変わります!
お楽しみに!