11.決意
お待たせいたしました!
それでは続きをどうぞ。
がやがやと会話している声や、食事をしているのか時折食器の音など様々な音が聞こえ、ゆっくりと目を開けた。
結構長く眠ってしまっていたようで、すでに日は暮れ、あたりは真っ暗だった。
その暗闇があの日の夜を酷似しているようで、心臓に手を置くとバクバクと動いている。
人のぬくもりを感じたくて、私は静かに馬車を降りた。
こっそりと様子をうかがうとテントを私が寝た後に天幕を張ったのか、4つほどの天幕が見え、その中心に焚火を炊き、その周りを8人の男女が囲って談笑していた。
なんとなくその輪に入るのがためらわれてタイミングを計っていると、意図せずとも彼らの会話が聞こえてきた。
「......あの子のことって何か聞いた?」
「いや、名前だけだ。フードを取りたがらないし、訳アリだと思うんだけどな。」
「これからどうするんだ?訳アリならおいていった方が面倒ごとにはならないと思うが?」
「いやいやだめでしょ、ガイアさん。命の恩人なんだから。」
「だが、あいつが犯罪者とかだっとら、共犯にされる可能性だってあるんだぞ?」
「あの子はそんなことをする子じゃないわ!」
「まあまあ、落ち着けって。とにかく......きてから事情......れから......」
もうこれ以上聞いていられなくて、森の方へと走った。
一本の太い木の陰に立ち、木に背中を預けた。
やっぱり、怪しまれているよね......
仕方のないことだとは思っていたんだけどな.......
私は名前くらいしか彼らに明かしていない。容姿さえ見せていないのだから怪しまれていない方がおかしいとさえ思っていた。
だが、彼らの口からきいてしまうと......
実際彼らの言っていることは正しい。ガイアが言っていたように犯罪者ではないが、追われているのは確かだ。
これからどうするか.......
ずっと悩んでいたことだ。
けれどいくら考えても、私の心は彼らについて王国から離れることが最良だと、そう結論付けてします。
それは今も変わらない。
彼らを巻き込んでしまうのは心苦しい......けれど私は国民全員の運命を背負っているといってもいい。犠牲になった人たちのためにも、こんなところでうじうじしていられない!
そう決意すれば、早速行動しなければ。
まず、私は一旦さっきまで私が寝ていた馬車とは別の荷馬車と思われる馬車へと向かった。
目を凝らして目的のものを探し......と、あった。無断で持っていくのは申し訳ないが後で戻しておけば大丈夫だろう。
次に森へと向かった。
松明なんて持っていないので視界が悪いが月灯りを頼りにあるものを探す。
しばらく馬車を見失わない範囲をうろうろしていると見つけることができた。
あった......!ドゥハの実!
それをさっき借りたバケツに入れて、小川へと向かうとすぐに見えてきた。
川の近くに立ち空を見上げると、私を見守っているかのようにたくさんの星が輝いていた。
みんなあの中にいるんだろうか......?
「わたくしも、そちらへ行きたかった......」
思わずぽつりとつぶやいた。
いや、そんなことは許されない。けれど、考えてしまう。みんなの所へいけたらどんなに楽か、と。
しばらく、空を見上げていたが、そろそろ時間だ。見つかる前に早く済ませなければ。
フードを外すと、さっと白菫色の髪が流れた。それをひとくくりにして持つと、バケツ同様借りてきた短剣を取り出し、髪にあてる。
「さようなら......」
ザクッ
光を反射し、きらきらと輝きながら、川へ落ち、輝きを失うことなく、私の前から遠ざかっていく。
すっかり短くなった己の髪に手をあて、見えなくなるまでその光景を眺めていた......
「さてっと」
余韻に使っている時間などない。
ドゥハの実をできるだけ細かく砕き、川から汲んだ水を加えて混ぜていくと......
「できた......」
ドゥハの実は染髪液の材料だ。子供のころルイスの黒い髪にあこがれて私も暗い髪が欲しいと言ったら、森に行ったときドゥハの実が染髪の材料になることを教えてもらったのだ。
それがこんなところで役に立つなんてと思いつつそのころを思い出して髪を染め始める。
しばらくなじませ、軽く川の水で洗い流せば.......
「よし」
川には黒い髪の私が映っていた。ルイスやガイアのような漆黒ではなく、若干元の髪の色の影響か、紫黒の髪色になっていた。目の色はさすがに変えられないがこればかりは仕方がない。
予想より時間がかかってしまったので急いで帰ることに。危険だと分かっているが小走りで戻り、何食わぬ顔でバケツと短剣をもとに戻した。
ふう......これで一安心。
......そろそろみんなと向き合うか。
これからが肝心だ。私自身の事情(嘘?)を話しても一緒に連れて行ってもらえるとは限らない。
何としても説得して見せないと!
ザッザッとわざと足音を立てて歩くと、音に気付いたみんなが振り返った。
「おはようございます、みなさん。」
言葉が多くなると、女だとばれるといけないので、なるべく声を低くして言った。
だが、他のみんなは今までの無口ぶりから一転して、私から話しかけるという状況にさっき会った4人は固まってしまったらしい。
「「「「おはよう?」」」」
ガイア、ウェズ、ステラ、サイラスが戸惑いつつも返答した。
「先ほどは失礼な返事しかできず、すみませんでした。僕も混乱していて。」
「え?あ、はい。こちらこそ?」
急に丁寧な口調になった私にウェズまで影響されている。
「け、けがはもういいのか?」
「そ、そうよ!あんなにひどい傷だったんだし......」
「おかげさまで、すっかりよくなりましたよ。」
ふんわりしたステラさんはともかくガイアさんまで......
心中で苦笑いをした。
「......とにかく、飯、食おうぜ?」
考えを放棄したのかサイラスが提案してきた。
「ありがとうございます。食事がすんだら僕の事情を話しますので......っと、フード外してしまいますよ。」
そういってためらいもなく外した(あらかじめ決めていた行動なので)。
私があんなに外さなかったフードを外したことにまたしても驚いたようだった。
「「「......」」」
「え!?いいの!外して?」
ウェズはほかの3人と違って突っ込んできた。
髪を染めているため本当の姿を見せていないからか、罪悪感がでて、私はあいまいに微笑むことしかできなかった。
そうして驚きの連発で若干戸惑っている4人を横目に1日ぶりくらいの食事をした。
食事も終わり、そろそろというときになった。彼らが雇っている傭兵たちにも伝えた方が良いと思ったのだが、彼らとは一時の間しか関わりがないそうなので、深い事情を話す必要はないと言われた。
よって必然的に5人が集まることになる。
どこから話すべきか、考え込んでいると先に向こうから話す流れになった。
「俺たちは全員ヘルメーシア商会で働いている。普段はアガートラーム王国王都エシュリーゼにいるんだが 、少しの間だけフォルトゥーナ王国へ行くことになったんだ。その辺の事情はあまり言えないが......まあ、今からエシュリーゼへ戻るって感じだな。」
アガートラーム王国か......
その名前を聞くだけであの日の光景とともに憎しみや悲しみが芽生えてくるが、サイラスたちを恨むのは筋違いだろう。
私が憎むのは、こんなことを企てた黒幕だけで十分だ。
ん?というか、この人たちについていくってことはアガートラーム王国へ行くってことになるわけか......
敵の本拠地に乗り込む様子を描いて、背中に冷たいものが走るが......
まあ、灯台下暗しって感じになることを期待しよう、うん。
それに、情報が入りやすくなるだろうし、アガートラーム王国に協力者ができるれば行動も楽になるかもしれない。
何も悪いことだけではないはずだ。
ハイリスクハイリターンってことかな。
はあ~と息を吐いて、心を落ち着かせる。
ざっと4人の顔を見てから私も語り始める。
お読みいただきありがとうございました。